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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~【書籍化企画進行中】  作者: 川崎悠
第6章 捲簾大将

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183 雨乞い

 血の雨を降らす禍々しい雲を吹き飛ばしながら筋斗雲で飛び回る。

 流石にもう隠れてはいられないと隠身法は使っていない。

 あんな雨が降っている状況だからか、民は屋内に避難している様子。

 それでも目撃している人はチラホラ見かけるけど……。


 フィナさんはどこかの岩場で祈りを捧げている姿が見えた。

 ラグナ卿や、ジュリアンさん、エミリアは……?


 火眼金睛の千里眼で視界を順に飛ばしていく。

 まずエミリアは……おそらくフィナさんと一緒にいるわね。

 ジュリアンさんも、同じ岩場の地面が見えるから一緒?


 ラグナ卿だけど、どこかの階段らしき場所を上がっている。

 三人とは違う場所にいるみたい。


「階段……」

「ウキ?」


 血の雨の難は、十三層の宝塔の頂上にあった仏舎利という宝を盗むエピソードだ。

 今世のギフテッドがエピソードを再現する理由はないはずだけど……。

 でもまったく関係がないかというとそうでもなさそうな感じ。

 ということは、宝塔に類する建造物があるとか?


 私は禍々しい雲が晴れた街を見下ろす。

 血の雨なんていうとんでもないものが降ったせいで、異常な光景になっていた。

 その中で目についた一番高い建物は。


「灯台……かしら」


 この地域はもう海が見える場所だった。空からだから余計に。

 それにしても街の状態がひどい。

 こんなの綺麗にするのにどれだけ時間がかかるやら。

 綺麗な雨が降れば少しはマシかもしれないけど……。


「あ」

「ウキ?」


 雨、降らせられるわよね、私。

 今まで『曇りの聖女』として曇らせる程度に留めてきたけれど。


 孫悟空は、車遅国にて人間に化けて王に取り入っていた三匹の妖怪を相手に術くらべをすることになる。

 その際の術くらべの一つが何を隠そう、雨乞いくらべだ。

 ただし、術で雨を降らせるのではなく、四海龍王を呼びよせて、その地の神々に協力を仰ぎ……如意棒で脅し……助力を乞うて雨を降らせるのよ。


「呼風喚雨(こふうかんう)! この地の精霊よ! 雷光と風雨を司る神々よ! 血の雨で汚された大地をどうか洗い流し、この地の民に安寧をもたらしたまえ!」


 芭蕉扇を戻し、如意棒を出してから天に掲げる。

 片手は祈りを示すように印ではなく、五指を揃えて縦に。


 すると先程の禍々しい雲とは別の雨雲がただちに空を覆い始め、血ではない透明な雨を降らせ始めた。

 がっつり雨である。曇りの聖女とはいったい。


「精霊よ、神々よ、感謝致します」


 筋斗雲の上から失礼かもしれないけれど、しっかりと頭を下げ、礼を尽くしておく。

 精霊や神々をこの世界で見たわけじゃないけれど、たぶんいるってことよね。

 或いは、ただのギフトによるエピソード昇華型の能力かもしれないけど。

 天候操作に関しては、私の裁量に収まるだなんて思い上がらない方がいい。

 ここは孫悟空に免じて力を貸してくれた、と思っておく。


 雨は優しい勢いで降り注ぎ、決してゲリラ豪雨的なとんでもない量ではない。

 徐々に血の雨で汚れた街を洗い流してくれる。そんな様子だ。


「七十二変化、変われ」


 私は如意棒を大きめの〝傘〟に変え、雨の中を飛ぶ。

 血の雨に気を取られない、それでいて雨雲で暗くなった中。

 海側にある灯台に灯火が点いているのが見えた。


 今世の技術でいうと生活魔法の魔道具による灯りか、灯火を燃やすだけのもの。

 それらを反射鏡とかいうので光を照射するものなんだけど。

 光量はそれほどではないみたい。

 灯台に灯りをつける目的は海側から目印となるため。


 現代だと、なんだっけ……フレネルレンズとかいう光の屈折をどうたらして、束ねて増幅して、一点方向へ集中して照射するレンズが使われているとかいないとか。

 私でも知っているような、あの灯台からまっすぐに遠くまで伸びる光の大元ね。

 この国の技術では、そういうのはまだ開発されていないらしい。

 ちなみにこの知識は流石に調べて知っているものではなく、動画か何かでたまたま見たもので、私も詳しくは知らないわ。


「…………七十二変化で作れるわね?」

「ウキ?」


 たぶん、灯台用のそのレンズって『形』が重要なタイプだ。

 科学的根拠は相変わらずわからないけど、形を模せれば例の収束した光が出せるのでは?


「やってみましょう!」

「ウキ!」


 何も異世界チートがしたいわけではなく、私は海を照らしたいのだ。

 この海では海難事故が多発しているという。

 そこに沙悟浄が関係して災厄となっているんじゃないかと睨んでいるわけだけど。

 現代クラスの灯台があれば、その海に光を差せるかもしれない。


 私は灯台へ向かって飛んだ。すると、私が近付く前に。


 ドォン!


「わっ!」

「ウキ!」


 灯台の先が爆発した!? やっぱりあそこに敵が!?


「そこまでよ、仏舎利泥棒ぉお!」

「「「ウキー!!」」


 急行すると、そこには。


「おお、カーマイン! 早かったな!」


 仏舎利泥棒ではなくラグナ卿が堂々と立っていた。

 火尖槍をかまえ、炎がチラチラと燃えている。

 ちょっと、人様の土地の灯台をぶっ壊しているんじゃないわよ。

 困るでしょうが、海に出ている人たちが!


「ラグナ卿、ここで何をしているの?」

「ん? 敵がいた。二人」

「二人……もしかして鯰(なまず)の妖怪とか?」

「鯰……まぁ、似た見た目はしていたな。だが、黒水晶を本体としていなかった。どうやら使い魔だったらしい」

「ああ……」


 万聖龍王、または九頭虫のギフトに含まれているのでしょう。

 仏舎利盗難事件を追う中で、下っ端妖怪を締め上げて犯人をはっきりさせる下りがある。


「どうしてここに敵がいたのかしら」

「わからん。だが、こちらから匂いがした」


 やはり匂い。万能か。ジュリアンさんの手助けとかでもないの?

 ちょっとこの人、教会に潜入させようかしら。すぐに敵を見つけ出しそう。

 ……まぁ、存在感がありすぎるから潜入捜査は無理か。


「フィナさんたちは?」

「〝下〟だ」

「下?」

「ウキ?」


 私は首を傾げる。


「この灯台の下に、自然の岩場に作られた階段があり、その先に地元の民が信仰している祭壇があるらしい」

「へぇ……」


 この国では珍しいわね。

 教会があるのでわかるように、この国では国教的なものがあるのよ。

 ギフトという明確な恩恵をもたらすので、ある意味で前世より信仰が身近なもの。


「血の雨が降るのを止めるため、そこで聖女に祈りを捧げてもらいたいと、民に願われては断れなかった。あのような状況だったからな」

「ああ、そういう流れ」


 フィナさんは断りそうにないわね。

 それにG4が同行した場合の正規イベントっぽいわ、それ。

 祈りを捧げている場所が、火眼金睛で視えたフィナさんたちのいた岩場ね。


「眉唾だったが効果はあったようだな。雨が普通の雨に変わっている」

「ああ……あはは」


 これ、私が血の雨を降らす雨雲を晴らして、普通の雨を降らしたタイミングとフィナさんの祈りのタイミングがバッチリ合っていたんじゃない?


「もしかしてフィナさんの周りには一般市民がたくさんいる?」

「おう! それなりの数がいたな!」


 うわぁ、ドンピシャだわ!

 血の雨の難を解決した聖女の出来上がり! 目撃者多数!

 これは自分の手柄を主張しない方がいいわね……。

 なんでって、こう……私はほら、悪役令嬢ポジションだし?

 ここで変にフィナさんとの対立軸を周囲に疑われてはたまらない。


「だが、安心しろ、カーマイン」

「うん? 安心?」

「聖女にすがってきた連中に匂う者はいなかった。ヴァレンシュタインも同じ結論だ」


 ラグナ卿の嗅覚とジュリアンさんの鑑定でその判断なら、フィナさんを頼ってきたのは、本当に一般人っぽいわね。


「だが、これで解決なのか? いささか拍子抜けだが」

「……解決ではないけど」


 血の雨の難を引き起こしたギフテッドが存在するはず。

 でも、ここに使い魔を配置して何を見張らせていたのか。


「ちょっと失礼、ラグナ卿」

「おう」


 私は灯台の中へするりと入る。

 ラグナ卿が暴れたせいで、灯台の灯火らしき部分が半壊状態。


「これ、弁償よ、ラグナ卿……」

「そうだな。悪いことをした」


 灯台の頂上は狭い。

 あまり広くない空間で槍を武器とし、大柄なラグナ卿が二匹の妖怪相手では、立ち回りも難しいものだっただろう。

 ここはもろともぶっ飛ばした方が早いと判断してそうしたか。


「では。七十二変化、変われ! 灯台の光、フレネルレンズ!」


 私は前世の動画と、灯台が照らす一筋の強い光を思い描きながら変化をさせる。

 すると灯火が見る間に近代的な雰囲気を持った構造物へと変化した。


「ええと、これを動かして、と」


 段違いの光量が収束され、一筋の光となる。

 その光を海へ向け、雨雲で暗くなった海を照らした。


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― 新着の感想 ―
聖女ちゃんなら「私ではありません!」ってばか正直に言ってそう(笑)
結果オーライかも知れないけど、なんかモヤモヤするのは、私だけでしょうか…
 聖女の祈りが天に届き、血の雨を清い雨が洗い流し、その後を導くように何処からか眩い光が道を指し示した。  とか伝説の文言に残るような事しおった。  聖女伝説なのか、聖女の力の1つにされるのか。
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