147 デビュタント
私が外に出かけず、家で大人しくしていると意外なほどに平穏な時が訪れた。
わかっていたつもりだったけれど、基本は余計なことに首を突っ込んできたのよねぇ……。
まぁ、でも今までの行動について後悔することはない。
助けられた人も多いと思っている。
「「「「「ウキー!」」」」」
「まぁ、まぁ! 可愛い娘が一度にたくさん増えたみたいだわぁ、ふふ」
お母様はミニ・マインたちを喜んで受け入れてくれた。
お父様もそうだし、なんていうか、可愛がられているわねぇ。
ミニ猪八戒も今のところ、食いしん坊なところ以外は他のミニ・マインたちと変わらない。
私の命令にぶーたれて反抗するなんてこともないわね。
やっぱり基礎部分は猪八戒じゃなくてミニ・マインなのかしら。
「マイン姉様」
「ラリー」
今年で十一歳になる弟、ローレンス。愛称はラリー。
私やお父様と同じで赤髪の男の子よ。
「姉様のギフトはすごいのですね」
「すごいかしら」
ラリーにすごいところはまだ見せた覚えがないのだけれど。
「はい、小さな姉様たちが空を飛んで、いろいろと楽しませてくれるのです」
「あの子たちはねぇ、可愛いわよねぇ」
「はい!」
ラリーはとてもいい子よ。それに賢い。
家族だから評価が甘いとかじゃなくて、普通に優秀な子だ。
だからこそ将来は公爵家を継ぐのだと、早くから決まっている。
といっても、今のうちから苛烈な教育を施して人格を歪めるような真似をする両親じゃない。
そんな両親だったら、現在の私の人格も育たなかったでしょうね。
貴族家庭だというのに、なんというかありがたい家族の関係性よ。
私は、キラキラした目で慕ってくれる弟に目線を合わせて、ジッと見つめる。
「マイン姉様?」
賢く、可愛い、我が弟。
フィナさんの年下枠のヒーローとしてあり得るかしら?
ラグナ卿が年上枠として、まだ年下枠が空いているのよねぇ。
いや、でも。世界観的にいうとけっこうバトル寄りだ。
流石のラリーでもギフトもなしで戦力にはならないだろう。
知性系ならジュリアンもいるし。
ギフトなしでもギフテッドと戦えるヴィル様が特殊なのだ。
「ふふ、なんでもないわ。小さな私たちと遊んであげてくれる? ラリー」
「はい!」
そうして嬉しそうにミニ・マインたちに構いに行くラリー。
私付き侍女のはずのマリンもなぜかそちらにいるのは解せないけど。
仕事はしているのでよしとしましょう。
さて。夏季休暇の残りの時間をまったりと過ごしているのにも理由はある。
私が動くと、かなり高確率で〝難〟を引き寄せてしまうというのもそうだ。
引き寄せるというか、自分から飛び込んでいっているイメージだけど。
今、公爵家の伝手を頼って、渡した情報の整理に当たっている。
私がつないだ各家との連携もそうだ。
ヴォルテール家とアイゼンハルト家との繋がり。
ベラゴート伯爵家の調査と監視、復興。協力してのコーデル家の調査。
どこに黒水晶一派の目があるかわからないため、慎重な動きとなっている。
今、家にいるのは、こういう時に家族が狙われないか心配だからね。
私がいれば、大概のことはどうにか対処できる。
今はミニ・マインたちも揃っているし。
でも、またブラック猪八戒クラスの災厄が襲ってきたらどうなるか。
中々、調べることが多くて思うように手が回っていないのが現状ね。
慎重に動くなら家の調査待ちになるのだけど。
たぶん、私が動いた方が結局は早いんだろうなぁ。
なにせ証拠もなく、乙女ゲーのルートにありそう、という理由で探索して、火眼金睛や超聴覚・嗅覚で悪事を見つけてくるのだ。
敵も私の動きは想定外に違いない。
家族との交流を深めているうちに、いよいよ夏季休暇が終わりへ差しかかる。
そこで以前から決められていたパーティーに向かうことになった。
そう、私のデビュタントだ。
お父様はお母様のエスコートをし、ラリーはお留守番。
念のため、ミニ猪八戒と四健将のうち二人を、ラリーの護衛に置いていく。
残りの四健将二人はお父様とお母様のそばで透明になって護衛よ。
王都にあるマロット家の邸宅。そこにやって来たのは一台の馬車。
それはアイゼンハルト家の馬車だった。
馬車から降りてきたのは当然。
「マイン、久しぶりだね」
「ヴィル様。ふふ、そこまで時間は経っていませんよ」
「そうかな。でも、待ち遠しく思っていた」
ヴィンセント殿下はやはり旅先から帰ってきていたわけではなく、事前に私への誕生日プレゼントを用意していたのだろう。それはそれでマメだとは思うが……。
こうした節目の日に私をエスコートできない、ということでもある。
別にその点を責めるつもりはない。厄介な問題を今日も片付けてくれているはずだ。
「俺にエスコートさせてくれるかい?」
「……はい」
好意を向けられているのを知っているからか、どうしても気恥ずかしい。
ヴィル様に差し出された手を、私は。
「コホン! ヴィルヘルムくん」
おっと! すぐ近くにお父様たちが来ていた。
「エスコート役は受け入れたが、流石に一緒の馬車には乗せられない。手を引くのはその時にしてくれたまえ」
「はい、マロット公爵」
ヴィル様は大人しく引き下がり、私に微笑みを向ける。
私は微笑み返した。
お父様たちと一緒に公爵家の馬車へ乗ってパーティー会場へ向かう。
別に年中パーティーが催されているわけでもなく、たまたま私の誕生日に近い日にあるパーティーに前から参加するように予定していたのよ。
とくに王家が主催しているとか、そういうパーティーではないので、まだ気持ちは楽ね。
「マインもいよいよ社交界デビューなのねぇ」
「感慨深いなぁ」
「ふふ、今日まで育ててくださって、ありがとうございます、お父様、お母様」
「まだ嫁には出さないぞ。出ていくみたいな言い方をしないでくれ、カーマイン」
ヴィル様の乗った馬車は私たちが乗る馬車の後ろをついてきている。
一般的に見れば公爵家と侯爵家の馬車が連なって移動とか、ちょっと怖そうだ。
会場に着き、馬車を降りるのだが……。
あとから来たヴィル様が来そうだと思っていたので、少し待たせてもらった。
「マイン、手を」
「はい、ヴィル様」
彼に手を引かれ、エスコートされながらパーティー会場へ。
大規模なパーティーではなく、言ってしまえば中規模のパーティーね。
それなりの交友関係、それなりの派閥。
侯爵家以上の家門はそこまで参加していない。
「ヴィル様、ダンスはどれほど?」
「きちんと学んでいるよ。恥はかかせないつもりだ」
「……ちなみにメリッサ嬢とは」
「コーデル伯爵令嬢かい? いや、彼女と踊ったことはないな」
「そうなんですね」
ちょっと気になっていたことだ。
私なりに、ちょっとジェラシーがあるのかしら。
「これは珍しい組み合わせですね、マロット公爵令嬢、それからアイゼンハルト小侯爵」
「ん?」
呼びかけられ、振り返るとそこにいたのは。
「ごきげんよう」
一人の女性だ。ドレスを着ているパーティーの参加者。
年齢は私とそう変わらないと思う。デビュタント仲間かしら。
銀髪のロングヘア。これぞ高位貴族令嬢! という雰囲気。
あれ? この人って、確か。
「ブランシー公爵令嬢、こんばんは」
「ええ、こんばんは、小侯爵」
そうだ! レイナ・ブランシー公爵令嬢。
ヴィンセント殿下を抜いて、現・生徒会長となった学園二年生!
「ヴィンセント殿下と一緒に参加されるかと思ったのだけれど、どうしてお二人が?」




