162 幕間 侍女マリンとミニ・マイン観察記録
私の名前はマリン・ヴェーナット。
マロット公爵家で、カーマインお嬢様の侍女をしております。
実家は子爵家であり、私も貴族の一員ではありますが、財政が芳しくないこともあり、公爵家で働くことになりました。
雇い主はマロット公爵様です。
高位貴族家の侍女という立場は、給金もよく、また縁談の手配をしてくれる場合も多いです。
多くは、ともに働く同僚や、家門所属の騎士、或いは寄子である家門の子息との縁ですね。
私は今、二十一歳となりましたが、まだ縁談はございません。
これはカーマインお嬢様の進退によって、私のその後が大きく変わるからだと聞いています。
お嬢様はヴィンセント殿下の婚約者候補、という立場でしたからね。
そうなるとお嬢様付きの侍女としてついていき、王宮で働くことも視野に入るのです。
公爵家から幾人かはお嬢様の味方として同行することになるのだと。
王宮で働くことになる場合、公爵家で暮らす相手との縁談では、のちに不都合が出るかもしれない。
そういう配慮があって、縁談が先延ばしにされているのだとか。
そんな私の人生を左右するカーマインお嬢様ですが……。
「ウキ?」
もはや、常識でお嬢様を判断するのは諦めた方がいいかと存じます。
第一王子の婚約者候補なのに、とくに殿下と交流を深めるでもなく。
むしろ、夏季休暇では別の女性とすごすという殿下を容認、もしくは無視。
家で、ずいぶんと静かに大人しくすごしていたかと思えば、目の前で忽然と消失。
あの時の衝撃は忘れられません。
いえ、二度目でしたが。
「ウキウキ?」
というわけで続報が入り、カーマインお嬢様は、なぜかアイゼンハルト領で厄介になっていると知りました。
急いで向かったところ、寝ているお嬢様に再会。
いつから、何がどうなっているのかという、わけもわからぬ状況。
そんなところで出会ったのが『小さなお嬢様』です。
「ウキッ」
最初はわけがわかりませんでした。
そこには、はしたない格好の、謎の衣装を着た、小さなお嬢様がいました。
なぜか豚の耳? です。
意味がわかりません。ですが。
「可愛いですねぇ」
「ウキー」
今現在、目の前にいるのがその小さなお嬢様。
お嬢様がおっしゃるには『ミニ猪八戒』とのことです。
なんですかね、その名前は。レイシェル王国風でしょうか。
奇怪です。
そうして、小さなお嬢様ことミニ猪八戒さんに出会い、二週間ほど、また捨て置かれました。
ガッデムです。
「ウキウキ」
アイゼンハルトの屋敷でしばらく居候させていただき、ミニ猪八戒さんのお世話をしていました。
お嬢様に仕えるようにです。
といっても、言葉は喋ってくれず、鳴き声だけですが。
けれど言葉自体は通じている様子なので、そこまで苦ではありません。
ミニ猪八戒さんは、どうやら食べるのがお好きな様子。
小侯爵も甘やかしてくださる方針で、お食事を用意していただき、せっせと口に放り込んでいきます。
可愛いお嬢様です。
実は、お嬢様は喋らない方が可愛げがあるのでは?
……失礼。言い過ぎました。お嬢様にはお嬢様のいいところがございます。
そうして二週間ほどして帰ってきた本物のお嬢様ですが……。
「「「「ウキー!」」」」
「ウキ!?」
増えていました。
まったく意味がわかりませんね。
増えたお嬢様は、なぜか赤毛の尻尾が生えていました。
動物なんでしょうか。どうやら猿をモチーフにしているようですが。
ギフトによる使い魔? なぜ、ご自身の姿を真似させているのですか。
しかし、とりあえず増えたお嬢様は、消えるものではなく、存在し続けるようです。
ならばお世話が必要です。
というわけで。
「一体は私がいただきます」
「だから何を言っているのよ、マリンは……」
四体も増えたのですから、私専用の小さなお嬢様が一人くらいいてもいいのでは……?
ちなみに、少々姿は違いますが、アイゼンハルト領ではこの子たちの等身大ぬいぐるみが売られています。
赤髪の妖精として有名になっているそうです。
何をされているんですかね? お嬢様は。
当然、一体を購入させていただきました。可愛い。
新しく増えたお嬢様たちのことはミニ四健将と呼んでいました。
一人一人の名前はないんですかね?
……あっても見分けがつかなそうです。
それからマロット公爵家に帰っても日中は、小さなお嬢様たちのお世話が私の仕事になりました。
至福です。
「わぁ、ちっちゃい姉様だね!」
「ローレンスお坊ちゃま、そちらの子にお菓子を与えますか?」
「うん! やってみる!」
「ウキー!」
小さなお嬢様たちはマロット公爵家で可愛がられることになりました。
筆頭世話係は私ですが、ローレンスお坊ちゃまだけでなく、旦那様や奥様も可愛がっております。
ただ、食事をよく食べるのはミニ猪八戒さんだけのようです。
他の子たちも食べてはくれますが、積極的には食事をしない様子。
違うお嬢様種なのでしょうか。
そのあたりを本物お嬢様からは聞いておりません。
家にいる時は、それぞれのお嬢様が別行動をするようになります。
旦那様、奥様、ローレンスお坊ちゃまに一体ずつ。
もう一体はなぜか邸宅の周りを飛び回っています。
見回りをしているのでしょうか。
使用人たちの前にも姿を見せ、邸内を賑やかにしています。
「「「「「ウキー!」」」」」
小さなお嬢様たちが揃うと、思わず頬がにやけます。
ワチャワチャと仲良くしている様子がとても可愛らしいのです。
「ウキ?」
「ウキ!」
「ウキウキ?」
「ウキー……」
会話は通じているのでしょうか。
コミュニケーションを取っているようにも見えますが、わかりません。
こちらの言葉は通じるので高度な知能を有しているはずですが。
「「「「「ウキッ!」」」」」
元がお嬢様なせいか、みな、考えなしで能天気に見えます。
……失礼。
カーマインお嬢様といえば、何やらまたおかしなことに巻き込まれたご様子。
巻き込まれたというか、巻き起こしているというか。
そうして小さなお嬢様たちも連れて、南方へ出かけることになったそうです。
学園はいいのですかね? 特別休学?
何がどうなっているのやら。
「行ってしまわれるのですね……」
「ええ、まぁ、今回は戦力も整えているから大丈夫よ」
「戦力」
公爵令嬢が何を基準にしているのでしょうか。
それと私が言いたいのは。
「寂しいです」
「マリン……」
「小さなお嬢様がいなくなるのは」
「そっち!?」
そちら以外に何があるというのでしょうか。
本物お嬢様は放っておいても大丈夫です。おそらく。
「「「「ウキー……」」」」」
ウルウルとうるませた目で見上げてくる小さなお嬢様たちとの別れを惜しみます。
「お嬢様たち、お元気で。お菓子も用意しましたので道中で食べてください」
「「「「「ウキ!」」」」
「私よりミニ・マインに仕えている!?」
こうして、小さなお嬢様たちと本物お嬢様は旅立っていきました。
その旅がグラムザルト王国の未来を左右するなど、私には知らぬことです。
ただ、お嬢様たちに幸運があらんことを願うばかり。
『曇りの聖女』、書籍化企画が今、進行中です!
現段階で話せることは少ないですが、そう遠くないうちに情報も出るかと!
応援してくださった皆様のおかげです。
絶賛、制作中ですので、楽しみにお待ちいただければ。
ミニ・マインのイラスト指定のお願いに拘っていきたい(←
ウキウキ!




