湯呑みが語る真実とけしからんモデル依頼
メモ帳に書くことがまた一つ増えてしまった。
四つも問題が同時進行している。
・雨宮青児の不穏な動きに注視
→ 金券にモノを言わせ、諜報要員に見張らせる
・ハザマが俺のことを特別な対象として見ている件
→ 厨房のシフトの編成に随時注視
・初音の産婦人科でプレパパ・ワークショップ
→ 俺は兄として振舞う
・月山青湖の絵は贋作か否か
→ 雨宮青児に聞く
俺の人生、ネタ神でも憑いてんのかよ? と思うぐらい色々なことが起きる。メモ帳の最後列まで問題並びそうな勢い。
叔父貴が絵を持ち込んでからというもの、初音は少し思い詰めたような暗い雰囲気を漂わせるようになった。絶対に何かを隠している態度だ。
だが、無理に聞き出してストレスを与えれば、お腹の子に負担がかかってしまう。そこで俺は、お得意の能力で読み取ることにした。
とりあえず、初音がさっきまで両手で包み込んでいた湯呑みで試してみるか……。
俺は湯呑みを手に取り、そっと目を閉じて手のひらに意識を集中させた。
――途端に、とんでもない情報が流れ込んできた。
まず、あの美人画は間違いなく『本物』だ。なぜ画廊が贋作だと言ったのか……なるほど、そういう理由か。俺は絵の秘密を完全に理解した。
だが、問題はそこじゃない。絵の謎と一緒に、とんでもなく『けしからんこと』まで知ってしまったのだ。
読み取った初音の秘密はこうだ。
雨宮青児は、初音に『絵のモデルになってほしい』と頼み込むために、わざわざ産婦人科まで通い詰めていたらしい。
初音自身も心の底ではモデルをやりたがっているのだが、俺が激怒するのを恐れて言い出せずにいたのだ。美大出身の初音は、すでに自分の絵の才能には見切りをつけている。
だからこそ雨宮の才能を誰よりも理解しており、彼ほどの天才に描いてもらえば、その絵は確実に後世に残る芸術になると確信している。「モデルになってほしい」と乞われ、絵を描く者として自尊心がひどくくすぐられているのを、彼女自身も自覚していた。
目を開けると、俺が湯呑みを触ったままジッと動かないのを見て、初音が真っ青な顔をしていた。能力を使われたことに気づいたらしい。
「……初音が雨宮のモデルやりたいんなら、受けても良いぞ?」
俺は努めて穏やかに、完璧な営業スマイルを作って彼女に告げた。初音はビクッと肩を震わせ、恐る恐る確認してくる。
「ほ、本当に良いんですか……?」
「ああ。ただ……まさか、ヌードモデルとかではないんだろう?」
「………………」
(あっ……だから言い出せなかったのか……)




