164 ジュリアンへの問答
現在、グラムザルト王国は謎の敵、黒水晶一派により攻撃されている。
各領地で様々な問題が人為的に起こされている状況よ。
それらを把握した王家からの特命を受け、私は仲間と一緒に王国南部へ向かうことになった。
目的地はヴァレンシュタイン侯爵領。
海に面する、王国一番の港を有する領地ね。
向かうメンバーは少数精鋭。
まずは私、カーマイン・マロット。公爵家の長女、ギフトは『斉天大聖孫悟空』。
同行するのは六人。
ヴィルヘルム・アイゼンハルト小侯爵、ギフトはないけど、かなり実力ある騎士。
ラグナ・ヴォルテール辺境伯令息、ギフトは『聖嬰大王紅孩児』。
セラフィナ・アスティエール子爵令嬢、ギフトは『聖女』。
エミリア・ラウゼン男爵令嬢、ギフトはなし。
ジュリアン・ヴァレンシュタイン侯爵令息、ギフトは『真理の探究』。
ヴァレリア・フォン・グラムザルト王女殿下、十三歳、ギフトは『玉面公主』。
以上の七人で事に当たる予定。
一応、王家やアイゼンハルト家からの騎士を動員してもいいとは言われている。
ただ、そうなると大規模な遠征計画になるため、見送っているわね。
敵がいるとわかっている以上、私たちは少数精鋭の先遣隊でもある。
ギフトは普通のものと、今までハズレギフト扱いだった『西遊記』由来のギフトがあるみたい。
なぜ西遊記系のギフトがこの世界に蔓延しているのかは不明。
三、四十年前から増えてきたみたい。
黒水晶一派のトップは……平天大聖牛魔王。ギフトの正体そのものが黒幕らしい。
はたしてギフテッドが体を乗っ取られたのか、それとも食い破って、牛魔王そのものが実体化したのか。どちらもあり得そう。
ギフトの正体そのものが実体化するケースは、すでに目撃している。
猪八戒、金角大王、銀角大王や、マイナーなやつまで。
フィナさんたちが遭遇したらしい、樹木の精霊もそうかしらね。
なぜ、ヴァレンシュタイン領へ向かうのかというと、私の推論が根拠となっている。
確証はないけれど、ここで私の予想通りに『捲簾大将沙悟浄』と遭遇することになれば、推論は間違っていなかったとみていいでしょう。
現在、ヴァレンシュタイン領では海難事故が多発しているみたい。
表向きはその件の調査となるかしら。
ギフテッドの暗躍による災害を懸念しているわ。
「マイン様、どうされるのですか?」
「そうねぇ」
フィナさんが意見を聞いてくる。
セラフィナ・アスティエール嬢、長い金髪に青い瞳の、可愛らしい容姿をしている。
愛称はフィナさん。彼女は私のことを『マイン様』と呼ぶ。
ちなみに私とフィナさん、エミリア、ジュリアンさんの四人は学園の制服を着用よ。
なぜかっていうと今回の南部遠征は〝公務〟扱いなので。
特殊任務といえど、私たちは学生。本分を忘れないように、ということらしい。
私たちの活動のカモフラージュ目的も兼ねるわね。
学園は今、絶賛、二学期だ。でも授業より国の一大事を優先である。
さらに今回、飛び入りで遠征にヴァレリア殿下も加えることになった。
表向きはそれを公表しないそうよ。
私は同行メンバーたち、ドリームチームを見渡す。
ヴィル様とラグナ卿はいわずもがな。メイン戦力の二人よ。
今回はフィナさんも一緒なので結界や治癒、浄化のサポートも期待できる。
ジュリアンさんは鑑定系プラス使い魔系のギフトなので、サポート能力は十分。
ヴァレリア殿下は、もしもの時に王家の権威を示すのとギフト『玉面公主』が、ラスボスである牛魔王の手がかりを掴む期待を込めての同行。
問題はエミリアね。
エミリアに同行してもらったのは何も親しくなったからだけが理由ではない。
彼女はフィナさんの友人ということで、私の推測を補強するために来てもらっている。
私の推測とはズバリ、乙女ゲー。
フィナさんをヒロインと想定して、ヒーローらしき人物たちの役割や配置から、これから起こるであろう事態を予測すること。
これが今まで、なんだかんだ嵌まって、いくつかの事件を潰してこられた。
転生者の私だけど、別にこの世界が本物乙女ゲー世界なのかは不明のまま。
意外と他の転生者と当たらないのよね。
私が孫悟空だから特殊なのか、悪役令嬢ポジションだから特殊なのか。
「ジュリアンさん、貴方はフィナさんを地元に誘うことになりました」
「……は?」
急に話題を振られたジュリアンさんが訝しげな表情を浮かべる。
ジュリアン・ヴァレンシュタイン。青い長髪に青い瞳、眼鏡をかけている。
ギフテッド4、略してG4と呼ばれる四人組のギフテッドの一人。
およそ乙女ゲーのヒーローポジションに当て嵌まっている。
「どのように誘う、または同行してもらうことになると思いますか」
「……どういう質問か、わかりかねますが」
「わりとこれが今回の作戦で重要なことなので確認が必要よ。真剣に考えて」
冗談でも軽口でもないとわかったのか、ジュリアンさんは真剣に考え込む。
「……私一人でセラフィナ嬢を誘う理由に心当たりがありません」
私はその様子を観察する。
まだフィナさんへの好感度が上がっていない?
夏季休暇は理由をつけてG4全員がフィナさんの同行者だった。
個別ルートに入ってから二人きりになるのか。
それともメインストーリーの大半は四人全員がついてくるのか。
バトル要素盛り盛りの世界観だし、王国全土に〝難〟が発生している。
となれば、基本は一緒に行動しているものかもしれない。
その中でも聖女一行がヴァレンシュタイン領に訪れる展開があり、そこでトラブル発生と。
ジュリアンルートで私が目をつけているのが、彼の恋する相手だ。
ジュリアンさんは三兄弟で、上に二人のお兄さんがいる。
長男は小侯爵で、すでに結婚済み。
次男は学園を卒業していて、成人済み。婚約者がいる。
次男ウィリアム・ヴァレンシュタインの婚約者は、三年生のレティシア・ボルネ伯爵令嬢。
……ジュリアンさんは、レティシア嬢に恋しているらしいのよね。
お兄さんの婚約者への叶わぬ恋だ。
以前は、兄の代わりにパーティーで彼女をエスコートしていた。
レティシア嬢が卒業すると同時にお兄さんと結婚する予定だという。
彼の密かな恋は、今年度限りというわけだ。
この世界に蔓延る〝難〟の傾向と合わせて、ざっくり先の展開を予想する。
ジュリアンさんの失恋と、フィナさんに対する恋心への移り変わりは必須。
そのためには今の段階から彼女たちの交流がある。
それなりの冒険を経て、好感度を稼ぎつつ、メインイベントへ。
……私は、そのメインイベントに沙悟浄というラスボスが絡んでくると考えている。
どうやって? まったくつながらない……。
そのヒントが領地での海難事故よ。
沙悟浄が三蔵法師の前に出てくるのは『流沙河』という大河だ。
文字通りの大きな川で、日本のスケールでは考えられない規模。
そのまま川ではないものの、海難事故と無関係とは思えない、というわけ。
まぁ、西遊記では、わりと大河越えのエピソードが多くて、水難系の妖怪も多いんだけど。
「結婚式場……?」
「はい?」
「ヴァレンシュタイン家で、結婚式を挙げる時の教会が海の近くにあったりしない?」
「……ありますが」
「あるんだ」
「なぜ、そんな話になったのです」
「まぁ、私のギフト知識による予測……?」
全然違うけど。
「結婚式場が、津波か、海難事故の原因で襲撃されるとか……」
「不吉なことを言わないでいただきたいのですが」
「その不吉なことを未然に防ぐための私たちでしょう」
「……そうですけど」
大事件が起こるとすれば、レティシア嬢が卒業してからかしら。
兄の結婚式に参加する名目で、ジュリアンさんが領地に帰ることになる?
あ、それかも。
「……ジュリアンさん、ズバリ聞いちゃうけど」
「なんでしょう」
「貴方のお兄さん、ウィリアム氏って三年生のレティシア嬢と結婚するわよね」
「…………」
あ、表情が険しくなった。踏み込むな、という怒りを感じる。
これは流石に私に非がある。どこかのジークくんとは話が別だ。
「ごめんなさい。でも重要なことだから答えてほしいの」
「……はぁ。そうですが、それが?」
「ヴァレンシュタイン領では今、海難事故が多発していて大変なのよね」
「ええ」
「お兄さんたちは、そのことで忙しく、領地を離れられない?」
「……まぁ、今はそれほどではありませんが。そういう事態もあり得ます」
「領地からウィリアム氏が離れられないまま時が経ち、レティシア嬢が卒業した場合、彼女が結婚するために領地へ向かう際にエスコート役として貴方が同行するケースはあり得る?」
「…………」
私はジュリアンさんの反応を待つ。
「……あり得る、とは思います。ボルネ伯爵家からも当然、同行する護衛や世話係はつくと思いますが、本来ならば兄が彼女を迎えに来るべきです」
「でも、領地がそういう事情なら代わりに貴方がエスコート役になる」
「……はい」
「そうなった場合、貴方が一人でレティシア嬢に同行する? それともフィナさんや、ヴィンセント殿下たちも同行する?」
「我が家のことに、わざわざ殿下を連れてくるとは……いえ、違いますね。想定されるのは、これから先ですか? つまり、グラムザルト王国の治安が今より悪化している可能性が高い」
「そうね。黒水晶一派の暗躍によって長旅の護衛は必須と考えていい状況」
「ならば声をかけると思います。いえ、私の方から殿下たちに同行をお願いする……」
「なるほど」
けっこう流れは見えてきたわね。
この流れが実現するとなると、このイベントは少なくとも半年先に発生予定?
つまり、今なら間に合う。
「その場合、旅は一緒に馬車で?」
「それはそうですね」
「そうよねー」
そこにフィナさんが同行する場合、別の難も呼び寄せるのでは?
でも、それが起きるとすれば半年後かぁ。
今、そのルートを通ったところで同じ難が発生するとは限らない。
つまり今回、馬車で地上ルートを行く意味はあんまりないかも?
じゃあ、縮地ね。
夏季休暇から二学期の空き時間で、筋斗雲と縮地を駆使してヴァレンシュタイン領までの縮地ポイントをすでに確保している。
「改めて……如意棒!」
私は朱色の鉄棒を手元に生みだす。
本家・孫悟空は如意棒を小さくして耳の穴に収めているらしいけど、ギフトだからね。
私は地面に如意棒を突き立てる。
改めて王宮周りの地脈を探ってみた。
うーん……あるけど、いきなり王宮内テレポーテーションはだめか。
今さらだけど縮地って馬車ごといけるのかしら。
距離も、運ぶ量も、けっこうエネルギー消費にかかわっている気がする。
ギフトの力は、私の中のなんらかのエネルギーを消費するのがわかっているのよ。
地脈を利用したとしても、それは同じ。
そう簡単にエネルギー切れは起こさない感じだけど、ここは節約しておきましょうか。
同行メンバーには手荷物だけ持ってもらう。
「じゃあ、みんな、ちょっと移動ね! そこから縮地の術をお見せするわ!」
以前までに確保しておいた縮地ポイントへ移動してもらう。
そう遠くはない。王都の下にはしっかりと地脈が走っている。
縮地ポイントに移動したメンバーに、それぞれ念のため、私に触れるか、手をつないでいてもらう。
瞬間移動だけど、ポーズは如意棒を地面に突き立てる形。
二本指をおでこに当てるポーズではないのよ。
「じゃあ、行くわよ! ──縮地!」
視界がぐるん! と回転する。しかも高速回転だ。
私たちの体も高速で回る。光の奔流とともに、体が地面に吸い込まれるような感覚。
一瞬のち、私たち全員が縮地先のポイントへと出現!
「……これは」
「すごい……」
縮地未体験のメンバーが一瞬で景色が変わったことに驚く。
跳んだ先は、ヴァレンシュタイン領近くの山中。
人目のない場所を選んだので、少しだけ歩くことになるわね。
「さぁ、不思議な旅が始まるわよ!」
オラ、ワクワクすっぞ!




