160 大聖
「ギフトの化身、異界の神そのものが存在し、それを崇める連中がいて、王国の混乱と、乗っ取りを企てている……とな」
「そうです。これについて引き渡した連中を再度、尋問していただければ」
あ、『混世魔王』の男や、狐理精の女は、すでに引き渡し済みなのね。
どんな尋問をされたのかしら。今世の人権意識、大丈夫そ?
普通に拷問されているかもしれない。触れないでおきましょうか。
「ベラゴート家でも聖女の浄化によって引き剥がされたギフトの正体そのものと戦闘になりました。アイゼンハルト領でも似たようなことがあったとか」
「……ヴォルテール卿の仰る通り。報告したものと戦うことになりました」
「そうか、他にも目撃例はあるか?」
陛下が一同を見回してから、なぜか私に視線を定める。なぜに。
いえ、私もあるけど。
「陛下、黒水河の難……もとい、二つの伯爵家の領地戦が行われた川の上流、滝の裏にあった空間で、私は祭壇を見つけております。そこにも同様のギフトの正体と思わしき存在がいて、私と戦闘になった次第です。その際、体内から黒水晶を発見しまして、のちに聖女セラフィナによって浄化してもらったところ、黒水晶の瘴気は霧散しました」
陛下に視線で促がされた私はそう報告しておく。
あの件での後始末ってどうなったのかしら。
「それについての報告も上がっています、陛下。マロット公爵令嬢が指摘した場所には異教の祭壇らしき物がありました。古く打ち捨てられた様子でした」
おお、あの場所も調査済み!? 行くだけで大変だったでしょうに!
私は筋斗雲で飛べたからいいけど、あそこ、普通に行こうと思ったら命懸けじゃない?
「滝の裏の空間は、ある場所に抜け道があり、そこから調査隊が入ることができた次第です」
あ、普通に別の入口があったんだ!
滝の裏からしか入れない浪漫アジトじゃなかったのね!?
ある意味、空を飛べるなら最強の隠れ家だったかもしれないけど。
そういうことではなかったらしい。
それからも各地からの情報が上げられ、共有されていった。
王国の裏で暗躍する組織が存在するというのは確実となり、王家に認識されるに至った。
前世でいうとテロリスト集団よねぇ。
今世だと宗教戦争の派生みたいになるのかしら。
連中にとっては神の現物が存在している扱い。
まぁ、確かに八戒を始め、神仏に至った者がこちらの世界に来ている。神には違いないのかもしれないけど。
「最後に私から」
だいたいの報告が終わったところで、レイシェル女王が切り出す。
「我が国、レイシェル王国でも同様の事態が起きている。すでに伝えた龍害とのつながりまではわからないけど、一点、共有しなければならないことがある」
なんだろう。六耳獼猴のことかしら。
「黒水晶一派とやらが崇める存在、それに限りなく近いと思われる存在がレイシェル王国では、すでに発見されている」
「……それは?」
「レイシェル王国に現れたのは、先にあったような『ギフトが器を食い破って顕現した』存在よ」
他にもいるのね、ギフトの正体そのものの存在が。
「わかっているその名は『混天大聖鵬魔王』。巨大な怪鳥の姿をしていて、龍を食らうバケモノね」
混天大聖鵬魔王!
その名は、間違いなく『斉天大聖孫悟空』『平天大聖牛魔王』と並ぶ、七大聖の一角! お釈迦様に封じられる前の、大暴れ時代の孫悟空の兄弟分たる妖怪の主!
ただし、その活躍が明確に西遊記で描かれたかは微妙な存在よ。
七大聖って、孫悟空と牛魔王の因縁のために出てきたというか、箔付けのために並べられたというか。
実際に活躍、暴れるシーンは、ほぼない存在となっている。
天界の秩序をかき乱し、混乱をもたらす存在。
ガルーダの伝承とも混ざっているとかいないとか。
巨大な魚の姿から、鵬という巨大な怪鳥の姿に変わるとも。
原典西遊記では、孫悟空と牛魔王以外の五大聖の活躍シーンやバトルシーンは、ほぼない。
せいぜい天界の軍相手に大立ち回りした際に悟空とは別の場所で暴れていたと語られる程度。
前半に名前こそ出てくるものの、三蔵の弟子となったあとで関わることはないのだ。
悟空を助けにきてくれるわけでも、敵対するわけでもない。
後半に出てくる怪鳥系の敵とキャラが被っているため、それは長い年月の末に混天大聖が変化した説もあるけど。
そんなのまで出てくるのね、この世界……。
しかも口振りからして実際の脅威として。原典より厄介なのでは。
「レイシェルの龍害は、最悪の場合、このバケモノを解放して龍にぶつけることになっている」
龍を食らう怪鳥だから? ん?
もしかして玉龍以外にも龍が存在している?
どうしよう、それだと、どれが玉龍かわからないかも……。
私の知識では文字情報はさておき、ビジュアル情報では確信が持てないのよね。
「……殺してはいないのか?」
「封じているだけね。……殺せなかったのよ」
「なんと」
「今回、グラムザルト王国に来たのはこの件もある。あの巨大な怪鳥、『混天大聖鵬魔王』にトドメを刺せる勇者を我が国は欲している」
ええ……? 何かしら、それ。
孫悟空にはそんなエピソードはない。当然、紅孩児もだろう。
混天大聖は、共闘も対峙もないキャラクターだったのだから。
むしろ神仏・神仙系ギフトの『西王母』の方が可能性はあるのでは?
他に可能性があるのなら……『聖女』。
聖女とG4こそが凶悪な西遊記ギフトにトドメを刺すことができるのかも。
……孫悟空でも倒し切れなかった敵って西遊記には意外に多い。
紅孩児も六耳獼猴も助っ人あっての打倒なのよ。
そういう時は、むしろ聖女頼りの方がいいのかもしれないわね。
「……報告が抜けていた」
「どうした、ヴォルテール辺境伯令息」
「失礼しました、国王陛下、女王陛下。今聴いた名についてです」
「何かあるか?」
「黒水晶一派に聞き出した、連中が崇める対象の名、その名を『平天大聖』だと聞いております」
いや、牛魔王ぉおお!
それ、牛魔王で確定よ! 平天大聖牛魔王!
ついに判明、この世界で悪行を為している黒水晶一派のボスは牛魔王だった!
よっしゃ! 二郎真君じゃない! お釈迦様でもない!
セーフ! 仲間をかき集めればワンチャンある!
紅孩児も味方ポジションだし、聖女とか西遊記になかったギフトもある。
神仏系ギフテッドもいることが判明したから、味方サイドに揃えられれば完璧!
ワンチャンある、ワンチャンあるわ!
少なくとも勝ち筋なしではないわね! よーし、よし!
「マロット公爵令嬢」
「……はい?」
陛下がなぜか、この話の流れで私を名指しする。
「なぜ嬉しそうなのだ?」
その一言で、部屋の中にいる人々の視線が私に集まった。
「え、ええと。まぁ、その。まだどうにかできそうだなぁ、と」
もごもごと言い訳じみたことを言ってしまう私。
こんな時こそ淑女ポイントの稼ぎどころだというのに!
「そうか。レイシェル女王が共有するべきと思った件は以上かな?」
「ええ、グラムザルト王」
国王陛下がレイシェル女王の言葉に満足そうに頷く。
「それでは」
そこで、改めて。
「マロット公爵令嬢。お前が何を知っているのか、すべて話せ」
厳しい王様の言葉がかけられたのだった。
「カーマイン」
「お父様……ええと」
「流石に、ね? 話してごらん? カーマインはアイゼンハルト領の件も、ベラゴート領の件も、ライアムルトとレーヴァデルトの件にも、すべて関わっている。各地を飛び回ってきた。もちろん、私はカーマインが事件の解決側にいたと信じているけれど」
「カーマイン嬢、それに加えて」
お父様の優しい言葉に、ヴィンセント殿下が続ける。
「カーマイン嬢のギフトの名も、確か……『斉天大聖』……といっただろうか。今、上げられた二つの名に、ひどく酷似した名前だと思うのだが、それについても見解を教えてほしい」
おおっと。
ヴィンセント殿下に誠実に話したつもりの一件がここで爆発する!
関係者一同の視線が私に集まった。
ふふふ……。
……さぁ、どうしましょう?




