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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~【書籍化企画進行中】  作者: 川崎悠
第6章 捲簾大将

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172 フラグ乱立

 問題の湖まで足を運ぶ。

 流石に湖は街からは少し離れた場所にあり、乗合馬車に乗って移動した。

 筋斗雲に乗ってヴィル様を抱えて移動してもよかったけど……。

 緊急事態ではないので、そこはちょっと自重しておいたわ。


 近付くだけで、ひんやりとした冷気が漂っているのがわかる。

 確かにそろそろ寒くなってもおかしくはない時期なのだが……。


「人が集まっているようだね」

「はい」

「ウキ!」


 問題の湖は噂通りに凍りついている様子だ。

 質問するまでもなく、周りにいる人々がこの現象について噂話を繰り広げていたので、それを拾う。

 ずっと凍りついているわけではなく、凍ったり溶けたりを繰り返すことがあるようだ。

 周囲の気温は寒いには寒いものの、湖がこうなってしまうほどの冷え込みとは言い難い。

 それに寒さは凍りついた湖のせいだ。


「近くまで寄ってみましょう、ヴィル様」

「ああ」

「ウキ」


 子供サイズの八戒キッドも一緒に湖の畔へ。

 私たちが目的なら、いきなり水中に引き摺りこまれるシチュエーション。

 警戒してはいたけど、とくに何も起こることはなかった。


「底が見えないな」


 氷の下が見えるほどの透明度はなく、真っ白な氷の表面だ。

 前世でいうとアイススケートリンクみたいな雰囲気ね。

 しゃがみこんで指で突いてみる。分厚い氷が張っているようで、割れる雰囲気はない。


「……閉水法(へいすいほう)」

「マイン?」


 試しに水を割る法術を行使してみるが、変化はない。

 どうやら術が通る状態ではないらしい。これは厳しいわね。


「ヴィル様、私のギフトは水中戦が苦手なんです」

「……そう言っていたね」


 孫悟空は水の中でも動けはする。

 しかし、水中で活動するためには印を結んだままでなければだめだったはずよ。

 そのため、孫悟空は水中戦が苦手で、こういう場合は猪八戒と沙悟浄にがんばってもらうのがお約束展開。


「このルートでの敵は水難系が集まっているのかしら」


 他のルートでは出しにくいから、ここに集まっているとか。

 それはメタ事情すぎるわね。現実的な理由は、ちょっと見当がつかない。


 そもそも、ラグナ卿が指摘したように、魔獣やキメラ、バンシー、がしゃどくろみたいな西遊記じゃないじゃん!系の敵だっているのよね。

 細かいところの予測は無理ってものよ。


「どこかにギフテッドがいるということかな」

「どこか……?」


 確かに、現実目線だとそうなるのかしら。私は、てっきり。


「心当たりが?」

「湖の底かと」

「底……。こんな凍っている湖の?」

「まぁ、私の知っている物語なら、ですけどね」


 霊感大王は、例の如く天界からの脱走してきたタイプの敵だ。

 その正体は一匹の〝金魚〟である。

 ただの金魚ではなく、観音菩薩の蓮池で飼われていた金魚だ。

 毎日、菩薩の説法を聞いているうちに神通力を得てしまい、増水に乗じて脱走して妖怪となってしまったという。

 助っ人呼び出しパターン回というか、孫悟空が作中で倒した敵ではないため、この事件の犯人が霊感大王のギフテッドなら、私はギフトの正体を破壊することができないだろう。


「うーん……どうしたものかしら、これは」


 通天河とは異なり、湖の規模はそこまでじゃない。

 これくらいなら孫悟空パワーで如意棒を叩きこめば氷を割れるかもしれないわ。

 しかも、今回の目的は水の上を渡ることではない。

 だから、この氷をぶち壊しても問題ないのよ。


「……ヴォルテール卿の力を借りるかい?」

「ラグナ卿のですか?」

「彼は火炎の力を持つのだろう。この氷も溶かすことができるのでは」


 三昧真火(さんまいしんか)と霊感大王の凍てつく大河対決?

 興味深くはあるけど……どうなんだろう。

 三昧真火は消えない火炎という属性であって、その熱量が膨大に跳ね上がっているわけじゃないと思う。

 もちろん、それでもラグナ卿の火力は高いと思うけど。

 あと作中描写が主に火炎の効かない孫悟空が相手をしているので、火力方面は不透明。ただ。


「氷を溶かして、そのあと水中戦に持ち込まれるのが問題です。私もそうですが、ラグナ卿も得意分野とは言い難いかと」


 孫悟空が不得手な水中戦を補うのは本来、猪八戒と沙悟浄の役割なのだ。

 私は八戒キッズに目を向ける。

 沙悟浄戦でも、この問題は持ち上がるだろう。

 如何にして水中に潜む敵を地上へ引き摺りだすか。それが大きな課題だ。


「そうか。……この敵と、マインの知っていることの〝差〟はあるかい?」

「差、ですか。そうですね」


 まず、場所の違いが上げられるわね。

 西遊記で霊感大王が出てくるのは通天河。おいそれと渡れないほどの大河だ。

 対して、この場所は向こう岸が見える規模の湖。


 それを考えると凍らせる範囲、出力もかなり本家より低いのでは?

 本家・霊感大王は通天河を広範囲に渡って凍てつかせ、まったく溶けない状態を保っていた。

 そうすること自体に苦労している様子はない。

 きっちりと三蔵一行が通天河の上を渡るまで待ち、罠に嵌めてみせた。


 他に異なることがあるとすれば、それは挙動。

 霊感大王は雨を降らせる代わりに人身御供、生贄を求めていた。

 あっ、雨も降らせることができそうね、このギフト。


「霊感大王のギフテッドは生贄を求めたわけじゃありませんわね」

「……被害の有無か」


 あくまでギフトだ。原典のエピソードを再現するために登場しているわけではないし、私みたいにこの世界の人間の意思だってギフテッドにはあるはず。そもそも。


「敵は水中にはいないかもしれません……」

「ギフテッドは人間のはずだから?」

「はい。なんらかの意図があったとして、この世界でギフト『霊感大王』を授かった人間が水中に延々と待機する理由は、ほぼないはずです。ましてフィナさんが近くにいたはずもない時期でも、こうして湖を凍てつかせていたというのなら狙いはフィナさんでもない……?」


 西遊記の霊感大王の目的は三蔵法師をさらって食らうことだ。

 このギフテッドは似たポジションのフィナさんを狙っていない。


「必要なのは、どういった周期でこの湖が凍てつくのか。凍てつく際、周辺にギフテッドが現れないかの確認だね」

「はい、そうですね。今すぐ被害が出ている状況ではないのなら、ここは待ってもいいかもしれません」


 私とヴィル様は互いに視線を合わせてから頷き合う。

 まずはさらなる聞き込み調査と、張り込みによる犯人の確認ね!



 というわけで私とヴィル様は聞き込み調査継続。

 そのおかげで、この湖が凍るようになった時期や、その周期がわかった。

 こうなり始めたのはどうやら私たちの夏季休暇の間のことらしい。

 それ以前にはこういったことはなかったそうだ。

 つまり、つい最近のこと。


 加えて、海難事故が多発するようになったのも同時期だ。

 間違いなく裏ではつながっている。

 今すぐ湖の方で被害が出ないようなら、先に海難事故の調査を進めてもいいかもしれない。


 一通り調査を進めたあと、合流場所である宿へ向かう。

 デート気分はすっかり抜けて、ちゃんとした調査活動になっていたわね。



 そうして宿。

 広めの部屋に全員が集合し、別行動してからの成果を報告し合う。


「凍てつく湖なんて、すごいです。見てみたい」

「まぁ、確かに害がないならちょっと楽しい光景ではあるわね」


 あれ、本当になんのためにやっているのかしら。


「ミニ・マイン……分身を見張りに置いてきたわ。ただ、口頭の報告が難しいから、被害が出ないようにするように命じてあるわね」


 私は他の皆に何かあったかを聞く。すると、まずフィナさんチームから。


「私たちの方は、ちょっと困ったことになりまして」

「困ったこと?」

「行き倒れていた人なんですが、どうやら空腹なんかじゃなくて〝呪い〟にかかっているとかで」

「呪い?」


 西遊記でもあるような、ないような。

 三蔵一行は各地を旅し、権力者ともよく会う。国規模の問題にもよくぶつかる。

 ただ、なんらかの呪いがかけられるパターンというと……。


「その方は、どうやら妊娠していらっしゃるんですけど……」

「あら、妊婦さん? あれ?」


 確か、フィナさんたちが介抱していたのは男の人じゃなかったかしら。


「その方、男性(だんせい)なのです……」

「…………」

「…………」

「ええと」

「太っているだけじゃなくて?」

「いえ、それが、ジュリアンさんが分析してくれて気付いたことでして。確かに子が宿っていると……大きくなったお腹に」

「……本人に自覚はなし?」

「はい。伝えてもいません。混乱してしまうと思って」

「それはそうでしょうね……」

「マイン様、何かご存知でしょうか」

「心当たりはあるわね……」

「あるんですか!?」


 西遊記で妊娠にまつわるエピソードはある。

 西梁女国(さいりょうじょこく)、または女人国(にょにんこく)の子母河(しぼが)だ。


 三蔵法師と八戒が旅の途中にあった子母河という川の水を飲む。

 すると、その川の水は『性別に関係なく妊娠し、三日で子供が生まれる』という不思議な水だったという。

 間もなく二人のお腹は膨らみ、胎児が動き出す胎動さえ感じ始めたという。

 『男の俺が子供を生むのか!?』と泣きわめく猪八戒。

 三蔵法師も動揺し、たいそう顔を青くする。

 なお、水を飲まなかった孫悟空と沙悟浄はその事態を見て大爆笑したとか、しないとか。

 もちろん解決には動き出すけどね。


「……緊急案件ね。三日で子供を生むことになるわよ、その人」

「ええ!? 三日で!?」

「でもギフトは……なんになるのかしら、それ」


 子母河自体は妖怪の仕業ではなく、女だけの国で子供が生まれるためにある、当たり前の環境みたいな扱いだったはず。

 それはそれでどうかと思うけど。


「ラグナ卿とヴァリー様の方は……」

「俺たちもあやしいのを見つけたぞ」


 そっちにも難が!?


「南方の地域で、なんと血の雨(・・・)が降ったそうだ」

「血の雨……? それは戦闘があったと?」

「いや、違う。文字通り、赤い、血の雨だったそうだ」

「ええ?」

「カーマイン、心当たりは?」

「……あるわ」

「これもあるのか! あはは!」


 ラグナ卿は思わずといったふうに大笑いする。まったく笑い事ではないのだが。


「しかし、これでわかったな」

「何が?」

「カーマインの見立て、予測は正しい。このヴァレンシュタイン領でこれだけの心当たりがあるトラブルが発生しているんだ。間違いなく、目的のデカブツもいるだろうよ」

「それは……」


 そうかもしれないけど。

 ここまでくると嬉しくないわね!


 しかし、これはどこから手をつけるべきか。

 最速で手を打たないといけないのは、子母河の水ね。


「フィナさん、浄化でその人の呪い? は解けなかったの?」

「ええと……。最初の、行き倒れていた時にギフトを使った時は、変化がありませんでした」


 フィナさんのギフトの光は全部乗せの光だからね。浄化も癒しも同時に行える。

 行き倒れを助けるためにギフトを行使したなら、ついでに浄化もなされたはずよ。


「ただ、そのあとに再度ギフトをかけることはしませんでした」

「それはどうして?」

「だって子供がいるって……。それを私のギフトで……どうにかしてしまうのは」

「……ああ」


 確かに。

 生まれてくる子がどういう子として生まれてくるのかはわからない。

 原典での子母河を利用するのは、あくまで女性たちであり、男性の被害者はいなかった。

 三蔵法師と猪八戒も生む前に『落胎泉(らくたいせん)』の水というものを飲み、事なきを得たのだ。


 しかし、現実でこの問題に直面すると……。

 フィナさんに、聖女の力で子供をおろさせることになるの……?


「マイン様、どうにかできないでしょうか」

「そもそも男性が妊娠したとして、どう生まれてくるのでしょうか」


 ジュリアンさんが当然の疑問を呈する。

 それは原典でも話題になったことだ。

 猪八戒が『どこから生まれるんだ?』と、真剣に心配するのがコミカルなエピソードとなっている。


「さぁ……。その、私の知っている物語では解決するから。実際に男性が出産するシーンはないのよね」

「どうやって解決したのですか?」

「……落胎泉の水というのを手に入れて飲ませたのだけど。この場合、どこにそれがあるのか、それもギフトなのか、ということになってくるわ」


 原典にのっとった解決手段は思い浮かぶが、それはこの世界でどうなっているのか。


「それもギフテッドが再現するということか、カーマイン」

「ええと、それは確実には言えないんじゃ……」

「だが、お前は幽霊メイドのギフテッドを言い当て、助かるためのギフトがあると言っていただろう。これは似たような問題ではないのか」


 幽霊メイド、ベラゴート伯爵家で仕えていたアンリエッタさんのことね。

 確かにあの時は原典にのっとった解決手段があった。


「『落胎泉の水』」


 私は手の平を開き、他のアイテム類と同じように唱えてみる。

 しかし、今回は出てこない。

 確か、この水を得たのは孫悟空ではなく沙悟浄だったか。

 孫悟空が敵の注意をひきつけているうちに、沙悟浄が水を汲み上げるのだ。


「……私が探している大物、沙悟浄のギフトがこの水を生み出せる可能性はあるわね。でも、三日ですべて片付けられるとはちょっと思えない……というか、猶予が三日なのかも微妙。その男性はいつからそんなことに?」


 まず、被害者の足取りから追うべきだろう。

 エピソード昇華型のギフトなら、そのエピソードにおける敵、『如意真仙(にょいしんせん)』という妖怪が、この水を生み出せる可能性はあるかも。

 ちなみにこの如意真仙、義理の関係の孫悟空とは異なり、本当に紅孩児の叔父だったりする。


「なんにせよ、必要なものを生み出せるギフテッドを捜すか、デカブツを倒して味方につけるか、或いは」


 或いは。


「生んでもらう(・・・・・・)か、だな」

「「「…………」」」


 みんな思ったことだろう。どうやって、どこから、と。

 ま、まぁ、お腹を裂いて出てくるとしてもフィナさんがいれば治療できるかしら?


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― 新着の感想 ―
これがほんとの子を産むギフトかぁ。 3日で産まれるとして、それちゃんとした人間なのかも問題。 そこまで大きくなるのに落胎水でなかったことになるってのも怖いわ。 それにしても別行動した途端各々に立つフ…
赤子はどこにいるのかな。男に子宮ないのに、、、
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