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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~【書籍化企画進行中】  作者: 川崎悠
第6章 捲簾大将

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186 万聖龍王と九頭虫

 十メートルはあろうかという体躯の怪鳥。

 推定、首は九つ。体中から血が垂れているように見える。

 でも、あれは怪我を負っているというより、そういうキャラクター性に見えるわ。

 十中八九、間違いなくあの巨大な怪鳥が九頭虫でしょう。

 油断すると水の中に引きずり込まれるわ。


 その背に乗っているのは角を生やした巨漢の人型。

 如何にも将軍といった風情だけど、私の見立てでは使い魔使役型だと思う。

 武器には槍のような物を携えている。


『キィイィィイイイイァアアアアッ!』


 奇怪な鳴き声を上げ、大気を震わせる九頭虫。

 するとその体から黒煙が立ち昇り、見る間に赤黒く変色していく。

 赤色の風雨が発生し、人々を襲う。


「きゃあああ!」

「助けて!」

「聖女様!」

「全員、こちらへ! 私についてきてください!」

「皆さん、私の後ろへ!」


 灯台の下では人々が逃げ惑う。

 ジュリアンさんが声を張り上げ、誘導し、民を導く。

 フィナさんは殿を務め、結界を張り、人々を守ろうとする。

 ひとまず賊の方は蹴散らすことができているわ。

 魔獣の群れが追いつかないかぎり、人々を救うことはできるでしょう。


「芭蕉扇!」


 私は再び芭蕉扇を出し、大きくする。


「風よ! 血の雨を降らす雲を吹き飛ばせ!」


 ゴォオオオッ! と逆巻く猛烈な風によって赤黒い雲を吹き飛ばす。

 しかし、海から上がってくる魔獣の群れはラグナ卿の手に負えない数となり、次々と上陸してきた。

 半魚人系、甲殻類系の見た目のやつもいる。


「身外身法!」


 うなじの毛をごそりと引き抜き、息を吹きかける。


「「「「「ウキーッ!」」」」」


 ミニ・マインたちがわらわらと出てくるけれど。

 これでも敵の数より少ない方よ。


「防衛ラインを引くわよ! 敵は水中での戦闘を得手としているわ! 絶対に水中に引きずり込まれないように立ち回って! フィナさんの護衛、および、敵の侵攻を阻止して!」

「「「「「ウキーッ!」」」」」


 私はミニ・マインたちに指示を出しつつ、筋斗雲で上昇。

 全体を見回し、声を張り上げる。まだ首元に拡声器はついたままね。


「やぁ、やぁ、やぁ! 我こそは斉天大聖孫悟空! 闘戦勝仏、その力を譲り受けし、曇りの聖女! カーマイン・マロットなり!」


 芭蕉扇を消し、如意棒を出してかまえる。


「護りの(・・・)聖女、セラフィナ・アスティエールとともにヴァレンシュタインの民を救いに来た! だが、この我は戦う聖女なり! 我らが王国の敵よ! 万聖龍王! 九頭虫! 汝らを討ち果たさんがために来た! この身に宿った悟空の力は貴様らの仇敵なり! 生前の屈辱! この悟空に晴らしたくば掛かってこいッ!!」


 盛大に啖呵を切り、戦闘担当がいることを民に示す。

 ただ守るだけではなく、戦う者がいるのだと。


『キィイイイイイアアアアアアッ!!』


 挑発がしっかりと届いたらしい。

 空を飛ぶ怪鳥、九頭虫の矛先がこちらへ向かってくる!

 私の方も筋斗雲で突進する。


「アチャアアアアアッ!」


 突進がてら、如意棒を伸ばし、リーチを確保。

 孫悟空ギフトの剛力がどこまで通用するか試す。

 今回は珍しく鎧を着込んだ状態でバトル特化モードよ!


 横薙ぎに振り被った勢いで九頭虫の頭部を叩く。

 九つある頭部の二つほどが如意棒を牙で咥えて勢いを止めた。

 ただし、頭の一つは孫悟空パワーに耐え切れず潰れる。

 意外と脆いかも! カウンター気味の一撃とはいえ!


「火尖槍ッ!」


 空中で私と激突し、動きを止めた瞬間。

 ラグナ卿が海上から投擲した火尖槍が、九頭虫の翼を貫く。


「いい啖呵だったぞ、カーマイン!」


 火炎を吹き荒らしながら空を駆け上がってくる五行車。

 ラグナ卿を戦力に加えたのでこういう時に頼れるのは嬉しいわね!


『キィイイイアアアアアアッ!』

「戻れ、火尖槍!」


 ラグナ卿が呼びかけると投擲され、手元を離れていた火尖槍が炎とともにラグナ卿の手元に舞い戻っていく。

 そんなことできるの!?

 私の場合、消してから手元に再び出せば同じことできるけど!


「三昧真火(さんまいしんか)ッ!」


 おっと! 煙を纏ったあの炎は、孫悟空の弱点でもある。私はすかさず距離を取る。

 九頭虫の体がたちまち燃えていく。


『キィイイイイァアアアッ!』


 錐もみ状態で落下していく九頭虫。あっけなく勝利?

 ではないわよね。私は落ちていく九頭虫を追いかける。

 水中に潜って火炎を振り払い、ヒットアンドアウェイでの攻撃が予測できる。

 加えて水面近くではトビウオ系の魔獣とかいそうよ。


「伸びろ、如意棒ッ!」


 九頭虫に追撃を加え、さらに追い込むために縄でも……。


『────』

「え!?」


 九頭虫の背に乗っていた万聖龍王がその背から飛び降りた。

 角度と速度的に望まぬ形で距離が縮まる。


「くっ!」


 伸ばした如意棒を戻し様、万聖龍王の振るう槍と打ち合う。

 しかも、それだけじゃなく追撃が来た。


 ガガガガッ!


「わきゃあっ!?」


 何!? どこから追撃!?

 見ると私の周りには無数の〝剣〟が浮遊している!

 しかも、万聖龍王自身も大きめの剣に乗って空を飛んでいる!?


「これ、中華系の作品でよく見るやつ!」


 万聖龍王はそっち系なのね! 仙侠だかなんだか!

 でも残念! 四方八方から剣で串刺しにしようとしても、この体は金剛不壊!

 しかも今回は鎖帷子付きよ!


「カーマイン!」

「ごめん、ラグナ卿! あっちは任せる! 水中に引き込んでくるのから気をつけて!」

「承知した!」


 九頭虫の相手をラグナ卿に託し、私は万聖龍王を相手取る。

 陸地での戦いなら武芸に秀でる敵の方が有利でしょうけど、ここは空。

 そろそろ私でもどうにかできなくはない……と思いたい!


 八戒や四健将、ミニ・マインは敵の数が多い防衛ラインを守り、フィナさんをサポートしている。

 万聖龍王自体は原典で孫悟空によって殺された相手よ。


『────』


 ドドドドッ!


「くっ……!」


 如意棒を振り回し、迫りくる無数の剣を弾き返していく。

 多段ヒットを食らっているけれど、鎖帷子と金剛不壊の防御力に任せて我慢!

 衝撃はくるから気持ち悪い!


 剣を弾き返しながら、筋斗雲を動かし、どうにか万聖龍王を追う。

 どうやら距離を取って遠距離攻撃でこちらを仕留める腹積もりらしい。

 そうは問屋が卸さないわよ!


「ハッ!」


 ここで宙返り一つ!


「觔斗雲(・・・)!」


 本家本元、正しい文字の觔斗雲(きんとうん)!

 ギフト行使の際の気持ちにすぎないけれど、以前のブラック猪八戒戦の時のように、如意棒の正式名称を唱えると強力になる……気がする!


 宙返り一つで十万八千里の距離を飛ぶ、斉天大聖の代名詞!


「速度を上げて!」


 心なしか、体の延長のような感覚と雲が溢れ、膨らむ感覚。

 雲の速度が上がり、距離を取ろうとする万聖龍王へ強引に寄り切る。


「アチャアアアッ!」

『────!』


 万聖龍王の振るう槍ごと、その腕を如意棒で打ち砕く!

 すると、その体にヒビが入った。

 黒水晶を本体とする実体化タイプ! ギフテッドじゃない!


「身外身法!」


 残り少ない毛を抜いて息を吹きかける。


「ギフトの正体を破壊して! 対象は万聖龍王! それならできるはず!」

「「ウキィ!」」


 原典で孫悟空が殺した相手ならギフトの正体を破壊できる。

 これはすでにできると証明したことよ!

 片腕を潰した万聖龍王の、もう片方の腕を如意棒で打ち据える。

 ミニ・マインの二体がとりつくように飛び回り、隙を窺う様子を見せるけど、もう一手!


「七星剣!」


 両手を潰した相手の胴体部分、腹部へと七星剣を突き立てる。


「「ウキィ!」」


 その〝穴〟からミニ・マイン二体が入り込み、万聖龍王を内側から攻撃する。


『────』


 ヒビ割れが一気に広がり、体全体に行き渡った。

 バキバキ……バキンッ!


「「ウキィッ!」」


 万聖龍王の体が砕け散ると同時に、その内側からミニ・マインが飛び出てきた。

 よーし、勝利! ラグナ卿は!?


 周囲を舞っていた剣が霧散していく向こうの水面で、水しぶきをあげながら飛ぶ二つの影。

 海の上を火炎が走り、さながら地獄の様相。

 すでにいくつかの首を潰された巨大な怪鳥は、体を燃やす炎であっという間に追い詰められていき……。


「三昧真火!」

『キィイイイイイイイイイアァアアアアアアッ!!!』


 断末魔を上げるように体を燃やしながら海に落ちていく。

 うん、あっちも勝利! 孫悟空と紅孩児に敵なんていな──。


 ドクン!


「……!?」


 そこで強烈な感覚が私を襲う。

 速度を上げた戦闘のせいで、かなり沖の方へと移動している私たち。

 この感覚がどこから来るかといえば、それは当然。


「素晴らしい腕前ですね。孫悟空(・・・)さん? いえ、曇りの聖女でしたっけ」


 海の上。そこに一人の男が立っている。

 青い髪をした糸目、いい声をしたお兄さん。ジレイン卿だ。


「あちらは確か……紅孩児(・・・)でしたか」


 まだ離れた場所にいるラグナ卿に顔を向けながら、そう確認する。

 こちらのギフトを正しく認識している。

 でも、私はまだジレインのギフトを理解していない。

 それが命取りだった。


「厄介な相手です。ですので、ここは……こちらも切り札を切らせていただきましょう」


 この流れは絶対阻止!


「アチャアアアアアッ!!」


 速度を上げた觔斗雲で私はジレインの妨害を試みる。

 何をするかなんてお見通し! ここでのラスボス召喚役がこいつってことよ!


 肉薄する私に向かって、微笑みを絶やさず、ジレインは。


「──着け(・・)」


 光の輪を展開した。それは白い輪。


「あっ……!?」

「「ウキィ!?」」


 私の手から如意棒が離れ、その輪の中に吸い取られる。

 万聖龍王を砕いたミニ・マイン二人も輪に吸い取られて……消えた。


「その輪は!」


 金剛琢(こんごうたく)。白い輪でできた神具。

 効果は、敵の武器を(・・・)すべて奪い取る(・・・・・・・)。

 こいつは!


「独角兕(どっかくじ)大王!」

「ご名答。ですが遅い」


 糸目が開かれる。

 その目は、火眼金睛のように白目部分が赤く、その雰囲気は禍々しい。


「──捲簾大将(けんれんたいしょう)沙悟浄(さごじょう)。お目覚めです」

「しまっ……」


 ジレインが立つ海の下。その下から巨大な影が起き上がった。


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― 新着の感想 ―
うわメチャクチャ不利なやつ来た! 金剛琢は反則級にヤバいやつだ! ここで万全の沙悟浄はヤバい! 岸部シローさんの沙悟浄なら ワンチャンあるかもだけど たぶんそっちじゃない!w 金剛琢の持ち主、太上…
太上老君!!お客様の中に太上老君はいらっしゃいませんか!!! こんなん勝てるか!!!
 味方にも居て良いはずなんだよね、糸目キャラ。  ただ敵に据え置いた時の収まりのよさが⋯⋯。
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