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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~【書籍化企画進行中】  作者: 川崎悠
第6章 捲簾大将

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180 霊感大王

 大量の水は空中で発生し、私を押し流す。

 咄嗟の事態で、筋斗雲から吹っ飛ばされ、錐揉み状態で混乱する。


(くっ……!)


 天地が逆さに。視界は激流で情報を混濁させる。

 それでも私はやらなくちゃいけない。


(ヴィル様……!)


 津波のようなエネルギーを一点集中で受けても金剛不壊の肉体は壊れない。

 たとえ水中戦闘が苦手な孫悟空であろうとも一般人よりはマシよ。

 筋斗雲から吹っ飛ばされ、かつ空中から水の勢いで押し流されたせいで、地面に叩きつけられる衝撃。


「ぐっ!」


 金剛不壊の肉体ゆえ、息が詰まるような感覚だけで耐えられているけれど。

 こんなもの、まともに食らっては一発即死よ。

 だからこそヴィル様たちが危ない。

 この攻撃は私に向けられたものだったから直撃ではないことが希望。


「避水訣(ひすいけつ)!」


 どうにか印を結び、水のエネルギーを体から遠ざける。

 激流は継続的ではないようで、打ち止めが見えていた。


「筋斗雲!」


 筋斗雲を呼び寄せて掴み、体を水から引き上げる。


「ヴィル様! ヴァリー様!」


 この激流に巻き込まれては命が危ない。その姿を必死に探すと、それを見つける。


「……!」


 四健将の二人が、ヴァリー様と同行していた馬を守っているのが見えた。

 あちらもどうやら避水訣で難を逃れたようで、立ち位置と激流がすぐさま止まったおかげか無事に見えた。

 でもヴィル様は!? 四健将を三人連れてくればよかった!


「ウキィィイイ!」

「八戒!」


 私と一緒に流されたミニ猪八戒の声。

 私がそちらに視線を向けるとヴィル様を掴んでいる! いつの間に!?

 でもありがとう! 本家・八戒より有能かも!


「ヴィル様! 八戒!」


 筋斗雲の上に強引に乗り上げて、すぐさま急行する。


「掴まって! ヴィル様!」

「マイン!」


 どうにか激流から彼の体を引き上げ、空へ。

 ヴィル様の足は筋斗雲を貫通するから、落とさないように必死になる。


「ごほっ、ごほっ……! ありがとう、マイン……!」

「いいの! 今はとにかく安全なところへ!」

「ウキィ!」


 ミニ猪八戒と協力して姿勢を整え、ヴィル様を激流から外れる位置へ。


「きゃああああ!」

「!?」


 ヴァレリア殿下の悲鳴!?



「ウキィ!?」

「は!?」


 悲鳴を聞きつけて目を向けると、そこには……え!? 巨大な魚!?


「なんだあれは……!」


 どこから出てきたのか、巨大な魚が飛び跳ねている光景が目に入る。

 ヴァレリア殿下はどこに……まさか、あの魚に食べられた!?

 流石の四健将も咄嗟のことに対処ができないか、はたまた馬を守るためか、動けずにいる。


 巨大な魚は、激流とともにあっという間に流れていく。

 どんな光景よ!?


 混乱し、どうにも動けずにいる私たち。

 やがて激流が遠ざかっていき、どうにか地面に降りられる状態になった。

 私は馬と四健将一人のもとへ行き、そこでヴィル様を下ろす。

 空を見上げると糸目お兄さんことジレインはすでに姿を消している。

 まんまと逃げられてしまったようだわ。

 でも今はそれよりヴァレリア殿下よ。


「ヴァレリア殿下は……さっきの巨大な魚に連れ去られた?」

「ウキ! ウキ!」


 馬を守ってくれていたミニ・マイン四健将が必死に頷く。


「もう一人の四健将は一緒にいた?」

「ウキィ!」


 また頷く。どうやら四健将の一人がちゃんとヴァレリア殿下についていったらしい。

 食べられたといっても……あれだけ巨大な魚なら丸飲みでしょう。

 すぐ救出すれば助かるはず。

 あれはいったい何? そもそもジレインのギフトは何?

 いや、待って。さっきの光景を思い出す。魚といっても、あのフォルムは。


「……巨大な、金魚」


 サイズが明らかにおかしいレベルだったけど。あれは金魚だ。つまり。


「霊感大王」


 ヴァレリア殿下を誘拐したのは、私たちが探していた霊感大王だ。

 ……確かに霊感大王の正体は天界の金魚だけど!

 正体側の方は小さな個体のはずよ!?

 妖怪の姿が巨漢なだけで! なんであのサイズ!?

 ……ギフトだから(・・・・・・)ね!


 金魚が正体というギフトは『巨大な金魚に変身できる』ギフトなんだ。

 ある意味、エピソード昇華型。まさか、妖怪の姿ではなく金魚の姿に特化するとは。

 それともジレインのギフトが霊感大王ってこと? 使い魔のように使役しているとか。


「はぁ……。助かったよ、マイン」

「ヴィル様、大丈夫ですか」

「すまない。あの水が口に入ったらしく、呼吸を整えるのに苦労した。それにあの水は塩水だったようで……」

「塩水?」

「ああ、塩水というより、あれはまさに海そのものだった」

「海……」


 海をこの場に呼び出した?

 ここはヴァレンシュタイン領の中でも北部に位置し、海からは遠い場所よ。

 それなのに。いえ、ギフトということなら。


 海をどうにかするってことは西遊記の中でも、わりと出てくる龍王系の誰か?

 ほぼ脇役に近く、どちらかといえば敵というよりサポートを担う脇役たち。

 四海龍王。東西南北の四つの海を治める龍神の兄弟たち。

 孫悟空によくいいように使われてしまう、災難な被害者たちよ。

 もし、それならギフト的には敵じゃない可能性も……。


 ……いえ、明らかに霊感大王を連れてきたのはジレインよ。あれは敵。

 四海龍王のギフトなら、孫悟空の敵ではないかもしれないけど……。


「何か違う気が……」


 なんだろう。私は今、何かを見落としている気がする。

 ラグナ卿じゃないけど、重要な物を見たのに理解に至っていないような、そんなふうに私の直感が警鐘を鳴らしている。

 四海龍王のギフトではない。でも、あれが呼び出したのが海の水だったのは重要なこと……。


「マイン、落ち着いて」

「……ヴィル様」

「まず、ヴァレリア殿下を助けよう。あの男について考えるのはそれからだ。幸い、引いてくれたようだからね」

「……はい」


 確かにそうよ。今は考察している場合じゃない。


「俺は馬であの激流のあとを追う。マインは空からあの巨大な魚を追いかけて」

「はい! あ、ジュリアンさんの黒犬……」

「……どうやら、流されてしまったようだ。あちらもギフトの使い魔で、八戒たちほど自我はなさそうだが……」

「ウキィ……」


 四健将がうなだれている。黒犬を助けられなかったことに気落ちしているみたい。

 咄嗟のことだから馬やヴァレリア殿下を優先したのね。

 ヴィル様は間に合わなかったか、自力でどうにかできると考えた、または八戒が救出に向かうと任せたか。


「いいのよ、貴方たちはよくやってくれた。咄嗟のことだったのに、いい判断だったわ」

「ウキ!」


 私は馬を守った四健将の頭を撫でる。そうすると少しは元気を出してくれたみたい。


「では、ヴィル様。私は先に行きます」

「ああ、頼む、マイン」

「八戒、貴方は一緒に来て。四健将、ヴィル様と一緒に追いかけてきなさい」

「ウキ!」

「ウキィ!」


 私は再び筋斗雲に乗り、ヴィル様と無言で頷き合ってから空へ。


「ウキー!」


 ミニ猪八戒も敵にしてやられたことに憤っているのか、九歯のまぐわを振り回している。


「急いで追うわよ、八戒!」

「ウキッ!」


 私は霊感大王を追いかける。

 あの激流と一緒にジレインに召喚なりされたのか。

 まさか巨大金魚の姿で登場するとは思っていなかった。


 敵はヴァレリア殿下を狙った? 『聖女』のフィナさんではなく?

 偶然? それとも殿下のギフトが『玉面公主』だとわかっていて?

 殿下のギフトは今のところ力を発揮していないけど。

 この先の未来で戦局を左右し得るものよ。そこまで敵がわかっている?


 空をバビュンと駆けていけば、あっという間に追いつくことができた。

 大量の水は地面に吸い込まれたり、分岐して流れたりして、勢いを失くしている。

 しかし津波規模のエネルギーは、やはりあったようで木々や家屋を押し流してしまっていた。

 人が住む場所からは離れていたけど……とうとう被害が。


「くっ……!」


 目の前でまんまと。

 どうしようもないとは思いつつ、悔しい。


「止まりなさい!」


 巨大金魚の姿で泳ぐ霊感大王に追いつき、私は如意棒を打ち据える。

 〝中〟にいるだろうヴァレリア殿下に衝撃がいかないよう、金魚のヒレ部分を狙う。


『────』


 金魚だからか鳴き声のようなものは上げないが、攻撃は効いているみたい。

 激流自体は操作されている様子はなく、シンプルにただの海水だったようだ。


 やがて、傾斜に沿って流れていた激流も途絶え、巨大金魚は陸に打ち揚げられる。

 しかし、当然それで終わりではなく。

 その姿は見る間に人型へと変化していく。


 三メートルはあろうかという背丈の巨漢。

 筋骨隆々の体躯。黄金の甲冑を身に纏い、大きな槌をかまえた姿。

 そのすぐそばにヴァレリア殿下が投げ出される。

 四健将がくっついているようだけれど、どうにも殿下は意識を失っている。

 自力での逃亡は無理で、四健将も運ぶより守るので精一杯みたい。


 こいつはギフテッドという知性を持つタイプの敵か、それとも使い捨ての黒水晶から実体具現化タイプか。

 後者ならまだマシ。前者は技術の差で苦戦するし、ヴァレリア殿下を人質に取られるかもしれない。


「とにかく先手必勝!」

「ウキィ!」


 私とミニ猪八戒が筋斗雲で急速接近し、如意棒と九歯のまぐわで霊感大王に打ちかかる。


 ガギギィン!


 巨大な蓮の花をモチーフとした、大槌を豪快に振るい、霊感大王が私たちの攻撃を退けた。


「ウッキィ!」


 連携で打ちかかりながら、この距離で私はうなじの毛を引き抜く。


「身外身法!」


 息を吹きかけ、ミニ・マインを増やす。


「「「「ウキィ!」」」」


 流石に状況を読んでか、口頭指示なくミニ・マインたちが霊感大王に飛びかかっていく。


「定身法!」


 如意棒を持たない手で印を結び、霊感大王へ差し向ける。

 戦闘中ゆえ、一瞬しかない金縛りをかけた。


『……!』


 一瞬の停止。


「ヴァリー様を逃がしなさい!」

「「「ウキッ!」」」


 隙を突いた私の指示を受け、ミニ・マインたちが殿下の救出に動く。

 すぐさま活動を開始した霊感大王が私に向かってその大きな槌を振り抜いた。


 ドガッ!!


「ぐっ!」


 バカ力で、筋斗雲に乗って立ち回っていた私の体が吹っ飛んでしまう。

 とはいえ、こちらは金剛不壊。

 衝撃を受けこそすれ、この程度なら致命傷は負わない。


「ウキィ!」

「「「「ウキィ!」」」」


 ミニ猪八戒とミニ・マインたちの連携でどうにかヴァレリア殿下を救出。

 しかし、霊感大王も追いすがってくる。


 筋斗雲から叩き飛ばされたせいで態勢を整えるのが遅れる。

 やむなく私は如意棒をかまえ。


「伸びろ、如意棒!」


 離れた距離から霊感大王へ攻撃し、殿下を逃がすことに成功した。


「ウキィ!」


 霊感大王も助っ人を呼んで解決した難よ。

 水中で八戒と沙悟浄を相手に立ち回り、アジトに逃げ込むことで攻めあぐねることになった。

 それに手下だって大勢いるし、孫悟空は水中での戦いが不得手。

 原典で苦労した敵ではあるものの、地上戦でそこまで脅威という印象はない。

 孫悟空が戦える場所まで引きずり出せれば勝てる。

 そういうレベルの敵だった。

 だから、殿下を無事に救出できたなら、倒せない難じゃない。……と思うわ!


「ここが通天河の上じゃなくてよかったわね!」


 と勝ち誇りながら姿勢を整え、如意棒をかまえたところで。


『────!』


 霊感大王の濡れた足元がパキパキと音を立てて……凍てついていく。

 そうだった。こいつ、氷雪系の敵だったわ!


「ミニ・マインたち、ヴァリー様を地面から離れた場所へ!」

「「「ウキィ!」」」


 何人かのミニ・マインが、ヴァレリア殿下が凍らせられないように体を持ち上げて逃げる。


「寒っ!」


 炎には強い孫悟空だけど、そこまで寒さに強いという触れ込みはない。

 弱点というほどではないけど、けっこう厳しいかも!

 孫悟空ではなくて私が!


「──如意鉤!」


 凍てつく地面に気を取られ、敵の追撃が迫ろうとしたタイミング。

 霊感大王の側面から伸びてきた黒い槍……先端が釘抜きのようになっている……が霊感大王の足を払い、転ばせた。


 ドォン! と、巨体の重みが転倒し、大迫力の音を立てる。


「ヴィル様!」

「マイン、無事かい!?」

「ええ! 殿下もどうにか救出できました! でも、こいつを倒さないと被害が増えます!」

「わかった! 一緒に戦おう!」


 馬に乗って駆けてきて、如意鉤を伸ばして霊感大王を転ばせたヴィル様。

 ……久しぶりのヴィル様との共闘ね!


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― 新着の感想 ―
 バトルパートが詳細な割に冗長にならない作品は貴重。     やはりミニマインズは有能⋯⋯! ネームド(?)マインズがもっと増えたら心強いけどお嬢の負担が増えるのかな?  結構な魔力量ありそうですよね…
その場の武器を直ぐ様使いこなせるヴィル様って大分器用よな。まぁ今回は既に如意棒である程度慣れてるからってのもあるのかな。 こういう、その場の武器を使って戦うスタイルってなんて言うんだっけ……ニュアンス…
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