143 会合
約束の二週間後がとうとうやってきた。
王都からアイゼンハルト侯爵と、お父様が来るのだ。
私とヴィル様はそのための準備を進めていた。
私が掴んでいる現在までの情報まとめ。
前世の知識や西遊記については流石に割愛している。
ここまで説明すると本質の問題から遠ざけるだろうし。
西遊記は膨大な解釈が存在する昔の物語だ。私の知識が正しいとも限らない。
「改めて確認すると、彼らの目的は本当に王国の混乱としか思えないな……」
ベラゴート伯爵家の乗っ取り事件、金角大王・銀角大王および混世魔王案件。
黒水河の難における二つの伯爵家の衝突、使い捨てられたギフトの再利用?
ラグナ卿が調べている名無しのギフテッドたちの失踪・死亡事件。
加えて私のギフトについて。
正直、これが一番言いたくないのよねぇ。
すでに大々的に名乗りを上げているところもあるけど。
「心配しないでいい、マイン。父にも公爵にも悪いように伝える気はない。それにギフトについて話すなら、君がアイゼンハルトを二度も救ってくれたことも話すということだ。父に文句など言わせるつもりはないさ」
「ヴィル様……。ですが、有益と思われれば、それはそれで……」
ヴィンセント殿下がねぇ。
いえ、それこそ本人の前で大立ち回りをしたから今さらなのだが。
「ヴィルヘルム様、馬車が二台こちらへ来ているそうです」
「二台? 一緒に来られたか」
お父様は公爵であり、王宮で働く大臣だ。領地は代官に任されている。
アイゼンハルト侯爵は王宮騎士団長。領地はヴィル様に任せて普段は王都にいるらしい。
「お父様たちが先に合流しているのね」
「二人とも王宮勤めだからね」
本当、どうなるかわからなくてソワソワするけど、どうにか抑え込む。
数少ない、私の貴族令嬢マナーを発揮する機会よ!
淑女らしくポーカーフェイスで挑むわ!
「ウキー!」
「「「「ウキ!」」」」
……うん。なんか無理な気がしてきた。
私の肩にはミニ猪八戒が乗り、四健将のうち三体がミニ筋斗雲で浮いている。
一体はなぜかマリンが抱っこしている。本当になぜかしら。クールな無表情しちゃって。
やがて堅実な造りの丈夫そうな馬車と、少し豪華な馬車が屋敷の前までやってくる。
堅実な馬車からはアイゼンハルト侯爵が降りてきて、豪華な馬車からはお父様が降りてくる。
二人の視線は、まず私たちに向けられた。しかし、すぐに。
「「「「「ウキー!」」」」」
「……?」
「……?」
私たちの周囲にいるミニ・マインたちに目を奪われて反応が鈍る。
厳しい態度を示そうとしていた様子なのだけど、呆気にとられてポカンとしている。
「マロット公爵閣下、アイゼンハルト家にようこそお越しくださった。父上、久しぶりです」
「……ああ、ヴィルヘルム。しばらくだな」
久しぶりの親子再会。それは私の方もなのだが。
「カーマイン?」
「はい、お父様」
お父様の視線は私に向けられつつ、どうしても逸れて、ミニ・マインたちに向かう。
「……これはなんだい?」
「いろいろとありまして」
「いろいろ」
「はい、いろいろ」
「……小さなカーマインに見えるのだが」
「まぁ、似たようなものでして」
「似たようなもの」
首を傾げるお父様。そして見つめ合うお父様とミニ・マインたち。
「「「「「ウキー……」」」」」
何をちょっと泣き落としみたいなことをしているのかしら。
ウルウルと上目遣いで。
「う……。なんだ、この子たちは……。小さいカーマインじゃないか」
「ええ、まぁ……」
「旦那様」
そこでススッと前に出てくるマリン。何を?
「抱っこもできます」
「なん……だと……?」
「ウキ?」
ミニ・マイン四健将が赤毛の尻尾をフリフリしながら、マリンに脇を抱えられてお父様に差し出される。
首を傾げる姿が小動物のそれで可愛い。いや、自分の見た目なのだけど。
「抱かせてくれるかい……?」
「はい、元気な娘さんです」
「娘なのか……」
母親から生まれたばかりの赤ん坊を受け取る父親かしら?
「ウキー?」
「おお……」
ミニ・マインを受け取り、謎の声を上げるお父様。
いや、なに? この時間。
「よくやってくれた」
「はい、旦那様」
「いや、何を言っているの?」
茶番すぎる! お腹を痛めて苦労して産んだわけじゃないのよ。
「で、この子はいったい?」
「……私のギフトの能力に加えて、追加がありまして」
「子供を産むギフト?」
「違います」
どんな発想なのよ。いや、知らない人からはそう見えるのかしら。
「お嬢様の力で、この子の似たような子が、お嬢様の身代わりをしていたようです」
「……! カーマインが消えてしまった時の!」
あ、お父様も認識しているのね。まったく誤魔化されていなかったか。
「説明してくれるかい、カーマイン」
「はい、お父様」
それはそうとキリッとした顔をしながらミニ・マインを抱いて頭を撫でるのはやめてほしい。
改めて、少し落ち着いてから屋敷に入る。
今回はアイゼンハルトの別邸ではなく、本邸に入れてもらえた。
お父様と私、侯爵とヴィル様が並んで座る。
気持ち的には私とヴィル様が並んで、お父様たち二人に話すようなものだけど。
流石にここは家で分かれているわ。
「これまでにわかっている範囲を資料にまとめさせていただきました。まずはこちらを」
あ、ヴィル様、資料を用意してきている。
やり方が会社員。それは違うか。
「まずはアイゼンハルトで起きた魔獣発生事件と、わかっている範囲の真相、また彼女の貢献から」
魔獣の大量発生とキメラの出現、私の救援活動とヴィル様の共闘。
レギデーシュ商会の暗躍。領内の治安悪化や物資強奪の嫌疑。
商会の拠点にいたバルグリッサ、ルドロフ、マルガルフのこと。
極めつけはアイゼンハルトの湖で起きたがしゃどくろ・ブラック猪八戒の災厄事件。
事件が終わったあとの追加調査で判明したこと。
さらに私が各地を飛び回って把握してきた事件などなど。
……本当に、これまでいろいろあったものだ。
「……いくつか話が飛んでいたように思えるが」
「どの点でしょう?」
「マロット公爵令嬢の行動範囲が広すぎる。だが、虚偽ではない報告なのだろう?」
「それは」
ヴィル様が私に視線を向ける。私は頷いて返した。
「侯爵閣下、私、空を飛べるんです」
「空を」
「ほら、この子たちのように」
「「「ウキー」」」
ミニ筋斗雲に乗って、フワフワ浮いてみせるミニ・マイン四健将。
「……雲に乗って、ということか」
侯爵は眉間に皺を寄せる。縮地のことまで話したら情報量が多すぎるかもね。
「カーマイン」
「はい、お父様」
「その能力は最近になって気づいたのかい?」
「いえ、能力自体は以前から知っていたものもあります。実際にできるかは、検証しつつでした」
「いつから使用している?」
「……本格的に使用するようになったのは、やはりアイゼンハルトでの魔獣災害が起きてからでしょうか。それまでは極力、使用するのを避けていました」
「そうか。それは嘘じゃないんだね」
「……はい。お父様、黙っていてごめんなさい」
私は、お父様が事件の詳細だとか、能力の有無だとかより前段階の問題を気にしていることに気づいた。
「……うん。話してくれなかったのは少し悲しいが、秘匿するだけの理由は確かにあったようだね」
「はい……。私のギフトは強力すぎますが……、それとは別に災難を呼び寄せるものでもあります。この国に起きている問題は……大きく私のギフトに関わるようで」
「特別なギフトだと?」
侯爵がそこで疑問を挟む。
「そうですね。敵の……私が黒水晶一派と呼んでいる彼らが保有しているギフトと出典が同じというか。だからこそ、私のギフトがバレると狙われる可能性が高くなることを懸念しています」
「……もしかして、あの時、カーマインを襲った連中か?」
あの時、というのはおそらく入学前に私が襲撃にあった事件だろう。
あれも相当ひどい事件だったわよね。私は無傷だったけど。一般令嬢だったら大やけどだもの。
「証拠はありませんが、今思えばそうだったのだろうと思います」
「そうか。では、許せないな……」
お父様は私のために怒ってくれている。
確かな愛情を感じ、私が今まで立てていた乙女ゲー推論というか、悪役令嬢路線なんて、思い込みにすぎないことを感じさせる。
まぁ、現状がおそらく運命なんてぶっ壊れすぎているだろうというのはさておき。
両親からの愛情を疑ったことはないのよね。
「マロット公爵、父上」
ヴィル様が二人に呼びかけてから真剣な表情を浮かべる。
「どうした、ヴィルヘルム」
「……お二人にお願いがございます」
「お願い?」
二人は互いに視線を交わしてから、無言で続きを促がす。
「俺にマロット公爵令嬢へ求婚する権利をいただけませんか」
────。
「は……!?」
「なに……?」
「ヴィ、ヴィル様?」
衝撃のぶっこみ事案に私は思わず息を呑む。
確かに彼からの好意は感じていたけど!
でも、まさか、そんなことをこの場で口にするなんて!
お、思ったよりも大胆ね……?
私は思わず視線を彷徨わせてしまうのだった。




