第五十二話 最終決戦
その頃、翠魔王の後ろにいる手下たちが次々と妖術のような魔力を発動し、紺青色の光線を衝撃波として翠魔王の体へ向かって放っていた。翠魔王の周囲からは徐々に淡い翠緑色の光が放たれ、手足から肩、頭、そして胴体へと、全身がゆっくりと正常な動きを取り戻していった。方雨彗の静止魔法が破られたのだ。
方雨彗は意識すらも朦朧とし始め、邱艾晶と同じように一切の抵抗力を失ってしまった。翠魔王は方雨彗の指輪も外し、自分の手元に収めると、空いたもう片方の手で彼女の体を抱え上げた。
「簡彤菲、よくやった。今日は一度に二人の翼族姫を収穫できたぞ。こいつらのエネルギーを吸収したら、戻った後に帝国内の財産を多めに褒美としてくれてやろう。」
「翠魔王様、感謝いたします。魔王様にお仕えできることは私の誇りでございます。」
「よし、それでは今すぐここでこいつらのエネルギーを吸収させてもらおう。この二つの体を持ち帰るのも面倒だからな。」
暗闇の中、手下たちは翠魔王を取り囲み、太古の翠魔王が翼族指輪を利用して自身のエネルギーを大幅に増幅させるその瞬間を静かに見守っていた。指輪を握る両手からは赤黒い煙が立ち上り、指輪は徐々に飲み込まれようとしている。二人の姫の魂は引き剥がされ、感覚もゆっくりと閉ざされ、深い眠りに落ちようとしていた――
満員電車に揺られながら
賑やかな駅で迷子になりそうな方向感覚
心に響く 私だけに聞こえるアナウンス
永遠に道を指し示す明かり 私のコンパス
「え?どこから聞こえる歌声?すごく聞き覚えがある……」
「綺麗な声、この声は……」
「!」
谷を舞うウグイスのような美しい歌声が耳に届き、邱艾晶と方雨彗の意識は一瞬にして覚醒した。同時に、首を絞め上げていた腕の力もゆっくりと緩んでいく。視界が鮮明になると、周囲を取り囲んでいた敵軍が皆一様に陶酔した表情を浮かべていた。生気のない笑みを浮かべ、この歌声に完全に魅了され、思考することも体をコントロールすることもできなくなっているようだ。
「今のうちに早く逃げて、二人とも!」そう声をかけたのは、先ほどの歌声の主だった。ここ数日よく耳にしていた声だ。その一言を発した後、彼女はまた歌い続けた。
現在の状況を理解し、意識を取り戻した二人は、翠魔王でさえもあの焦点の合わない陶酔した表情を浮かべていることに気づいた。今こそここから逃げ出す絶好のチャンスだ。二人は急いで各自の翼族指輪を翠魔王の手から取り返した。
視力が回復し、聞き慣れた声だと分かっていても、目の前にいる人物の正体が信じられず、二人は目をこすって見間違いではないことを確認した。
目の前の少女は、明るい茶色のサラサラとした長いポニーテールを結び、キラキラとした大きな目にあるオレンジイエローの瞳はどこまでも澄み切っていた。声にはわずかな震えが混じっていたものの、それをかき消すほどの高音と伸びやかな響きがあった。頭につけた琥珀色のヘアピンにある若葉のモチーフと、左手の人差し指で輝く羽の指輪が、彼女の翼族姫としての身分を証明していた。
この人物は、彼女たちと一学期近くも同じ教室で過ごしながら、最近になってようやく交流を持ち始めたあの地味な美少女――溫茵だった。
「簡単に言うと、私は野鴝姫。歌声を使って、今の彼らみたいに聞いた人の意識を混濁させることができるの。残りの話は戻ってから説明するね。それと、さっき天国に連絡して、羽帝が自ら援軍を連れて来てくれることになったから。翠魔王が張った結界も破ってくれるはずだし、みんなで一網打尽にできる。私たちは彼らが来るまで持ちこたえればいいだけ。」そう言うと、溫茵は敵の意識が戻らないように再び歌い始めた。
今、溫茵が口ずさんでいる歌詞を聞いて、どうりで邱艾晶はずっと言葉にできないような既視感を覚えていたわけだ。パフォーマンスの練習以外にも、以前一度だけ聞いたことがあったのだ。それは、游暐安が初めて自分の家にやって来た時、自分と彼が酔ったように意識が混濁し、あやうく取り返しのつかないことをしそうになったあの時のことだ。今の溫茵はヘアピンをつけて能力を発動できる状態だから、歌声で広範囲にわたって聞いた者の意識をコントロールしている。游暐安と一緒にいたあの時も、間違いなく偶然その歌声の範囲に入って影響を受けてしまったのだろう。
そして彼女もまた、人間界で身分を隠すために普段は指輪とヘアピンを身につけないタイプの翼族姫だったのだ。私たちが今まで気づけなかったのも無理はない。たとえヘアピンをつけておらず、能力を発動していなくても、その歌声は人の心を癒やす力を持っている。おそらく、ノゴマという鳥が普段はシャイで単独行動を好む性格でありながら、常に美しくよく響くさえずりを持ち、数多くの鳥類の中でも際立った存在であるからだろう。
それから間もなくして、羽帝が援軍を引き連れて翼族姫たちのいる場所に到着した。
「姫たちよ、ご苦労だった。後は我々に任せなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
その後、羽帝率いる援軍にとって、未だに意識が混濁している黯翊族の者たちを相手にするのは、赤子の手をひねるようなものだった。なかなか正気を取り戻せない敵軍など、霧羽天国から来た援軍の誰であろうと、攻撃魔法を少し使うだけでいとも簡単に制圧できた。
現場の片付けがほぼ終わると、「さあ、皆で奴にトドメを刺そう。」羽帝は皆に魔法の力を結集し、最後まで残った最も戦闘力の高い翠魔王を共に消滅させるよう求めた。
「こうして翠魔王を打ち倒したことで、我が霧羽天国もようやく常に外敵を警戒する日々から解放され、平和を取り戻すことができるだろう。」完全勝利を収め、羽帝は勝利の笑みを浮かべた。
地上に戻った後、溫茵はようやく、まだ少し戸惑っている邱艾晶と方雨彗に向けて正式に自己紹介をした。
「私は今年の夏休み、羽帝様から人間界に派遣された翼族姫なの。主な任務は、二人の姫がそれぞれどう任務を遂行しているかを密かに監視し、適切なタイミングで手助けすること。二人を間近で観察するように言われていたから、わざと同じ学校の同じクラスに編入して、邱艾晶の住んでるアパートの隣の部屋に割り当ててもらったの。ずっと黙っていて、こんなに遅く正体を明かすことになってごめんなさい。」そう言うと、溫茵は控えめで温かい笑顔を咲かせた。これで、人間界に派遣された三人の本物の翼族姫が、互いの身分を理解した上で正式に集結したことになる。
「えっ?私の隣の部屋に住んでたの?アパートであなたを見かけた記憶がないんだけど。」
「それは当然だよ。あなたと出かける時間や帰る時間をずらせばいいだけだもん。」
「あ、そうだ、もしかして時々家で歌ってない?」
「あっ……」溫茵は突然焦って顔を赤らめ、まるで悪いことをしていて見つかったかのように恥ずかしそうに尋ねた。「うるさかったかな?」
「ううん、一回しか聞こえなかったし。でもね……次に家で歌う時はヘアピンを外すの忘れないでね。じゃないと、ただの綺麗な歌声が危険な広範囲攻撃になっちゃうから。」
「あっ……ごめんなさい、次から気をつけるね。」
再び気まずそうに床を直視する溫茵。今の彼女の体温は目玉焼きが焼けそうなほど熱くなっているに違いない。先ほど颯爽と登場して二人を救い出した姿を思い出し、邱艾晶と方雨彗は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
「あ、游暐安兄妹のところに戻らなきゃ!彼ら、ずっと私たちの帰りを待ってるんだわ!」方雨彗は、自分が猛ダッシュで部屋を飛び出した時に彼らと交わした言葉を突然思い出した。今あそこには二人しか残されておらず、絶対にパニックになっているはずだ。きちんと説明しなければならない。
「あ、そうだった。じゃあ彼らにどうやって説明しよう?特に、帰ってきたら一人減ってることについては?」
「うーん……ここまで来たんだから、ありのままを話してもいいんじゃない?正直、私たちの正体もずっと隠してきたわけだし、そろそろ彼らに知ってもらってもいい頃でしょ。それに、ずっと探してた指輪が彼らの家にあったわけだから、その理由についてもちゃんと追及しなきゃならないし。ただ、彼らが私たちの正体を信じてくれるかどうかはまた別の話だけど。人間にとっては、いくらなんでも現実離れしすぎてるだろうからね。」
「確かに。これ、一体どこから説明するのがいいんだろうね……?」
次回予告:長年の悩みの種がついに解決し、クリスマスパフォーマンスが無事に幕を下ろした後、姫たちと兄妹の事情もようやく打ち明けられることに。指輪の謎、感情の和解。翼族姫 最終章・堂々完結!




