146 誕生日パーティー
お父様と侯爵の話し合いも一段落し、私とマリンはお父様とともに、王都のマロット邸に帰ることになった。
夏季休暇中、ほぼ家に帰っていなかったわね……。
「ひとまず、侯爵も二人のことは承知してくれたよ」
「え、じゃあ」
「だが、その前に王家に婚約者候補を降りることを伝えねばならない」
「そうですね……」
「それに、やはり二人の婚約以上に連中、黒水晶一派と言ったか。その問題に当たらねばならない」
「はい、私とヴィル様もそう考えています」
「……カーマインは連中の動きの予測がつくようだが、本当かい?」
予測。いやぁ、まさか乙女ゲー推論が根拠だとは。
前世の記憶についてはお父様にも、ヴィル様にも伝えていない。
つまり、西遊記についてもだ。
無駄な混乱を招くでしょうし、私も証拠として口にするには根拠が薄い。
「ギフトが時折、伝えてくることもあります」
これは嘘じゃない。少なくとも猪八戒の気配は感じたのだ。
ただ感じられるのは、三蔵一行レベルの相手だけと思われる。
『黒風大王』『金角大王』『銀角大王』など、他の西遊記系ギフトを感知はしていない。
「そうか……」
「はい、学業を疎かにするつもりではないですが……あれに対処できる者は限られると思います」
「カーマインならば対処が可能だと?」
「私一人では無理です。そのために協力を取りつけています。次からの問題にはチーム単位で当たりたい」
「……本当にいろいろあったみたいだね」
お父様は心配そうに私を見る。
「ご心配をおかけして申し訳ございません、お父様」
「……うん。それに連中はカーマインのことも狙っているんだろう?」
「ナナシのギフテッドとしてはおそらく。現段階でどうかは……」
「それもあるが、すでに直接襲われている。しかも油を撒いて火を点けられた」
「そうでしたわね……」
普通に考えて大事件だった。公爵令嬢襲撃事件である。
しかし、まだ犯人グループは捕まえていない。
「カーマインがあの事件の不安が拭えず、気丈に耐えているのかと思っていたが……」
「え」
そうなの? いや、父親目線だとそりゃあそうよね?
なにせ火を点けられたのだ。相当ショッキングな事件である。
「まったく気にしていなかったようだね……」
「えへへ……」
ほぼ気にしていませんでした!
だって金剛不壊の肉体のおかげで無傷だったんだもの。
そのあとで如意棒を出して、孫悟空のギフトについて考えるばかりだった。
精神的にすらノーダメージである。
さぞかし本来の運命なんてものをぶち壊していたに違いない。
大やけどで塞ぎ込むどころか、筋斗雲で各地を元気に飛び回る始末。
「カーマインが元気なことは喜ばしいが、かといって元気すぎるのも考え物だ」
「……気をつけますわ」
まったくもって元気いっぱいである。
「それから、あの子たちは……どうするんだい?」
「あの子たち」
私はお父様とマリンと一緒に馬車に乗っている。
そんな私たちが乗る馬車の上には今、ミニ猪八戒と四健将たちがいる。
ちゃんと姿を隠すように言ってあるわ。
ヴィル様のもとに、またミニ猪八戒を残そうかとも考えたのだけど。
ずっと一緒に活動しないっていうのも怖いのよね。
私はミニ猪八戒になったあの子のことをよく知らないまま。
どういう変化が起きたのか、きちんと把握できていないのだ。
それは、いざという時に困るだろう。
三蔵一行仲間として、ミニ猪八戒は特別な存在。
ここは普段から一緒に過ごしてみるべきよね。
「ひとまず一緒に暮らそうかと。頼りになる戦力ですから」
「うん……。隠さずに、学園にも連れていくのかい?」
どうしようかしら。
G4たちにバレちゃったし、もうオープンにしていく?
だからってオープンにするのも違うか。
でも、ずっと姿を隠させているのもなぁ。
身外身法は、その時に出すだけだから気にしないけど。
猪八戒と四健将は、ほぼ独立しているのよね。
「流石に学園では隠しつつ、ですね」
「そうか」
そうして、私は久しぶりに家に帰ったのだった。
数日後、マロット公爵家の邸宅では。
「マイン、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます、お母様」
私が家を離れている間、家ではどうやらパーティーの準備をしてくれていたらしい。
そう、私はとうとう十七歳になったのだ。
前世の記憶といっても、そこまで連続していないので肉体年齢のみ換算で。
普段、忘れがちなことだけど私は公爵令嬢。
誕生日に合わせて、いくつもプレゼントが贈られてきている。
パーティー自体は身内だけのものだ。
まぁ、長く主役の私が家にいなかったからね……。
出した手紙もないってものよ。
「これ……」
「アイゼンハルト小侯爵からね」
ヴィル様からのプレゼントだった。
赤いチューリップの描かれた板状の彫刻、スタンド付きの小さなデスク飾りだ。
今世でも恋愛的なアピールをするなら花束やジュエリー、小物を贈るのが定番だ。
そこで彫刻のデスク飾りとは、なかなか個性的ねぇ。
「ヴィンセント殿下からも贈られてきているわよ」
「ええ……?」
旅先なのに、また。元から用意させていたのかしら?
ヴィンセント殿下から贈られてきたのは、こちらはご定番の髪飾り。
髪飾り系って緊箍児が邪魔でつけにくいのよねぇ、私……。
まぁ、そのことを殿下は知らないのだから仕方ないけど。
「それと、これも」
「うん?」
「なぜかヴォルテール辺境伯家から」
「まさか」
ラグナ卿? どうやって私の誕生日を知って、どうやって贈り物を?
ヴォルテール領、およびベラゴート領にいるはずの彼。
そもそも私の誕生日を知っていたのか。
ラグナ卿から贈られてきたのは、やたら頑丈そうな短剣だ。なぜに?
別に騎士でもない、公爵令嬢に無骨な短剣を贈るとは。
「ラグナ卿は私のことをなんだと思っているのかしら」
人のことをおもしれー女扱いしそうなラグナ卿が一番おもしれー男なのでは?
「マインって、個性的な男性にモテるのねぇ」
「お母様……」
どうしてこうなったのやら。
「それと」
「まだあります?」
公爵令嬢としての取り巻き的な女子は、ほぼいない。
私が十三歳から二、三年ほど、教会に通うことを優先していたからだ。
寄子の家門に同世代の令嬢がいないこともないんだけどね。
クラスメイトの女子たちとは普通に話しているかな。
こっちは私に前世の感覚があるせいだろう。
「こちらは第一王女ヴァレリア殿下から」
「なぜ」
「ヴィンセント殿下の婚約者候補だからじゃないかしら」
「ああ……」
ヴィンセント殿下は王家の長子だ。
王族の他の子たちはヴィンセント殿下の二つ年下となる第二王子殿下。
今年で十三歳になる第一王女ヴァレリア・フォン・グラムザルト殿下。
そして末っ子がその二つ年下の第二王女殿下よ。
「ヴァレリア殿下といえば、そろそろ洗礼式なのよね」
「そういえばそうですね」
考えてみれば現段階で西遊記ギフテッドたちが揃っているとは限らない。
乙女ゲー推論に当て嵌めるとしても、フィナさんが学園にいる三年の間に新たにギフトを授かるというパターンもあるわね……?
それらしき情報の入った玉龍はさておき。
三蔵法師や沙悟浄のギフテッドはこれから生まれるって可能性も……?
「誕生日メッセージも頂いているわ。今度、ぜひお会いしましょうですって」
「それはまた……ですわねぇ」
ヴィンセント殿下との婚約は辞退する方向で進んでいる。
そこに来て第一王女殿下からのアプローチとは。
タイミングが合ってしまっただけで悪意はないと思いたい。
「あとは隣国の使者から?」
「はい?」
さらに謎。隣国の使者とは。
「西の国、レイシェル王国のバンセイさんから」
なんか日本的な、いえ、どちらかというと中華的な響きの名前ねぇ。
実を言うとレイシェル王国のことはよく知らない。
ヴォルテール家が北西の国境を守っているように、歴史的にあまり仲良くないのだ。
といっても、常にドンパチしてきた歴史はない。
国境には深い森があるため、お互いの国に侵攻するのが難しい。
「ぜひ、交流したいと。これはマイン宛てというより、我が家宛てみたい」
「本当になんでです? 会ったことないと思いますけど」
「さぁ? あの人に聞いてみないと。マインの誕生日にかこつけて公爵家と縁を持ちたいのかしらねぇ」
あの人、とは単にお父様のことだ。他人ではない。
それにしても西の国からの便りとは。
……玉龍の件で何かあるのかしら?




