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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~【書籍化企画進行中】  作者: 川崎悠
第6章 捲簾大将

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190 孫悟空と猪八戒 対 沙悟浄

「はぁああああッ!」


 巨大石猿の腕を振り被り、ブラック沙悟浄を殴りつける。


 ドゴォオオオオオッ!


 諸共、海に落ちた二体の巨躯は腰まで海に浸かっていて容易に走り回ることができない。

 孫悟空との対決なのだから沙悟浄としては海中に引きずり込むのが勝ち筋だろう。

 でも、互いの体が大きすぎてそれは叶わない。

 海の水深がここから急激に深くなるタイプなら危ないわね!


『オオオオオオオオオッ!』


 巨大石猿に殴られた沙悟浄が、降妖宝杖(こうようほうじょう)を横薙ぎしてくる。


 ドゴォオオオッ!


「ぐっ……!!」


 巨大石猿の受けた衝撃が私にフィードバックする。

 脇腹に激痛。金剛不壊の肉体だというのに。

 敵の攻撃が重い、またはこちらの体が脆い。

 防波堤の建造にエネルギーを大部分もっていかれたせいかもしれない。

 しかも相手は降妖宝杖を振るうのに、こっちは如意金箍棒なし!


「ぁあああああッ!」


 どうにか堪えて殴りかかり、間合いを詰めて武器を振るう隙を失くす。

 この巨体では武芸もへったくれもなく、パワーのぶつかり合いよ。


『ォオオオオオオオオッ!』


 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!


 互いが攻撃を繰り出す度に凄まじい衝撃波が発生する。

 巨人対巨人の激突なんて見ている側なら大迫力で済むでしょうけど。

 あいにくと私は当事者の一人! オートモードでの戦闘なんて甘えは許されず、この巨大石猿が戦っているのは私の意思によるものだ。


「あああああああッ!」


 打ち合い、殴り合う。

 こちらは孫悟空とはいえ、正直にいえば劣勢だ。

 ブラック猪八戒の時と違うのは腰まで浸かった足場が海ということ。

 湖と違い、波の勢いが強く、体が流されるのだ。


 さらに沖へ流され、或いは倒れ込んでしまえば、そこからは沙悟浄の独壇場になりかねない。

 ゆえに踏ん張るしかない。


 しかし、武器の有無、エネルギーの消費による石猿の損耗。

 どうしても劣勢となり、押されてしまう。


「沙悟浄のくせに生意気よ! 兄弟子に敬意を払いなさい!!」

『ォオオオオオオオッ!』


 そんなことを言っても響くものはない。

 説得さえ声が届いているのかあやしい彼ら。

 ましてや私の声は孫悟空当人の声でもない。

 部外者の私が何を叫ぼうとも彼の心に響くわけがないのだ。


 とにかく戦いは五分ではなく、こちらの劣勢。でもね。


「ぁあああああッ!!」


 両手でブラック沙悟浄に組みつき、その顔を掴む。

 禿頭に顎鬚、可愛らしさなんてものはない、いかつい顔つき。

 そんな沙悟浄の口に手を突っ込み、無理矢理に押し開く!


「ミニ・マインたち! 沙悟浄の口から中へ(・・・・・)! 体内で暴れて!」

「「「「「ウキィイイイッ!!!」」」」」


 強引に押し開いた口から、ミニ・マインたちを沙悟浄の体内へ!


 これぞ孫悟空戦術の有名どころの一つ!

 羅刹女が強敵と見るや、小虫に変化し、酒にまぎれて体内へ侵入。

 お腹の中から大暴れ! という戦い方よ。


「ウキッ! ウキィイイイッ!!」


 ミニ・マインたちのうち、ミニ猪八戒が口内に入らずブラック沙悟浄の眼前を飛び回る。


「ウキィイイイイッ!!」


 金剛琢の横入りがないため、九歯のまぐわを顕現させて、ミニ猪八戒がブラック沙悟浄の片目を攻撃する。


『ォオオオオオオオッ!!』

「くっ……!」


 強引に開かせていた口を噛み千切らんばかりに叫ぶ。

 いえ、実際に石猿の指が噛み千切られる……!!


「ぁあああっ!」


 激痛が指先にフィードバックしてくる。

 私本体の指が消し飛んだりはしないけど、噛み千切られた痛みはそのままのように。

 涙目になりながら、それでも追撃に移る。


「七十二変化、変われ! ダイナマイト(・・・・・・)! 着火済みッ! 八戒、離れて!」

「ウキィイイッ!!」


 噛み千切られた指をダイナマイトに変化させる。一拍のち。


 ドガガガァンッ!


『オオオオオオオオオオッ!』

「ウッキィイイイイ!?」

「きゃああああ!」


 石猿の指先が変化したダイナマイトが一斉起爆。

 爆発の衝撃が間近にいる私たちまで襲う!


 これ、殺生禁止だから普段もやらないけど!

 使うにしても注意が必要すぎるわね!


 巨大石猿だからどうにか耐えるものの、指先だけではなく全身に痛みが走る。

 爆発の衝撃で体が離れ、バランスを崩して後退しながらフラつく。


 直撃近くだった顔や胸、指先がエネルギーを消費しながら石猿の巨体を再生していく。

 ダメージは今ので通ったようで、ブラック沙悟浄の体にもヒビ割れが見える。


「はぁ……はぁ……」


 激痛と消耗、ゴリゴリに私の体力と精神を削っていく。

 短期決戦としゃれこみたいところだけど、相手は万全、こちらは消耗からのスタート。

 ジレインの介入があれば敗北は必定。


 私は、ちらりと沙悟浄から視界を移す。

 すると海岸線近くの空を飛び回る二つの雲が見えた。

 片方は火炎を吹きながら相手を追い回し、もう片方は槍をもって衝突しているように見える。

 雲に乗っているけど……片方はラグナ卿?

 紅孩児のギフト、雲に乗れたの?

 まぁ、西遊記キャラはデフォルトで乗れるのかもしれない。

 五行車なんて物を先に教えていたから、あっちを気に入って使っていたのかも。


 とにかくラグナ卿がジレインを担当してくれているようだ。

 ありがたい。これなら八戒もまぐわを奪われないし、ミニ・マインも使役できる。


『オオオオ……』


 体内にミニ・マインたちが入り込み、暴れているはずだ。

 でも、ブラック沙悟浄相手では痛みじゃ影響がない様子。

 物理的なダメージによって切り崩せているかどうか。


『オオオオオオオッ!』


 降妖宝杖を振り被り、上段から打ち据えてくる。

 回避することができず、私は両手を上げて、その攻撃を受けた。


 ドゴオオオオオオッ!


「ぐぅぅううううッ!」


 衝撃と激痛。これまであまり感じなかった類の苦痛に歯を食いしばるしかできない。

 全身に広がる激痛は、おそらく巨大石猿の体が崩れかかっているからだ。

 原典的には孫悟空の方が強くても、今世での扱いは、ほぼ同格の〝異界神〟。

 それも沙悟浄の方がダウングレードされていない分、強力な状態。

 せめて


「きついわね……!」

「ウキィ!」


 ミニ四健将は、ブラック沙悟浄のお腹の中へ入った。

 ミニ猪八戒だけが外に残り、空を飛んでいる。

 この巨体じゃ、小さすぎてどうにもならない?


「……! 八戒! 私の(・・)ところへ来て!」

「ウキッ!」


 この戦いは、原典の孫悟空と沙悟浄の戦いじゃあない。

 できるかどうか、まったく不明!

 でも、これは私のギフト(・・・・・)よ。


「ウキーッ!」


 巨大石猿の体の一部が〝雲〟に戻る。

 その雲の中へ入り込み、私本体の眼前にミニ猪八戒がやってくる。

 私は巨大石猿にガードの姿勢を取らせ、火眼金睛を解除し、視界を元に戻す。

「八戒! 代われる(・・・・)?」

「ウキ?」


 首を傾げるミニ猪八戒。無理かしら。


「この巨大な孫悟空の代わりに、巨大な貴方になるの。そうしたら如意金箍棒がなくても、貴方の武器を巨大化させられるんじゃない? だって今、貴方だって私のギフトのはず!」


 ミニ・マインというベースがある以上、このミニ猪八戒は私のギフトの管理下にあるはず!


「ウキィ!」


 私の言葉に『心得た!』とばかりにミニ猪八戒が頷き、私の胸元あたりへ。

 そこでくるりと転身したかと思えば、乗っている雲が広がり、私のいる空間につながる。


「いけるのね!?」

「ウキ!」

「オッケー! いくわよ!」


 火眼金睛で再び巨大石猿の視界へ。


「法天象地の……フォームチェンジ! 天蓬元帥(てんぽうげんすい)猪八戒!」

「ウキィイイ!」


 バフゥ! と巨大石猿の体から煙が噴き出す!

 私自身の変化は感じられないけれど、なんとなく伝わるものはある!

 そして内側から伝わってくるその名を叫ぶ!


「上宝沁金耙(じょうほうしんきんは)ッ!」


 巨大な右手に現れるは、同じく巨大な九歯のまぐわ!


「はぁああああああッ!!」

「ウキィイイイイイッ!!」


 巨大九歯のまぐわ、上宝沁金耙を振り上げ、ブラック沙悟浄に振り下ろす!


 ドゴォオオオオオオオオオッ!

 バキバキバキバキッ!


 不意の一撃となったか、ブラック沙悟浄の体がより強く粉砕され、全身にヒビが入る。


『ォオオオオオオオオッ!!』


 負けじと降妖宝杖を振り上げ、上宝沁金耙とぶつけ合う。


 ガギイィイイイイイイイッ!!


 とんでもない衝撃が発生する。ビリビリと大気を震わせ、私たちの立っている海の水を弾き飛ばす。


『ォオオオオオオオオオオオオオッ!!』


 ブラック沙悟浄が、海の水が弾けた勢いのまま、突進してくる。

 巨体による突進と、受け止める巨体。

 吹っ飛ばされる衝撃もとてつもない!


 ドゴオオオオオオオッ!


「きゃああっ!」

「ウキィイ!」


 飛ばされたのが沖側で、海の底がいよいよ深くなり始める。

 それを狙ったのか、ブラック沙悟浄が巨大八戒となった石猿を海に引きずりこもうとしてくる!


「八戒! 海の中! いける!?」

「ウキイイイイイッ!」


 孫悟空のままならともかく、水中戦は猪八戒だって望むところ!

 上宝沁金耙の九歯でブラック沙悟浄の体をひっかけ、有利な態勢など取らせないように崩す。


『オオオオオオオオオオッ!』


 そこから巨大な水中戦!

 幸い、中にいる私は呼吸ができているけど、この空間の空気がどこまで保つか。

 それにあまり水深の深いところまでいけば水圧で潰れそう!

 物理破壊が有効な以上、水圧は厳しい気がする!


「はあああああッ!」

「ウキィイイイイッ!」


 八戒の協力のおかげか、先程の劣勢状況から五分へ移る。

 打ち合い、水中に潜っては、また浮かび上がり、激突を繰り返す。


『オオオオオオオオオオッ!』


 目に見えて、ブラック沙悟浄の体は壊れていく。

 そうして何度目かの打ち合いの末、互いの武器を思いきりぶつけ合い。


 ガギィイイイイイッ!!


 双方の武器が折れ、砕ける!


「いい加減に! 大人しくしなさいッ! 沙悟浄ッ!!」

「ウキィイイッ!」

『オオオオオオオオッ!』


 ブラック沙悟浄のお腹の辺りを強打!

 そこから一気に墨のように黒い体のヒビが広がり、崩壊し始める。


「「「「「ウキィイイイイイッ!」」」」」

「ウキーッ!」


 お腹のヒビ割れから溢れて、飛び出してくるミニ・マインたち!


『オオオオオオオオ……!』


 ブラック沙悟浄の意識がミニ・マインに向いた?


「させないわよ!」


 ここは動きを止めるべきと考え、ブラック沙悟浄の腕を抑えつける!


『オオオオオオオッ!!』

「「「「「ウキィイイイイッ!!」」」」」

「ウキッ!」


 するとミニ猪八戒が私の体から離れる感覚。


「八戒!?」


 巨大石猿の表面が溶けるように雲に戻り、また元のフォームに戻る。

 石猿の胸の中から飛び出したミニ猪八戒が、ミニ・マインたちと合流。

 何を……。


「ウキィイイッ!」

「「「「ウキッ!」」」」

「あっ……!」


 ミニ・マインたちの一部が黒い煙と、黒い粘ついた液体を引っ張りながら、何かを持ち去ろうとしている!

 今のサイズ感から見ると小さいけど……おそらく黒水晶! 沙悟浄の!


『オオオオオオオオッ!』


 ブラック沙悟浄がそれを取り戻そうとしている。

 ミニ・マインたちは黒水晶をブラック沙悟浄から引き剥がそうとしている。

 どうにも粘液というより、癒着した肉が伸びているような感覚。


「八戒!」

「ウキィ!」


 私がブラック沙悟浄の両腕を抑えているところ、黒水晶に伸びた肉を断ち切るように、ミニ筋斗雲に乗ったミニ猪八戒が九歯のまぐわを振るう!


「ウッ……キィイイイイイッ!!」


 肉を引き延ばし、引き千切る!

 ブチンッ! という豪快な音を立てて、黒水晶とブラック沙悟浄のつながりが断ち切られた!


『オオオオ……!』


 バキン!

 バキバキバキバキバキ……。


 その瞬間、ブラック沙悟浄のヒビ割れが全身に、致命的なほど広がっていく。

 禿頭に濃い顎髭のいかつい顔が私を、巨大石猿を見上げる。


 その目は悲しそうにも、救いを得られたようにも見えた。


 バキィイン!


 とうとう、ブラック沙悟浄の顔が真っ二つに割れる。

 私が押さえつけていた両腕も脆くなり、崩壊していく。

 私は腕を離し、動きを止めた沙悟浄の顔に手を添える。


「……おやすみなさい、沙悟浄」


 その目を閉じてあげる。

 巨大な沙悟浄の体が崩れ落ち、海へ落ちながら、煙となって消えていく。


 勝利によって気が緩む。

 くらりと眩暈がして、以前のように巨大石猿の体も崩れていく。


「くっ……! でも、だめ……。今回は……」


 私は法天象地の力で防波堤を作ったのだ。

 術のすべてが解ければ、その防波堤まで消えてしまう。

 津波は海のエネルギーだ。

 私たちが今、互いに消えたところで、まだ海は荒れたまま。

 防波堤を今、消すわけにはいかない。


「でも……」


 このまま海に落ちたら。意識をどれだけ保っていられるか。

 今回、ミニ・マインたちも総動員したし、八戒にだって力を尽くさせた。

 彼らにも力は残っている?

 もしかしたら稼働限界が来るかもしれない。


 戦っている間にずいぶん沖に来てしまった。

 ラグナ卿がまだ戦闘継続しているか、決着していないなら助けが期待できない。


「くっ……う……」


 崩れていく巨大石猿。

 やがて、石の体は雲へ戻り、私を支えていられなくなる……。


「あ……」


 落ちる。

 この高さから海に落ちたら。今の私の体、ギフトはちゃんとオンになっているの?

 それに泳ぎ続ける力も……。


「……誰か」


 まずい。危険だ。私が助からない。防波堤の維持だって。

 そう思うのに体が動かず、それどころか痛みさえ伴って余計に何もできないまま。

 私は海に落ちていく……。


「マイン(・・・)ッ!!」

「はぐっ!」


 え? 何かに服が引っかけられた?


「あっ……!」


 何もないはずの空中で何かに引っかかったかと思えば、グイン! と強く横に引っ張られる!


「あぐ……何……!」


 雲と崩れる石猿の体の礫が零れていく中。

 その向こうから見えたのは。


「マイン!」

「あ……」


 私の体は、伸ばされた如意鉤(・・・)に引っかけられて、引っ張りあげられた。

 その先にいたのは……雲に乗った(・・・・・)ヴィル様だ。


「ヴィル、様」

「マイン、よかった。どうにか間に合ったね」


 ヴィル様は引き寄せた私の体をしっかりと抱きかかえてくれた。


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― 新着の感想 ―
表紙かっこいい! 背景は西洋風の建物だけど、淡い土色で描かれているからぱっと見花果山とか五行山を彷彿させる
ヴィル様カッコいいけど、ラグナ卿のターン!! 好感度掻っ攫い過ぎる! ダブルヒーローでマインちゃん取り合うのー!! 1人勝ち&独り占め禁止法発令ー!!!
ヴィルさまキタワァ!!
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