第十九話 ドライヤー争奪戦
「え?え!!何やってるの?!」游暐安の突然の行動に、邱艾晶は一瞬パニックに陥り、お風呂上がりでさっぱりしていた体が、再び熱くなって汗をかき始めそうだった。お風呂上がりに髪を乾かしてもらうというこの思いやりのある行動が、こんなにも胸をときめかせるものだとは、邱艾晶は初めて思い知らされた。髪の毛なんて神経の通っていない組織なのだから、本来なら何も感じないはずなのに、この感触は……頭ポンポン?いや、それとも少し違うような。でも、頭皮と髪の間を行き来するその優しい感触に、心は激しくかき乱された。ドライヤーのうるさいモーター音のせいで、頭はまともに考えることができなかった。どう考えても、こんなのカップル同士でしかやらない行動でしょ。游暐安という人間は確かに気が利くけれど、ここまで気が利くものなの?口ではやることがないからと言いながら、髪を乾かすのを手伝ってくれるなんて、いくらなんでも反則すぎる!
「えっと……本当は自分でやっても大丈夫なんだけど。」
「髪が長い人って、乾かすのすごく大変なんじゃないかと思ってさ。今日はここに泊めてもらうお礼ってことで。」游暐安の口調は、単に感謝の気持ちを伝えようとしているというよりは、珍しく少しだけイタズラっぽい笑みが混じっていた。
「お、おう、こういうのも悪くないね、結構気持ちいいし……普段からこうやって他の人の髪も乾かしてあげてるの?」言い終わった瞬間、邱艾晶は自分がとんでもない質問をしてしまったことに気がつき、うっかり自分の独占欲を露呈してしまったと焦った。
「そんなことないよ、安心して。それとも……君の頭の中に今、誰かの顔が浮かんだ?うちの妹とか?」
「違うわよ、もう、自分でやるから早くお風呂入ってきて!」邱艾晶は熟れたイチゴのように顔を真っ赤にして、ドライヤーをひったくるように奪い取ると、游暐安をお風呂へと追いやった。これ以上このままでいたら、会話もやり取りも収拾がつかない方向へ進んでしまいそうだったからだ。
髪を乾かし終え、邱艾晶はベッドに仰向けになって天井のシーリングファンを見つめていた。耳には浴室のシャワーの音が聞こえてきて、頭の中ではまた無意識に、ずっと先の未来への不安が膨らんでいた。ずっと先の未来というよりは、具体的な時期が分からないだけで、もしかすると明日起こるかもしれないことだ。
今回人間界にやって来た主な目的が自身の翼族指輪を探すことだとしたら、それを見つけた後はどうなるのだろう?絶対に霧羽天国へ帰らなければならないのだろうか?じゃあ、ここでできた友達や、過ごしてきた思い出、そして何より一番大切な――游暐安とふざけ合ったり、イチャイチャしたりする日々は、すべて諦めるしかないのだろうか?これはどうあがいても結ばれない運命の関係なのだろうか?それとも、霧羽天国が平和無事であるという前提なら、たまに人間界へ来て生活することも許されるのだろうか?邱艾晶は人間界に長期滞在する前、羽帝にそういった関連の話題を尋ねたことは一度もなく、自分がこれほどまでに人間界のすべてに夢中になる日が来るとは思ってもみなかった。しかし今、彼女は羽帝と直接連絡を取る手段もなく、天国へ帰った後、一体どうやって彼に切り出せばいいのだろう?自分の身分が霧羽天国においてあれほど重要なのだから、許可を得るのは難しいかもしれない。でも、羽帝は普段は結構優しいし、天国の政務が忙しくなければ融通を利かせてくれるだろうか?今ここで邱艾晶がいくら考えたところで、正解がそのまま頭に降ってくるわけではなく、方雨彗や簡彤菲に聞いたとしても、彼女たちも答えを持ち合わせてはいないだろう。こんなことを考えるくらいなら、その時間を来週の中間テストの勉強に充てた方がマシだ。でもめんどくさいな。やっぱり今日は早く寝て、明日の朝勉強しよう。
ちょうどその時游暐安がお風呂から上がり、浴室のドアノブが回る音が聞こえた。それに伴って、邱艾晶の心の中にいる小悪魔もウズウズし始めた。さっき自分が髪を乾かしてもらっていた時に完全に翻弄されてしまったのだから、そろそろ少しばかり「恩返し(という名のお返し)」をする時だ。
游暐安がドライヤーを手に取ると、強風と熱風が彼のすっきりとした短い髪を舞い上がらせた。邱艾晶はうつむいて作戦を練っていた。游暐安が普段どうやって髪を乾かしているのか盗み見て、その手つきを学びたかったが、もし見ているのがバレたら台無しだ。うつむいたまま心の中で想像するしかなかった。(手は前から後ろへ梳かしながら、前から風を当てるのかな?でもそれだと髪がぐちゃぐちゃにならないかな?その方が早く乾きそうな気もするけど……いや、今の目的は早く乾かすことじゃなくて、彼に気持ちいいと思わせることだ。じゃあ、やっぱり優しく撫でるだけでいいのかな?彼の髪はほとんど頭頂部にあるから、それならすごく自然に撫でられそう。でも、それだとわざとらしくて、手の動きが不自然にならないかな?やっぱり……)
邱艾晶がまだ頭の中で計算を巡らせていた時、空気中に響いていたモーター音が突然止んだ。
「ドライヤー終わったよ、どこに置けばいい?」
ああ、まさか髪の短い人が髪を乾かすのがこんなにも早いとは、思いもよらなかった。
次回予告:游暐安が泊まりに来たこの夜、胸が高鳴るようなシーンが次々と押し寄せる。食卓を囲んでの弾む会話、キュンとするような甘い言葉、そして……お泊まり?そういえば、邱艾晶の家にはベッドが一つしかないけれど、游暐安は夜どこで寝るの?
次回:初めてのお泊まり




