168 ルート考察
騎士隊に馬車を止められたあとはとくに問題も起きず、拍子抜けだった。
騎士隊長に案内された通りに進み、ジュリアンさんにも道案内をしてもらった結果、あっさりと宿に着く。
ここまでの道中、港へ続くルートだからか田舎感はどこにもなく、ずっとそれなりに栄えた街並みが続いていたわね。
それで今夜の宿を取ることになったの。
縮地でこの地方に跳んできたので当然、予約はしていない。
王女その他、高貴な人々だけどその日に宿を確保する暮らし。
幸い、部屋の確保はできたものの、男女別に二部屋の団体用。
私、フィナさん、エミリア、ヴァレリア殿下。
ヴィル様、ラグナ卿、ジュリアンさん。
ヴァレリア殿下は幸い、受け入れてくれたけど。
気になるのは男性チームよね。気まずくない? 大丈夫?
三人ともきちんと会話できる人たちだから、流石に喧嘩とかはしないと思うけど。
男性チームの部屋についてドキドキしつつも、お泊りイベント!
案の定、フィナさんはこういうイベントを楽しめるタイプ。
エミリアもそうね。エミリアは趣味で山歩きするくらいだから、こういうのも平気。
「ヴァリー様、平気ですか?」
「ええ、問題ありません」
ヴァリーはヴァレリア殿下の愛称ね。
「大きな問題とは遭遇しませんでしたね、マロット公爵令嬢」
「はい、ヴァリー様」
「ああ、いえ」
「?」
「ウーコン嬢、でしたか」
「ああ……」
まぁ、この旅の間はそれでいいけどね。悟空で。
「ふふ、どういう意味の名なのですか?」
ヴァレリア殿下はおかしそうに微笑む。冗談だったようだ。
「私のギフトの名を言い替えたものですね」
「まぁ、そうでしたの。もしかして私のギフトの名も他に呼び方が?」
「……あるかもしれませんけど、ちょっとわからないですね」
「あら、残念」
『玉面公主』の中国語読みは流石の私も網羅していない。
「ヴァリー様はどうでしょう? 何かを感じたりしますか?」
「……いえ、残念ですが不思議な感覚はありません」
「そうですか。まぁ、この地方に牛魔王がいるとは思えませんので、当然かもしれませんね」
牛魔王がいるとしたらどこになるだろう。
王都があやしいということになるのだけど……。
こういう場合、最後の事件が王都で起こるとしても、その前段階では別の場所かな。
ギフト『玉面公主』が本当に牛魔王の居場所を示すものなのかも不明だ。
……ヴァレリア殿下の役回りはどこになるのかしら。
やっぱりヴィンセントルートの出番よね?
私がルートのラスボス枠として、黒水晶一派の問題は毎回、解決する?
フィナさんとG4が、意外と全員まとめて行動する辺り、今の時期は共通ルートかもしれない。
或いはメインの大きなストーリーの中で、それぞれのルートが内包されているタイプ。
四ルートに分岐しているんじゃなくて全体は一本道。
一章ジークヴァルト、二章ジュリアン、三章ベネディクト、四章ヴィンセント、みたいな。
そして最終章にてヴァレリア殿下のギフトが覚醒し、牛魔王の居場所が判明! とか。
その流れだったら、私が〝大暴れする巨大猿〟として出てきてもG4たちで対処ができる。
すでに倒した三蔵一行のギフトが収まった黒水晶を利用して、三蔵法師の力を借りればいい。
それなら、緊箍呪以外に目立った特殊能力のなさそうな玄奘三蔵法師のギフトにも意味がある。
「そっち系かも」
「はい?」
もし、そういうシナリオなら四人の個別イベント時期は被らないことになる。
ジュリアンルートのイベントが、今の三年生の卒業後に起こると想定できるから、その時期は他で問題が起こらない? 同時進行かな。
レイシェル国の女王陛下がお忍びでグラムザルト王国に来るのは確定イベントとして……。
そこで女王の従者バンセイさんにG4たちが鍛え直されるのも共通のイベントっぽい。
G4の特訓期間中は、目立って大きな事件は起きないとも予想できるわね。
起きるとしたら鍛え直して強化されたあと?
「ヴァレリア殿下のギフトが本格的に発現するとしたら……少なくとも半年後かもしれません」
「……なぜそうなったのか、お聞きしても?」
「いえ、予測と、半分妄想なのですが……」
「その妄想を今まで当ててこられたのでしょう?」
「まぁ、そうなのですけど」
いえ、そもそもアイゼンハルト領のイベントが一章という可能性は低いわよね。
ジークヴァルトがそんなにすぐ成長できるとは思えないのよ。
あれは、もっと紆余曲折ないと根性が叩き直されないというか。
少なくとも今回のバンセイさん特訓のあとだと思う。
きっちり敗北を叩き込まれてからじゃないと。
夏季休暇はフィナさんとG4が一緒に行動していたのが自然な流れで、行く先々で難にも遭っているから、ここまではそういうシナリオ。
二学期頭に女王陛下が来て、バンセイさん特訓が始まって、そこまでも確定。
まぁ、そのあとなら……アイゼンハルト領のイベントが発生してもおかしくない?
いえ、ブラック猪八戒や黒風大王、黄風大王を、今のG4たちが対処できたか微妙……。
フィナさんが一年生の間は、四人とだんだん仲良くなっていくフェーズで、ジュリアンルートが一章かしら。
つまり、みんなが二年生になってからが個別イベントのスタート?
……これかも。ジークヴァルトの成長具合的な意味で。
ジュリアンさんだって本格的に失恋してからがフィナさんとの仲は本番よね。
一年生を無事に終え、ジュリアンさんに付き添ってヴァレンシュタイン領を訪れるフィナさん。
他のG4たちが同行するかは微妙なライン。
個別イベント感を出すなら、他の三人は同行していない気がする。
道中あれこれあって領地に到着。ひとまずヴァレンシュタイン家の人々とは挨拶を交わせる。
アイゼンハルト領の魔獣災害で影を落としていた日々だけど、結婚式という華やかなシーンを見ることで、これからは平和が訪れるのだと思った瞬間!
そこで悲劇が発生する!
「うーん……やっぱり、結婚式のタイミングでヴァレンシュタイン家が襲撃されそう……」
「すごく怖いことをぶつぶつ言わないでください、カーマイン様」
エミリアにツッコまれてしまう。
「いや、その」
「いえ。マロット公爵令嬢がそうして考え込んでいる時は邪魔しません」
「あ、ありがとうございます」
「必要なことですから」
一年生いっぱいが共通ルート。
二年生に上がる前、ジュリアンルートのイベントによって本格的なシリアス展開に突入。
そのあとで、ジークヴァルトのイベントか、ベネディクト氏のイベント。
ヴィンセント殿下のイベントは他三人が終わったあとでしょう。
孫悟空がルートラスボスなのは四人の中の大トリというわけだ。
……三蔵法師のギフトが封印された黒水晶があれば、悟空だけでなく八戒や沙悟浄の力も抑えられる気がする。
ということは、一章ジュリアン、二章ベネディクト、三章ジークヴァルトの流れかも?
もっと弱体化させてから倒すべきブラック猪八戒を私がゴリ押しで倒した?
なんか、あの『虎先鋒』の男も、もっと先までいそうな悪役っぷりだったものね。
「ええと」
ルート構成は、この際、横に置いておくとして。
問題は実際に起きそうな〝難〟についてだ。
道中、フィナさんが様々なトラブルに遭遇するのは確定。
そこはもうご愛嬌というか、お約束というか、そういうものとして。
重要なポイントはヴァレリア殿下のギフト『玉面公主』だ。
玉面公主がいるなら……。
「ヴァリー様」
「はい、マロット公爵令嬢」
「ギフト『鉄扇公主羅刹女』は必ず存在します」
「らせつ……?」
「牛魔王の正妻、第一夫人の女性の名です」
「……なるほど」
玉面公主がいる以上、羅刹女が出てこないはずがない。
敵か味方かは微妙なライン。紅孩児が味方側で、孫悟空たちが敵側だし。
でも味方サイドに玉面公主がいるなら、敵側な気がする。
「それこそ勘なんですけど、貴方のギフトが覚醒して、敵の首魁の大まかな場所がわかったあとで向こうから接触してくる気がします」
「第一夫人が、第二夫人を気にするから、ということですね」
「はい」
牛魔王がギフトの正体そのままとしたら、羅刹女も? いや、わからないわね。
でも羅刹女のギフテッドがいるならヴァレリア殿下に目をつける気しかしない。
「それと」
「ええ」
「もし、ヴァレンシュタイン領で、ジュリアンさんの家族がこの先、惨劇に見舞われそうな要素があったとしたら……」
「ええ」
「たぶん、ヴァリー様のお命も将来的に危険かな、と」
私がそう口にすると、フィナさんやエミリアが息を飲む。
ヴァレリア殿下は少し驚いたあと、ふっと微笑んだ。
「ふふ、はっきりとおっしゃるのね、マロット公爵令嬢。どうしてそう思うのかは聞いても?」
「ええと、シリアス路線なら、というか。最終局面で牛魔王の居場所さえ掴めれば、おそらくヴァリー様のギフトの役目は果たされたことになると思います」
「……そうですね。重要な役割だと思っています」
「はい、とても重要です。重要ですから、そのことに意識を集中されるかと思います」
「それは当然」
「そして、どうにかヴァリー様はお役目を果たされて……」
「はい」
「果たされた達成感を得ると同時に後ろからザシュッと」
「…………」
私は手で剣をこう切りつける仕草をする。
「そのタイミングが一番悲劇的で、ドラマティックで、敵にも味方にも意味があると言いますか」
「…………」
「敵はヴァリー様からの情報を遮断したつもりで去っていきます。王宮は騒ぎとなり、そのあと悲報が国を駆け巡り、民は嘆き……。ヒーローたち……ヴィンセント殿下たちは無力感に苛まれることになります。王国は敵の手がかりをすべて失ってしまう」
「…………」
「ですが、そのあとでフィナさんが、ヴァリー様の残した記録から、敵の居場所を示した何かを見つけます」
「えっ、私!?」
フィナさんが首を傾げていたところで突然、話に出てきて面食らっている。
そこはヒロインの役目だ。
ヒーローたちの誰かが解決してしまったら、ヒロインの存在感が薄くなる。
「……警戒すべきなのはそうですね」
「はい。その時は私が身代わりになりますよ、ヴァリー様」
「……身代わり?」
「私ならギフトでヴァリー様に変身できますし、切られても刃が通らない体になれますから。それに分身に変身させる手も打てます」
実は部屋の隅で大人しくしている四健将たちに目を向ける。
なお、馬の変身は解いている状態。
あやしまれないように身外身法で分身を出し、馬に変化させて休む仕草をさせている。
「先程のような……」
「はい、分身を生み出してヴァリー様の身代わりを置くのも手ですね。ヴァリー様は、もしもギフトが発現した際は私と合流してもらうということで」
「……一考しておきましょう」
「はい。あと今、思い出したのですけど」
「ええ、何か?」
「ギフト『玉面公主』は、もしかしたら狐系の獣人に変身できるかもしれません」
「狐。獣人……変身?」
「ちょっと、確実とは言えませんので。他にあるとすればエピソード昇華型で……美しくなるとか莫大な財産を受け継ぐことにちなんだもの? 戦う力はないことは、はっきりしています」
「……そうですか。少し残念ですが……。つまり『物語』の中では、玉面公主は美しい存在なのですね」
「はい、それは確かです」
「元が愛人、第二夫人ということで不穏ではありますが……。想定外でした。美しさや財力に関わるギフトとは……」
「いえ、あくまで私がそういう可能性があると思っているだけで」
「はい、確実ではないと心得ておきます」
でも、ギフト効果が美容とか、財産が舞い込む系なら、ちゃんとギフトっぽいかも。
ヴァレリア殿下なら悪用もしなさそうだからね!
まぁ、ギフト効果がなくても成長すれば美しい女性になる素養は十分だけど。
……それにしても。
考えていくと、このパーティー。
私、ヴィル様、ラグナ卿、ヴァレリア殿下と。
なんだか、本来なら死んでいそうなメンバーが多いわね?
まぁ、考察はここまでにしておいて。今夜はお泊りイベントよ!




