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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~【書籍化企画進行中】  作者: 川崎悠
第6章 捲簾大将

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176 如意真仙

 黒犬は、森の深くへどんどん進んでいく。

 火眼金睛のおかげでどうにかその姿を捉え、追いかけることができる。

 しかし、これでは地上を行くヴィル様たちは大変だろう。


 高度を上げて確認すると、ラグナ卿はおよそ反対方向へ向かったのがわかる。

 どういう意味があるのかしら。

 ラグナ卿の場合は、ただの直感にすぎないから的外れな道を進んでいるとも取れるけど。

 どうしてか私には彼が勘を外すとは思えない。

 つまり、あちらにも何かがあるのだ。


 孫悟空のギフトを持つ私が近くにいると、ラグナ卿の直感が鈍るらしい。

 でも私は一時離脱していたから、そこで当たりをつけたのだろう。


 子母河(しぼが)の難において敵として出てくるのは如意真仙(にょいしんせん)。

 牛魔王の弟、紅孩児の叔父である。見た目に特出した記述はなく、ビジュアルは不明。

 ただ武器は決まっていて『如意鉤(にょいこう)』というものを振るう。


 如意は『思いのままにする』的な意味合いを持つ。

 これは別に如意棒(にょいぼう)の兄弟武器というわけではないわ。

 鉤(こう)とは、フック状の特殊な形状をした武器で、棒の先端が釘抜きみたいに、ぐにゃりと曲がっているようなイメージを想像すればいいかな。如何にも中国っぽい武器よ。


 ただ、牛魔王の弟といってもそこまで強い敵ではない。

 厄介さでは各話のボスとそこまで大差があるイメージはないわ。

 如意鉤も孫悟空がきっちり押さえ、へし折ることになる。

 ……まぁ、それは本家・孫悟空の話で、私が戦えば強敵なのでしょうけど。


 やがて、黒犬がどこかの場所へと辿り着いた。

 火眼金睛で離れた場所を視界に捉える。

 そこには湧き水スポットがあったわ。子母河と同じ……?

 私はすぐにそこまで降下し、間近で見る。

 どう見てもモグラ叩きで潰してきた湧き水スポットと同じ作りだ。

 ギフトでこういうのが作り出せるっていうのも驚きだけど。


「木を隠すなら森の中。同じ湧き水スポットが複数現れる中から、本物を見つけろ的な……?」


 火眼金睛でも、両方とも力持つ湧き水であるため、区別がつかない。

 これはジュリアンさんの鑑定ありきの判別ね。


「確率で妊娠か堕胎か、なんておっかなすぎるでしょ……」


 如意真仙は原典で殺さずに逃がしている。

 つまり、私ではギフトの破壊ができないということよ。

 そもそも原典では、子母河も、落胎泉も、如意真仙に付属する能力ではないし。


 妊娠方面の力が魔獣を生み出している以上、恩恵としては最悪なもの。

 堕胎の力も需要はあるでしょうけど……。

 西遊記世界の価値観と、この国の価値観では違いすぎる。

 トラブルを招く未来しか見えないわ。



「マイン!」


 しばらく待機していたところ、新たな魔獣の発生は確認できず。

 そのうちにヴィル様たちが合流した。

 もちろん、彼らには追いすがってくる魔獣の群れが多少はついているが、ミニ・マインたちの助力もあり、怪我なく迎撃はできている様子だ。


 辿り着いたジュリアンさんに湧き水の鑑定をしてもらう。


「……確かに。この湧き水には先ほど示された文字列が見えます。それに」

「それに?」

「その効果も『生まれる生命を否定する』とあります」

「文言がおっかないわねぇ……。フィナさん、近付かないようにね」

「は、はい!」


 私は近場にある手頃な石ころを指差す。


「七十二変化、変われ!」


 石ころは、たちまち姿を変え、水筒になった。

 その水筒に落胎泉の水を汲み上げる。

 行き倒れた男性の症状進行がどこまでかわからないが、急ぎめで持っていった方がいいだろう。

 生まれるのが魔獣なのだから近くにいるヴァレリア殿下も危ない。


「ミニ・マイン、一人こっちに来て」

「ウキ!」


 私はさらに枝葉をペンと紙に変え、手紙を書く。

 あの男性に飲ませるように、ヴァレリア殿下たちは飲まないように。その効果も伝える。


「これをヴァリー様のもとへ運んで」

「ウキィ!」


 ミニ・マイン一体におつかいを頼み、ひとまずこれで問題は一つ解決。

 あとはこの湧き水をどう利用すればいいか……。

 湧き出した魔獣にかけても効果はない、わよね? やってみましょうか。


 汲んだ水を、近付いてきた魔獣にぶっかけてみるものの、それで魔獣が消滅してくれるわけではなかった。

 やっぱり飲まないと効果はないのかしら。

 この場合は、魔獣が生まれる場所、地面に撒くのがいい。

 とくに子母河の湧き水スポットの周りね。


「……文字列は不明なところがありますが」

「ええ、ジュリアンさん」

「生まれる水と、生命を否定する水は相殺し合う、と」


 ジュリアンさんは意識を集中して見ている。

 黒犬たちも同じような雰囲気だ。ギフト『真理の探究』による鑑定能力って、より深く解析するとか、そういうのができるのかしら。

 使えば使うほどレベルアップして鑑定精度が上がるなんてこともありそうね。


「それに、これは確かにギフトより生まれた産物のようです」


 まぁ、それはそうでしょうね。

 この世界でこんな不思議な現象が起きるのは、ほぼギフトが原因だ。


「この泉が壊されたら、あの魔獣の無限湧きが止められなくなるわね……」

「では、この場所を守らなければ」

「ええ。でも、同じギフトの持ち主から生まれた場所なら、この場所を消せばいいはずなのに、どうしてかしら」


 そもそも魔獣の量産が目的なら、子母河の方だけでいいはずだ。

 なのに落胎泉も生成しているのはどういう理由だろうか。


「この泉は、基点となっているのではないでしょうか」

「基点?」

「他の泉は何度壊しても再生したのでしょう? 無数に発生し、それが無尽蔵に魔獣を生み出す。私の拙い経験と知識によるものですが、それは流石に限度があるかと」

「限度?」

「私の使い魔は出せば出すほど負担が重くなります。マロット公爵令嬢もそうなのでは」

「え」


 私は思わずヴィル様、そしてミニ猪八戒とミニ・マインたちに目を向けた。

 身外身法を出すこと自体に負担を感じたことがあまりない……。

 ガス欠、エネルギー切れを感じたのは法天象地によって巨大石猿を生み出した時だけだ。

 いや、それでも一人が持つエネルギーには限りがあることに変わりはない。


「……少し事情が異なるようですが」

「いえ、その。力尽きたことはあるから……」

「とにかく。つまり『何度壊しても再生成される泉』と『無尽蔵に現れる魔獣』を一つのギフトが支えているとするには、いくらなんでもギフテッドが保つとは思えないということです」


 エネルギー切れを起こすはずってことかしら。

 魔獣生成も地脈のエネルギーを利用しているとかじゃない?

 それでも、生まれた魔獣が同一の命令で動いているっぽいのは変わりないかしら。


「泉が生成される範囲は、この地域のみに限定されているようです。また、魔獣の行動範囲も限られているはず。あれだけの数がいるのにこれまで目撃者があまりにも少ない。もちろん戦闘が継続したからこそ、あちらも多く数を出してきた可能性は高いですが……」

「この地域限定の現象であるということだね」


 それはそうね。

 この難が際限なく広がっている様子はないわ。


「無限に発生する泉も、無尽蔵に現れる魔獣も、影響範囲が限定されるものであれば、まだ納得ができます。その基点となるのはギフテッドと考えるのが普通ですが……」

「ギフテッドとは別にあるとすれば、それがこの落胎泉だと」

「はい」


 なるほど。つまり泉の水を撒くのではなく、この基点を破壊、または浄化すれば?

 それなら『ジュリアンルートでのジュリアンさんの活躍』とヒロインとの協力要素もある。

 戦闘だけではすべてが解決しない、ジュリアンルートならでは、という雰囲気があるわね。


 でも、失敗した場合が怖い。

 落胎泉の水が、強制される妊娠の解決手段になっているのは間違いないのだもの。

 おいそれと壊すわけにはいかないわ。

 それも敵側からすると駆け引きに使える?


 ……如意真仙は、落胎泉の水を勝手に独占し、欲する人に与える代わりに見返りを要求する妖怪よ。つまり独占ビジネス。

 そのギフテッドがいるなら、そういう交渉を考える人物である可能性も……?


「マイン、話すのはいいけれど。そろそろ敵がこちらを捕捉したようだよ」

「ウキィ!」


 ヴィル様が警戒を促がしてくる。離れた場所からの音を察知したのだろう。

 ラグナ卿が大半を薙ぎ払っていったけど、あっちは無限湧きだからね。

 時間が経てば、また同じ状況になるか。


 決断が迫られる。

 可能な限り、落胎泉の水を水筒に入れておいて、まず壊すか。

 落胎泉の水を、子母河スポットのところまでもっていき、相殺させて供給を断つか。

 いよいよ、群れが迫ってきただろうタイミングで。


 ドガァアアンッ!


「……!?」


 爆発音のような激しい音が鳴り響く。

 ここからじゃない。少し離れた場所から。

 そんな大音響を響かせる原因に、一人しか心当たりがない。

 私は筋斗雲に乗り、上空へ浮かび上がった。


 すると離れた場所の空中で、今まさに激突している二つの影が見えた。


「ハハハ! お前が元凶か!」


 離れた場所の声を孫悟空の聴力が拾う。


 ラグナ卿は五行車に乗り、空中へ。

 それと対峙している敵は雲に乗って、如意鉤でラグナ卿と打ち合っている。


「如意真仙……!」


 ラグナ卿、やっぱりボスを見つけたんだわ、直感で!


 体格はラグナ卿とそう変わらない。

 服装がそれこそ今世風ではなく、中華風の出で立ち。

 それから頭に角が生えているわね。牛系の角、かしら。牛魔王の弟要素?


 加勢……いや、たぶん要らないわよね。ラグナ卿だし。

 ここでやるべきは、そう。

 原典・西遊記における孫悟空の役割をラグナ卿に。

 私が代わりにするべきは……沙悟浄の役割!


「この泉の水を子母河にかけてくるわ!」


 念のために保管しておく分とは別にして、大量輸送する器を変化で用意する。

 火眼金睛で子母河スポットを発見し、筋斗雲で急行、落胎泉の水が入った器を。


「そぉれ!」


 バシャァアアンッ!


 器ごと壊れ、大量の水がかけられて、二種の水が混ざり合う。

 すると水蒸気爆発のような現象が起きたわ!


 ジュァアアアアッ!!


「ひぇっ!」


 どっちの効果の水を含んだ水蒸気よ!? どっちも嫌だわ!

 私は慌てて空へと避難する。

 しかし、水蒸気爆発じみた現象のせいで、大量の蒸気が容赦なく森に広がった!


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