157 もう一人の猿
ヴィル様は、この西遊記ギフトが蔓延する世界において猪八戒枠なのよね。
それも主人公側ではなく推定ラスボス側。
私の乙女ゲー推論においてルートラスボスと見られる役回り。
ヴィンセントルートのラスボスが私で孫悟空。
ジークヴァルトルートのラスボスがヴィル様で猪八戒。
そういう見立てよ。まぁ、あくまで私の中では、だけど。
ということは、そもそもヴィル様って存在がチートなのでは?
おそらく成長したあとのジークヴァルトが聖女と協力して、ようやく倒せるのが猪八戒のギフトを埋め込まれたヴィル様だ。
つまり、ミニ猪八戒とタッグを組む今のヴィル様は、ある意味『味方になったラスボス』に近いのでは?
理不尽な強さとは言い難いが、強力なユニットで成長性も抜群、みたいな。
まぁ、どこまでいっても私の推論では、ね。
「素晴らしい実力だ。ヴィルヘルム・アイゼンハルト」
「どういたしまして」
互いに健闘を讃えるように握手を交わす二人。
「ギフトを持たないらしいが、その小さなのは結局、なんなんだ?」
「ウキ?」
フワフワと上空から降りてくるミニ猪八戒。
奪っていた渾鉄棍を大人しく返却する。
「俺の相棒だよ」
「いや、そういうことではなく……」
「んー。話せば長くなるからね。ただ、力を貸してくれる精霊のようなもの、かな」
「……そうか。だが」
バンセイさんは渾鉄棍を受け取りながら、ミニ猪八戒を観察する。
そのあとで女王に視線を向けた。
「そこからは私が話そう。バンセイ、見せてやれ。その小さき者と同じことができると」
「……御意」
同じこと?
「とくと見られよ」
バンセイさんは黒い鉄棒を縦に構えたかと思うと、その足元から煙が湧き始める。
いえ、煙じゃない、あれは〝雲〟だわ。
「ウキー!」
「それは……」
バンセイさんは雲に乗り、空に浮かんでみせた。
「空を飛べるギフト。他に渾鉄棍を出し、身体能力を強化する。それが『恵岸行者』だ」
その姿は、私が空を飛ぶ姿とよく似ている。
武器も鉄棒だし、色違いみたい。
そう。日本で読む西遊記だと誤解しがちなんだけど……。
西遊記世界において、雲に乗り、空を飛ぶのは孫悟空だけではないのだ。
猪八戒も、沙悟浄も雲に乗って空を移動する。
敵陣営も、神仏陣営も同様だ。みんな、わりと空を飛べるのである。
純粋な人間で、苦難の道をいかなければいけない三蔵法師だけが道中では雲に乗れない。
「あの姿は……」
「マロット公爵令嬢と同じ……?」
「なら、ハズレギフトの変異だっていうのか」
うーん。武器が鉄棒なばっかりに、余計に私と似て見えるらしい。
本家だと猿だからビジュアルで差別化できているのよねぇ。
「ハズレギフト、か」
バンセイさんは耳聡く聞きつけた言葉に苦い表情を浮かべながら、地上に降り立った。
「ウキー」
すると、ミニ猪八戒が仲間を見つけたようにバンセイさんの周りを飛び回る。
実は人懐っこいのかしら、ミニ猪八戒。
「あはは! ならば私もハズレギフトかしら!」
そこで女王が笑う。
「え? 女王陛下は……」
「私のギフト『西王母』も授かった当初は、名も知れぬギフトだったのよ。バンセイもそう。名無し、ハズレ、授かり損ない。そう言われていたわ」
そうなの? そういえば、女王たちは明らかに西遊記系ギフトだろうにギフト名を知っていた。
ラグナ卿のように能力を引き出すだけならわかるけど。
名も引き出せるのかしら。
「……が、どうやらそれは間違った見解らしくてね」
「間違った?」
あら?
「レイシェル王国では四十年ほど前から『ナナシのギフト』を授かる者が増えた。といっても、そこまで数は多くなかった。私もその中の一人。長い間、それは注目されることはないギフトだった。……けど、ある時、その状況が一変した。名無しのギフテッドだった、一人の男がその能力を覚醒させたの」
ラグナ卿と同じタイプ? 私はイレギュラーよね。
「そして、レイシェル王国に大きな災いをもたらした」
「災い……?」
「ええ。その者は大いに暴れ回り、迷惑をかけ、多くの者に不幸を撒き散らしたわ」
「ギフトで、そんな悪事を……?」
女王の説明にフィナさんがショックを受けた様子の表情になる。
フィナさんにとってギフテッドは善人が授かるものでしょうからね。
夏季休暇中、悪用するギフテッドたちとそこまで遭遇しなかったみたいだし。
私の方はすでにピンキリであることも、敵対者がいることも知っている。
「その悪党は、今も姿を隠したまま、見つかっていないわ」
「そんな者がいるのか。恥知らずな……」
ギフテッド至上の人物もいる。ジークヴァルトよ。
今、貴方のお兄さんの活躍見てましたー?
「その男は……猿だったわ」
……なんですと?
「猿?」
「ええ。ギフトの正体が、かしら。猿に変身するギフト。それだけじゃなかったけどね。その男も雲に乗り、空を飛べた」
女王はそこでミニ猪八戒を見る。
「似ているわ」
「ウキ?」
「あの男も、似たような、小さな猿じみた使い魔を大量に出してみせた」
「ウキ? ウキウキ」
ミニ猪八戒が『自分じゃないですよ!』と首をブンブン振って否定する。
「フフ、まぁ、あの男の使い魔ではなさそうね」
「ウキウキ!」
今度は首を縦にブンブン。
「そこで私たちは『ナナシのギフト』に改めて向き合うことになった。……別のきっかけがあったことで、その多くは名無しではなくなったわ。ようやく私たちはギフトの名前と、その能力を得ることができた」
……レイシェル王国で暴れた名無しのギフテッド。
その男の能力は猿で、ミニ・マインみたいな使い魔を出すことで。
それって……『六耳獼猴』なんじゃ?
西遊記で最も孫悟空に似た能力と容姿を持つ、悟空ブラックである。
悟空と四健将と一緒に特別な猿として並び立つ存在。
……これ、私がレイシェル王国に行って、能力がバレたら、その男と間違われて悪党扱いされる奴じゃない?
「さて、実力は見せてもらった。確かにバンセイを降すほどの実力者は希少だろう。だが、それでも其方は私の求めている者ではないようね。近い……匂いは感じる。でも、違う」
「……そうですか」
近い、ということは、やっぱり私狙いなんじゃ……。
さっきの話を聞いたあとだと名乗り出しにくい!
六耳獼猴と間違われたらたまったものじゃないわ!
三蔵法師も見つけていないから、本物と偽物を区別する術もない。
いえ、見た目が違うんだから、原典とそんなことにはならないか。
……あっちも変身能力あるのよねぇ。
しかも、問題の男が六耳獼猴だとしたら、女王はあえて変身能力について伏せて語った。
そこを指摘するのは厄介ごとにつながる予感しかしないわ。
「では、聖女の言葉を確かめさせてもらおうかしら」
「聖女の言葉?」
「ああ。お前たち四人、まとめてかかってくるがいい。今度は私とバンセイが相手をしよう」
「え、女王が……」
「──七人仙女」
女王の体から光が溢れ、彼女の周りに世にも美しい、七人の女性が姿を現す。
彼女たちは羽衣をつけており、空中に浮き、フワフワと女王の周りを舞う。
「ギフテッドは一人で多くの使い魔を使役する場合も多い。一対一の状況など、そうは起こらない。四人が力を合わせて戦うのが其方たちを最も強くするというのなら。その力を示してみるがいい」
ヴィル様は女王の言葉を受けて、ミニ猪八戒とともに下がる。
どうやらG4と共闘する気はないみたい。まぁ、先に実力を示したからね。
彼らの様子を観察しつつ、私とアイコンタクトを交わし、頷き合う。
そうして、あれよという間にG4たちと女王、バンセイさんが試合をすることになったのだけど。
はい。察しの通り、G4たちは負けてしまったわ。
ふぅん。連携しているとあんな感じで戦うんだ、彼ら。
でも連携不足感が否めないわね。
夏季休暇で体験した程度のピンチだと、まだチームワークが足りないのかしら。
ちなみにフィナさんも一緒にG4と戦ったわ。
「まだ、この王宮には用事があるからね。バンセイ、彼らを鍛えてあげなさい」
「陛下の仰せのままに」
やっぱり、これ。G4たちの強化イベントだったのかしら?
今のままだと龍退治には連れていけないらしい。でも見込みはあるとかなんとか。
そっか。すぐに行かないなら玉龍イベントはお預けね。
隠れて先行してレイシェル王国に行ってもいいけど……。
推定ラグナルート。金角大王・銀角大王だけじゃなく六耳獼猴まで出てくるとしたら隠しルートとしてハードモードなんじゃないかしら。
事実上、孫悟空と同レベルの敵がいるわけで。
……やっぱり、先に沙悟浄に手を出そう。うん、もう決めた。
だから、次に探るべきはジュリアンルートよ。




