155 ヴィルヘルムとともに
女王の指摘への反応はそれぞれだ。
なぜかやる気になっているジークヴァルト。自分のことだと思っている?
冷静に分析している様子のジュリアン。女王に鑑定をかけているのかしら。
女王そっちのけでフィナさんに視線を向けているベネディクト氏。もしかしてヤンデレ系かしら。
ヴィンセント殿下は私に視線を向けないようにしていると思われる。
指摘された内容と、フィナさんが思い浮かべている人物が一致しているんでしょうねぇ。
殿下はまだラグナ卿の実力を知らないだろうから余計に。
「ここは王宮だ。其方たちでなくとも、実力のある騎士がいてもおかしくはないな」
「……それは」
女王と使者の視線が壁際の私たちへ向かう。
「そこのお前、帽子を取ってみよ」
そして、女王が指摘したのは……私ではなくヴィル様だ。
騎士服を着ている中で、彼だけが帽子を深めに被り、顔を隠していた。
帽子のデザインはこう、軍部とか警察官みたいな雰囲気の帽子よ。
「……承知しました」
ヴィル様が一歩、前に出て帽子を外す。
そうすると露わになる銀髪に顔。
当然、彼の弟であるジークヴァルトが反応する。
「兄上!? なぜ、ここにいるのですか!?」
おお、兄弟が会話するの、何気に初見だわ。
いつも、どちらかとしか会っていなかったものね。
兄上呼びなんだ。そこは『兄ちゃん』呼びとかギャップ要素を足しておきなさいよ。
なってないわね。
「この者は、ギフテッドの騎士の兄か」
「……ええ」
「騎士の反応を見るに、ここにいるべき者ではないようだが?」
「それは……」
ヴィンセント殿下がんばれー、うまいこと言い訳するのよ!
「……そちらの用件が不明だったもので。対応ができる者を呼んでいたのです」
「ほう。なぜ、この男を?」
「彼、ヴィルヘルム・アイゼンハルトは、この王国で魔獣災害が起きた領地の嫡男なのです。実際、強力な魔獣と相対し、撃退した経歴もあります。わざわざギフテッドと会いたいという申し立て、もしや魔獣災害についての情報交換かと考え、それに詳しい彼を呼んでいました」
おお、それっぽい言い訳だわ! やるじゃない、殿下!
「強力な魔獣と? では、その者もギフテッドなのか?」
「……いえ、それは……違うのですが」
「……そうか」
あからさまに落胆する女王。
ちょっとー。ヴィル様はギフトなしでも、ギフテッドの獣人を倒すレベルの超人なのよ?
共闘してとはいえ、キメラの頭部を貫いて葬るレベル。
そんじょそこらの騎士と一緒にしないでほしいわ。
「恐れながら、発言をお許しいただいても?」
ヴィル様は、殿下に流れを任せるかと思いきや、自分から口を出す。
「……かまわない。なんだ?」
「龍の退治において、もっとも困難なことは飛行していることで、それについての対策はそちらの国にあるということでしょうか。先ほどまでの会話にそのような内容があったと思います」
「……まぁ、な」
んん? これ国家機密とか、そういうやつ?
空飛ぶ龍の対策があるって、あちらには航空技術がある?
この世界観で、それはかなりヤバいわよ。
「もし、その問題点を解消する術があるのなら。俺がその龍を退治してみせます」
「……ほう?」
ヴィル様!?
「何を言っているんだ、兄上!?」
ジークヴァルトが立ち上がり、ヴィル様を睨む。
私はすぐにでも如意棒を出して、ぶちのめす心構えをしておく。ウキー!
「ずいぶんな強気だな。それほどの自信があるのか?」
「あるのは自信ではありません」
「……では、何がある?」
「ギフテッドに負けるわけにはいかない、その信念です」
キッパリとヴィル様は言い切った。
その言葉の向こうにいるのは、果たして弟なのか、それとも。
「……兄上」
ヴィル様の宣言に、心なしかショックそうな表情を浮かべるジークヴァルト。
どういう感情かしら。彼の言葉をどう解釈したかによるかな。
「そこまで言うのなら、其方の実力を見てやってもいい」
「実力ですか」
「ああ、私の従者であるバンセイもギフテッドだ。この者と試合をし、その実力を見せてみよ」
あら、あらら?
ここで模擬戦展開? これもやっぱりジークヴァルトのイベントの可能性?
「お望みとあらば」
「バンセイもよいな」
「……陛下の望むままに」
「そうだな。ついでだ。弟の騎士もバンセイと試合をすることを許す。聖女が言うように四人で協力して戦ってみせてもいいぞ」
女王陛下は愉快そうにそう言ってのけた。
わぁ、上位者ねぇ。下々の者を戦わせて楽しんでいるわ!
ちょっと悪役ムーブだけど、たぶん、そういう人なだけで敵対する感じじゃないかな。
むしろ、G4の強化イベントかもしれない。
ほら、彼らってこう、なんだか未熟な感じがするし?
ここで味方側の強キャラに特訓されてレベルアップ的な。
ヴィル様が進んで前に出てくれたおかげで私は正体を現さずに済んでいる。
おそらく意識して私を隠してくれたのだろう。
さて、この場合、どう立ち回るのが正解なのか。
表向き、聖女とG4チームを組んで作戦行動させて、その裏で私のチームで動くとか?
二面作戦だ。正直、表部隊に組み込まれるより裏側を飛び回っている方がやりやすい。
龍退治はラグナ卿も誘ってあげよう。戦力的な意味でも、本人が龍に目を輝かせていた意味でも。
王宮の庭、騎士団の訓練場に赴き、ヴィル様の実力を計られることに。
ヴィル様と女王の従者バンセイの一騎打ちだ。
「改めて名乗らせてもらう。俺はヴィルヘルム・アイゼンハルト。侯爵の息子で騎士だ」
「……バンセイ。レイシェル女王の従者。ギフト名は『恵岸行者』」
恵岸行者!
「行者……?」
ヴィンセント殿下がそばで控えている私に視線を向けてくる。
やめて、こっちを見ないで、バレるから。
恵岸行者とは、観音菩薩の一番弟子だ。
木吒という名もあり、哪吒のお兄さんである。
目立った特殊能力はないけれど、武闘派であるようにも描かれる。
観音菩薩が三蔵の徒弟候補を捜す際、地上で活動していた時には常にそのそばに控えていた。
西遊記では猪八戒や沙悟浄を見出す時に登場している。
「──渾鉄棍」
バンセイが武器の名を口にすると、彼の手に一本の鉄棒が現れる。
朱色ではなく、黒い、重量感のある棒だ。
あれもまた重い。重さは千斤……約六百キログラムはあるしろもの。
私の如意棒のように、器の影響でダウンサイジングされていなければ、そのまま?
あんなもので打たれては怪我ではすまない。
「騎士を名乗っておいて悪いのだが」
「何か?」
「最近、俺は戦い方を改めてね。たとえ卑怯な手と罵られることだろうと、俺は勝利を求める」
「……戦いに卑怯はない。生き残った者が強者だ」
わぁお。完全な武人タイプ。
しかも、たぶん実戦もこなしてきたレベルじゃない……?
「そうか。そう言ってくれると嬉しい。では、出し惜しみなしで挑ませていただく」
ヴィル様は剣を抜かずに天へと手を掲げる。そして高らかに宣言した。
「天蓬元帥猪八戒!」
はい!?
「ウッキィー!」
ヴィル様の呼びかけに応えるようにミニ・マイン猪八戒が隠身法を解いて姿を現す。
ミニ筋斗雲に乗ったまま、ヴィル様の周りをぐるりと一周。
「ウキッ!」
そして、九歯のまぐわを手に取り、ぶんぶんと振り回してからポーズを決めた。
服装はメイド服ではなく、胸にさらしを巻き、着崩した法衣を着ている。
背中には行李を背負い、赤毛の髪から長い耳が生えている。
ちょっ、なんでヴィル様に召喚されているのよ、ミニ猪八戒!
「……なんだあれ?」
「赤髪の……」
「見覚えがあるような……」
「可愛いです!」
それぞれがリアクションする中、ヴィンセント殿下だけが私をジト目で見てくる。
知りません、本当に知りません!
ヴィル様、いつの間にミニ猪八戒を呼び出せるようになっているの!?
「……それは?」
「使い魔のような……相棒さ」
「お前はギフテッドではないはずだが」
「ああ、俺はギフテッドじゃない。でも、文句はないだろう? 使い魔持ちのギフテッドが、使い魔を使うことと大きな差はない」
「……まぁ、そうだな」
そうしてバンセイが渾鉄棍を構え、ヴィル様は剣を抜く。
ヴィル様の横でポーズを決めるミニ猪八戒。
「ウキィイ……ブヒッ!」
ブヒはやめなさい!
そして彼らの試合が始まった。




