174 モグラ叩き
意外にも真っ先に動いたのはフィナさんだった。
魔獣の襲撃に対して結界を発動させる。
光の膜が生じ、それ以上、こちらに近付くことができなくなる。
『リャアア!』
湧いてきた二足型の魔獣は武器を手にしている。
しかし、知性はそれほど感じられない。ただ数が厄介だ。
森の奥から、ワラワラと湧いてくる。
「ハァッ!」
結界を張られている利点もなんのその、ラグナ卿が飛び出し、火尖槍で横薙ぎに振り払い、群れの一部を葬り去る。
『リャアアッ……!』
一番槍はラグナ卿。ヴィル様も続くかと思いきや、状況を冷静に分析している。
まぁ、ラグナ卿に加勢が必要な相手とは思えない。
紅孩児が飛び出した以上、本家・孫悟空なら一緒に飛び出しそうなものだけど。
「ウキーッ!」
私より先にミニ猪八戒が飛び出し、ミニ筋斗雲に乗って九歯のまぐわを振るう。
いや、あんたが先に行くの!? いいけど!
私は改めて術の確認をさせてもらう。
「マイン様?」
「そこに立っていて、フィナさん」
「はい!」
私はフィナさんの周りの地面に如意棒で円を描く。
そして印を結んで。
「護身法」
昨夜と同じように描いた円に淡い光が宿る。
私は二足の武器持ち魔獣たちの様子を窺った。
群がってくる様子は……変わらないわね。
一度、あちらに発見されたあとは意味がないのかしら。
効果がいまいちわからない法術だものね。
フィナさんだけがあちらから視えなくなっている可能性はある。
……もう少し検証が必要な法術ねぇ。使い勝手もあまりよくはない。
「ありがとう、フィナさん。もう動いていいわよ」
「はい! なんだったんですか?」
「私にもあんまりわかっていない力よ」
ヴィル様は私が何かしているのを横目で確認しつつも、敵から目を離さない。
それから背後も確認する。
子母河の湧き水があったのは、山間のちょっと盛り上がった場所だった。
背後は少し崖になっているため、背にして戦うにはちょうどいい立地よ。
「マイン、雲に乗って飛んで崖の上を警戒してほしい」
「わかりました」
確かにこの、ちょっとした崖の上から奇襲攻撃というのはありえそうだ。
私は筋斗雲に乗ったままだったので、そのまま指示通りに崖の上へと浮かび上がる。
『リャッ……!?』
と思ったら本当に上に来ていたわ!
木々の向こうに待機していたのなら、こっちにもいて当たり前よね!
「身外身法!」
私は、如意棒を持たない手の方でうなじの毛を抜き、息を吹きかける。
「「「「ウキーッ!!」」」」
ミニ・マインたちがワラワラと現れて、ミニ筋斗雲に乗り、ミニ如意棒を振り回す。
「近付いてくる魔獣を撃退して! 念のため、殺しも禁止! 深追いはしなくていいわ!」
「「「「ウキィ!」」」」
ミニ・マインたちが魔獣の群れへと飛んでいく。
フィナさんを中心に背後・上方はこれでカバー。私は雲の上から見下ろし、全体を把握する。
フィナさんが光の結界を張り、半透明の膜が形成。
視線はラグナ卿に向けられていて、おそらく治癒の必要があればすぐに回復するつもりなのだろう。手を前に構えたままだ。
ヴィル様はそんな彼女のそばに待機し、突撃は控えて左右を警戒している。
光の結界を壊そうと群がってきた魔獣を時々、切り払ってはすぐに後退。
フィナさんのそばをつかず、離れずに立ち回っている。
ラグナ卿は無双状態。
魔獣の群れを千切っては投げ、暴れ回っている。
しかも山間・森林地帯だから火炎は控え目。あれでまったく全力ではない。
一人だけ別ゲーよ。
「ハハハ! どうした! この程度か!」
しかも敵を挑発し、ヘイトも買ってくれている。
フィナさんの結界も出ているから敵が群がってきやすい。
「ウキーッ!」
ミニ猪八戒は私より、よほど好戦的でラグナ卿に負けまいと立ち回っている。
小さい体ながらも九歯のまぐわから繰り出されるパワーは本物で、この程度の魔獣相手ならば負ける様子がない。
戦力は十分。あとは、この群れの襲撃がいつまで持続するか。
思ったよりも数が多い。
子母河の水を飲んだ人間が、その都度産み落としたにしては数が変だ。
これだけの被害者がいたというのなら、もっと街で噂になっていようもの。
しかし、あの男性のようなことは聞き込み調査で出てきていない。
……まぁ、女性が被害者ならば口にできたものではないかもしれないが。
しかし、私の見立てからすると、被害者はどうしたって街に行ったと思う。
それならこの魔獣たちは街で発生したはず。
その噂がないということは、私の考えは間違っていたのかも。
「「「「ウキー!」」」」
ミニ・マインたちの戦闘を見る。
こっちも十分に対抗できている。
殺生禁止の縛りをしているから、少し大変かもしれないけど。
私は一人、さらに上空へ昇った。
地上を見下ろし、火眼金睛で隈なく周辺を見渡す。
ギフトで生み出されたであろう子母河の湧き水は、フィナさんの浄化によって消し去られた。
ただ、あの程度ならたぶん、ギフテッドが他にすぐ同じ物を生み出せそうなものだ。
昨夜、あの湧き水は火眼金睛が捉えているので、同じ物が発生したのなら見えるはず……。
「……あった!」
少し離れた場所に、キラキラとした輝きが目に入る!
「ヴィル様! 少し離れた場所にたぶん別の湧き水ができているわ!」
「……! そこからこの魔獣が生まれていると?」
「たぶん? ごめんなさい、この水にそんな効果があるなんて話は、物語にはないの!」
「そうか。マイン、空からそちらを確認してくれる?」
「わかりましたわ!」
筋斗雲でひとっ飛び。
私は単独で空を駆け、火眼金睛で捉えた場所へ急行する。
すると、先程見た子母河の湧き水とほぼ同じ光景がそこに生じていた。
湧き水発生場所を生み出すギフトとか、謎すぎる仕様。
でも、恩恵はある意味ですさまじい……。
まともな子が生まれてくるのなら、だけど……。
さっきはフィナさんの浄化で消し飛んだけど、発生した偽りの地形というのなら。
「伸びろ、如意棒! アチャアアアッ!」
筋斗雲に乗ったまま如意棒を振り被り、伸ばしながら振り下ろす。
孫悟空の剛力によって大地を穿つ一棒。
ドガァッ!
粉砕された湧き水場所が霧散していく。
よし。これでよかったなら昨日、壊してよかったわね。
再び上空へ舞い上がり、地上を確認。すると別の場所でまた同じものが生まれていた。
「モグラ叩きじゃないんだから!」
一度に発生させられる地点は一つだけなのかしら。
しかし、誰かを媒介にする必要がありそうなのに、次々と生み出す利点はどこにある。
エピソード昇華型にしても、こんな魔獣を生み出すなんて効果は結びつかないのだけど。
とりあえず私は飛び回り、新たに発生するスポットを叩き潰していく。
これが敵への、嫌がらせ行為につながるならいいのだけど。
ずっと離れたままにはせず、何度も空からフィナさんたちの近くへ帰還しながら飛び回る。
子母河の水は、女人国で子供を成すために必要なものだ。
ただし、誤って水を飲んでしまった人間が子をおろすためには落胎泉の水が必要となる。
落胎泉の水は、牛魔王の弟である如意真仙が独占している。
紅孩児が天に昇ってしまった件について羅刹女と同様に怒っていて孫悟空とは戦いになる。
手強い相手だが、孫悟空が戦っている間に沙悟浄に落胎泉の水を汲んでもらい、三蔵たちは難を逃れることになる。
そのことに動揺した隙を突いて敵の武器を奪い、孫悟空が勝利。
ただ、殺して終わりではなく、如意真仙は逃げていくオチのはず。
今回もギフト破壊はできなさそうな相手よ。
「ギフトとしてまとめるなら、金角・銀角を従えていた九尾狐理精みたいに、如意真仙がどちらの水も生み出せる?」
妊娠も堕胎もお手のものとは。
ある意味で一番ギフトっぽい能力だ。さらに戦闘力もある。
ただ、この使い方を見るに邪悪なもののようだ。
牛魔王の弟、紅孩児の叔父。
今世、この世界を襲う難の黒幕は牛魔王である可能性が高いという。
血縁関係の意識がどこまで残っているのか知らないが……。
「……焦れるけど、まず観察が必要ね」
幸い、ラグナ卿が無双して敵の数を減らしてくれている。
敵がこちらをどこまで見ているか知らないけど、補充が必要でそれが子母河スポットに関係しているのなら動きがあるはず。
今度はスポットを壊さずに変化がないかを見る。
火眼金睛でガン見だ。そうして観察していると、想像したような魔獣がその場で生まれる様子はない。
しかし、私はようやく気付く。
「スポットそのものじゃなくて、周り?」
湧き水スポットが発生した周辺、少し離れた場所の土から二足の魔獣がボコボコと這い出てくる光景を見た!
子母河の〝水〟が浸透した地面から〝生まれる〟ってこと!?
ギフトの拡大解釈が過ぎる! つまり、あの魔獣は、元々は土や木の根、石ころってこと!?
「滅茶苦茶じゃないの!」
私は新たなスポットを如意棒で叩き壊す。
生まれてしまった魔獣はそれでは消えないらしい。
このモグラ叩きを続けないと、いかに最強パーティーであっても物量で押されるわ!
「もう、面倒くさいこと!」
とにかく筋斗雲で飛び回り、新たに現れるスポットを次々に潰していく。
やらずにいるわけにはいかないけど、これもキリがない。
推定敵・如意真仙を見つけて叩かないと!
ここまでギフトによる現象が散発しているなら、近くにいてもおかしくないはず。
いや、でも実際どこにいるのか。
「考えて、考えて……」
私の推論を元にしていいのなら、この事態はフィナさんとG4が未来で対処する。
ジュリアンさんルートだろうから、彼は確実にこの場にいて解決する手助けになる。
もし、他のG4の助力が必要なら筋斗雲と縮地で私が王都から彼らを連れてくればいい。
ただ絶対に必要なのは、ひとまずジュリアンさんだ。
「みんな、悪いけど離れるわ! ジュリアンさんを連れてくる!」
「……! ……わかった! こちらは大丈夫だ!」
「おう! 好きに動け、カーマイン!」
「お任せします、マイン様!」
くぅ、三人の信頼が厚い! とっとと動かないと。
「ウキー!」
「八戒! ミニ・マインたちを残しておくから、離脱が必要なら他の子たちを従えて! ヴィル様の指示に従って行動! でも、フィナさんを守るのも、ラグナ卿に助力するのも必要だから!」
「ウキィ!」
ミニ八戒が九歯のまぐわを振り回して応じる。
「ミニ・マインたち! しばらく戦闘継続! この魔獣を限定に殺生禁止は解くわ! 倒してしまってかまわない! ただし、別個体が現れた場合は様子見! その他、八戒とヴィル様の指示に従って!」
「「「「ウキィ!」」」」
指示を出し終えると、私はすぐさま筋斗雲で街へ戻る。
隠身法で姿を隠すのも忘れずに、ね!




