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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~【書籍化企画進行中】  作者: 川崎悠
第6章 捲簾大将

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189 幕間 善財童子

 時は少しだけ遡る。

 海の向こうに現れた巨大な人型。その咆哮によって巻き起こされたのは津波。

 まだ先ほどの騒ぎから人々の避難は済んでいないというのに。


「だめぇぇえええ!」


 セラフィナは咄嗟にすべてを守ろうとする。

 今までは、ただ力を引き出していたそれの形状、広さを意識する。

 願わくば人々を守る壁となるように。


 両手を大きく広げ、まるで個人で津波を受け止めるように。


「セラフィナ嬢ッ!」


 ジュリアンが咄嗟に引き返し、彼女を守ろうと走る。

 彼は間に合わない。


 カッ!!


 光の奔流とともに壁となり、広がる結界。


 ドッパアアアアンッ!


「……っ!」


 歯を食いしばるセラフィナ。

 津波の衝撃が結界を通してビリビリと彼女の細腕に伝わる。

 強烈な衝撃を受け続けても結界が揺らぐのだと痛感させられた。


「でも! 私がみんなを守ります! マイン様たちががんばっているんだもの!」

「セラフィナ嬢……」


 引き返してきたジュリアンが海岸で一人残り、津波から人々を守るセラフィナのそばに来る。

 だが、彼には聖女の助力をする力などない。

 すべてを彼女に託すしかない歯痒さを感じる。


 ドカンッ!!


「きゃあっ!?」

「くっ……!?」


 海の向こう、現れた黒い巨人・沙悟浄のすぐ近くで強烈な閃光と爆音。


「ま、眩しっ……目が……!」

「くぅ……」


 結界を張りながら、目を擦るセラフィナ。

 直視していなかったことと間に半透明の光の膜があったことが幸いし、そこまでの影響はない。


「大丈夫ですか、ジュリアンさん!」

「……私は平気です。貴方は結界に集中を」

「はい!」


 津波の衝撃をどうにか受けるセラフィナ。

 壁状に展開した結界の表面には、先ほどまで迫っていた半魚人型の魔獣の群れ。

 波の勢いで沈む性質ではないらしい。


「これは……」


 ジュリアンは思う。

 カーマインの考え違い、或いは抜け落としがあると。

 今回の遠征に、いつも聖女と同行していた他の三人がいない。

 だが、もしかしたら彼らは『ここにもいるべき』だったのではないか。

 或いは、まだジュリアンの力が足りないことが問題なのか。


「くっ……! 私に何ができるというんだ……ッ!!」

「ジュリアンさん?」


 ジュリアンにとってこのヴァレンシュタイン領は故郷だ。

 その地の民を救うことに否はない。

 だが、役に立てているかどうかの実感はない。

 むしろ力不足を痛感させられるばかりだった。


 今だってジュリアンは立ち尽くすばかりで『聖女』セラフィナに頼ることしかできない。

 せめて、彼女に迫る脅威を退かせるため、使い魔を駆使しようとする。

 だが、その手数はあまりにも足りないとわかった。

 これもカーマインを始め、他の誰かの手を借りることでどうにかなっているだけ。


「三昧真火ッ!」


 悔しいという気持ちを整理する暇もなく、ラグナが海岸に帰還し、火炎によって魔獣の群れを蹴散らす。


「どうやら足を奪われるらしい! 厄介な敵がいるな! ヴァレンシュタイン!」

「……なんですか!」

「使い魔を下げろ! おそらく奴の〝輪〟に吸われる!」

「なっ……」


 ジュリアンは、ただでさえ微力な助力にしかなれないというのに。

 なけなしの使い魔さえ下げろと言われて、さらに無力感と屈辱を味わうしかない。


 ラグナは海岸に押し寄せ、結界の壁の前に群れている魔獣たちを焼き払っていく。

 その圧倒的な力に……ジュリアンはどうしようもない羨望を抱く。


「セラフィ! 皆さん、避難は済みました!」


 避難誘導を手伝い、ジュリアンが離れたあとのフォローをしていたエミリアが海岸に戻る。


「エミリー! 貴方は逃げて! ここをちゃんと守れるかわからないよ!」

「逃げるものですか! 私は貴方を支えます!」


 セラフィナの隣に立つエミリア。二人は友人として交流を深めていた。

 何もできずとも隣に立ち、支える。

 ジュリアンにできることも同じなのか。


「ミニ・マインたち! 全員集合!」

「「「「「ウキーーーッ!!」」」」」


 カーマインが海岸近くまで引き返してきてから、身外身の分身たちを連れてまた沖合へ向かう。

 誰よりも前線で戦う姿は、とても公爵令嬢の姿とは思えない。


 海の奥へ見えるのは巨大な黒い影。

 近くで見れば、もっと恐ろしいものだろう。

 だが、彼女は臆さない。その姿はまるで……。


「ああっ!? マイン様!?」

「なっ……」


 そのカーマインがあっさりと。敵のギフトが出した輪に吸い込まれて、消えてしまった。


「ばかな」

「ヴァレンシュタイン!」

「! な、なんですか」

「解析しろ(・・・・)! 俺たちにカーマインの考えはわからん! あの輪に飛び込んだカーマインはどうなった! お前にできる(・・・・・・)ことをしろ(・・・・・)!」

「……!」


 ラグナはジュリアンを見もしない。

 だから、その言葉にジュリアンの内心を慮るような優しさなどない。ただ。


「わかっています!」


 その役割をジュリアンは担う。

 それは決意だ。

 いつも聖女のそばにいた四人の中で、ジュリアンが最も戦う力を持たない。

 聖女ではなく、仲間への羨望、嫉妬心。

 それは優秀な兄を二人も持ち、決して勝てないという劣等感にもつながっている。

 けれど彼には彼の為すべきことがある。


「……! マロット公爵令嬢について、なんの情報も返さない!」

「じゃ、じゃあ、マイン様は消え……」

「いいや! あの輪にそんな効果はない! あれは武器を吸い取る物だ!」


 まだ距離があり、敵の意思で自在に動く白い輪をジュリアンは解析し続ける。

 かつては解析できなかった文字列。

 カーマインのギフトを解析した時は不明だったそれは、長くギフトを使い続けたことで、以前よりも鮮明にわかるようになっていた。


 だが、成長したとはいえ、おそらく今のジュリアンより、敵の方が強力なことに変わりない。

 力の差、ギフトの差は、そのままジュリアンのギフト『真理の探究』に影響する。

 これまで見てきたカーマインのギフトの強力さを考えれば、まだ彼女の力を解明することもできないだろう。


 この敵も同じだ。強力な存在であるということはわかる。

 だが、それでも。ジュリアンは自分より上位の存在を解析し続ける。


「敵のギフトには〝宮殿〟を作るものがある! 吸い取った武器を宮殿に収める能力だ! その宮殿にマロット公爵令嬢は収められた!」

「ならばカーマインは生きているだろうよ!」


 ラグナが魔獣の群れを蹴散らしながら笑う。


「ジュリアンさん、目から血が……!」


 ジュリアンは眼に痛みを感じる。


「……どうやら無理をするとこうなるみたいです。経験が足りない」

「ジュリアンさんの目を癒して!」


 セラフィナは許可を取る前に光を放ち、ジュリアンの眼を治す。


「……貴方は壁に集中してくださいと言っているでしょう、セラフィナ嬢」

「大丈夫です! 負けませんから!」

「……まったく」


 ジュリアンは呆れつつも、内心の感謝を抑え、敵の観察を続ける。

 危機は去っていない。敵を倒す術を見つけたわけではないのだ。


「……カーマイン様は、この地で起きる災難は、貴方が鍵となるかもしれないとおっしゃっていました、ジュリアン様」


 エミリアがジュリアンに向けて声をかける。


「……そうでしたね。なら、私が糸口を見つけられるかもしれない」


 ジュリアンは先ほどまで感じていた無力感を洗い流し、やるべきことに集中する。

 それがこの地を守ることにつながるなら、たとえ失明してでも成し遂げる。

 そう決意する。


「あははは! サルくんはいなくなってしまいましたねぇ?」


 雲に乗った敵が海岸までやってくる。


「サルくん……?」

「……マロット公爵令嬢のことでしょう」

「無礼な」


 空から見下ろしてくるジレインが余裕の微笑みを浮かべた。


「どうされますか? 飛ぶためには先ほどの馬車もどきを出さなければならないのでは? ねぇ、紅孩児(・・・)」


 ジレインはラグナに向かって挑発するような言葉をかける。


「…………」


 魔獣を蹴散らしたあと、ラグナは雲に乗って飛ぶジレインを見上げた。


「お前、混ざり物(・・・・)だな」


 だが、挑発には乗らず、ラグナはそう口にする。


「…………」


 その言葉にピクリと反応するジレイン。


「ギフトの正体とやらに半ば乗っ取られている。今や魔性の存在か。お前のギフトだけがそうなのか、それとも俺もそうなり得るのか。……なり得るのだろうな」


 ギフトによるギフテッドの乗っ取り。

 通常ではありえない事象。

 だが、多くのハズレギフト。原典の物語を持つギフトならば。


「だが、そうか。ならば面白い(・・・)」

「……なんです?」


 ラグナは野性的な笑みを浮かべる。


「おう! お前は俺の五行車を奪うのだろうよ! なら俺は飛べん! この状況ではそれは致命だろうな!」

「……その通りです。降参しますか、紅孩児」

「その名だ(・・・・)!」


 ビリビリと気迫とともに言葉を返すラグナ。


「悪いな、ジレインとやら! 俺はカーマインから聞いている!」

「……聞いている? 何を」

「俺の宿すギフトが、お前と同じ魔性だということを!」


 紅孩児と独角兕。接点などない。

 ただ原典の物語においては脅威となる存在であることだけが同じ。


「そして! その先があることを! 今の俺は道半ばだ!」


 ジレインは、いぶかしげな表情を浮かべ、ラグナを見下ろす。

 だが脅威を感じている。ラグナを仕留めるためには海に引き摺り落とすことだ。

 わざわざ戦える距離に近づくことなどするべきではない。


「あっ!」


 膠着したような状態、なおも続く、津波の発生。

 荒れ狂う海の向こうにセラフィナはその光景を見た。


「あの雲は!」


 セラフィナの視線の先に見えたのは、こちらに飛んでくる巨大な雲。

 それを引っ張るように飛んでくる影は赤髪の女性。


「マイン様!」

「まさか、吸い込まれたあとも自由に動けるのですか」

「ハハハ! お前も予想外か! カーマインの動きをお前如きが予測などできまいよ!」

「……忌々しい」


 ジレインは沙悟浄へ向かうカーマインを止めるため、引き返す。

 空を飛べるのはジレインの金剛琢がある限り、実質一人。

 ならば海岸に留まるしかないラグナなど無視してしまってもかまわない。

 それよりもカーマインが何をしようとしているか。


「沙悟浄ぉおおおおおおおッ!」


 巨大な雲が見る間に形を作り、巨大な石猿となって降ってくる。


『ォオオオオオオオオオオッ!!!』


 ドゴォオオオオオオオッ!!

 ドシャアアアアアアアッ!!!


 巨大石猿と黒い巨人が衝突し、海へ落ちる。

 その衝撃がまた大きな波を引き起こし、災害となる。


「厄介な」

「待て!」

「……なんです? 君に何ができるというんです、紅孩児」


 嘲笑し、ラグナを見下ろすジレイン。


「見ていくがいい、お前も!」

「……? 何を」


 もし、火尖槍を投擲しようというのならそれもいい。

 それくらいしかできない距離だ。

 武器を投げつけられても金剛琢を持つジレインの脅威ではない。


「カーマインがあれほど体を張っているのだ! 惚れた女が(・・・・・)そうまでしているというのに、俺が引くわけにはいくまいよ!」

「……根性論でしょうか。僕の知ったことではありません」


 ラグナはジレインの言葉を無視し、続ける。


「覚悟を決めよう! たとえ、それが生涯の枷(かせ)になろうとも! 俺はカーマインの敵を退ける力となろうッ! ゆえに! 俺に力を貸せ、善財童子(ぜんざいどうじ)ッ!」


 ラグナの体の各部に光が灯る。

 首に、両手に、両足首に。金の輪、金箍児(きんこじ)が嵌められる。


「祥雲(しょううん)ッ!!」


 ラグナの足元から雲が溢れ出し、その体を乗せ、勢いをつけて浮かび上がる。


「なん……」

「お前が吸い込むのは武器だろう? だが、お前はカーマインの雲を吸わなかったな? これは、お前のギフトにとって『武器ではない』というわけだ!」


 同じ高さへと雲に乗って上がり、ジレインの正面に対峙するラグナ。


「お前は俺が殺す(・・・・・・・)」

「……!」

「カーマインの邪魔をできると思うなよ、独角兕(・・・)」


 ラグナはまた野性的な笑みを浮かべた。


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― 新着の感想 ―
おおお、漢!
>惚れた女が 色々な男性陣に惚れられるのは悪女の条件ですね マイン様は無自覚でしょうが()
サラッと惚れた女と言うところがまたいい!!!熱いぜ!!!
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