175 落胎泉
街に戻り、ジュリアンさんたちがいる宿に突入。
人目を気にしないようにしつつ、隠身法を解き、待機部屋へ。
合言葉のやり取りをし、ヴァレリア殿下、エミリア、ジュリアンさんがいることを確認する。
「どうされたのですか、マロット公爵令嬢」
「現在、魔獣の群れとラグナ卿たちが戦闘中です。戦力面での不安はありませんが、敵が無尽蔵に魔獣を発生させるギフトのようで打開案が必要な状況です」
「……そうですか。戻ってきた理由は?」
「ジュリアンさん、力を貸してください」
「私ですか。何をすれば?」
「わからないわ」
「……はい?」
「貴方のギフトが打開策になると思うの」
「……なるほど」
四健将は変わらずヴァレリア殿下とエミリアの護衛に残す。
ジュリアンさんごと隠身法で包み、孫悟空の剛力でヒョイッと肩に抱え上げた。
「……この態勢は」
「何? お姫様抱っこしてほしい?」
「……いえ」
「残念だけど、この雲に貴方は乗れないの。乗れる雲じゃなくて、雲に乗る力だから」
「そうですか」
ジュリアンさんを肩に抱えて、こっちも念のためにサポートの分身を二体ほど出し、支えてもらう。
途中で落とさないようにね。
急いで戦場へ戻るため、筋斗雲をかっ飛ばしていく。
「くっ……」
「眼鏡を落とさないでね!」
「はい……!」
空を飛ぶ時は火眼金睛を使わないと、こう逆風がね。
筋斗雲自体はこう、周りの空間ごと滑るような感じで、わりと風からは守られているわ。
飛行機の外側にいるような状態とはまた別というか。
それでも、やっぱり多少の影響は受ける。不思議な感覚ね。
ジュリアンさんを抱えて戻ったところ、戦闘は継続中だった。
ただ、私が離れた時と状況が変わっていて、ラグナ卿は結界の中で休んでいる。
代わりにヴィル様が結界の外で戦っていた。
ミニ・マインたちを指揮しながら立ち回っているみたい。ミニ猪八戒は結界の真上にいて、崖上から降ってくる魔獣を吹っ飛ばしまくっている。
どういう状況かしら?
とりあえず戻った私に注意が向いた瞬間にヴィル様が隙を突かれるなんて起きないようにする。
「伸びろ、如意棒!」
ジュリアンさんを片手で抱えながら、もう片方の手で如意棒を伸ばし、ヴィル様周辺の魔獣たちを空から蹴散らしていく。
「マイン!」
「戻りましたわ!」
「ああ! 今、交代で戦闘している!」
「わかりました! もうしばらくお願いできますか!」
「ああ!」
フィナさんの結界の中に筋斗雲で降下し、ジュリアンさんを下ろす。
どうやら体力の消耗を考えて、ラグナ卿とポジションを交代したようだ。
まだまだラグナ卿も元気そうではあるが、それも含めての考えだろう。
いったん合流してから私が把握している状況を改めて話す。
「敵はいると思うの、ギフテッドが。人間か、使い捨て状態の黒水晶から実体化しているかは不明なのだけど」
「……では、まずその湧き水を見てからですね」
「そうね。ジュリアンさん、フィナさん」
「はい、マイン様」
「なんですか」
「もし、ここにいるのが、私とヴィル様、ラグナ卿の代わりにヴィンセント殿下たちだったら、どう動いていたと思う?」
私の質問に首を傾げつつ、真剣な問いだと思ったのか、二人は目を見合わせて答えてくれる。
「……その場合、ジークヴァルトが今、小侯爵が担っている前衛をこなします。セラフィナ嬢は同じように結界を張り、身を守るでしょう。ヴィンセント殿下はその結界の中にいて、指揮を執りつつ、ギフトによる援護をなさいます」
「ええと、ベンくんは影を伸ばして、魔獣の動きを鈍らせたり、戦ったりします!」
ベンくんは、ベネディクト氏ね。影のギフトを使うわ。
「戦闘を継続するうちに敵が無尽蔵だと誰かが想定し始め、打開策を模索するでしょう」
「その打開策をジュリアンさんが考えるなら?」
「……使い魔を放ち、この魔獣の発生源を調べさせます。場所がわかれば、そこを叩くために移動するよう進言するか、状況が悪ければ後退を提案します」
二人の意見を参考にして、未来のG4たちの行動を読む。
その行動の通りなら、遠からずジュリアンさんの使い魔が湧き水スポットを発見するはずよ。
でも、そこからは、私が筋斗雲で空から見て、火眼金睛でスポットを見つけてモグラ叩きをした結果とほぼ同じになるはず。
ということはフィナさんたちが解決するのはそのあとだ。
この難の発生トリガーは、フィナさんが最初の湧き水スポットを浄化して消したこと。
いえ、昨夜も森からざわざわ音が聞こえてきていたから、誰かが近付いただけでもこの魔獣の群れは反応していたかも。
昨夜は、護身法の影響で近付いてこなかっただけだ。
とにかく、湧き水スポットは『聖女』の力によって霧散させられる、という情報がその時の彼らにはあるはず。
湧き水スポットを〝未来ジュリアン〟さんが発見したら、私のように如意棒で力尽くで叩き壊すのではなく、フィナさんを浄化のために動かしたんじゃないかしら。
つまり、未来のG4たちはパーティーでこの森の中を駆けずりまわる。
そのあと、湧き水スポットを消しただけでは事態が解決しないと何度か同じことをする。
私がしたモグラ叩きと同じだ。
私は筋斗雲で飛び回っていただけだから、そこまで疲れていないけど。
G4たちは相当、疲弊したはずよね。つまり、彼らは、そこでかなりピンチに陥る。
でも当然、そこからヒーローたちには逆転の目があるわけで……。
フィナさんが覚醒して、聖女の光が森全体に行き渡るとか? イヤボーンってやつよ。
そのあとは、このエリアのボス、如意真仙が出てくる……?
いえ、バトル展開になったらジュリアンさんの見せ場とは言い難いわよね?
それはどちらかといえばジークヴァルトのものでしょう。
このエリアのイベントはおそらくジュリアンルートのものだ。
なら、ジュリアンさんの活躍こそが最大の功労者として讃えられるべき。
つまり、ギフト『真理の探究』という解析・鑑定能力、使い魔による索敵能力が、難の解決方法であるべきだ。
解析・鑑定・索敵によって何を見つけ出す?
魔獣を発生させている湧き水スポットは、潰しても、潰しても別の場所に再発生してしまう。
探したいのは、その湧き水スポットを生み出している元凶だ。
でも、それが如意真仙と想定されるんだから……。
「落胎泉の水……」
「はい?」
如意真仙の結末は、孫悟空と打ち合っている最中に沙悟浄が落胎泉の水を汲み、その隙を突かれて負けたことよ。
子母河のエピソードを昇華したギフトを持っているなら、こいつしかいないと思う。
ええと、つまり。
ボスが現れて、戦闘自体は発生してもかまわない。
ジークヴァルトが戦って、一見、彼の見せ場のように見えても、決着をジュリアンさんがつければいい。
そうすればジュリアンルートとして成立する。
つまり、『孫悟空が戦っている間に』『沙悟浄が落胎泉の水を汲む』展開の再現だ。
落胎泉の水は、原典・西遊記において『子母河の水によって妊娠させられた子をおろす』効果がある。この水でなければ三蔵と八戒の出産は回避できない。
この状況は、その子母河の水ギフトが拡大解釈で使用され、大地から魔獣を〝生んでいる〟ことで発生している。
つまり『落胎泉の水』をこの大地に与えれば、この魔獣の無限湧きを止められる!
ジュリアンさんのギフトで解析して判明するか、或いは隙を突いて奪うかする展開!
「ジュリアンさん、黒犬に索敵させる対象を選ぶことってできるの?」
「選ぶ、というと」
「『落胎泉の水』というものを口頭指定すれば、貴方のギフトでそれを追える?」
「……それならば可能かと。遠くにある場合は、見つけられないかもしれませんが」
「近くにあるわ、必ず」
ジュリアンさんは私の断言に驚いた表情を浮かべる。
でも、すぐに真剣な表情になった。
「わかりました。ラクタイセンの水ですね」
「ええ。字は確かこうよ」
私は如意棒で地面に落胎泉と書く。難しい漢字じゃないから書けるわ!
「……相変わらず読めませんが、ここまでわかっているのなら。──『真理の探究』」
ジュリアンさんが黒犬を四匹呼び出した。なんか数が増えているわね!
「お前たち、『ラクタイセンの水』を探せ」
「「「「わぅん!」」」」
黒犬たちが駆け出す。
私は再度、筋斗雲に乗って黒犬たちを追うことにする。
ボスも一緒にいるかもしれないからね。
「カーマイン」
「……? ラグナ卿?」
ラグナ卿が休憩を終えて立ち上がり、火尖槍を構えている。
「打開策が見つかったようだが……俺も動いていいか」
「ラグナ卿が? 動くって……」
「匂いを辿る」
「……!」
落胎泉の水と、如意真仙が同じ場所にあるとは限らない。
ラグナ卿の超感覚で何かを感じ取れるなら……。
「わかったわ。行ってくれる?」
「おう!」
ラグナ卿は進み、結界の外へ出る。
「ヴィルヘルム! どいていろ!」
吠えたけるラグナ卿。そして。
「五行車!」
火尖槍を大地に突き刺し、土くれが特殊な形状の車体に変化する。
火炎をエネルギーに動き、空さえ飛ぶ重戦車。
森の中なんだけど……。
「カーマイン!」
「何?」
「山火事になったら火消しを頼むぞ!」
「……わかったわ」
まぁ、できるけど! 芭蕉扇もセットのお得ギフトだからね!
ラグナ卿は遠慮なく魔獣の群れを蹴散らしながら森の奥へ駆けていく。
「ハーッハッハッハァ!」
……ひょっとして推理とか、助っ人とか、いらなかったんじゃ。
いやいや、そんな。
大群を蹴散らしていってくれたおかげで、一旦敵の攻勢が止まった。
その隙にヴィル様が結界内に後退する。
ミニ猪八戒は相変わらず崖上からの攻撃を警戒中よ。
「マイン、打開策が見つかったようだね」
「はい、ヴィル様。私はジュリアンさんの黒犬を追おうと思いますが……」
「そうか。この場所に留まる理由がない。俺たちも、後を追おう。ジュリアンくんは使い魔の位置が離れてもわかるかい?」
「……わかります」
「なら、案内してくれ。アスティエール嬢の結界と八戒たちがいれば、防衛しながらの移動もそこまで負担じゃない」
ヴィル様の提案を了承し、私たちは頷き合う。
そして、すぐさま行動を開始した。
「フィナさん、動きながら結界は張れるの?」
「張り直して、こう、周りだけにすれば……」
ちょっと意識を向けるのが難しそうね?
なら乗り物を作りましょう。
「身外身法、七十二変化、変われ!」
私は分身を二体、鞍と手綱のついた馬に変え、ヴィル様とジュリアンさんに手綱を持たせる。
フィナさんはジュリアンさんと同乗だ。
これで移動は任せて、結界に意識を向けてもらえる。
「じゃあ、行動開始!」
私は先行して黒犬を追いかける。
どっちに行ったかはジュリアンさんの指示を聞いて空から追跡よ。
空からみると……まぁ、ラグナ卿の通った道のわかりやすいこと。
これで落胎泉の水を見つけるのも、如意真仙を倒すのもラグナ卿だったらどうしましょうね。
もう全部あいつ一人で……うん。やめておきましょう。それはフラグよ。
がんばることに意味がある!




