159 王国会議
お父様とともに王宮へ訪れる。
四健将はお留守番。ミニ猪八戒は姿を隠して同行中。
今日は、黒水晶一派についての情報交換会だ。
普通、こういう王国全土に渡る災害、または戦争のような件での話し合いに私のような立場の人間は呼ばれない。
せめて爵位を持つ当主とその後継者くらいが呼ばれる対象だろう。
でも、それでも私やエミリアの参加が求められるなら、各地の事件についても知りたいということね。
王宮に着き、案内された先は大会議場といった感じの、広い部屋だ。
会議場には私とお父様より先に入っている人も多い。
王宮の使用人や騎士たちも控えているわね。
まず目についたのはラグナ卿。壁際にもたれかかっている姿が絵になる。
エミリアが言ったように王都に来ていたらしい。
あちらも私のことに気づくと片手を上げて笑う。
近寄ってこないところを見ると、今話すって感じじゃないわね。
用意された椅子に座っているのはフィナさんとエミリア。
二人で話しをしている様子だ。
その近くには無言で待機中のベネディクト氏。
ヴィル様の姿はまだないわね。
他にも姿を見せていないのはヴィンセント殿下とジークヴァルト。
フィナさんたちも私に気づいたみたいだけど、お父様と一緒だからか寄ってはこない。
互いに視線を交わし、頷き合うことで挨拶とした。
少しして会議場に入ってきたのは、アイゼンハルト一家だ。
侯爵、ヴィル様、ジークヴァルト、三人が揃い踏み。
普通のことかもしれないけど、あの一家が揃って行動しているのはレアに見えるわね。
ヴィル様は私に気づいて微笑みを浮かべる。
私も微笑み返し、見つめ合った。
ちなみにミニ猪八戒は今、私の肩に乗っているわ。透明だけど。
火眼金睛を発動しないと、私でも透明になった姿が見えないのよね。
私が把握していない人たちも来て、いよいよ王族が入ってくる。
ヴィンセント殿下と……少し年下の少女。ヴィンセント殿下と同じ髪色と瞳の色だ。あれは?
「ヴァレリア王女殿下だな」
「あの方が」
お父様が補足してくれる。
ヴァレリア・フォン・グラムザルト第一王女殿下。
今年で十三歳、もう誕生日はすぎた頃。
王族が参加するにしても第二王子殿下ではなく、なぜヴァレリア王女が?
国王陛下と宰相、レイシェル女王、その従者バンセイさん。
ちなみに別にジュリアンの父親は宰相ではないわ。
そこ違うんだぁ、とか思ってはいけない。ジュリアンの親はお父様と同じく大臣職ね。
「みな、集まっているな」
ヴィンセント殿下が女王を招き、バンセイさんがエスコートする。
女王について、ここにいる人たちは知っているのかしら。
お忍びで来ているらしいけど。
「では、さっそく始めよう。宰相」
「はい、陛下」
資料がそれぞれの手元に配られていく。
なんか円卓会議というより、企業の説明会ね。
「今、グラムザルト王国では各地で人為的な事件が引き起こされています」
資料にはアイゼンハルト領で起きたことや、ベラゴート家のこと。
フィナさんたちの旅で遭遇したことなどが記されている。
「とりわけ大きな事件から順番に説明を……」
説明を求められて、まずヴィル様が立つ。
報告するのは魔獣災害とキメラ、その体内にあった黒水晶。
ゴロッソ会長の企てと黒水晶一派の暗躍、さらに災厄級の事件。
「……報告にもあったが、それは本当のことなのだな?」
国王陛下が疑問を口にしたのは、やっぱりミニ猪八戒の件だ。
「はい、陛下。あれこそが彼らの最終目標のひとつなのだと思われます。バルグリッサは言っていました。俺を、連中が使役していた異界の神の〝器〟にするつもりだったと」
「……すでに報告を受けたのち、王宮からも派遣し、アイゼンハルトでの聞き込みをしております。アイゼンハルト小侯爵の言葉を騎士たちは肯定しました。……ただ」
宰相がヴィル様の報告を補足するものの、言い淀む。
「巨大な、豚の怪物。神と称したくなるような豚の……。だが、それをどうやって討伐した?」
「それは……」
ヴィル様もそこは言いづらいらしい。視線を私に向けないのは庇ってくれているからだろう。
……うーん。せっかく隠れていたんだけど。
でもねぇ、これは……言っておくしかないかしら。
ヴィンセント殿下にも打ち明けたし。目撃者も多数。
女王陛下たちに変に疑われそうだけど、そこはまぁ話せば誤解は解けるはず。
問題は力があるからと殿下との縁談解消に支障が出ることだけど。
私はフィナさんに視線を向けた。するとバチリと目が合う。
話の流れから私が関係しているのだと察しているのだろう。
今までは名乗り出ず、『聖女』でヒロインなフィナさんに運命を委ねるつもりだった。
でも、それではいけないのだと、私も前に出るのだと決めた。
隠さず、明かして、その上で立ち回ることを考えていくしかないわよね。
「それについては陛下、私から報告をさせていただきたく思います」
私は手を上げ、注目を集める。
「マロット公爵令嬢か。……アイゼンハルト領の事件では、渦中にいたそうだな」
「はい、陛下。おっしゃる通りです」
「では、聞こう」
私は陛下の言葉に頭を下げてから、ヴィル様に視線を向ける。
心配してくれている様子が伝わってくる表情だ。私は微笑みを浮かべて応え、言葉にする。
「異界の神を討伐したのは、この私です。もちろん、すべて一人でというわけではありません。アイゼンハルト小侯爵や、彼の部下たちとも協力した上で、です」
ざわ、と会議の中に驚きが広がる。声も上げずに笑っているのはラグナ卿だ。
「私が討伐したということについても騎士たちから聞いているのでは?」
一応、口止めはしていたけれど。
状況が、いえ、私の心構えが変わったことでヴィル様には過剰な情報統制はしなくていいと伝えてある。王宮からの調査団が来たのなら話した者もいるでしょうね。
「……宰相」
「はい、陛下。マロット公爵令嬢の言った通りです。具体的な手段については、どうにも要領を得ませんでしたが……。功績があるのは彼女で間違いありません」
陛下は難しい表情をする。
「マロット公爵令嬢については……そうだな。次の報告へ先に移ってくれ」
「はい、ではラウゼン男爵令嬢、およびヴォルテール辺境伯令息」
私と猪八戒の件については掘り下げず、報告は次へと移る。
ベラゴート家の事件での詳細をラグナ卿が報告。エミリアはその補足をする。
「ヴォルテールで捕らえた奴らの尋問を行った」
そこでラグナ卿は『混世魔王』の男と、狐理精の女を尋問して聞き出したことを告げる。
「連中、黒水晶一派か。奴らは『ナナシのギフト』を授かった者たちを集めた組織らしい。地方教会の一部とつながりもある。すでに捕らえた教会の者たちについては王宮に引き渡し済みだ」
やっぱり教会も腐敗していたのね。一部だけ。まぁ、そこは情報源よね、どう考えても。
「だが、連中がギフテッドを探り当てられるのは教会からの情報提供だけが理由ではない」
ん?
「口振りからして、奴らの親玉か幹部に相当する者が、ナナシのギフテッドを見つける能力を持っている。当人が隠していても、連中には当たりをつけられると見ていいだろう」
なんですとぉ?
ギフテッドを捜す能力、そういうギフトってことかしら。
それとも西遊記系ギフトをピンポイントで見つけられる?
「……どうも分類があるらしい。奴らが探り当てているのは特定のカテゴリーに属するギフトだ。おそらく俺のギフトもそのうちの一つだろう」
「ヴォルテール辺境伯令息、ラグナ。お前のギフトとは?」
「陛下、すでに報告を上げている通りです。改めて洗礼水晶で確かめた際、はっきりしました。俺のギフトは『聖嬰大王紅孩児』。……珍妙な響きに聞こえますが、これは〝何者か〟の名を示すギフトです」
あ、確かめたんだ! そして読めたってこと? ラグナ卿も?
レイシェル女王たちも今世の人間っぽいのに西遊記ギフトの名称を把握している。
どうやら、きっかけがあれば当人は認識できるっぽい?
……これ、普通に転生者の私がイレギュラーなだけね?
本来なら徐々にギフトの正体を掴み、成長して能力を把握していく系?
レベルアップによる能力解放をすっ飛ばして、最初から全能力解放済みチート?
あと、流石のラグナ卿でも陛下相手には敬語になるのね! 新鮮!
「黒水晶一派が集めているのは、この名を持つギフトたちのようです。これは……どうやら、異界からまぎれたもの、らしい」
「異界から……?」
「奴らの目的はこの世界を牛耳ること。大真面目にそれを望んでいるらしい。なぜ、そんな大それた、歪んだ野望を抱いているのか。捕まえた奴らは小者にすぎなかった。せいぜい『自分が新たな世界、新たな国の上位存在になれる』程度の意識だ。だが、それを実現できると連中に信じさせるだけの存在がいる。それは」
そして、ラグナ卿は言った。
「異界の神そのもの。ギフトを授かった何者かではなく、器である肉体を食い破り、実体化した、ギフトの化身そのものが連中の崇めているボスだ。アイゼンハルトに現れ、異界神を呼び寄せたバルグリッサとやらは、おそらく『そうすることでボスと同じになれる』という考えでもあったのだろう」
つまり、西遊記系ギフトを持つギフテッドではなく。
西遊記の登場人物の誰か、そのものが黒幕ってことかしら?
…………牛魔王では? その流れだと。
お願いだから、そこで二郎真君は出てこないでほしいわね!
勝てる見込みがないから、それだと!
日本向け西遊記と違い、原典西遊記だと孫悟空より強いと思われるのが二郎真君だ。
お釈迦様もそうだけど、流石にそんなことしないでしょう、お釈迦様。
……もしかして、これも三蔵一行に課せられた〝難〟の続きだとか?
八十二難目。そうなると私たち、とばっちりなのでは?




