182 血の雨の難
霊感大王を倒したあと、局所津波の被害を見回る。
黒犬を追いかけて山奥に向かい、そこでジレインと遭遇してあの津波攻撃を食らった。
人里から離れていたことで被害規模は最小限で済んだようね。
それでも潰された家屋がある。
ミニ・マインを駆使して人命救助に当たった。
死人は……今のところ確認できていない。
土砂崩れとはちょっと状況が違うからね。
でも怪我人は出た。
やっぱり、あの男、ジレインは味方ではないわね。
海を操る男なのか、それとも。
被害の対処を一通り終えたところで、ヴァレリア殿下も目を覚ます。
「……面目ありませんわ」
「いえ、こちらこそお守りできず、すみません」
「いいえ、救出はしてくださいました。ありがとうございます」
さて。
問題は、霊感大王がヴァレリア殿下を狙ったのかどうかよね。
私からすれば黒水晶一派が狙う理由は十分あるように見える。
でも、それはなんていうか『玉面公主』が敵のボスにつながるギフトかもしれない、という目算があるからよ。
敵には、まだその情報は伝わっていないはず。
まして、この地方には縮地を使って来た。
敵がヴァレリア殿下を追いかけてきたわけじゃないってことよね。
「もしかして、アレが沙悟浄というギフトの力かい?」
「アレ?」
「ジレインと名乗った彼の能力だ。海水を生み出すなんて」
「いえ、あれは沙悟浄ではないと思います」
沙悟浄に海を生成する能力なんてないはずよ。
ギフトだからエピソード昇華型の何かを発現しているかもしれないけど……。
「私のギフトが反応しなかったんです。猪八戒には反応していましたから、沙悟浄にも反応があると思うんです」
「なるほど」
あの力は沙悟浄ではない。
とにかく、また水難系ね。何があったかしら。
やっぱり四海龍王? でも、そういう感じでもない。
何か見誤ったらだめな気がするのよねぇ……。
紅孩児や、悟空ブラック並の雰囲気というか。強者感があったせいでそう思うのかしら。
「敵は動き出した。今回、俺たちに接触した上であの巨大な魚をけしかけてきた」
「そうですね……」
私たちが発見してバトル開始になったのではなく、敵に見つかってのバトルだったわ。
「マイン、俺はヴァリー様を連れていく。君は南へ向かってくれないか」
ヴィル様がそう提案してくる。
フィナさんたちがすでに敵と遭遇している、というのだろう。
……正直、私もそう思う。
フィナさんとラグナ卿、さらにジュリアンルート上でジュリアンさんがいるのだ。
絶対にどこかでフラグを立てているはず。
「一緒に行きたいところだけど、君一人の方が速いんだろう」
「……はい」
ヴィル様が一緒にいてくれるのは心強い。
でも、あちらにはラグナ卿という戦力がいる。
ここは大人しく私一人で向かうべきでしょうね。
「戦力をどう分けましょうか」
私はミニ猪八戒たちを見る。
独立型のミニ・マインは八戒と四健将二人よ。ただの毛の分身はすでに消している。
殿下が霊感大王に狙われた以上、念のため護衛として三人とも置いておくのがベストよね。
「……全員だ。八戒も尻尾つきの二人も、どちらもマインと一緒に行ってくれ。ヴァリー様は俺が守る」
「え……」
「ウキ?」
それはどうなの。私は驚いてヴィル様を見る。
目が合うと困ったように笑うヴィル様。
「マインの考えが移ったみたいだ」
「えっと?」
「たぶん、俺が一番マインの〝読み〟を、そばで見てきたと思う」
「……まぁ、それは? そうかもしれませんけど」
なんだかんだ、ここまでいろいろとあったわよね。
「マイン、血の雨が降っているのは南だろう?」
「はい」
「南部はもう海に近い。海では海難事故が多発しているという」
「……はい」
「南部での事件を片付けたら、そのまま海での戦いになりそうじゃないか?」
それはヴィル様の〝読み〟だった。
私がこれまで彼の前でしてきたものと同じだ。
推定ジュリアンルルート。
縮地で道中をスキップし、イベント発生前に動いたことでフラグはボキボキに折っている。
その中でもこの地にいたのは霊感大王、如意真仙が確定。
ジレインはギフトがわからないままだけど、ジークヴァルトルートの『虎先鋒』の男、バルグリッサ・コーデルのようなポジションでしょう。
血の雨の難で出てくるだろう敵は、万聖龍王と九頭虫。
脇役だけど、ナマズや鮎の妖怪もいるかもしれない。
……この戦い、実は一筋縄では終わらない。
西遊記の戦いはそういうものといえばそうだけれど。
例の如く助っ人参戦タイプのエピソードよ。
しかも、九頭虫との戦いで助力してくれたのは何を隠そう、あの二郎真君。
まぁ、原典西遊記だと最強は……というキャラである。
なんだったら西遊記だけに留まらないレベルの最強だ。
絶対に二郎真君クラスの助力がなければ厳しい戦いかというと、そうではないと思うけど。
悟空一人の戦力が紅孩児と同等と見るなら、如何にラグナ卿がいるとはいえ、私もいた方がいいには違いない敵が想定できる。
……で。
そんな恐ろしい敵との戦いが終わったあと、時間を空けてラスボス沙悟浄が出てくる流れ。
変ではないと思うけど……。
問題はあれよね。
私はアイゼンハルト領で、なし崩し的に全面バトルを引くことになった。
白骨夫人のバンシーに、黒風大王・黄風大王、さらにブラック猪八戒と。
それだけの敵を出してしまっている。
しかも今回は私とフィナさんにラグナ卿まで揃っている。
これ、このまま、なし崩しで沙悟浄顕現まで行くんじゃないか、という……。
如何にも私が考えそうな〝読み〟だ。
九頭虫たちに苦戦したのも、例の如く『水中引き込み系』の難だったからだし。
海まで敵を追いかけたらその先で、というのは、あまりにもお約束展開。
「確信が持てるほどではありませんけど……」
「でも『あり得そう』だろう?」
「……ちょっと否定できないです」
お約束展開は、もはや『起こる』と考えた方がいいところはある。
とくにフィナさん回りではそうよ。
メタ読み抜きにしても、実際、敵にはこちらの存在が勘付かれているわけだし……。
沙悟浄まで見つかるなら、速攻で叩きに行った方が被害は少ない。
「マイン、俺を信じて」
「ヴィル様……」
「必ずヴァリー様を守るよ。そして南へ駆けつける」
ヴィル様にそこまで言われては信じるしかない。
何より信じられるだけの実績を、彼はすでに示してくれている。
「わかりました。八戒たちも連れて南へ向かいます」
「ああ、頼んだよ、マイン。八戒もね」
「はい!」
「ウキィ!」
私は筋斗雲に乗り、空へ。
もう事態が事態だから、隠身法で身を隠すこともしない。
近くで見ている人が驚いているけれど、気にしていられないわ。
ヴィル様とヴァレリア殿下に見送られながら、私は南部へと向かった。
誰も運んでいない状態だから、最速を出し、飛んでいく。
「「「ウキィ!」」」
四健将二人は私の肩に掴まり、八戒は私の筋斗雲と自分の筋斗雲を混ぜて同行。
そんなことできるの、八戒。
筋斗雲系は『雲に乗る』術だから、雲をくっつけたところで……意味あるのかしら。
侯爵領で広いとはいえ、ただ一つの領地にすぎない距離。
北部から南部へかっ飛ばした私は、今まさに血の雨が降り注いでいる光景を見る。
「あんなの、不気味以外の何ものでもないわ!」
「ウキ!」
血の雨は降っているが、当然だけど十三の宝塔は見当たらない。
仏舎利はギフトとして出てくる意味がないとして……。
現在進行形で血の雨が降り注いでいるのなら、ラグナ卿とジュリアンさんが原因究明に動いているはず。
そしてフィナさんがフラグを立てているはず!
「火眼金睛!」
私の視界がフィナさんのもとへ飛んでいく。
周囲の状況は見られない千里眼だけど、フィナさんの様子を確認するだけでもわかることはある。
流石にラグナ卿がそばにいるからか、フィナさんは縛られていない。
三蔵法師のお約束パターンは引いていないわね。
ただ、何をしているのかしら。
フィナさんはどこかで両膝をつき、祈りを捧げている? なぜ。
フィナさんが膝をついている場所は室内じゃない。岩場? だからなぜ。
あやしいことをさせられているなら、ラグナ卿とジュリアンさんが見破りそうなもの。
超感覚的な嗅覚と鑑定能力がある二人だからね!
「とりあえず!」
「「「ウキ!」」」
「──芭蕉扇!」
緑色のひょうたん型の扇、芭蕉扇を生成する。
「嘘呵吸嘻吹呼!」
呪文を唱え、芭蕉扇が四メートルほどの大きさになる。
「風よ! 血の雨を降らす雲を吹き飛ばしなさい!」
巨大化した芭蕉扇を一仰ぎ!
猛烈な突風が、禍々しい雲を吹き飛ばす!




