153 レイシェル王国の女王
ヴィンセント殿下に直接、縁談のお断りを申し入れた。
その際、西側の隣国、レイシェル王国の使者と女王が、グラムザルト王国に来ており、ギフテッドたちに会いたいと申請していることが判明した。
また、隣国が会いたいギフテッドというのは、ある程度、若い者たちという指定らしい。
西遊記系ギフトのせいで意識するのが薄くなってしまうが、もちろん、この世界には西遊記系ではないギフトもたくさんある。
ただ、聖女とG4が人々に注目されたように、元々が希少かつ、同世代に集中することは珍しいものだ。
毎年、十三歳になる者は数多くいるわけだけど、その中でも一握り。
レイシェル王国が指定したギフテッドに該当するのはフィナさんとG4たちとなる。
ラグナ卿も該当するのかは微妙なところね……。
年齢もそうだけど、私とラグナ卿の場合、公式には『ナナシのギフテッド』扱いのはずだ。
普通に考えたら聖女と殿下たちの方が重要そうに思える。
なのだけど。
レイシェル国が求めている情報は、むしろナナシのギフトの方な気がする。
あちらの国では龍の姿が目撃されたそうだし。
玉龍イベントだと思うんだけど、どうなのかしらねぇ。
正直、次は沙悟浄狙いで動くつもりだった。
西遊記で三蔵法師の仲間になる順番は、孫悟空、玉龍、猪八戒、沙悟浄の順だ。
意外と古参な方の玉龍。なのに日本の創作物では、けっこうハブられがち。
まぁ、この世界では孫悟空ポジションの私が最初に仲間にしたのは八戒だけど。
順番に拘る意味はない。
ただ、ちょっとミニ・マイン沙悟浄がどうなるのか見てみたいと思っていたり。
ヴィンセント殿下が動き、フィナさんたちにも隣国の使者が会いたいと言われていることが伝えられた。
なお、ジークヴァルトイベントは、全力をもってスルーしている。
孫悟空の力をもってすれば、エンカウントを避けることも余裕なのである。
どんな気持ちかしら?
夏季休暇中に慕っているお兄様が、嫌っている私と縁深くなっているとか。
ねぇ、どんな気持ち? ウキキー。
その際、ミニ・マイン四健将たちにも協力してもらっている。
ミニ猪八戒はお留守番のままだ。
今頃、公爵邸でマリンにご飯を与えられて甘やかされているでしょう。
隣国の使者とフィナさんたちが会う日がやって来た。
ヴィンセント殿下の計らいで、私は面と向かって使者に会うのではなく、近くで控えるポジションに収まることになったわ。
その際、お父様の伝手を使うだけではなく、協力者も頼んでおいた。それはもちろん。
「ヴィル様」
「やぁ、マイン。呼んでもらえて嬉しいよ」
何を隠そう、ヴィル様である。
はい、呼ばせてもらいました。
なんで? と思われるかもだけれど。
ヴィル様はこう見えて、今、王国で一番、黒水晶一派の被害に遭っているのだ。
いや、ベラゴート家の方がアレだったかもしれないけど。
隣国が黒水晶一派の黒幕、という可能性もなくはない。
なので、警戒しつつ事に当たる方針を、殿下に認めてもらえた。
王宮に向かう前に公爵邸でヴィル様と合流し、準備をする。
「それでは……七十二変化、変われ!」
部屋には他に侍女のマリンと独立型ミニ・マインたち。
みんなの前で変化し、私は王宮メイドの姿に変わる。
髪色は黒に。安定の三つ編みスタイルにし、雰囲気が目立たないように。
「メイドのカーマですわ!」
例によって適当な名前である!
「「「「「ウキー!」」」」」
私の周りをミニ・マインズが飛び回る。
それだけではなく。
「「「「「ウキキ!」」」」」
ボボボボン! となぜかミニ・マインたちもメイド服に変わった。
いや、なぜ? 四体は赤毛の尻尾が生え、一体は豚の耳付きだ。
「「「「「ウキッ!」」」」」
そして、なぜか決めポーズを取る。だから、なぜ。
「とても可愛いです」
マリンの感想は確実にミニ・マインについてである。
私は? 貴方が仕えているお嬢様は私のはずだけど?
「あはは……」
ヴィル様は一言ないのかしら? メイドのカーマちゃんですよ。
「お嬢様は、それでよろしいのですか?」
「うん?」
何がかしら。
「公爵令嬢なのにメイドの格好をされて。いかに潜入目的とはいえ」
あ、そうだった。
この世界、メイドは普通に使用人として働いている。
なので、この服装に新鮮さはとくになく、また貴族令嬢からするとメイドとは侍女より下位の使用人となる。
つまり、貴族のお嬢様ともあろうものが、侍女どころかメイドになっている、という状態だ。
いえ、まぁ、メイドとして働く貴族令嬢だっているのはいるけど。
しかし、私はその中でも公爵令嬢なのである。
すると『何をやっているんだ、このお嬢様は?』という目が向く方が先となる。
ヴィル様に視線を向けると無言の微笑みだ。
即ちノーコメント。あのヴィル様が。
服装チェンジしただけでも褒めてくれそうな、あのヴィル様が。
それくらい『何やっているんだ、こいつ』感が強めなのかもしれない。
くっ……。これが文化の違い……!
たぶん、ラグナ卿だったら大笑いくらいしてくれるだろう。
いや、それはそれでどうなのか。
「まぁ、とにかくこれで王宮へ潜入よ!」
ちなみに勝手に入るわけではない。
ヴィンセント殿下の手配のもと、私はメイドとして、ヴィル様は現場に待機する騎士として、その場にいさせてもらう予定だ。
久しぶりに王宮に訪れると、ついでとばかりに地脈を探っておく。
王都にも地脈は流れている。
建物を建てる時に地脈が意識されていることはないみたい。
まぁ、そういうものよね。
隣国の女王と使者が訪れるのは公式ではない。
そのため、大々的な護衛計画は立てられないが、王宮内はピリピリしている。
この、ややこしい時に変装して王宮内に入っている私。
まぁ、殿下容認ルートで、書状もあるので問題ないのだけど。
それに今回の件はお父様も承認済みだ。
どういうつもりの訪問か、意図が読めないため、伏兵を置くくらいのつもりだろう。
私自身もそのつもり。
ミニ・マインたちも隠身法で姿を隠して同行させているわ。
フィナさんたちは広めの部屋で待機している。
私とヴィル様はフィナさんと殿下以外のG4が揃っているところに、しれっと潜入。
王宮騎士の服装に身を包み、顔を見せないように被り物をするヴィル様。
メイド服を着たカーマちゃんな私。
私たちはフィナさんたちの斜め後ろあたりに控える。
ふふふ、潜入捜査。ジークヴァルトの真後ろで変顔してやろうかしら。
流石にお兄さんのヴィル様に怒られそう。
「こちらへどうぞ」
しばらくすると、ヴィンセント殿下とともに一人の女性が入ってくる。
「────」
それは、とても美しい女性だった。
服装はそこまで華美ではなく、目立たないようにしている。
けれど、どこか神秘的な雰囲気を身に纏い、引き込まれそうな気配がある。
メイドとして部屋に控えている私は、まじまじと観察するわけにはいかない。
ただ、目を奪われたのは彼女の髪色だろうか。
ヴィル様やジークヴァルト、ブランシー公爵令嬢など銀髪の人間はいる。
しかし、レイシェル国の女王陛下と思しきその女性は〝白〟い髪だった。
年老いて白髪になっているのではない。
艶のある、綺麗な白い髪。そして、私と似ている深紅の瞳。
あまりにも透明感のある白い肌。
……アルビノだ。
思わず目を奪われてしまう。
「女王陛下、彼らが私と同世代のギフテッドたちです」
ヴィンセント殿下がエスコートし、女王が部屋の中央へやってくる。
フィナさんたちは立ち上がり、頭を下げ、礼を尽くした。
本物ヒロインちゃんのフィナさんは、こういう時、しっかりとした礼ができる。
いつでもお転婆でやんちゃなわけではないようだ。
会話の中でやらかしそうな気配はするけど。
それをいったら私の方があやしい? なんてこと言うの、ウキキ!
「顔を上げなさい」
凛とした声が室内に響く。
一言発しただけ飲み込まれそうだわ。
フィナさんたちが緊張しているのも伝わってくる。
国王陛下と謁見したことはあるけど、あの空気感がそのままみたい。
「…………」
女王陛下は黙ったままフィナさんたちを観察する。
ヴィンセント殿下が、彼女を紹介してくれた。
「この方はレイシェル王国の女王、リョウゴウ・レイシェル陛下だ」
りょうごう……?
響き的に、やっぱりなんだかアジアンテイストね?
使者の名前の時も思ったけれど。
まぁ、違う国なんだから、そういうものか。
レイシェル女王は、若き女王と言われているけれど。
たしか三十歳にもなっていないはずよ。
見た目からは正確な年齢はわからないけど。
それでも私たちと同世代ではなさそう?
ヴィル様やラグナ卿より、もう少しだけ年上くらいかしら。
「…………この部屋」
「はい……?」
そうしてレイシェル女王が言った。
「猿の匂いがするわね?」




