158 ベラゴート伯爵家の顛末
夏季休暇明けのヒーローたちに待っていたのは隣国から来た女王陛下とその従者。
彼らは実力の至らなさを痛感し、地獄の猛特訓編に入るのだった!
あれよねー。
メインのシナリオ軸が学園モノというより王国を脅かす黒水晶一派たちとの戦いだから、ヒーローたちはイベントをこなしながら絆を深め、強くなっていくやつ。
フィナさんは治癒もできるので彼らの特訓に付きっきりになるわ。
今のところ四人の誰かのルートに分岐している様子はない。
ということは共通ルートといったところ。
私の乙女ゲー推論では、彼らはまだ真の強敵と戦うことはなく、今は平和な期間と見た。
私はブラック猪八戒や金角大王・銀角大王ともドッカンドッカン、バトルしてきただろうって?
それはあれ。
私がルート先読みして、中ボス枠や、ラスボス枠を潰しているせいである。
それを考えると今のうちに龍退治に乗り出すのも一つの手ではあるのだけど。
安全マージンを取るなら、やっぱりここは沙悟浄を先に落しておいた方がいいと思うのよね。
私の推論が正しいかの証明にもなるわ。
今の段階だと、仮に隣国で玉龍を発見できたとしても微妙だもの。
ラグナ卿が隠しヒーローだというのはちょっとズレた推測なわけで。
G4関連の場所に三蔵一行のギフトが絡んでいるか確かめておくのが先だと思う。
ここで沙悟浄を見つけられるなら、おのずと三蔵法師のギフトも目算がつけられる。
私のギフトが孫悟空である以上、三蔵法師のギフトに対しては確実に弱い。
そのためには強い仲間が必要。
G4だって個々の関係性はさておき、王国を守る戦力であるのは間違いない。
フィナさんと彼らが強くなるのは、この世界観だと必須だと思う。
私はG4の強化イベントには手を出さず、独自のチームを組んで動く。
それが今後の私の方針よ。
フィナさんとG4でなければ解決できない問題とか、この先に発生するかもしれないし。
敵が組織だって動いている以上、こっちも組織だって動く必要がある。
そんなわけでG4とフィナさんは王宮に通いつめることになった。
女王とバンセイさんに訓練してもらうためだ。
レイシェル女王たちはまだ目的があると王宮で密かに滞在中。
おかげで学園生活は彼らに絡まれることなく平穏にすごせる。
休日に私は、グラムザルト王国の目ぼしい場所に縮地ポイントを見い出し、縮地マップを広げることにしたわ。
王都周辺の地脈を探る。残念ながら学園の下には地脈はなし。
意外と都合のいい場所にはないのよねー。
「マロット公爵令嬢」
「エミリア嬢!」
ラウゼン男爵令嬢エミリア。ベラゴート伯爵家の一件でお世話になった子よ。
「お久しぶりでございます」
「心配していたのよ、貴方、新学期になっても学園に来なかったから」
「それは……ご心配おかけしました」
そう。エミリア嬢は新学期になっても学園に登校していなかったのだ。
夏季休暇、隣の領地があんな状態だったものだから、忙しかったに違いない。
「今、お話しはできますか?」
「ええ、もちろん!」
こうして学園の休憩時間、エミリア嬢と話すことになった。
「ベラゴート伯爵ですが、無事に意識を取り戻しました。ご子息たちも、アンリエッタさんもです」
「そうなの! よかったわ」
夏季休暇での活動も無駄ではなかったわね!
「また、夫人も見つかり、ベラゴート領に戻ってくださっています」
「そうなのね。ええと、関係は大丈夫そうなの?」
ベラゴート家の夫人は洗脳された状態の伯爵に追い出されていた。
離縁されて、後妻として入り込んだのが狐理精の女だ。
「ヴォルテール卿と私が状況を話し、理解をいただいたのです。ベラゴート伯爵ですが……」
「ええ」
「彼はどうやら事件の間の記憶が曖昧のようで。ただ、朧げに覚えていることから、夫人にも謝っていました。ご子息たちも夫人が戻ってきてくれることを望んでいるようで……」
「じゃあ、伯爵家の家族は元の関係に戻れそうなのね」
「はい、それはもう」
「よかった!」
いやぁ、これ、本当。行ってよかったわぁ。だってね。フィナさんがG4たちと活動していて、どう考えてもベラゴート家に寄る予定がなかったわけでしょう?
推定ラグナルートは別ルートで、エミリア嬢とアンリエッタさんが遭遇して同じことは起きたかもしれないけど。
下手をしたら『ヒロインが通らないルートの人々に救済はない』パターンもあるじゃない。
分岐があるゲームだと、そういう場合もあるのよね。
少なくとも、そういうヒロインがいない場所でのカバーができた。
「肝心のベラゴート伯爵領についてですが」
「ええ」
「やはり、かなりひどい状態でした。あのあと、ラグナ卿が率いるヴォルテール騎士団の治安維持を手伝わせていただいたのですが……」
そんなことしていたのね。
「賊の類は一網打尽にし、滞っていた流通を是正。負担のかかっていた民には事情を説明し、療養明けですが、伯爵も領民に話をされました」
「大丈夫なの?」
「はい。歩けないようなことはなかったようで。まともな領民も明らかに異常な様子だったことは感じていて、ヴォルテール家・ラウゼン家も協力して復興に当たることを約束し、納得してもらったのです」
「おお……。すばらしいわ、エミリア嬢!」
「い、いえ……」
貴族ねぇ。きちんと家の看板を背負って、領民に未来を示して。
隣接する領地にも手を差し伸べる。
……貴族だわぁ。
その点、お前は領民に何を還元しているんだ? とか言いっこなしの方向で!
私はこう、世界を救うために動いていてぇ……。
オラ、宇宙のやべぇ奴らを退治しなくちゃいけねぇんだ。
「ベラゴート家の件が落ち着いたので私も王都に来たのです」
「そうだったのね。うん、なんか……悪いわね。途中で放り出して丸投げしたみたいになって」
「いえ、元々、マロット公爵令嬢に責任のあることではありませんでしたから。私やヴォルテール卿の場合、隣り合う領地ということで捨て置くことができなかっただけです」
まぁ、そうではあるんだけどね。
他所の領地だからって放置していたら、彼女らの領地にまで問題が広がっていたでしょう。
隣領同士での助け合いはした方がいい。
「エミリア嬢、私のことは名前で呼んでいいわよ」
「え?」
「貴方とはこれからも縁がありそうだし。あっちでは私を名前で呼んでいたじゃない。それにフィナさんとも友人なのでしょう? 友人つながりってことで」
「それは……はい。では、カーマイン様、と」
愛称でもいいけど。それは距離を詰めすぎかしら?
でも、ひと夏の冒険をした仲だし。まぁ、今はこれくらいでいいか。
「カーマイン様、私のことは呼び捨てていただいてかまいません」
「ん」
フィナさんのことはさん付けでエミリア嬢は一人の貴族令嬢としての敬称。
距離感としては遠いかしら。じゃあ、お言葉に甘えて。
「わかったわ、エミリア」
「はい、カーマイン様」
これでクラスメイト以外に学園で親しく話す相手がまた増えたわね!
……私、友達少なすぎ? 公爵令嬢とは。
「それで、ヴォルテール卿が今、王都に来られているようです」
「あら、ラグナ卿が?」
「はい。ベラゴート伯爵家の顛末と、そこで捕らえた者たちから聞き出した情報を王宮に奏上すると」
「なるほど」
今の王宮にラグナ卿が? 偶然かしら。
そこでレイシェル女王陛下と会ったら彼が目的の人物だ、という展開になるんじゃない?
そうなった場合、私は見事、女王の視界から外れることになるわね。
「では、また会うかもしれないわね」
「はい。ラグナ卿もカーマイン様に会うのを楽しみにしておられましたので。王宮への上奏が済んだあとに連絡があると思います」
「わかったわ。教えてくれてありがとう」
「いえ」
エミリアとの話を一通り終え、休憩時間が終わりそうだったのでお別れした。
それにしてもラグナ卿が王都に来ているのね。
女王とラグナ卿が会ったら、どうなるのかしら。
……実はあのあと、女王の前から去る時に視線を感じたのよねぇ。
孫悟空の直感がそう感じさせたの。
ギフト『西王母』と『斉天大聖孫悟空』。いやぁ、相性が悪い!
こちらが一方的に加害者の意味で!
しかも今なら六耳獼猴の疑いもセット!
目をつけられないうちに事を済ませたいものよ。
でも、いろいろと女王たちに聞きたいことはあるのよねー……。
とくに『ナナシのギフト』について。
どうやらレイシェル王国では名無しの場合でもギフトの正体を判明させることができるらしい。
私が知っている中ではラグナ卿とアンリエッタさんが、およそ正体はわかっているものの、まだ、洗礼水晶による名前の判明には至っていない人たちだ。
それに『ナナシのギフト』は四十年前から増え始めたと言っていた。
四十年前に何かがあって西遊記系ギフトが現れるようになった?
それは、この世界の謎に関るエピソードっぽい。
四十年規模で西遊記系ギフト持ちが現れ続け、今に至ると。
私が知る中で今、判明している西遊記系は。
『斉天大聖孫悟空』『天蓬元帥猪八戒』。
『聖嬰大王紅孩児』『白骨夫人』『黒風大王』『黄風大王』。
『金角大王』『銀角大王』『混世魔王』『圧竜洞九尾狐理精』。
推定だけど『鳥鶏国王』『虎先鋒』『鼉潔』。
そして『西王母』『恵岸行者』ね。
あとフィナさんが遭遇した、おそらく木仙庵の四老人と杏仙っぽい樹木の精霊。
……どう考えても、日本向けのカジュアルな西遊記というより原典寄りのラインナップ。
日本向けだったらねぇ、三蔵一行と紅孩児、金角・銀角まではわかるけど。
他はちょっとピックアップしないでしょう。かろうじて混世魔王くらいは出るかもだけど。
そこまで出したら、もう牛魔王と羅刹女を出してフィニッシュすると思うわ。
原典の西遊記は百話もある。
そこから派生した後世の西遊記に至っては数え切れないほど。
現実に神、つまり仏に至った三蔵一行が影響しているなら、やっぱり派生というより原典寄り。
残りのギフトがすべてグラムザルト王国にあるとしたら、もっととんでもないことになっている。
どうやら隣国にも散らばっているようね。
天界・神仏寄りのギフトに関しては何ができようと民に害を成す系ではないと思う。
問題なのは妖怪系だ。
……もうこうなったら、だけど。
少なくとも『牛魔王』と『羅刹女』はいるんじゃないかと思う。
いえ、各ルートのラスボスが三蔵一行だと当たりをつけておいてなんだけど。
それらのルートをすべてクリアしたあとに出てくるラスボスとか。
それか、ラスボスではなく中ボスポジションだとか?
いるとしたら誰のルートかというと……ラグナ卿か、ヴィンセント殿下。
ラグナ卿自身に因縁はないけど、ギフト同士は因縁がある。
でも玉龍も候補っぽいし、どうなんだろう?
ヴィンセント殿下の場合、孫悟空がラスボスだとしたら中ボスに牛魔王たちが配置されていたとしても、わからなくはない。
とくに他の三蔵一行がルートごとにバラけているのなら余計にだ。
『黒風大王』や『金角大王』らが途中で立ち塞がる感じだったのだし。
その場合、王都に牛魔王や羅刹女が潜んでいるのでは?
「……すでに出会った中にいたりして。牛魔王と羅刹女、或いはそのどちらか」
あるかなぁ、ないといいなぁ!
レイシェル女王とかワンチャン、羅刹女枠ということも考えたのよねぇ。
そうなると紅孩児ともども味方枠の配置だったかもしれない。
三蔵一行が敵側なのだから、あり得る話だ。でも、西王母だった。
様々な考察を進めつつ、私は縮地マップの完成を急ぐ。
王国のどこで何があったとしても駆けつけられるように。
とりわけ重点的にポイントを増やしたのはヴァレンシュタイン侯爵領だ。
ジュリアンルートを探り、沙悟浄を見つけ出す。
情報収集、強化鍛錬、それぞれのすべきことをしながら日々をすごす。
そうした、ある日のこと。
「カーマイン、王宮への召喚状だ」
「召喚状ですか、お父様」
マロット公爵家に改めて呼び出しがかかる。
「ああ。お前の言う『黒水晶一派』だったか。奴らについて今、判明していることを共有することになった。ヴォルテール辺境伯令息も、アイゼンハルト小侯爵も参加する。それに……隣国の女王もだな」
「まぁ……」
関係者一同、全員集合?
「他にもお前の知人がいるだろう。公爵家に伝えられた参加者たちの名だ。把握しておきなさい」
「はい、お父様」
参加者たちは私が関わってきた人々の名で埋められていた。
ヴィル様やフィナさん、ラグナ卿だけでなくエミリアの名まである。
「まだわからないが……いずれ、グラムザルト王国を上げての対策となるだろう。どのような形になるのかは、まだ不明だ。隣国の協力が得られるかもな」
「そうですか」
国難。
そう言っていいレベルだ。
ベラゴート伯爵家や、アイゼンハルト領で起きたことを考えたらねぇ。
黒水河の難だって領地同士の戦に発展している。
ギフテッドもそうだけど、魔獣騒ぎのようなことを起こされたら、それこそね。
「それから、カーマインに言われて調べさせていたことだが」
「……はい」
どれのことかしら? けっこういろいろと頼んだ覚えはある。
公爵家の伝手を使ってみた。えへん。
「ヴァレンシュタイン侯爵領では今、海難事故が多発しているらしい」
「……それは」
ヴァレンシュタイン侯爵領。
海と面している領地で、大きな港がある領地。
G4の一人、ギフト『真理の探究』を持つジュリアンの家の領地である。
沙悟浄のギフトがあるのでは、と当たりをつけている領地。
そこで海難事故の多発……ね。
お父様には、とくに川や海に関する何かが起きていないかを調べてもらっていたの。
それが当たったらしい。
「調査が必要ですわね」
「……カーマインが、かい?」
「……まぁ。私と、この子」
「ウキ?」
お父様と話をしている間、テーブルの上でバクバクと食事を口に放り込んでいたミニ猪八戒。
マリンが嬉々として餌付けしているのである。
「私たちに縁のあるギフトが、災厄として扱われているかもしれないので」
まだ姿は見えないし、証拠といえるほどじゃないけど。
どうやら沙悟浄の足跡くらいは掴めたらしい。
あとは、これだけは言いたい。とくに日本人に対して。
沙悟浄は……河童ではありません!




