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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~【書籍化企画進行中】  作者: 川崎悠
第6章 捲簾大将

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169 行き倒れ

 お泊りイベント翌日。

 男性チームは喧嘩せずに一日過ごせたようで何よりよ。

 というわけで昨夜、女性チームで話し合ったことを共有する。


「合言葉?」

「ええ。敵も変身してくるから。私はギフトで見破れるけど、常時発動しているわけじゃないし。ちなみに今のところは……」


 私は火眼金睛を発動し、男性チームを見る。

 うん、別人が化けている様子はないわね。


「大丈夫そうだから、今のうちに。ちなみに合言葉は三つよ」

「三つも?」

「一つは女性チームのみが知っている合言葉、一つは今から全員で共有する合言葉、最後の一つは男性チームと私だけが知る合言葉ね」

「……ほう」

「共有の合言葉は普段使いする。万が一、それが漏れてもいい。ここぞという時に女性チームのみ、男性チームのみの合言葉を活用するの」

「なるほど」


 合言葉が一つだけだと思った相手がひっかかるかも、ってやつね。

 男性チームのみで緊急会議を開いてもらい、その間に私は出発の準備をする。

 四健将と分身変化を入れ替えて、指示を聞いて動く馬に。

 馬車は昨日一日そのままだったけど、とくに変化が緩んでいる様子はないわね。


 女性陣には先に馬車に乗ってもらって、そのうちに男性陣は合言葉を決めたようで共有してもらう。


「合言葉は──……だ」

「ええ、わかったわ」

「では、邪魔をするぞ」


 と言いながらラグナ卿が御者席へ。はい?


「何しているの、ラグナ卿」

「今日は俺がこの席だ。小侯爵とも話し合っている」

「ええ……?」


 何を一日交代制度とかしているの。

 ヴィル様に視線を向けると苦笑いを浮かべている。

 くっ、理性的で対話ができる人たちはこれだから。

 毎日奪い合いとかはしなくて、話し合って一日交代という理性的な決着!

 もう少しドキドキイベントを繰り返してくれていいのよ。



 まぁ、そんなこんなで私たちは出発。

 三蔵一行の旅も、三蔵は白馬に乗っていることが多いけど、弟子たちは徒歩。

 まぁ、その気になれば雲に乗って飛べるとはいえ。

 馬の歩く速度での旅だったことだろう。

 それを考えると馬車での旅は、ちょっと早いわよね。


「それにしても」

「はい」

「もっと敵がわんさか出ると思ったがな」

「あー……」


 この道中、どう考えても正規ルートじゃないからね。


「聖女がどこにいるかを明かした上で王都からのんびり移動していたら、もっと襲撃者がいたと思うわよ」

「……なるほど」


 今回は縮地で道中スキップ、馬車もその場で用意したから移動前に情報が洩れることもなし。

 この状況で聖女狙いの敵がポップしてくる方が怖い。

 どうやって居場所を掴んだという話だもの。


「このまま、まっすぐ領都へ向かうのか?」

「そうね。まずは海難事故の原因究明が当面の目標よ」

「海で出てくる敵か。なぁ、カーマイン」

「なんです、ラグナ卿」

「カーマインの想定している敵はギフテッドだけになっていないか」

「……というと?」

「アイゼンハルトでは魔獣が大量に発生したのだろう? 敵が組織なら、襲撃に利用するのはそういう技術じゃないか」

「…………確かに?」


 私の基本想定は、西遊記系ギフテッドの敵と、乙女ゲー軸での登場よ。

 そこにはアイゼンハルト領で発生したような大量の魔獣発生は入っていない。


「でも、魔獣方面は、まるっきり予測できないわよ」

「まぁ、そうだと思っている。昨夜、小侯爵に聞いたが前兆となるようなことは、ほぼなかったそうだな」

「……そうなの」


 私は、チラリと車内のヴィル様に視線を向ける。


「どのような魔獣が現れるかはわからないにせよ、出てくるタイミングは読めないのか?」

「出てくるタイミングというと……」


 アイゼンハルト領で魔獣が発生した時、フィナさんもG4も王宮にいた。

 ということはヒロイン現着で発生するイベントじゃない。

 あれはヴィル様狙いだったと、あとで判明している。

 加えて王国の混乱ね。騎士団長の領地ということで、そこがボロボロになったなら戦力ダウンは否めなかった。


 ヴァレンシュタイン領で魔獣が発生するとしたら、どういうタイミングかしら。


「……一つ、考えられるのは、やっぱり半年後のヴァレンシュタイン家次男の結婚式を襲撃するのが大量の魔獣というパターンね」

「海からの魔獣発生か?」

「……たぶん?」

「どの道、海難事故の調査と一緒に調べる必要があるな」

「そうね、あとはちょっと範囲が広すぎて特定する要素がないかも……ただ、何かしら起こるとすれば、この半年以内だと思う」


 ジュリアンさんが領地へ行く理由が、結婚式ではなく『領地が襲撃に遭ったから』というのもあるわよね。

 次男ウィリアム氏が怪我をしたというなら、レティシア嬢だって気が気じゃない。

 婚約者を心配して駆けつける! なんて展開もあるかもしれない。

 その時も、やっぱりジュリアンさんは同行するでしょう。


「私の想定していた事態が早まる可能性は、けっこうあるかも」

「そうか。俺たちが手の出せる範囲で出てくれると嬉しいがな」

「……まぁ、どうかと思うけど、そうね」


 そういう話はさておいて、と。


「あと観光もするわよ」

「観光?」

「フィナさんとエミリアが友人として旅行する場合、どこへ行くか? を基準にして、昨日考えてもらったの」


 聖女が行く先に難あり! である。

 とりあえずそんな感じで。ここはのんびり……進んでいたのだけれど。



 領都近辺にまで差しかかったところ、街の一角に人だかりができていたの。


「あれってなんの集まりかしら」

「さて」


 襲撃系の騒ぎ方じゃない、何かに好奇心で群がっている様子だ。

 ここはギフト発動! 孫悟空の聴覚!


『行き倒れ?』

『誰か憲兵さん、呼んだ?』

『まだ若いのになぁ……』

『どうしてこんなところで……』


 おおふ。なんですと?


「誰か行き倒れているみたい」

「行き倒れだと?」

「え、大丈夫なんですか?」


 フィナさんがここで身を乗り出す。

 あっと、これは!


「マイン様、いえ、四健将さん、馬車を止めてください!」

「「ウキ?」」


 馬車を引く馬に化けている四健将がフィナさんの言葉で馬車を止める。


「私、行ってきます!」

「……いってらっしゃーい」


 ヒロインダッシュは電光石火!

 馬車が止まると同時に勢いよく扉を開き、行き倒れた人へ向かって一直線!


「行かせていいのかい? マイン」

「いえ……。四健将、一人、透明になってフィナさんのそばに待機してくれる?」

「ウキー!」


 私がそう声をかけると車内の四健将の一人がミニ筋斗雲で飛び出しながら隠身法で透明化する。


「火眼金睛」


 私は片目だけ火眼金睛を発動して、透明化した四健将とフィナさんが突撃した辺りをザッと眺めた。

 とりあえず、パッと見で変化している相手はいなさそう。


「……私もセラフィナ嬢の援護に向かいます。容態を確認することはできるでしょう」

「任せるわ、ジュリアンさん」

「では、私も……」

「ええ、エミリアもお願いね」


 ダッシュしたフィナさんを追いかけるように二人が向かう。

 残りメンバーは離れた場所に止めた馬車で待機よ。

 通行の邪魔にならないように少し横に逸れておく。


「ラグナ卿はどう? 何か匂いがする?」

「……そうだな」


 ラグナ卿は、フィナさんが突撃した人だかりへ目を凝らす。

 私も警戒して、その様子や周辺に目を光らせた。


「……わからん」

「そうなの?」

「カーマインが横にいると、そちらに気配が持っていかれる気がする」

「ええ……?」


 なんと、そんな弊害が?

 孫悟空オーラに負けて、ラグナ卿の嗅覚や直感が役に立たなくなっている!

 ……探索パートでは、私たち別行動した方がよさそうね。


「だが、ヴァレンシュタインの三男のギフトが使えるだろう」

「そうね」


 このタイミングで遭遇する行き倒れ。

 あやしいけど、聖女を待ち構えていたとは思い難いタイミング。

 でも、フィナさんは難を引き寄せる疑惑があるからねぇ……。

 相手が待ち構えていなくてもトラブルは起きるかもしれない。


 西遊記でも、道中の敵は『なに? 三蔵法師が近くまで来ているだと? なら食おう!』みたいな感じで、三蔵一行が訪れたことをきっかけに動き出す妖怪がたくさんいるのよね。

 下手したら、その手の行動原理で相手が動くかも。



 しばらくすると歓声が上がる。フィナさんが『聖女』のギフトを行使したのだ。

 目立つ光によって行き倒れた人は助かり、人々に聖女が認識される。

 それ自体はよいことではあるものの、けっこうな街の中心で、多くの目撃者を発生させながら、大々的に聖女の存在が明るみになったわ。


「……よかったのですか、マロット公爵令嬢」

「……思うところはありますが、やっぱり聖女の存在が知れ渡ってからが本番かと」

「なら、いいのですが」


 これで、この地で発生するイベント群(ぐん)のフラグが立った。

 そんな気がしたわ。


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― 新着の感想 ―
フィナさんは囮の天才。 聖女バレしてからがフラグ回収本番ね。
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