EP 2
空飛ぶ鉄の城と、秒で建つ俺の城(ポポロ亭)
「総員、戦闘態勢ッ! 非戦闘員は地下シェルターへ避難して!!」
ポポロ村の広場に、村長であるキャルルの悲痛な叫び声が響き渡った。
空を覆い尽くすほどの、漆黒の空母打撃群。
ルナミス帝国か、レオンハートか、アバロンか。ついに三大国の均衡が崩れ、この緩衝地帯を焦土に変える気なのか。
「リーザちゃんも早く逃げて! ここは私が食い止めるっ!」
キャルルはラフな村長服のポケットから愛用のダブルトンファーを引き抜くと、特注の強化靴で大地を踏みしめた。
月兎族の圧倒的な闘気が、彼女の細い身体から立ち上る。
いざとなれば、一億ボルトの雷光を纏った『超電光流星脚』で、あの空飛ぶ鉄の城を撃ち落とす覚悟だった。
「ひぃぃぃっ! わ、私のパンの耳が飛んでっちゃうよぉぉっ!」
同居人の人魚姫リーザは、大事な大事な朝食(パンの耳と茹で卵)を抱きしめながら、ガクガクと震えている。
その時だった。
上空の巨大空母から、一匹の小型竜(竜丸)が滑空してきた。
ドスンッ、と砂埃を上げて広場に着地した竜の背から、一人の青年が飛び降りる。
「やあ、驚かせてすまない。君がここの村長さんかな?」
爽やかな笑顔で話しかけてきたのは、動きやすい軽装に身を包んだ、優しげな青年だった。
「な、何者!? 帝国の新兵器の指揮官!? それとも魔族の幹部!?」
「いや、ただの料理人だよ。今日からこの村で、定食屋を開こうと思ってね」
「…………は?」
キャルルはトンファーを構えたまま、ウサギ耳をピーンと立ててフリーズした。
後ろで震えていたリーザも、ポカンと口を開けている。
「俺はリアン。しがないスローライフ志望の男さ。空母はちょっとした移動手段だよ。――ところで村長さん、あそこの空き地、金貨で買わせてもらえないかな?」
移動手段で空母を出す料理人がどこにいる。
ツッコミどころが多すぎて、キャルルの脳内処理は完全にパンクしていた。
「あ、えっと……手続きと税金さえ払ってくれるなら、構わないけど……家はどうするの? 大工の手配なら数ヶ月は――」
「ああ、それなら問題ない」
リアンはポンッと手を打つと、何もない空間にむかって『ネット通販』のスキルを展開した。
空間が光り輝き、魔法のゲートが開く。
そこから次々と吐き出されていくのは、美しくプレカットされた木材、最新鋭の断熱材、ピカピカのシステムキッチン、そして巨大な業務用魔導冷蔵庫。
「な、なにこれぇ!?」
「さあ、サクッと建てるぞ。影丸!」
リアンの足元の影がぐにゃりと歪み、騎士の形をとった。
召喚スキル【中】――影丸。
戦闘だけでなく、鍛冶やDIYまでこなす万能の影の従者である。
「影丸、図面通りに頼む。DIYモードだ」
リアンの命令が下った瞬間。
影丸の体が数十の影に分裂し、恐るべき速度で動き始めた。
ダダダダダダダッ!!
機関銃のような速度で釘が打たれていく。
魔法の接着剤と完璧なホゾ組みが、木材を次々と組み上げていく。
真新しい木の良い香りが広場を包み込み、窓ガラスがはめられ、屋根瓦がミリ単位の狂いもなく敷き詰められていく。
「嘘でしょ……」
「魔法……なの……?」
キャルルとリーザが呆然と見上げる中、たったの五分。
カップ麺が伸びるか伸びないかの時間で、そこには真新しく温かみのある、二階建ての立派な店舗兼住宅が完成していた。
木彫りの看板には『ポポロ亭』の文字。
「ふぅ、完璧だ。影丸、ご苦労」
リアンは影丸を引っ込めると、真新しいエプロンをキュッと締めた。
「さてと。村長さんたち、脅かしたお詫びに、これから試作品のまかないを作るんだが、良かったら食べていかないか?」
リアンが真新しいキッチンに立ち、魔導コンロに火を入れる。
鍋の中で、黄金色の太陽芋と、上質なロックバイソンの肉が、醤油と砂糖で炒められ――。
ジュワァァァァァッ……!
「!!」
甘辛く、そして暴力的なまでに食欲をそそる『肉じゃが』の匂いが、ポポロ亭の換気扇から村の広場へと放たれた。
「きゅるるるるるるるるるっ!!」
パンの耳しか食べていなかったリーザのお腹が、雷鳴のような音を立てた。




