181 フィッシュ
「ウキィ!」
ミニ猪八戒がミニ筋斗雲に乗って一番槍で突撃する。
その隙にヴィル様は馬から降り、この場から逃がす。
三メートルはある巨漢で甲冑姿の霊感大王は、大槌を振るい、ミニ猪八戒を迎撃。
ガギィン!
「ウキッ!」
パワー負けはそこまでしていないけど、いかんせん体格の差がある。
出力的に本家・猪八戒より、きっと各段に劣るはず。
霊感大王は、猪八戒・沙悟浄を水中戦で退けられる実力者よ。
それは孫悟空の見せ場作りにもなるからこその演出かもしれないけど。
得意フィールドのはずの水中じゃない分、この状況の方が有利。
「伸びろ、如意棒!」
近接連携せず、同士討ちを避け、中距離からの攻撃。かつてのキメラ戦を思い出すわね。
攻撃技術はヴィル様の方が上だけど、耐久面で私や猪八戒が前衛の方がいい。
尻尾つきのミニ・マイン四健将の二人は、指示を出さずともヴィル様の援護へ。
ヴィル様は八戒の援護をするため、私と同じように如意鉤を伸ばして、その先端を霊感大王の足にひっかけて転ばせる。如意真仙の戦い方というやつね。
あれで落胎泉の水を汲もうと焦る孫悟空を何度も転ばせて邪魔してみせた。
体格差が大きく、ミニ筋斗雲で小回りが利き、そこそこ頑丈でパワーもあるミニ猪八戒を攻めあぐねる様子の霊感大王。
私とヴィル様も距離を取りつつ、霊感大王を挟む形で左右から攻撃。
『────』
この状況はジリ貧と読んだか、霊感大王から寒風が吹き荒れる。
パキパキと音を立てて、極小津波の影響で濡れた地面が凍てつき、私たちの動きを鈍らせる。
この冷気が厄介ね!
霊感大王は元々、通天河を凍てつかせるほどの術を振るうけど、それが攻撃に転じられたという描写はない。
あくまで凍てついた大河の上を歩く三蔵一行に落とし穴のようにしかけ、水中に引きずりこむために術は使われた。
直接攻撃ではないということよ。
元ネタがそうだからか、ギフトでもどうやら範囲攻撃っぽい挙動をしている。
よっぽど直撃で食らうか、足を止めない限り、体が凍ってしまうことはなさそう。
『────』
喋れないのか、先ほどから攻撃モーションの前で声にならない声をあげている。
戦闘時の知性はありそうだけど会話しようという雰囲気がない。
ギフテッドじゃなくて黒水晶からの実体化パターンね。
バシャッ!
「きゃっ!?」
「……!」
凍てついていた地面が突然、水に戻った!?
ただ凍っているだけではなく、水も含んだことでより滑りやすくなる。
思わず姿勢を崩してしまう私。ヴィル様もそうだ。
「ウキィ!?」
唯一、地面に足をつけず、ミニ筋斗雲に乗って戦っていたミニ猪八戒だけど、目の前で霊感大王が変化するのに虚を突かれる。
「また巨大金魚に!」
「ウキーッ!」
巨漢の甲冑姿から巨大金魚の姿に変化する霊感大王。
氷の表面が水に戻ったのを利用して、表面を泳ぐ動きで滑っていく!?
「どんなムーブよ!」
「くっ!」
あまりにも想定外の動きで突撃され、ヴィル様が体当たりで吹っ飛ばされてしまう。
「伸びろ、如意鉤!」
足場を取られながら吹っ飛ばされ、しかし伸ばした如意鉤のかぎ部分をガリガリと氷の地面を削りながらひっかけ、勢いを止める。
「筋斗雲!」
足を突いていたら、この敵の動きは対処し切れないと私は再び筋斗雲の上へ。
四健将の二人がヴィル様の動きをサポートし、霊感大王の金魚アタックを躱す。
「ウキィ!」
ミニ猪八戒が変則の動きを追いかけ、霊感大王へ追いすがり、九歯のまぐわを振るった。
『────!』
まぐわの先端が金魚の鱗に突き刺さり、奇しくも霊感大王の体に組み付く形に。
釣り上げられた魚みたいに暴れて、ミニ猪八戒を振り落とそうとする霊感大王。
「幌金縄!」
私は黄金の縄を出し、如意棒の先端にその縄の片方の端を結びつける。
元々は対象を自動追尾し、束縛する縄だけど、その真価を孫悟空が発揮することはできない。
「ミニ・マイン! 一人、この先端へ!」
「ウキィ!」
すでに出しているミニ・マインの一人を幌金縄の反対側の先端へ!
自ら、かつ幌金縄の機能によって縄の先端に結びつけられるミニ・マイン!
「如意・釣り竿の完成!」
「ウキィ!」
如意棒と幌金縄の合成、贅沢仕様の釣り竿!
「さぁ、霊感大王を釣り上げなさい!」
「ウッキィ!」
釣り竿を振る要領で如意棒をブンと振り、釣り針役のミニ・マインが飛んでいく!
「ウキ!?」
謎の攻撃方法すぎてミニ猪八戒が驚く様子を見せる。
「ウキィ!」
ミニ・マイン釣り針がミニ筋斗雲を駆使して、飛び回り、巨大金魚の口の中へ入り込んだ。
「七十二変化、変われ! 返しのついた大釣り針!」
「ウキィ!」
ミニ・マインを本当に巨大な釣り針の姿へと変化させる。
『────!』
痛みがあるのかないのか不明だけど、大いに暴れ回る霊感大王。
「フィーッッシュ!!!」
「「「ウキィーーイ!!」」」
私は如意・釣り竿を持ったまま筋斗雲で舞い上がり、霊感大王の体を空中へ釣り上げる。
残ったミニ・マインたちが歓声を上げる。
ちなみに孫悟空は別にこんな戦い方をしません!
というか、霊感大王も巨大金魚じゃないわ!
太公望も顔負けの一本釣り!
私は幌金縄を引っ張ることで霊感大王の動きを制御する。
その隙にミニ猪八戒と残りのミニ・マインたちがわらわらと群がり、霊感大王を攻撃。
このままでは堪らないと見たか、霊感大王は再び巨漢の姿へと変わるものの、口に刺さった釣り針が抜けないまま。
『────!』
大槌を闇雲に振るう霊感大王の近くをミニ猪八戒が飛び回り、攻撃を掻い潜る。
本家・八戒ならともかく、ミニ猪八戒ではパワー不足なのか決め手に欠ける様子。
ヴィル様に視線を向けると目が合い、頷き合った。
「ミニ・マインたち! ヴィル様から霊感大王へ向けて一列に並んで!」
「「「「ウキィー!」」」」
私の指示通りに飛んでいくミニ・マインたち。
そこに向かって剣指を向ける。
「七十二変化、変われ! 突撃ロード!」
「「「「ウキッ!」」」」
氷と水でできた滑る地面の上に、がっちりと地面を掴んで固定する棘を下にした、連なる岩場。
さらにその岩場の上に敷かれた、道のようにつながる、吊り橋の板のような足場。
それも足が滑らないような表面仕様!
「ヴィル様!」
「ああ!」
ミニ・マインたちを変化させてできた突撃ロードを駆け、ヴィル様が霊感大王に肉薄する。
私は如意・釣り竿を引っ張って霊感大王の動きを縛り、ミニ猪八戒は大槌を振るうのを妨害。
「はぁあああッ!」
ヴィル様は刺さりにくい如意鉤ではなく、剣を抜き、霊感大王の首へ刺突!
『────!』
甲冑の隙間を突いたであろう刺突攻撃から血が吹き出すのを見る。
けど、それで動きを止めるとは思わない。
「定身法!」
『────!』
致命傷から死に物ぐるいで反撃しようとする霊感大王の動きを一瞬の金縛りで止める。
「八戒!」
「ウキィ!」
ヴィル様の掛け声に応じた八戒が、突き刺された剣に突撃。
首を横に抉り切る動きとなり、より深く傷をつける。
「ウキッ!」
九歯のまぐわをヴィル様に投げ、如意鉤を逆に受け取るミニ猪八戒。
「大きくなれ!」
ヴィル様が受け取った九歯のまぐわが大きくなり、ヴィル様が振るう。
「はぁああああッ!」
首に剣を突き刺され、抉られた霊感大王の頭に向かって振り下ろされる九歯のまぐわ。
『────!』
「ウキィ! ウキーッ!」
ミニ猪八戒は頭部に振り下ろされた九歯のまぐわの上方に回って。
「ウキッ、ウキィ!」
蹴り込んで食い込ませる形でガンガンと追撃した。
私は幌金縄を消し、口の中で釣り針に変化しているミニ・マインを戻す。
念のため、私は殺傷行為からは手を引く。たぶん大丈夫だと思うけど。
ヴィル様は、まぐわを手放し、首に刺さった剣の柄を持って引き抜き様、首を横に切断した。
『……──』
それで終わりよ。
霊感大王の姿がヒビ割れ、崩れ落ちていく。
あとに残ったのは予想通り、黒水晶だけ。ギフテッドではなかったわ。
私は空からゆるやかに地上へ降り、霊感大王の姿が完全に消失したことを確認する。
「……俺たちの勝ちだね、マイン、八戒」
「はい、ヴィル様」
「ウキィ!」
「「ウキーッ!」」
どうにかまた一つ、難を乗り越えられたみたいね!




