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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~【書籍化企画進行中】  作者: 川崎悠
第6章 捲簾大将

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177 一難去って、また二難

 水蒸気がとてつもない勢いで広がる。

 森の中で延焼していたラグナ卿が通った痕の火も飲み込んでいく。


「ヴィル様! フィナさん!」


 空を舞い、如意真仙と戦闘しているラグナ卿は大丈夫だろう。

 だが、地上のヴィル様たちは。


 水蒸気が霧になって視界を奪っている。熱気がすさまじい。

 フィナさんが結界を張っていたはずだけど。


 筋斗雲で空から泉の場所へ向かう。

 霧をかきわけて火眼金睛の視界が飛び、ヴィル様やフィナさんを捉えた。

 無事みたいね……! よかった!


「芭蕉扇!」


 私は左手に如意棒を、右手に芭蕉扇を発生させて持つ。


「風よ、吹き飛ばせ!」


 周辺の霧を芭蕉扇の風で吹き飛ばし、泉の周りの視界を確保。

 群がっていた魔獣の姿はなく、ミニ・マインたちもフィナさんの結界内へ避難している様子。


「みんな、大丈夫!?」

「マイン、どうにかね。今のは……」

「私が泉の水を子母河にぶっかけたら爆発したみたいになっちゃって……」

「ウキィ! ウキッ!」

「わっ」


 ミニ猪八戒がプンプンと怒っている?

 『なんてぇことだい、悟空の兄貴のやらかしじゃないか、この猿め!』的な。

 私に怒ったりするのね、ミニ・マインなのに。

 猪八戒要素が足されて、やっぱり自我が強いのかしら。


「どうどう、大丈夫? 八戒、妊娠してない?」

「ウキィ!」


 大丈夫のようだ。うん。冗談にならないわね。


 水蒸気の爆発が落ち着いたところ、気配を窺ってみるが魔獣の増援がくるような音がしない。


「どうやらマインのやり方で正解だったみたいだね」

「よかったです」


 魔獣の無限湧き問題は解決! あとはラグナ卿ね。

 私はまた空へ舞い上がり、ラグナ卿が戦闘している方向を見る。

 すると、今まさにこの瞬間。


「あ」


 ラグナ卿が振るう火尖槍が如意真仙の胸を貫いた。

 殺すための攻撃。

 ……ラグナ卿は私の緊箍児と違い、制限はないと思うけど。


 内側から火炎が噴出し、崩れていく如意真仙。

 遠目だから気にならなかったけど、体格がかなりいいわね。

 もしかして変身した状態であの出で立ちだったのかしら。

 如意鉤を地上に取り落とし、如意真仙を支えていた妖雲が霧散していく。

 体の力が抜けるというより、火尖槍に貫かれた状態で固まって、そこから体がヒビ割れていく。


 ラグナ卿も追撃せず、その様子を窺っている。

 会話をしているようには見えないけど……。

 如意真仙は紅孩児の叔父。本人の意思があるなら思うところはあるだろうか。

 なんだかんだで紅孩児を殺されたことを怒る程度に親戚への情はあるキャラクターよ。


 やがて、如意真仙の体は元の人間体なんてものを残すところなく塵となっていった。

 崩れ行く体の中から遠目にもわかる黒い球体が零れ落ちる。

 ラグナ卿はすぐにその球体……黒水晶を掴んだ。


 どうやらギフテッドがいたわけではなく、黒水河の難で対峙した敵と同じ状態みたい。

 つまり、ギフトの正体がそのまま単独で活動していた。

 あの状態ならフィナさんの浄化で事態は完全に解決しそうね。


 ラグナ卿が私の姿を見つけて空を飛んでくる。

 五行車の派手な移動だ。私ももはや隠身法を使っておらず、今回の事件では目撃者が出たかもしれない。



 予想通りラグナ卿はギフト『如意真仙』の封印された黒水晶を持ってきた。

 ヒビ割れていて再利用が難しそうな状態だけど。

 ジュリアンさんに鑑定してもらうと、やはりギフトが封印されているという。

 効果は想像通り、子母河、落胎泉、如意鉤、駕雲(がうん)法。

 駕雲法は仙人系が雲に乗る術ね。

 筋斗雲の術と違うのはスピードだろう。術の効果だけを比較するなら筋斗雲の方が速い。


「もう壊れそうだね……」

「そうね、ボロボロだし、ヒビ割れもひどいわ」

「火尖槍を突き刺した上、内側から焼いたからな」


 ラグナ卿、容赦せん。


 黒水晶がまだ残っているおかげか、フィナさんの結界のおかげか、落胎泉は残っている。

 私とラグナ卿、ミニ猪八戒、ミニ・マインたちは一通り、空から見回りをしてみて、魔獣の残党がいないかをサーチ。

 心配なさそうなことを確認して、フィナさんに落胎泉を浄化して消してもらった。

 新たな子母河スポットが出現する様子は確認できず、ようやくこの森に平穏が訪れたみたい。



 街に全員で帰還する。

 妊娠していた男性も、やはりお腹が膨れ始めていたらしく、苦しんでいたところ、どうにか水が間に合って、お腹が膨らむのが収まったらしい。

 ちょっと、その様子が見たかったような気がするけど……流石に不謹慎よね。

 私たちのいない間にヴァレリア殿下たちが誘拐されているなんて展開もなし。

 今回は無事だっただけ、と考えて今後も警戒しましょう。


「これで子母河の難、一件落着よ!」


 一難(いちなん)解決!

 一人だけで動くより圧倒的にスピーディーに、かつ綺麗に解決できた気がするわ!

 しかも敵のボスを倒したのは私ではなくラグナ卿!

 今までのことを考えると、うんと楽をさせてもらっているわね!

 やはり仲間の重要性!



「急ぎの問題は解決したけど、次の難への対処ね」


 今回の件でわかった。

 この推定ジュリアンルートで発生するイベント群は、やはりジュリアンさんのギフト『真理の探究』が鍵なのだ。

 というわけで私は、ミニ・マインたちと協力してジュリアンさんを抱え、南部と北部に飛んでいくことにする。

 まず各地の難を解析してもらってから対処する人員を割り当てる作戦よ!


「……運び方に意見がありますが」

「「「「ウキィ?」」」」


 ミニ・マイン複数で空高くからジュリアンさんを落とさないように運んでいるわ。

 念のために並走して飛ぶ私がジュリアンさんの体に巻かれた命綱を握っている。

 仕方ないのよ。だって彼、飛べないんだもの。


 北部の湖、通天河の難にして霊感大王の難。

 南部では、血の雨の難。


 私とジュリアンさんが解析で動いている間に、他の難が発生していないかを残りのメンバーに調査してもらっている。

 とくに領地西部で何か起きていそうだから重点的に。

 そうして凍てつく湖を鑑定してもらったところ。


「ギフトの効果であることは間違いないようです。ただ、この現象を発生させている存在は、この湖にはいない……かと」


 じゃあ、湖の底でバトル展開じゃなさそうね。

 なら、沙悟浄を仲間にしてからじゃなくていいかしら。


「……これもギフテッドがいるのではなく、黒水晶に封印された存在がいるのでしょうか」

「そうだとすると、今度は大柄な戦士か、金魚サイズかになるけど……」

「なぜそうなるのか知りませんが……金魚ですか?」


 通天河を凍らせる霊感大王は、元々は観音菩薩が世話をしていた天界の金魚だ。

 ただ、八戒たちと戦闘する地上での妖怪姿は巨漢だという。

 甲冑姿で大きな槌を振るうとか。


 ジュリアンさんには追跡用の黒犬を貸してもらえば、霊感大王を追えるかしら。

 昨夜から監視に置いておいたミニ・マインを回収しておく。

 すぐさま問題が起きるわけではなさそうなので、続いて南部へ飛んだ。

 次は血の雨の難の調査よ。



 血の雨が降るのは祭賽国(さいさいこく)の物語で出てくる難。

 十三層の宝塔の頂上にある宝を盗んだと濡れ衣を着せられている僧がいて、三蔵一行は塔の調査をすることになる。


 宝である仏舎利(ぶっしゃり)を盗んだ真犯人は、『万聖龍王(ばんせいりゅうおう)』とその娘婿『九頭虫(きゅうとうちゅう)』一味。

 妖怪化した水龍の類と、九つの頭を持つ鳥系だという。

 例によってビジュアル的な部分はちょっと私ではわからない。

 ちなみに虫ではなく鳥らしい。九頭駙馬(ふば)や、九頭鳥という名もあるとか。

 元々、十の頭があったらしく、そのうちの一つを〝犬〟に噛み切られて、いつも血をしたたらせているっていう話よ。


 犬が弱点の可能性があるわね、これ。

 そういうところがジュリアンルートに出てきた理由かもしれない。

 万聖龍王の娘、『万聖公主』も西王母から盗んだ物がある。


 このエピソードに出てくる敵は、一族規模で、そういうところは金角大王・銀角大王のケースに似ている。

 もはや珍しいケースで、一人の老婆を残して敵のほとんどを殺すことになる。

 ということは、この世界だと私がギフト破壊できる相手ということだ。


 ただ、この世界の場合、十三層の宝塔なるものが存在しない。

 また、宝である仏舎利だって存在しないか、或いはギフトの産物のはずよ。

 じゃあ、血の雨を降らせる目的がなんなのかがわからない。

 原典では、仏舎利が持つ神聖さを穢すためとか、その力を弱めて盗みやすくするため、という理由があったはずなんだけど……。


 この世界の敵の目的ってなんなのかしら。

 混乱させることだけが目的?

 子母河の難では、どうやら魔獣の量産が目的に見えた。

 こっちは……なんだろう?


「原因が特定できそうなのに目的が不明というの気味が悪いですね」

「そうよね。どうしたらいいと思う?」

「それを決めるのが貴方の役目なのでは……」

「私の推理は、貴方たちの行動を見てからなのよ」

「……はぁ」

「つまり、貴方の考察も大いに役立つというわけね」

「……では、言いますが」

「うん」

「セラフィナ嬢がこの地に来て、血の雨について人々が困っていると聞いたなら、必ずそちらへ向かうと思います」

「……そうね」


 間違いなくダッシュするわね、あの子なら。


「では、その血の雨は聖女を呼び寄せる罠なのではありませんか」

「……おお」


 なるほど? 子母河が如何にも魔獣量産施設っぽかったから別目的を考えたけど。

 そういうこともあるわよね。


「でも、フィナさんがこの地に今来る予定なんてなかったのよね」

「……血の雨は生臭いそうですが、他に効果はありますか?」

「え、そうね……」


 私はさっき整理した情報を話す。


「主に人々の混乱、かつ目眩ましというか囮というか。神聖な光を弱める効果もあるのかも」

「……その宝は現在、この地方には?」

「ないんじゃないかしら……」


 ギフトで生み出すにしても、どういう効果で、この世界にどういう影響をもたらすのか。


「……これはマロット公爵令嬢が失念していることですが」

「ええ」

「この国には以前から『聖女』のギフトを持った存在がいました。違う世代ですが」

「それはそうらしいわね」

「はい。そして、歴代の聖女は瘴気や悪魔の類を浄化してみせたという話があります」

「……うん」

「貴方の知る『物語』に拘らないのであれば、その血の雨とやらは瘴気を招き、この地を穢し、悪魔の類を呼び寄せうるもの……なのではないでしょうか」


 西遊記縛りを忘れて、あくまでこの世界用のイベントとして考えるのね。

 実際、今まで魔獣系は西遊記縛りじゃなさそうな節があった。


「つまり、やろうとしていることは子母河と同じ?」

「そうではないかと。ゆえに『聖女』が必要とされる。各地でこのようなことが起きるため、聖女の派遣は順番待ちということになるのではありませんか」

「なるほど」


 そうなると時期が絞り込めないことになるわね。

 『聖女の派遣が求められたからG4が一緒に行動した』だけなら、いつでもいい。

 でも、まだ流石にG4の特訓期間中だと思うから先んじて動けてはいるかしら……。



 確認できた二つの難のうち、血の雨の難には私とフィナさんが向かった方がよさそう。

 凍てつく湖への対抗として霊感大王の難にはラグナ卿が……いえ。

 霊感大王の場合、セットでもう一つ何か起きるかもしれないわ。

 ちょっと心当たりがあるのよね。だから、そっちも私がいた方がいいかも。

 犬が弱点属性かもしれないから、九頭虫対策に黒犬を同行させておきたい。


「……マロット公爵令嬢は飛び回れるのですから、すべての事態に当たっては?」

「……そうなるかしら」

「問題を正確に把握できるのは貴方しかいませんので」


 つまり、各地の難に人員を分けて私が筋斗雲で飛び回るか。

 全員で行動して一つずつ潰していくか、ね。

 私の価値観としては後者がいいんだけど……。


「シボガ(・・・)のトラブルは派手に解決することになりました。敵がこの地に潜んでいるのなら、こちらが動き始めたことも把握されているかもしれません」

「……そうよね」


 そう、これは『敵がいる』中での作戦なのだ。

 当然、こちらの準備が整うのを敵が待ってくれる保証はない。

 ならば最速で片づけていかないと、敵陣営が複数同時にこちらを襲撃してくるかもしれない。

 そうなると大変なのは言わずもがな。

 先手を打てるうちに先手を打った方がいい。


「じゃあ、同時行動しかないわね」


 子母河の難だって民を狙われていたら、かなりの痛手につながっていたはず。

 あんなものを各地で起こされたら、たまったものじゃないわ。



 現地調査と鑑定を終えてから再び合流のため、街へ。

 すると空からヴィル様の姿を見つけた。

 あら? 単独行動中? 馬を駆っているようだけれど。


 移動は隠身法で行っているから驚かせないようにタイミングを見計らい、地上に降りてから姿を現して声をかける。


「ヴィル様」

「やぁ、マイン。戻ったかい」

「はい。お一人でどうされました、ヴィル様」

「武器(・・)の回収をさせてもらったんだ」

「武器?」


 なんのことかしら。


「これだよ」


 ヴィル様が布に包まれた長物を掲げる。

 そして、その布を取ると。


「これは……如意鉤?」


 如意真仙が使っていた武器だ。長物で、鉄棒の先が釘抜きみたいになっている。

 にょいこう、と呼んだり、にょいかぎ、と呼ぶこともある。

 そういえばラグナ卿が如意真仙を撃破した際、森に落としていたわね。


「あの黒水晶がまだ残っているのなら、この武器は使えるということだろう?」

「……確かに」

「マインやジュリアン殿に分析してもらえれば、今回の遠征だけでも使える武器になると思ったんだ」


 ヴィル様が使うための武器、ゲットってことね!


「マイン、使い方を教えてくれるかい?」

「はい!」


 ヴィル様はこうやって敵の武器を利用したり、ミニ・マインを指揮したりして戦力になろうとしてくれるのね。

 『黒風大王』を倒した時もミニ・マインやその武器を利用していたし。

 八戒の九歯のまぐわも使っていたものね。

 武器固定じゃなく、敵の武器を奪取して使うタイプ。

 多様な武器を扱えるだけの下地もある。

 今までの実績があるから十分に頼りにできるわ!


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― 新着の感想 ―
ヴィル様、マジで目敏いなー! 誰よりも視野が広い。 如意鉤もすぐ使いこなせちゃいそう(´▽`) ジュリアン氏は大人しく運ばれて偉いですね。 ほんと協力的だし。 良い奴だ。
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