EP 8
【ざまぁ】空母打撃群、一斉掃射。魔人の断末魔
「ひ、ひぃぃぃっ……!? な、なんだあの光はァッ!?」
魔人ギアンの顔から、道化の笑みが完全に剥がれ落ちていた。
見上げた空には、太陽よりも眩く発光する十の極光。
十機の機械竜(空丸)の顎に収束したプラズマの輝きが、ポポロ村の空を白夜のように照らし出している。
『全機、射線クリア。――殲滅を開始します』
AI賢者君の無機質な宣告。
次の瞬間、空が鳴動した。
カッ……!!!
音すらも置き去りにする、超高熱のプラズマ・ビーム。
十本の極光が空で交差しながら、死蟲機の群れを文字通り『空間ごと』薙ぎ払った。
「「「ギィ、ギャアァァァァァァァァッッ!!」」」
装甲を貫くとか、燃えるとか、そういう次元ではない。
プラズマの直撃を受けた死蟲機たちは、抵抗する間もなく『蒸発』し、チリとなって虚空に消え去っていく。
「あ、あ、あああ……!? 我らが死蟲王の軍勢が、ただの光に……ッ!?」
自分が使役していた数万の羽虫どもが、まるでゴミを払うかのように消滅していく。
ギアンの全身が恐怖でガクガクと震え、手にした大鎌がカランと音を立てて落ちた。
「ひ、退けェ! 全軍撤退だァ! 天魔窟へ逃げ――」
「逃がすわけないだろ。害虫駆除は『根絶やし』が基本だ」
VIPルームのソファに深く腰掛けたリアンが、氷のように冷たく言い放つ。
「賢者君。空母打撃群、全門開け。対地ミサイル、一斉発射」
『アイアイサー。発射シーケンス、スタート』
巨大空母『轟丸』、および周囲に展開する戦闘艦の甲板から、無数のミサイルハッチがパージされた。
シュボボボボボボボボボボボボボォォォォォンッッ!!!
空母の背から、何百、何千という煙の尾を引いて、近代兵器の雨が解き放たれる。
それは空中で不規則に軌道を変えながら、逃げ惑う死蟲機たちをマルチロックオンで執拗に追い回し、次々と突き刺さった。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!
空と大地で、絶え間なく続く連鎖爆発。
爆炎が空を赤く染め上げ、衝撃波が地上の木々を根こそぎ吹き飛ばす。
ファンタジー世界の空に、現代軍事力の結晶が作り出した『絶対の絶望』が咲き誇っていた。
「ア……ギ、アァァァァァァァァァァッッ!!」
爆風に巻き込まれたギアンは、乗っていた死蟷螂型を消し炭にされ、空中から真っ逆さまに落下していく。
道化の衣装は焼け焦げ、自慢の仮面も半分吹き飛んでいた。
人間を絶望させ、魂を奪うことを至上の悦びとしていた男。
そんな彼が今、自分自身が誰よりも深い『絶望のどん底』で泣き叫んでいた。
「ひ、ひいいいいいいいっ!! た、助けて! 助けてくれェェェェェェッ!!」
鼻水と涙を撒き散らしながら、ギアンは空中で懐から『転移の魔石』を取り出し、狂ったように魔力を叩き込んだ。
「二度と、二度と来るかこんな村ァァァァァァァァァッッ!!」
情けない断末魔を残し、ギアンの姿は空間の歪みに吸い込まれるようにして消え去った。
尻尾を巻いて、主のいる天魔窟へと逃げ帰ったのだ。
後には、チリひとつ残さず消滅した死蟲機の残骸と、見事なまでに晴れ渡った青空だけが残されていた。
* * *
「ふぅ。ちょっと派手すぎたかな?」
VIPルームの防音ガラスの向こうで青空を取り戻したポポロ村を見下ろしつつ、リアンは残っていたポップコーンを口に放り込んだ。
「「「…………」」」
キャルル、リバロン、ニャングルの三人は、声も出せずに固まっていた。
三大国を脅かす死蟲王の軍勢を、紅茶が冷めるよりも早い時間で完全消滅させたのだ。
「ちょ、ちょっと、リアンさん……? あなた、ひょっとして『神様』だったりする……?」
月兎族の最強の武闘派であるキャルルが、耳をペタンと寝かせて震えている。
「魔王より恐ろしいで、この兄ちゃん……。怒らせたらアカン……絶対アカン相手や……」
「ええ……。ポポロ村の防衛など、彼一人いれば十分すぎるでしょう。……胃が痛くなってきました」
百戦錬磨の商人と冷徹な執事の顔面が、恐怖で完全に蒼白になっていた。
彼らは理解したのだ。
三大国の軍隊など、この『料理人』の前ではただの案山子に等しいということを。
「あー、綺麗な花火だったねー! ねえリアン君、今のもう一回やって!?」
「リアンさん! 私、ポップコーンのおかわり欲しいですぅ!」
緊迫感ゼロのエルフ(ルナ)と人魚姫だけが、空になった紙コップを突き出してキャッキャと笑っていた。




