憂いの美麗さん
その日の夜、美麗さんが俺の部屋を訪ねて来た。
どうやら深刻な相談ごとがあるらしい。美麗さんはハザマの妻であり、元々は彼が芸大で教えていた教え子だ。初音とも親しい友人でもある。
「あの……秀……いえ、ハザマ様のことなんですが。最近、どうしても様子がおかしいんです」
「今更、何を言ってるんですか。ハザマなんて、今までもずっと頭がおかしかったでしょう?」
「ええと、そういうおかしさではなくて……最近、御影様のところにやけに頻繁へ行かれませんか? 以前のハザマ様は、お屋敷では初音さんと腐女子の方々以外は信用なさらず、御影様を敵のように警戒して距離を置いていたはずなのに……」
「それは単に、光が新しいお役目に決まって、俺とのライバル関係が解消されたからでは?」
「私が違和感を覚えたのは……ハザマ様が最近、熱心に韓流ドラマを見始めたことなんです。しかも作品のチョイスが……その……イ・ジュンギという俳優が出ているロマンス作品ばかりに限られていて」
「…………まさか!」
俺の背筋に、ゾクリと嫌な感覚が走った。
「ええ。大変言いにくいのですが……ハザマ様は、御影様をそういう対象として意識し始めているのだと感じています」
「ちょっ、ちょっと失礼! 厨房のシフトを確認します!」
俺は慌ててスマホを取り出し、LIMEの共有シフト表を調べた。
そこに書かれた編成を見て、俺は自分の迂闊さを呪った。
「なんてこった……! 美麗さん、原因は初音に知らせておきますので、後で彼女から詳しい説明を受けて下さい。俺は早急に対処してきます!」
唖然とする美麗さんを残して部屋を飛び出し、俺は屋敷の管理を取り仕切る惟光の元へ駆け込んだ。
*****
「惟光! お前、厨房のシフトを変えたか!?」
「おや、御影様。ええ、厨房の編成を新しくいたしましたが……何か問題でもございましたか?」
息を切らす俺に対し、惟光は涼しい顔で首を傾げる。
「白川の派閥と腐女子連合を一緒にしてはいかん!!」
「なぜでございましょう?」
「理由は後で詳しく話す! とにかく、今すぐ早急に変えてくれ!」
「承知いたしました。では……まずは白川の派閥のみで厨房を固めましょうか?」
「頼む、そうしてくれ!」
惟光がパソコンで手際よくシフトを再編成し、LIMEで変更の通達を流すのを見届けて、俺は心底ホッと息を吐き出した。
危うく腐女子どもが恐るべき呪物を生み出す前になんとかできた。危うく、俺までBLの世界に足をつっこまされるところだった……。




