第二話 幸運の星
「前見て歩けないの?ぶつかってきやがって、怪我したらあんた賠償できるわけ?」さっきの細い声から一転、今はヒステリックに怒鳴り散らしている。先ほど邱艾晶がうっかりぶつかってしまった女性だ。
まともな身なりをしていて、声だって優しそうだったのに、どうしていきなりヒステリックに怒鳴り始めたの?彼氏と別れて機嫌が悪くて、私に八つ当たりしているのかな?それとも精神的に何か問題を抱えているとか?でも、いくらなんでも先にぶつかったのは私だし、やっぱり私が悪いのかな?様々な考えが邱艾晶の頭の中を駆け巡った。彼女は這いつくばった状態からゆっくりと身を起こし、怪我をしていないかざっと確認したが、大きな動きはできなかった。あの人がまだ後ろにいるか分からなかったからだ。ヒステリックな怒鳴り声はすでに消えていたが、それでも相手が背後から自分を睨みつけているような気がして、振り返って確認する勇気も出なかった。彼女はそうして無力なまま、五秒ほどその場に立ち尽くしていた。
「邱艾晶!大丈夫?」聞き慣れた声がそばからどんどん近づいてきた。邱艾晶が振り向くと、そこには小柄な体格で、白い半袖のインナーにベージュのベストを着て、肩ほどの長さの薄い水色のショートヘアをした女性がいた。焦点を合わせてよく見ると、方雨彗だった。どうして彼女がここに?家で悠々と冷房にあたっているはずじゃなかったの?
「ちょっと、いじめないでよ!なんで後ろから突き飛ばすわけ!」方雨彗は、普段邱艾晶をからかう時の態度とは打って変わり、義憤に駆られて怒鳴りつけた。
「こいつが前も見ずにぶつかってきたんでしょ。こっちだってぶつかられたら痛いんだから」
「自分から『大丈夫』って言ったじゃない!なのになんで後ろから突き飛ばすのよ。そんな陰湿なことするなんて、愛情に飢えてるんじゃないの?」
現場の火薬の匂いはどんどん強くなり、まるで二つのダイナマイトの導火線が急速に燃え進み、いつどちらが爆発してもおかしくないような状況だった。邱艾晶は、方雨彗がここまで怒っているのを今まで見たことがなかった。今すぐこの場から逃げ出したい気分だったが、ここは自分が仲裁に入った方がいいのだろうか?いや、元はと言えば自分が引き起こした事なんだから、彼女たちに落ち着いてなんて言う資格は私にはないよね?
「わかったわよ、謝ればいいんでしょ。でも忠告しておくわ、その金髪の女からは離れた方がいいわよ!」茶髪の女性は方雨彗の鼻先を指差してそう言い放つと、負けを認めたかのようにすぐさま逃げ出した。
突然、わけもわからず邱艾晶から離れるよう忠告され、方雨彗は首を傾げて相手がそんなことを言った理由を考えた。おそらく逆ギレして、言うことが見つからずに適当な捨て台詞を吐いただけだろう。まるで小学生の喧嘩のようで、まったく殺傷能力はなかった。
邱艾晶は体についた泥を払い、自分が怪我をしていないことを確認してから、立ち上がって方雨彗に尋ねた。「そういえば、なんでこの時間にここにいるの?」
「私、元々起きたら近所を散歩する習慣があるのよ。まさか通りかかったここで、あんたがいじめられてるのを見るなんて思わなかったけど」方雨彗は、邱艾晶の鞄から散らばったものを拾い集めながら答えた。
「起きた後に散歩?あんたにそんな習慣があるなんて覚えがないんだけど?」
「この夏休みから始めたのよ」
荷物を片付け終わった後も、邱艾晶の体にはまだ少し痛みが残っていたため、方雨彗は彼女を公園の土の道の脇に設置されたベンチに連れて行き、座って休ませた。邱艾晶は虚無の空を見上げ、首元はすでに汗でびっしょり濡れていた。彼女は長いため息をついた。
「なんだか最近運が悪い気がする。もしかして……」言葉を途中で切り、邱艾晶は深い思考に沈んだ。
「もしかして……何?」方雨彗は好奇心に駆られて邱艾晶を見た。普段は天然で少し抜けているこの邱艾晶が、今は真剣に考え込んでいる。全く彼女らしくない。彼女が一体どんな結論を出すのか、方雨彗は知りたくてたまらなかった。
「もしかして……天秤座が最近水星逆行してるとか?」
その結論を聞いて、方雨彗は思わず吹き出しそうになった。あんなに長く考えていたから、てっきり何かとんでもない仮説でも飛び出すのかと思っていたのに。
方雨彗は笑いたい気持ちを落ち着かせ、邱艾晶に言った。「私はそういう迷信めいたものはあんまり信じてないけど、最近本屋の抽選キャンペーンで、たまたまこの『答えの書』が当たったの。試しにやってみる?」方雨彗は鞄の中からその本を取り出した。「質問を心の中で決めて三回唱えてから、直感でページを開くの。そこに求めてる答えが書いてあるかもしれないわよ!」
「えっ?本当に?貸して貸して貸して、見てみる」
(どうすれば最近の運勢を良くできるかな……どうすれば最近の運勢を良くできるかな……どうすれば最近の運勢を良くできるかな……)
邱艾晶は全神経を集中させて念を込め、本当に運気を変える方法が分かることを心から願いながら、本を全体の三分の一くらいの厚さのところから開いた。
「乾燥注意、火の用心」
答えの書にはそう書かれていた。
「はあ?これってどういう意味?空気が乾燥してるって?最近の天気、どう見てもジメジメして暑いのに?」
「たぶん、あんたの最近の運命に『火』の要素が強すぎるのよ」方雨彗は本当は占いなんて欠片も分からないのに、もっともらしく説明した。「だから、常に火照りを冷まして、水分補給を忘れないで。体を熱い状態のままにしちゃダメってことね」
「わあ!なるほど、じゃあ今日私が水筒を持って出るのを忘れたから?」
「その可能性は大いにあるわね。でももっと重要なのは、常にそばにいてくれる『貴人』が必要ってこと。そしてその貴人とは……」
方雨彗は左手を答えの書の上に置き、目を閉じてゆっくりと手探りした。邱艾晶は、まるで何らかの磁場を感知しているかのように、本の上でゆっくりと円を描く方雨彗の手に釘付けになっていた。
「ズバリ……私よ!」彼女は突然両目を見開き、力強く邱艾晶を見つめた。左手は本の上に置いたまま、右手の人差し指で自分自身を指差している。
「あんたが?どうして?」邱艾晶は半信半疑だった。
「だって……私、水瓶座だもの!あんたの最近の運命の火がそんなに強いなら、私っていう水瓶がその火を消してあげる必要があるでしょ」
邱艾晶は少し眉をひそめた。どうもこの人、真顔で適当なこと言ってない?もしかして、私の中で彼女が賢いと思っていたのは気のせいだったの?
「そういえば、邱艾晶……」方雨彗は真剣な顔を崩し、笑顔に変わって話を続けた。「これあげる!」
方雨彗が手に持っていたのは、先ほど邱艾晶が自動販売機で買おうとしていたリンゴジュースだった。
邱艾晶は心の中の驚きを顔に隠せず、目を丸くして言葉を失った。どうして私がさっき買おうとしていたリンゴジュースを、彼女がタイミング良く持っているの?もしかして、さっきからずっと私のこと尾行してたとか?
方雨彗は邱艾晶の心を見透かし、何を聞きたいか分かっているかのようだった。「これね、さっきあそこの自販機で飲み物を買ったんだけど、一本しかボタンを押してないのに、なぜか二本出てきたのよ。だから余ったこの一本はあんたにあげる!」
「あ、ありがとう……」邱艾晶はジュースを受け取り、うつむいて自分のスカートを見た。もしかして、彼女は本当に私の貴人なのかな?こんな偶然ってある?様々な思考が頭の中を駆け巡ったが、とにかく今は彼女を信じることにしよう。
次回予告:いよいよ迎えた新学期初日、邱艾晶はなんと夏休みの出逢いの相手である游暐安と同じクラスに!ラッキーすぎる!しかし一緒に過ごす時間が増えるにつれ、邱艾晶の先延ばし癖や人付き合いの苦手さなど、様々な問題が浮き彫りになっていく。果たしてこんな邱艾晶は、游暐安とどんな恋の火花を散らすことができるのだろうか?
次回:新学期初日




