161 結成
「まず、私のギフトの正式名は『斉天大聖孫悟空』です。こちらはヴィンセント殿下にすでに打ち明けております」
ひとまず話せるところから話す。
この情報共有は今後の王国の行く末を決める重要なものだ。
私とて隠すべきではないことは隠さないつもりだけど……。
ただ、私が重要なことを知っているかというと微妙なのよね。
だって『西遊記という物語を知っている』としても、だからなんだ、となる。
この世界にギフトとして現れているものの能力が完全にわかるわけではない。
『圧竜洞九尾狐理精』が使役型ギフトで多数の妖怪を従え、五つの宝を使用できる、とか。
わかるわけがないのだ。
だって原典のキャラとは違うんだもの。
相手の能力が判明してから『ああ、こういうことね』と納得はできる。
でも、それがなんだというのか。
たぶん、これ系で一番警戒しておくべきなのって金角たちの〝ひょうたん〟よね。
でも、それはすでに解決している。
特殊な道具を使ってくる場合がある、は共有してもいいけど、詳しくわかるかというと……。
ギフトとして発現している能力が、私が把握しているものと同じと言えるかどうか。
「確かに似ている名だな」
「はい。私のギフトもまた、ラグナ卿と同じく、異界からのまぎれた者の名となります。私は以前、陛下には私のギフトを『修行者』と語りましたが、それは嘘ではございません。修行者もまた、私のギフトの名を示すものだからです」
この説明はヴィンセント殿下から共有されているのかしら。
陛下と殿下が頷き合っていることからして共有されている様子。
じゃあ、続けましょう。
「知っていることを話せ、と言われますと膨大なことになります」
「……それほど、敵の事情に精通していると?」
「いえ、それについては、ほぼ知らないのです。ただ私が知っているのは……」
話すべきか、というより、隠すべきか、の視点で考えましょうか。
「──西遊記、という物語についてです」
これはもう話してもいい。
話してもいいが、話したところで対策に役に立つか。
牛魔王については語っておくべきか。でもギフトとは齟齬があるかもしれない。
「物語?」
「はい、陛下。それは異界の物語です。私は……私のギフトの孫悟空は、その物語における主人公です。そのためか、私には異界の物語についての知識がございます」
問題は、転生者うんぬん、乙女ゲーうんぬんについてが、まったくの無駄情報となること。
いえ、無駄ではないつもりだけど……。
共有したところで、なんの根拠にもなりえない。
これはあくまで私の成り立ちであり、私の指針にすぎない。
だから、この『転生者でこういう事案の展開に予測が立てられ、乙女ゲーを軸に物事を考えている』は、もう孫悟空の勘ということにする。
「孫悟空の仲間は、玄奘三蔵法師、天蓬元帥猪八戒、捲簾大将沙悟浄、白竜馬玉龍といいます。……私のギフトは、この仲間たちが黒水晶一派に悪用され、災厄の化身として扱われているのだと訴えてくるのです。それがアイゼンハルト領での戦いでした。私はギフトが示すことに従い、彼らを悪事から解き放ち、善なる存在へと昇華すべきと考えています」
名前を出したところで、私は陛下からレイシェル女王たちに視線を移す。
孫悟空の名を聞いていぶかしそうにはしたものの、すぐに激昂する様子はない。
話せばわかりそうかな?
「善なる存在へ?」
「はい。……御覧に入れましょう。八戒、姿を現して」
あいにくと火眼金睛を使っていないので、透明になっている八戒は見えない。
でも、ちゃんと肩に乗ってついてきていた。
「ウキ!」
隠身法を解き、私の肩で姿を見せるミニ猪八戒。
「ウキー!」
トン! っと私の肩を軽く蹴って、空中に躍り出たかと思えば、ミニ筋斗雲でフワフワと会議室の中を飛び回ってみせた。
空気を読んでなのか、九歯のまぐわは持っていない。
「……それは」
「この子が善なる存在へと戻った猪八戒です。これについてはアイゼンハルトの騎士たちや小侯爵が目撃していましたので……」
すでに顔見せ済みのG4たちも反応するが、陛下の手前だからか黙っている。
「ウキ!」
フワフワと飛んだあと、なぜか私ではなくヴィル様の肩に落ち着く八戒。
なぜに。ちょっと嫉妬するわよ? 一棒食らわせてあげようか、弟弟子よ。
「アイゼンハルト領で暴れた時のような姿には、おそらくもうなれないでしょう。元の状態からは弱まっているはずですが、私たちに味方してくれる存在になりました。これが私の話すべきことの一点です。私は孫悟空の仲間たちを救うために行動します。彼らが災いになることを防ぐために」
微妙に『秘密の公開』ではなく『今後の方針』に話をすり替えておく。
「西遊記という物語には、ラグナ卿のギフトである紅孩児や他の名もあり、相対した時はそれとわかりますが……現在、そのギフトを授かって彼ら独自の行動をしている黒水晶一派について正確なことは言えません」
八戒と私に視線が分散するのを感じつつ、続ける。
「その中で、今の状況で申しあげられることは黒幕の名です。ラグナ卿が彼らから聞き出した『平天大聖』という言葉が示す名は、正確には『平天大聖牛魔王』。……巨大な白牛の姿をして、すさまじい力を持つ存在。それだけではなく、その姿も多彩に変えられますので……今現在、どのような姿をしているのか私はわかりません」
「姿を変えられる?」
ここだ。
変化の術、化けることができるのは西遊記において孫悟空だけではない。
紅孩児だって人間の姿に化けて悟空を騙そうとするし。
他の妖怪たちも、そうやって化けるのは定番だ。
ただし、変化の術について明かすと私も疑いの範疇に入ることになる。
以前までは悪用を防ぐために黙っていたけど……。
ここまで西遊記系ギフトに侵食されている世界で、さらに黒幕枠が牛魔王となれば、話が変わってくる。
なぜなら彼らには警戒してもらわなければならないからだ。
王政に関わる誰かが別人になり代わられるというパターンを。
「……御覧に入れましょう。私も変化……変身ができます。ラグナ卿もですね」
「おう」
ラグナ卿は話を振られても快く返事をする。
「では、陛下。まずは俺から見せましょう」
それどころか率先して見せようとする。
見せたがりなのか、それとも私への気遣いか。
ラグナ卿に注目が集まると、彼は立ち上がり、それとともにその姿を変える。
例の赤髪と褐色肌の状態へだ。うーん、紅孩児! あるパターンの!
「なんと……」
「カーマインの方が上手く変わります」
いや、その補足は要らない。術自慢がしたいわけではない。
「……私も見せます。──七十二変化、変われ!」
最も警戒すべき姿の一つに。
「……!」
私は、レイシェル女王の姿に変化した。
国王陛下でもよかったが……一応、女性の姿に。
今回は見ている人も多いので。
「その姿は」
「他人の姿となります。この変化の術は私だけができることではありません。『西遊記』のギフトの多くがこのように他人の姿へと変身することが可能なはずです」
ラグナ卿が一緒に変身してくれたので、私だけが脅威という流れにはならない、はず。
むしろ警戒すべき敵の脅威を理解してくれればいい。
加えてついでよ。
ここではっきりさせておくべきことを、はっきりさせる。
「ジュリアン・ヴァレンシュタイン侯爵令息」
「……?」
私は、ここでG4の一人、ジュリアンへと声をかけた。
「貴方のギフト『真理の探究』で、変身した私の正体を見破ることはできるでしょうか」
ここで彼のギフトで見破りが可能となると警戒よりも安心度が増す。
もしもの時に、私の潔白を証明する手段が増えるのだ。
今のところ、恒常的に変身して立ち回る必要性もないからね。
「……ジュリアン、やってみせよ」
「仰せのままに、陛下」
国王の命令でジュリアンが立ち上がり、私を見る。
見るだけではなく、黒い犬が一匹だけ現れたわ。
毎度おなじみのジュリアンの使い魔ね。
今回は脅しはなし。ややこしくなるからね!
「キャウン」
一匹の黒犬が私のもとへやってきて、匂いを嗅ぐ。
ジュリアンの動向と私に注目が集まる。
「……確かに。少なくとも、外見の方の名前は出てきません。ただし、カーマイン・マロットという名ではなく、解析できず、となります」
解析できないんだ? レベルアップが足りないのでは?
それとも孫悟空がアレすぎるのかしら。
「ありがとうございます。このようにギフトで確かめることもできはしますが、敵の多くが変身する術を持っている、ということは警戒していただきたく思います」
私は女王への変身を解き、元の姿に戻る。
ラグナ卿も一緒に戻り、礼をしてから席についた。
「……マロット公爵令嬢のギフトの名。秘匿していた能力。黒幕の名。それに物語。加えて、その名の仲間とやらが災いになり果てている、と」
「はい、陛下。加えて申し上げれば、ですが」
「なんだ?」
「災厄となり果てている仲間のうち、玉龍はレイシェル王国で起きている龍害に関わり、沙悟浄は……おそらくヴァレンシュタイン領で多発しているという海難事故に関わっているのではないか、と考えております。私ならば災いを鎮め、それだけではなく、その存在を王国の味方へと変えられると。ただ」
私はそこでフィナさんに視線を向けてから、また陛下に向き直る。
「同時に『聖女』フィナさんと、同世代のギフテッドたちも重要な存在であると、そうギフトが訴えてくるのです。彼女らがあるべき運命を辿り、その力を開化させなければ、王国に真の平和は訪れないように思います。この考えは、二つの伯爵家の諍いや、ベラゴート家で最終的な問題を解決へと導いた聖女の力を目の当たりにしたからでもあります」
実際、ベラゴート家の兄妹を最終的に救ったのはフィナさんだ。
「また、その際に聖女の浄化能力が、敵の黒水晶を弱め、或いは霧散させていることを確認しました。聖女の存在は重要です。それとは別に、私はギフトの感性に従って各地を巡り、事態の解決に向けて尽力するべき。そのように考えます」
はい。『隠していることを話す』のではなく『こうすべき』ことを話した。
王国への忠誠心ともとれることである。
実際、この国におけるテロ行為なんて見過ごしていていいことは何もない。
緊箍児についてはヴィンセント殿下から陛下に情報が回るなら、ここで話さなくていい。
「物語、西遊記について細かく話しても、現実のギフトと齟齬がないとは言い難く。現在、これ以上の意味あることはなんとも。強いていえば私の〝孫悟空〟と同等の能力を持った〝猿〟が西遊記には登場します」
「猿が?」
「はい。私のギフトは……猿なので」
「猿」
陛下が呆気に取られている!
よし、最後に『何を言っているんだ、こいつは?』感で煙にまけそう!
「……そういえば、以前に聞いた時もマロット公爵令嬢は猿がどうと言っていたな」
「はい、陛下。物語について触れず、説明するためには必要な言い回しでしたが、あの時も嘘を申し上げたつもりはございません」
そのために嘘は吐かない言い回しをしたので!
「ウキー!」
そこで、なぜか私に合いの手を入れるミニ猪八戒。
陛下を始め、一同の視線がミニ猪八戒に集まる。
「……猿か」
「猿ですな」
「いや、あの耳は猿ではないのでは」
「豚の耳ですかな」
「ですが、全体が猿では」
そこの大臣! その言い方だと本体の私も全体が猿みたいになるでしょう!
許さないわよ、ウキィ!
ちなみに猿の説明はレイシェル女王への弁明である。
貴方の国で迷惑をかけたのは私じゃありませんよ、という。
「……わかった。この場でさらに話すべきことはあるか、マロット公爵令嬢」
「……あるかもしれませんが、私も整理し切れていないです。都度、共有すべきことは今後、報告をあげるつもりですが……。今、急ぎ対応すべき点は聖女たちの鍛錬と、ヴァレンシュタイン領の海難事故周りと申し上げます。レイシェル王国の龍害は……力をつけた上で挑むべきかと」
ここまで女王は口を挟んでこない。
陛下の前では言い出さないか。でも、あとで何か言われるかも。
「マロット公爵令嬢」
「はい、陛下」
「お前は公爵家の娘、高位貴族の一員であり、大きな責任を背負う側だ」
「……はい」
「今、グラムザルト王国には未曾有の危機が迫っている。強力なギフテッドたちを集めた、敵意ある者たちによって脅威に晒されている」
そうね。
「王家はそれに対処しなければならない。だが、王家の対処というのは、ひどく腰が重いものだ」
「……はい」
「今も高位貴族へと通達し、対抗できるだけの力を蓄えさせる命令は出せる。王宮に戦力を集め、力を蓄えておくこともできるだろう。しかし」
陛下は厳しい顔つきのまま、続ける。
「先手は打てない。こちらから敵を叩くことができないのが現状だ」
「……はい」
そうなのよね。それが問題ではある。
黒水晶一派の輪郭は見えてきて、ボスは牛魔王疑惑が深まった。
でも、だからどうするのか。
「だが、マロット公爵令嬢は敵の大きな企みを阻止し、それどころか敵の戦力を大きく削り、こちらの味方に引き入れられさえするという。これは現状では最も大きな希望だ」
あら。
「なら、望むものを言ってみろ、マロット公爵令嬢。ヴァレンシュタイン侯爵領の海難事故が敵の手によるものとするのなら、どんな支援が必要だ。誰に向かわせればいい。それとも其方が一人で向かうべきなのか」
陛下は私に疑いを向けるのではなく頼る方向に舵を切るようだ。
「各地からの報告は受け取っている。マロット公爵令嬢。其方は、アイゼンハルトの魔獣災害では小侯爵とともに群れの首領たる魔獣を討ち、その力の一端によって領民を守っている。加えて災害規模の敵の力に対抗し、討伐せしめた。その証拠は今、姿を見せたその小さなマロット公爵令嬢の姿をした……使い魔、妖精のようなものだ」
「ウキ?」
ヴィル様の肩で首を傾げるミニ猪八戒。
陛下が真面目に話しているのだから、ちょっと黙っていなさい。
「……アイゼンハルトの領民の間では〝赤髪の妖精〟なる存在が多く目撃され、それを模した人形、ぬいぐるみなどまで売られているようです。その姿はマロット公爵令嬢かと」
宰相が補足してくれる。
そこまで王家からの調査の手が進んでいたのね!
いえ、まぁ隠せないことだったか。
「ベラゴート伯爵家の事件でもヴォルテール辺境伯令息、ラウゼン男爵令嬢、アスティエール子爵令嬢とともに尽力し、伯爵一家を救出した。レーヴァデルト・ライアムルト両伯爵家の領地戦を見事に阻止し、原因を究明し、黒幕だった者の捕縛に成功した。マロット公爵令嬢の功績、実績は、すでに十分である。であれば、私は其方の意見を真摯に聞きたい」
────。
「マロット公爵令嬢、どうか示してくれ。今、我々が何を成すべきかを」
おっとぉ? これは本当に予想外。
まさか、疑いの目を向けて監視するのではなく、英雄扱いで働かせる方向か。
でも、国王自らが信頼してくれる、というのは大きい。
後ろ盾になってくれるということならば。
……ここでヴィンセント殿下との縁談をがっつりお断りしておくのは流石に私欲か。
王国のために、という助言を求めるのなら、それは。
「望むなら公の場で功績を認めるつもりだが、それを望むか、秘匿するべきかも其方の意見を聞いてからと決めていた。それについてはすまない」
「い、いえ……。まぁ、私のことをバラすのは……状況的によくありませんから」
「理解してくれてありがたい。だが先に言わせてくれ。カーマイン・マロット公爵令嬢。これまで、王国を守ってくれたこと、感謝する。其方は素晴らしき王国貴族の一員だ」
「へ、陛下」
まさかの陛下からの賞賛!
「其方には望む褒美を与えるつもりだ」
「それは……ありがたき幸せにございます、陛下」
陛下の言葉が途切れたところで。
パチパチパチ、と。
見るとヴィル様とラグナ卿が拍手を送ってくれていた。
続くようにお父様やフィナさんたち、大臣たちやレイシェル女王とバンセイさんも。
「ウキ! ウキ!」
当然のようにミニ猪八戒も。
ここに四健将たちも連れてきていたら騒がしかったでしょうね。
「……ありがとうございます。陛下、では」
拍手が終わったところで、改めて。
「私が望む支援と人員を……用意していただけますか」
そうして王国の行く末を決める大会議が終わった、数日後。
「集まってくれたわね!」
陛下公認で私はヴァレンシュタイン領へ向かうチームを結成してもらった。
ヴィル様とラグナ卿、フィナさん、エミリア、ジュリアン。
ミニ猪八戒とミニ四健将も連れてきているわ。
ドリームチームの結成! まだまだ揃えられるなら揃えていくわよー?
G4からは、とりあえずジュリアンだけ来てもらった。
残りの彼らは、もっと鍛えておいてもらった方がいいと判断したのだ。
あと、全員を連れてきたらうるさそうなので。
足を引っ張る奴がいる展開はいらないのである。
「……意外ですね」
「何がかしら、ジュリアンさん」
「もっと多くの支援を望むかと」
「まぁ、言いたいことはわかるけど。数が多くいればいいってものじゃないからね」
これまでの経験則だ。
むしろ、こう、数を揃えたら敵のお披露目の際に無駄な犠牲が出そうというか。
それだったら即時対応ができそうな面子を揃えて、少数精鋭の方がいい。
フィナさんだけでなくエミリアにも来てもらったのは別の理由よ。
私は今まで〝フラグ〟から乙女ゲー展開を先読みしてきたので。
ただの調査ではなく、彼女たちがいることで起きることから予測を立てるつもり。
「ヴィル様、ラグナ卿。力を貸してくれてありがとうございます」
「いいや、むしろ指名してもらえて嬉しいよ、マイン」
「そうだな。楽しみが増えたと思っているぞ、カーマイン」
わぁ、ヴィル様とラグナ卿が並んでいるわぁ。
……これ、どうなっちゃうの? 大丈夫? 別の意味で!
「フィナさん、エミリア、来てくれてありがとう」
「いいえ! 私もマイン様と一緒に行動できて嬉しいです!」
難を呼び寄せるフィナさんと最初から一緒。
うふふ、道中で何が起きるかしらね。
ちなみに新学期だけど学園は私たちだけ特別休学。流石に通っている場合ではないので。
「私も、お力になれればいいのですが」
「それについては問題ないわ、エミリア。でも、巻き込んでしまってごめんなさいね」
「いえ、私もカーマイン様のお力になれるなら幸いです」
意外と野性派なエミリアなら、旅にも適応してくれると思っている。
それに『ヒロインの友人』枠かもしれないので、いてくれた方が何かが起きやすそう。
さて。移動はどうしようかな。
縮地ポイントは近くに確保しているけど。
フィナさんが一緒ということは、もしかしたら道中で何かに遭遇するかもしれない。
それを見逃さない方がいいって気もするのよね。
大人しく馬車の旅かしら。でもタイパが悪い。
フィナさんたちは学生なんだし、あまり長く休学させるのもねぇ。
いえ、私も学生だけど!
「お待ちください、マロット公爵令嬢」
「はい?」
遠征準備を整え、集まってもらった場所は王宮だった。
陛下の名のもとに、私の指名で集まってもらったからね。
さらに必要な支援があれば申し出るようにとも言われているから余計に。
でも気分的には、気の合う友人たちのプチ旅行……いえいえ、使命ですから。
じゃなくて。声をかけてきたのは。
「貴方は……ヴァレリア王女殿下」
王宮で集まっていた私たちのもとへ来たのは、第一王女のヴァレリア殿下だった。
ヴィンセント殿下と同じ、金髪碧眼の美少女、十三歳である。
「ご指名はありませんでしたが、どうか私も同行させてください」
「え? ですが……なぜ」
よく見れば、ヴァレリア王女は旅支度を整えている。
「あの場の話の流れで申し上げることができませんでしたが……私もギフトを授かりました」
「え!」
そうなの? それにしては騒ぎになっていないわね。
王女がギフトを授かったとなれば、もっと噂されてもいいことなのに。
「世間には秘匿されています。なぜなら」
なぜなら?
「私もハズレギフトだったからです」
「……!」
ハズレギフトは実質ハズレギフトじゃない。ということは?
「レイシェル王国の方に見てもらいました。すると、その名が判明したのです」
「……それは?」
ゴクリと唾を飲み込む私。
「──私のギフトは『玉面公主』です。何かご存知でしょうか」
「玉面公主……!」
玉面公主は牛魔王の愛妾、或いは第二夫人よ。
作品によって立場が変わるけど、原典で大きな出番があるわけじゃない。
羅刹女と牛魔王のエピソードの間に出てくる人物。
設定もあるにはあるけど、ギフトとして、なんなのかはわからない。
これといった特殊能力も思い浮かばないわ。
「あの場で話した物語、西遊記には出てきます。その……牛魔王の第二夫人として」
「牛魔王とは、グラムザルト王国で暗躍する者の名ですね。その第二夫人?」
「……はい」
え、気まずい。牛魔王が黒幕ってわかってから、王女が玉面公主だとわかるとか。
「能力はわかりますか?」
「いえ、とくに能力として思い当たることは……」
気まずい! なんでそういうギフトにするかなぁ!?
「……なるほど。では、このギフトは当たりかもしれませんね」
「え?」
「マロット公爵令嬢も知らない、敵の黒幕の場所を探るギフト。そういうことも考えられるのではありませんか。第二夫人というからには第一夫人もいるのでしょう? その立場なら、夫や第一夫人と敵対することもあるのでは?」
確かに?
玉面公主と羅刹女は少なくとも仲がいいとは言えない。
牛魔王が何事かを企んでいるというのなら腹を立てることもある二人。
女性的というか、まぁ、牛魔王を取り巻く三角関係ね。
わざわざギフトとして授かるということは名だけではないのだろう。
ということは、牛魔王に対抗し得る、エピソード昇華型の効果が何かあっても?
「よかった。あり得ると考えるのですね、貴方は」
「……それは、はい」
ヴァレリア王女は安心したようだ。ギフトがまったくのハズレではなく、役割がある。
それはきっと重要なことだろう。
「では、私も旅に同行させてください。貴方たちの行く先に、王国に仇なす敵がいるかもしれないのだから」
うむを言わさぬ気迫。
ヴァレリア・フォン・グラムザルト王女。まだ幼いながらも王族としての決意が見えた。
「……わかりました」
こうして、新たな難を解決するためのパーティーが完成したの。
目指す場所はヴァレンシュタイン侯爵領! 目的は沙悟浄の確保!
「じゃあ、行きましょうか!
「「「「「ウキー!」」」」」
ミニ・マインたちが号令に合わせて飛び回り、私たちの新たな旅が始まったのよ。
第五章、ここで完結です!
ここまで読んでいただきありがとうございます!
物語はここでようやく折り返しって感じですね、たぶん。
ライブ感で書いているので……ここから後半戦かもしれない……たぶん。




