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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~  作者: 川崎悠
第6章 捲簾大将

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179 輪

 糸目・青髪の青年。とりあえず如意棒でぶん殴ってみていいかしら!

 いえ、何もされていないのだけど! そして敵であるかも確定していない。

 とはいえ、念のために距離を取り、後ろ手に如意棒を出しておく。

 火眼金睛以外のギフトもオン。


「……マイン?」

「いえ、その」


 本当に根拠がない。目の前の男性が敵であるという。

 ラグナ卿がいたら直感でわかったかもしれない。

 ジュリアンさんがいたら鑑定でギフトを見破れたかもしれない。

 でも生憎と二人は別の場所よ。


「……何か御用でしょうか」


 ヴィル様が私を庇うように前へ出る。

 ヴァレリア殿下はミニ猪八戒を腕に抱えて、私の後ろへ。

 ミニ猪八戒は無言で、ぬいぐるみのフリをしている。


「ああ、すみません、突然話しかけてしまって。どこかお困りのようでしたから、つい」


 ニコニコと人の良さそうな表情を浮かべる男性。

 糸目のせいか、どこを見ているのかわかりづらい。

 ヴィル様に応答を任せ、私はその男の観察を続ける。


「いえ、お気持ちはありがたく受け取ります。ですが、ご心配には及びません」

「そうですか。ただ、皆様は他所から来られたようですから。それに」

「何か?」

「しばらく見ていましたけど、何かをお探しのようで、尋ねて回られていたでしょう?」

「それは……まぁ」


 西遊記では、そのエピソードの敵が、人間のフリをして話しかけてくるなんて、定番のパターンよ。

 とはいえ、それはあくまで原典の物語の話。今世とは事情が異なるわ。


「差し支えなければですが……いったい何をお探しなのか、お聞きしても? 闇雲に聞いて回っていては、見つかるものも見つかりませんよ」

「いえ、それは……」

「……実は」


 糸目のお兄さんは困ったような表情になる。


「住民が怖がっておりまして」

「怖がる? ……我々を、ですか?」

「はい……。失礼ながら」


 私たちは互いの顔を見合わせる。

 怖がらせた覚えはない。原典のように見た目が恐ろしい妖怪というわけでもないし。


「黒い犬を連れて、さらにその黒い犬から不気味な鳴き声がしたと……」

「不気味な鳴き声」

「はい……。『ウキィ』という、猿のような鳴き声です。それがどうにも奇怪で恐ろしいらしく」

「「「…………」」」


 それは確実にジュリアンさんの使い魔である黒犬と、その背に乗った四健将の声ね!

 気まずっ!

 そりゃあ犬から猿の鳴き声が聴こえてきたら不気味よ!


「ですので、私が代表して貴方たちの事情をお聞かせ願おうと声をかけた次第です」

「それは……大変、ご迷惑を」

「いえ、最近、この領地では不吉なことが多く続いておりましたので……。皆、ピリピリとしているのです。ですから、気が立っているのかと」

「不吉なことですか」


 んん? 重要なフラグ会話かしら。

 このフラグを立てておいたら次のイベントが進む、みたいな。


「何かあったのでしょうか」

「ええ。最近はどうにも、海に出た船が事故に遭うことが多く……。さらに南部では血の雨が降るなんて恐ろしい噂が立ち、この近くの湖は夏場なのに凍てつくという……」


 すでに把握している難ね。

 子母河の難は騒ぎにはなっていなかったのかしら。


「さらについ先日のこと、東の山道近くの森で大きな爆裂音が鳴り、森が燃えただの、あやしい霧に覆われただのという騒ぎも起きました」


 それは完全に私たちの仕業ね!


「ですので、いろいろと皆、気が立っているというわけです」

「そうでしたか……」

「しかも貴方たちは……ああ、いえ」

「何か?」


 糸目のお兄さんが、さらに困った顔に。

 ヴィル様には負けるけど美形で、整った顔立ちをしているのよね。

 序盤に遭遇していたら、間違いなくネームドキャラを疑っていた。

 とはいえ、流石に隠しヒーロー枠ではないわよね……?


「その。貴方たちは凍てつく湖の周りを、練り歩いていると。先日は、そちらの女性が湖に触れて、何かあやしい呪文を呟いていたとか、いないとか……」

「え、私?」

「はい……」


 なんの話か。

 ……あれだわ。私、凍った湖に向かって『閉水法』を唱えていた。

 それを見られていたのね。


「つまり、我々は疑われている、ということでしょうか」

「……隠し事をせずに言えば、はい。貴方たちこそが、あの湖を凍らせた元凶なのではないか、と……。そのような疑いが住民の間で広がっております」


 おうふ。

 確かに独自に動いている私たちは、事件現場に毎回遭遇する、あやしい連中扱いか。

 王宮から派遣されたとか、聖女一行ですとか、行く先でわざわざ口にしていないからね。


「申し遅れました。僕の名は、ジレインと申します」

「これは、ご丁寧に。俺はヴィルヘルムです」


 ジレイン。うーん。ジレ……語らねばなるまい、その強さの秘密を。

 じゃなくて。

 当然だけど名前を聞いてもわからない。

 私がわかるのはギフトの名の方だけだわ。


「どうでしょうか。皆様が何を目的とし、活動されているのかは存じ上げませんが。これ以上、住民の方と軋轢を生まぬよう、僕が仲介を務めるというのは」

「……ジレイン殿は、失礼ですが、どういった立場の方で?」

「僕はヴァレンシュタイン領にある商会の一つの、地域の長です。住民の方とは接点があるため、このように貴方たちの前に立った次第です」

「そうですか……」


 ヴィル様も、私が警戒したからか緊張した面持ちで対話を続けてくれている。

 私にチラリと視線を向けてくる。決断は私ということね。


 どうしよう。

 本当に糸目と、美形な顔と、いい声という、どうしようもない根拠しかない。

 これが理由ですなんて言い出したら『何言ってんのお前?』と、味方ですら思うだろう。

 でも、それを言ったら今までのことだって大概なのよね……。


 原典・西遊記と違い、火眼金睛で視たから人間に化けている妖怪を見破れました、ということもないでしょう。

 ギフテッドはシンプルに元から人間だ。

 知人に化けているかもしれないとかならともかく、今日初めて会った人間は変化してどうなる話でもないはず。


 ラグナ卿の直感か、ジュリアンさんの鑑定待ちをしたいところだけど。

 あっちに割り振った戦力を、また呼んでくるほどのことかと問われると……。


「マイン様(・・・・)」

「ヴァリー様?」


 ヴァレリア殿下が私を愛称で呼ぶとは珍しい。家名を隠してくれる意図か。


「貴方の感覚に従ってください」

「え……」

「常識的な判断だけでは今までのことは測れません。間違っていてもかまわないのです。王国はそれだけ逼迫している状況ですから。現に民に被害が及んでいます。父もそれがわかっていたから、貴方に託した」

「……そうですね」


 だいたい西遊記知識だけなら、まだ真っ当な判断といえるかもしれないけど。

 これに加えて『乙女ゲーっぽくて、そうなるっぽいから、こう!』は普通の判断ではない。

 でも、実際に危険なことは沢山見つかった。

 だから、もう私はこの路線でいくべきなのよ。


「如意棒」


 私は後ろ手に持っていた如意棒を、武器サイズに伸ばす。

 如意棒の先端をジレインの眼前へと突きつけた。


「……!」

「失礼、ジレイン卿」


 眼を離さず、武器を突きつけた状態で彼を観察する。


「何を……」

「貴方のギフト(・・・・・・)は何かしら(・・・・・)」

「…………」


 糸目の青年、ジレインにカマをかけてみる。


「何をおっしゃっているのか、お嬢さん」

「そう。とぼけるのね。これならどうかしら」

「……?」


 如意棒を突きつけ、睨んだまま。


「火眼金睛」


 私の眼の色が変わる。

 白目の部分は血のような赤色に。瞳の色は金色に。

 そして、真実を見破る眼で、ジレインを見る。


「……! その眼は」

「この眼はね。……大聖(たいせい)に授かった瞳よ」

「…………」

「貴方もご同輩じゃないかしら。あの方(・・・)、平天大聖牛魔王様(・)を慕う者……」


 敵勢力、黒水晶一派なんだけど。

 どうも横のつながりが見えてこないのよね。

 これまで個別に捕まえてきた連中はいた。いたんだけど。

 それぞれが独自に動いている節があるというか。

 トップは決まっているけれど、それ以外は横並びの組織。そういう可能性がある。

 なら、敵勢力の合言葉が牛魔王への信仰だったら、味方のフリができるんじゃなくて?


「……僕にはなんのことを言っているのか」


 カマかけには乗ってこないわね、なら。

 私は思いきり如意棒を振りかぶり、ジレインの顔の前に振り下ろした。

 ドン! と地面を叩きつけ、ボコリと凹ませる。


「……これはまた、おっかないお嬢さんだ」

「動じないわね? ただの商人とは思えない胆力だわ」

「武芸については少々、嗜みがありますから。貴方が当てる気がないことがわかったのですよ、お嬢さん」

「次は当てるわ」


 再度、如意棒を突きつける。


「……なぜ」

「さぁ、なぜかしら。でも安心して」

「……なにを?」

「これから私は、貴方を思いきり殴るけど、それはある疑いが貴方にあるからよ」

「それのどこに安心することが?」

「間違っていたら謝ってあげる(・・・・・・)」

「…………は」


 私は、ニッコリと笑ってみせる。

 推定・悪役令嬢スマイルってやつ。私の属性は悪だからね!


「こう見えて、私って偉い立場なの。だから間違っていたら、ごめんなさいって謝ってあげるわ。そのあとで治療もしてあげる」

「そんな無茶な……」


 糸目の青年がここで少々焦ったように、冷や汗を浮かべる。

 胆力は十分にあるわね。でも敵だと確定できるほどの根拠たりえない。


「念のためよ、ジレイン卿。私たちがこの地で、異界の神『捲簾大将沙悟浄』を消滅(・・)させたあとで解放してあげる。それまで大人しくしていなさい?」

「…………」


 この地にいる、人間の意思を持ったギフテッドなら。

 最終目的は、おそらく沙悟浄の制御だと思う。

 少なくとも黒水晶一派としての仕事ならそうだろう。

 だから、疑わしい彼を解放する条件は沙悟浄の確保。それがラインよ。


「その前に貴方に聞きたいことがあるから貴方を拷問することになるわね。安心してちょうだい? 私の仲間にはギフトの正体を暴くギフト持ちがいるから。貴方がもし牛魔王に与するギフトを持っているなら、その時点で有罪とみなす」

「…………」


 スッとその表情が冷たいものになった。

 そして、武芸素人の私でさえもピリリと感じる気配……!


「マイン、下がれ!」

「……!」


 ヴィル様の声でバッと飛びのく。

 視界の端で、ヴァレリア殿下を抱えたヴィル様も離れたのが見えた。


「いやはや……。どうして、そのような態度を? 僕は何もしていませんが」

「……そうね。証拠はないの。だから謝ってあげると言っているのよ」

「随分と傲慢なことだ。ただ、お嬢さんは僕が何を言っても、その可愛らしい警戒心を解く気がないらしい」

「ええ、そうよ」


 捜査は決めつけから始まるものよ!


「ふぅ……。一つ、お聞きしてもいいですか、お嬢さん」

「何かしら」


 私は如意棒をかまえながら、距離を取ったジレインを睨む。


「どうしてわかった(・・・・・・・・)のでしょう?」

「……!」


 ビリビリした気配、これが殺気ってやつなの?

 それこそブラック猪八戒レベルの威圧感があるわよ!


「ウキィ!」


 ミニ猪八戒がぬいぐるみのフリをやめて、ヴァレリア殿下の手元から飛び出し、ミニ筋斗雲に乗り、九歯のまぐわをかまえる。


「騰雲駕霧(とううんがむ)」


 ジレインはある言葉を呟いた。

 するとその足元から、見る間に雲(・)が現れ始め、彼の体を浮かび上がらせる。

 ギフテッド、確定! やっぱり敵!


「貴方、何者!?」

「……それは僕の台詞ですけどね。いったいお嬢さんたちが何を知っているのか」


 西遊記において雲に乗るだけではその正体を特定できない。

 敵も味方も備えた標準技みたいなものだからよ。


「ですが、お嬢さんを見つけることができました」

「……私を?」


 ん?


「血色(ちいろ)の目に金色(こんじき)の瞳。貴方が……猿(・)でしょう?」

「……!」


 誰が猿か! って言っている場合じゃなくて!


「これは面白いことになりそうだ。しばらく見学させていただきましょう」

「は?」


 これ、まさか逃げるつもりかしら?

 そうはいかないわよ! 孫悟空から逃げられるなんて思わない方がいいわ!


「ふふ、僕を逃がすつもりはありませんか、お嬢さん」

「当然そうね。貴方たち、王国に仇を為す、黒水晶一派でしょう」

「黒水晶一派? ……ははぁ、そのような名で呼ばれているのですか。面白い」


 ジレインの余裕が崩れない。

 ……こういう時、強気で罵ってくる奴より、物静かな方が強者っぽく見えるのよね!

 実際、只者じゃない気配をビンビン感じている。

 水難系が集合しているジュリアンルートだけど、こいつはいったいなんのギフト?


「貴方は私たちの敵でしょう?」

「どうやらそのようですね」

「でも、ここで一戦交える気はないみたいね」

「ええ、そのつもりですよ、お嬢さん」

「なら、ここは一つ、どうかしら。互いのギフトの名を明かすというのは」

「…………へぇ?」


 私には西遊記の知識がある。

 敵の正体がわかっていた方が打てる手は思いつくわ。

 逆に私のギフトの正体が知られたところで、敵の打つ手は決まっている。

 知識があるのなら三蔵法師のギフトを利用するでしょう……。

 そのために仲間を連れてきているのよ。

 私だけだったら、その一手でおしまいだから。


「どう? せぇので名乗り合わない?」

「…………ふふ。興味はありますね。ただ、私は貴方について聞いています」

「……牛魔王から?」

「さぁ? どうでしょうね」


 こっちのことをどこまで知っているのか。

 いえ、牛魔王はそのもの(・・・・)だって話だから、すべて筒抜け?

 火眼金睛だけで特定されてしまうなら隠す意味はほぼない。

 どの道、戦闘時には使用しなくちゃいけないから。


「おっかないお嬢さんだ。ですが、貴方は何もわかっていない様子」

「何をわかっていないって?」

「物事の重要なことが、何かを」


 煙に巻かれているわねー! これだから糸目のお兄さんキャラは!


「先ほども言ったように私は見物させていただきますよ、お嬢さん」

「だから逃がさないと、」


 私が言い返そうとするその瞬間。

 ヴィル様が包んでいた布から一閃、光の筋が伸びた。

 それは伸びた鉄の棒。先端が釘抜き状になっている、如意鉤。


「おっと!」


 しかし、距離があったからか、敵の反応速度が速く、如意鉤の先端は空振りしてしまう。


「ふふ、そちらも怖い、怖い」

「…………」


 ヴィル様が不意を突いてくれたものの、躱された。

 でも私はその隙に筋斗雲に乗る。

 雲のスピードで孫悟空に敵うキャラはそうはいないわよ! 絶対に逃がさないわ!


「もう一度、聞いてあげる! 貴方は何者!? なんのギフトを持っているの、ジレイン!」


 私は如意棒をかまえ、筋斗雲で同じ高さまで飛び上がる。ミニ猪八戒も一緒よ。


「ふふ……」


 それでもジレインは余裕を崩さずに微笑んで。


「内緒です(・・・・)」


 あー! そういう仕草が如何にもなのよ、この糸目お兄さん!


「では、こちらをどうぞ(・・・・・・・)、お嬢さん」

「はっ……」


 ジレインのそばに光の輪(・・・)が出現する。そう思った途端。


 ドバッシャアアアア!


「なっ……!?」

「ウキィ!?」


 その輪から大量の水(・・・・)が溢れてきた!?


「きゃあああ!」

「ウキィイ!」


 すさまじい水量! 津波のエネルギーを一点に集中させたような!

 これ、私はともかくヴィル様とヴァレリア殿下が危ない!

 それに近くに暮らす住民たちも!


「また会いましょう、お嬢さん」


 その言葉だけを残して、まんまとジレインは私たちの前から消えた。


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― 新着の感想 ―
いやカッパやん
これもう、マイン様閣下、糸目さん石⚪︎彰さんになっちゃうな
あぶなかった。「それは秘密です」 だったら完全に石◯だった…
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