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EP 3

元三ツ星シェフの肉じゃが定食と、陥落する村長たち

「……っ! な、なんなのこの匂い……抗えない、抗えるはずがないわ……!」

人魚姫のリーザは、その場に崩れ落ちそうになっていた。

彼女の鼻腔をくすぐるのは、甘辛い醤油の香りと、ホクホクとした太陽芋の、どこか懐かしくも上品な香り。

三日前のゴミ捨て場……ではなく、ルナミスマートの試食コーナー以来の、本物の料理の予感。

「リーザちゃん、よだれ、よだれ出てるわよ!」

キャルルが注意するが、彼女の鼻もピクピクと忙しなく動いている。

月兎族の鋭敏な嗅覚は、その香りの奥にある『出汁だし』の旨味まで完璧に捉えていた。

「さあ、お待たせ。まずは試作第一号だ。……といっても、ただの『肉じゃが定食』だけどな」

リアンがカウンターに置いたのは、湯気が立ち上る数々の皿。

メインの肉じゃが。

ツヤツヤと輝く炊き立てのサンライス。

ポポロ村特産の月見大根の味噌汁。

そして、人参マンドラの浅漬け。

「た、食べていいの……? 本当に……?」

「ああ、冷めないうちにどうぞ。あ、リーザちゃんはこっちの『茹で卵』もサービスだ」

「神様だ……リアンさんは、シーラン国の神話に出てくる救世主様ですぅ……!」

リーザは震える手で箸を握ると、まずは太陽芋を一口口に運んだ。

「……ふぁっ!?」

噛んだ瞬間、出汁が溢れ出した。

ホクホクとした芋が舌の上で溶け、ロックバイソンの肉から出た濃厚な脂の甘みが、醤油のキレと完璧なハーモニーを奏でる。

三ツ星シェフの技術(火加減と味の浸透)が、異世界の素材を究極の逸品へと昇華させていた。

「うま、うまああああああいっ! 何これ、私の知ってる芋じゃない! 脳が、脳がとろけちゃううう!」

リーザは涙を流しながら、猛烈な勢いで米を掻き込み始めた。

「……そ、そんなに……?」

キャルルも我慢の限界だった。

「毒見よ、村長としての毒見なんだからね!」と自分に言い聞かせ、小皿の肉を一口。

「――っ!?」

衝撃が走った。

口の中で暴れるような肉の旨味。だが、後味は驚くほど繊細だ。

闘気で強化された彼女の筋肉が、栄養を求めて歓喜の声を上げている。

「な、なによこれ……今まで食べてきた宮廷料理が、ただの『素材の塊』に思える……これが、料理……!?」

「あ、私も混ぜてー! 美味しそうな匂いに釣られて、世界樹の森から飛んできちゃった!」

そこへ、ふわりと現れたのは、金髪の美少女エルフ。

世界樹の次期女王候補、ルナ・シンフォニアだ。

「ルナ!? あんたまた不法入国……」

「いいじゃないキャルルちゃん、減るもんじゃないし! ……あむっ。……ふにゃああああ!? これ食べたら、もう森の木の実なんて食べられないよぉぉっ!」

最強の月兎族、貧困の人魚姫、そして天災級のエルフ。

大陸のパワーバランスを左右しかねない三人の美少女が、リアンの作ったたった一皿の肉じゃがを前に、完全に陥落していた。

「あぁ、そんなに喜んでもらえると、作った甲斐があるよ。……おっと、リーザちゃん。お代わりは無料だ、好きなだけ食べてくれ」

「リ、リアンさん……っ。私、あなたのためなら、どんなスパチャソングでも歌いますぅ……!」

こうして、ポポロ村の運命は決まった。

三大国が狙う戦略的要衝、ポポロ村。

その真の支配者は、強大な軍隊でも、冷酷な政治家でもない。

――一人の料理人と、その『フライパン』であった。

「よし。明日から正式オープンだな」

リアンは、幸せそうに腹をさするヒロインたちを眺めながら、満足そうに頷いた。

その背後の空では、依然として巨大な空母『轟丸』が、不気味なほどの威圧感を放ちながら浮遊していたが……この時の村人たちは、まだ気づいていなかった。

自分たちの胃袋を掴んだ男が、夜には『死神』へと姿を変えることを。

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