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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~【書籍化企画進行中】  作者: 川崎悠
第6章 捲簾大将

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167 足止め

「八戒、姿を隠すか、ぬいぐるみのフリ……化けて(・・・)」

「ウキ!」


 ヴィル様の膝の上でご飯を食べていたのをゴクリと飲み込んでから、ミニ猪八戒はボフン! と軽く煙を立てて変化する。

 アイゼンハルト領で売られている〝赤毛の妖精〟ぬいぐるみの姿よ。


「四健将たち、止まって」

「「ウキ!」」


 馬の姿なのに鳴き声は変わらないのよね。

 なお、ツッコんでいなかったけど尻尾が猿の尻尾だ。

 四健将の変化では、本家・孫悟空のように変化で尻尾が見えてしまうのね。

 私の変化は本家より完璧だったり? いえ、けっこうバレているわよね。

 なんか察知する人が多いのよ。


「騎士隊のようだね」


 ヴィル様が近付いてきた一団を見て、そう評価する。

 お揃いの騎士服を着ている集団が私たちを呼び止めたのだ。


「何か御用ですか?」


 ヴィル様が隊長らしき男性に尋ねる。


「あやしい者たちが領内に侵入したと報告が入っている!」

「…………」


 私とヴィル様が互いを見合う。

 え、私たちがあやしい者たち扱いってこと? どの辺が?


「とくに目撃してはいませんよ」


 ヴィル様のスルースキル発動。

 ここで『俺たちあやしくないッスよ!?』とか言い訳したら、それこそあやしくなるものね。


「お前たちのことだ!」


 あ、私たちのことなんだ。

 いったい何があやしい判定になったのかしら。


「俺たちですか」


 かなりのメンバーを連れている。

 この騎士隊が言いがかりをつけているだけなら、とんでもないことになるわよ。


「差し支えなければ、何があやしいのか教えていただいても?」

「その女だ!」

「私!?」


 名指し! 指を差さないでくださる? 一棒食らわせるわよ、ウキィ!


「彼女が何か……?」

「その服装、王都にある王立学園の学生が着るものだろう! それがなぜ、このような場所にいる!?」

「あ」


 そこね!


「しかも、その学生服を着た女子が馬車の御者をしている! これがあやしくなくてなんだというのか!」

「あー……」


 今回、公務の一環ということで私、フィナさん、エミリア、ジュリアンさんは学生服だ。

 それだけならまだしも、その服装で御者をしているのはおかしい、と。

 ごもっともである。


「言われてみればそうだね、あはは」

「ヴィル様」


 ヴィル様がおかしそうに笑う。

 前世でいえば中学生や高校生が、自動車を運転しているところを目撃されたようなものかしら。

 しかも制服を着て。

 警察がそんな光景を見たら『待て待て待て!』となるだろう。


 加えて、職業差別とか性差別のつもりはないけど。

 正直に言って、この国では馬車の御者をする人は男性がほとんどだ。

 少なくとも女子学生がするものではない。


「あのー、あやしい者ではありませんよ、私」

「……誘拐されているわけではないのはわかる」

「それはそうですね」


 この一団、陛下から特命を帯びての行動だけれど、問答無用で一般人に言うことを押し通せる命令書などは持たされていない。

 行動や、目標を設定するのは私の役割だった。

 まさか、こんな日常部分で初手からつまずくとは。


 王立学園に通っているのだから貴族だろう、とはならない。

 平民の生徒も在籍している。

 どの身分であろうと、この状況がおかしいことには変わりない。


「……どうする? マイン」

「……私が決めます?」

「名乗った方がいいなら名乗るよ。でも、隠した方がいい場合もある」

「それはそうですね……」


 堂々と名乗ることはできる、が。

 この地には敵がいる想定なのよね。

 いきなり身分を明かして、私たち……聖女やジュリアンさんが来たということが敵に伝わるのはよろしくない。とはいえ。


「失礼ですが、貴方たちはどちらの騎士でしょうか」

「我々はヴァレンシュタイン家の騎士だ」


 そのヴァレンシュタイン家の三男が馬車に乗っているわけだけど。

 まだ、彼が来たことは隠しておいた方がいい気はする。

 少なくとも、いきなりアドバンテージを失うようなことはしたくない。

 それを理解しているのか、ジュリアンさんも大人しくしてくれている様子。

 私に判断を委ねるということよ。

 さて、どうしたものか。


 何をトリガーとして敵が動くのか不明なのよね。

 西遊記では、敵の狙いは三蔵法師一択だ。ある意味シンプルでわかりやすい。

 でも、この世界では?

 私は馬車の中を振り向く。んー……。ここは。


「私たち、学生の友人同士で旅行に来ましたの」

「……今はもう学園が始まっているはずだ」

「ええ、始まっていますわね」

「ならば、ここにいる理由は」

「その事情まで貴方に話さなくてはいけなくて? 少なくとも私、隠れていませんわよ」

「何……?」

「ですから、こうして堂々と学生服を着て活動しております。誰に目撃され、どう学園に伝わろうと問題ないということですわ」

「…………」


 堂々と学生服を着ているということの意味を騎士隊長は考える。

 頭ごなしに決めつけるのではなく、理屈が通じるタイプと見た。


「ただ、それだけでは貴方も納得できないでしょう。私たち、しばらくこのヴァレンシュタイン領に留まる予定ですわ。それなりの宿も取る予定ですの。学園に問い合わせるなど、していただいてかまいません。私たちは逃げも隠れもしませんから。問題がありましたら、また来てくださいね」

「む……」


 こういう時は堂々とするものよ。

 まぁ、それはそれとして。


「ですが、貴方の疑問はもっともな話。ですので、ひとつだけ、教えて差し上げます」

「……何を」

「この馬車には今、聖女様が乗っているんですよ」

「……は?」


 私はそこでニコリと淑女スマイルを浮かべておく。


「私たちは彼女の護衛も兼ねた友人ですの。学生でありながら今、この地に来たのは必要だから。問い合わせる相手は王立学園でも、ヴァレンシュタイン侯爵でもかまいませんわ。また、貴方たちは当然の職務をこなしただけ。私たちから貴方たちを訴えるような真似はしないと約束します」


 前世ほど身分証を提示して、どうこうということはない。

 もちろん厳重な検問が敷かれているとか、そういうことなら話は変わるけど。

 ただ、今回のこれは一般的な職質でしょう。

 全員の身分がわかるまで拘束する! なんてことは正規の騎士隊ならしないはず。


 騎士隊たちの間でも動揺が広がる。

 もしかして、軽々しく呼び止めてはいけない類の相手だったか、と。

 実際そうなのだが、それは置いておいて。


「領地に入ったあとの宿を教えてくださる?」

「……宿?」

「ええ」


 ヴァレンシュタイン領は港を有する、海に面した領地よ。

 とはいえ、今いる場所はまだ領地に入ったばかりの地点。

 まだまだ海は遠く、馬車の速度では、あっという間に到着というわけにもいかない。

 しかもこの馬は四健将なので、無理に働かせすぎるのも考えものだ。


「領都に着くまでにある宿と、領都に着いてからのおすすめの宿ですわ。そこで私たちが宿泊できるかはさておき、貴方のおすすめしてくれた宿に、一度は顔を出しましょう。そうすれば私たちの足取りも追いやすくなります。気になることが見つかったなら、あとから捜索隊を出していただいてかまいませんよ」


 そこまで言ったあとは相手の判断を待つだけ。

 もし、強引に来るのなら、こちらヴィル様とラグナ卿という戦力、王女と領地の三男という権力者が揃っている。

 いざとなればどうとでもなるわ。


「……わかった。だが、名前を聞かせてくれ」

「……それは私の?」

「ああ」


 私がメインで話したからか、ヴィル様ではなく私の名を聞くという。

 馬車の中にいるメンバーは確かめなくていいのかしら。

 本名を名乗る? 本当に学園に問い合わせるか微妙よね。

 あっちに連絡がいったあとは、王家がうまくとりなしてくれると思うけど……。


 ちなみに敵側に私ってどう認識されているのかしら。

 西遊記のギフトサイドの意識があるなら『孫悟空!?』と怖れる気はするものの……。

 紅孩児や金角・銀角クラスのネームドギフトでも、孫悟空だからと警戒する傾向がない。


 どの道、ここでマロット家の名前を出すと、余計にややこしいような。

 それこそ『なんで公爵令嬢が御者をしているんだ! この嘘つきめ!』といわれて、全部が嘘だとみなされてしまう。本当のことなのに。

 ここは例の名前でいくしかないわね。


「私はスウェン・ウーコンと申します」

「ウー……? 聞かない家名だ」

「あまり、私の家の者が家名を名乗ることはありませんのよ。やんごとなき方々をお守りすることが、我が家の家業ですの」

「……そうか」


 高位貴族などの護衛専門の家系、みたいな雰囲気を出してみるテスト。


「もう行ってもよろしくて?」

「…………、わかった。宿だが、本当に聞くか」

「ええ、教えてくださいな」


 騎士隊長におすすめ宿と、そこへの行き方を教えてもらい、ついでに領都までどのくらいで着くかなども聞く。

 あやしまれてはいるものの、強引に拘束してくる気はなさそうね。


「口がうまいね、マイン」

「誉め言葉として受け取っておきますわ」

「もちろん褒めているよ」

「ウキ? ウキ!」


 ボフン! とミニ猪八戒がぬいぐるみ姿から元に戻る。


「よしよし、いい子にしていたね、八戒」

「ウキィ」


 なぜか大人しくしているだけでヴィル様に頭を撫でられるミニ猪八戒。

 撫でられて素直に嬉しそうにしているところを見るに、太々しい猪八戒の性質はそこまで受け継いでいないのかしら。

 そして、ちょっと羨ましい。

 とりあえず一難は去ったわね。ふぅ。


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― 新着の感想 ―
マインちゃんが なでてほしそうに こちらをみている! なでてあげますか? はい いいえ
 いいなぁヴィルヘルム⋯⋯。
羨ましくなるマインちゃん可愛い(´▽`) 縮地して馬車調達から御者、その上職質まで(笑) 誰よりも働いてる公爵令嬢……(*´・∀・)
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