141 再会②
偽聖女として賊を追い払ったあと、念のため、私自身も周辺を見てまわる。
子爵領はそう広くはない。
空から見下ろせるのだから、あやしい一団がいればだいたいわかる。
散らばったミニ・マインたちも回収しつつ、警戒していたけど見る限りは問題なさそうね。
「じゃあ、戻りなさい、ミニたち」
「「「「ウキー!」」」」
四健将以外のミニたちを毛に戻し、子爵家へ向かう。
「四健将たちは毛には戻れないの?」
「「「「ウキ?」」」」
ミニ筋斗雲に乗った四健将が揃って首を傾げる。
変化でさらに小さくもなれるだろうし、戻れなくとも目立たなくはなれそう。
正直、愛着があるから出しっぱなしでいいならそれでもいいのだけど。
「まぁ、フィナさんのところでは姿を出したままでもいいかしら。学園に戻った時にどうするか、が問題よねぇ」
「「「「ウキー」」」」
身外身法を挟んでいるものの、本来の四健将は花果山を守る猿の代表たちだ。
ということは同行させるより拠点を守る役目を担わせるのが一番?
でも、それこそ本来の四健将と彼らじゃ事情が違うわよね。
なにせ彼らが従わせる花果山の猿の軍勢がいないのだ。
混世魔王の男から剥奪したギフトで生まれたミニ・マイン四健将。
追加の花果山の猿補充はもう流石にないわよねぇ……。
フィナさんのところに残すのもね。G4が普段はいるだろうから。
それにミニ猪八戒はヴィルヘルムの手助けになればと思ったから置いてきたけど。
実は身外身法って、あんまり放置しない方がいいのよね。
放っておくと暴れるとかじゃない。
場合によっては奪われることもあるというか。
まぁ、かなりのレアケースだけどね。
奪うといっても原典では奪われたあと、分身たちが毛に戻るだけのエピソードだ。
でも、この四健将の場合はその状態でどうなるかわからない。
知らない間にこの子たちが消えていたなんて悲しいのは嫌だし。
「まぁ、基本は私の目の届くところにいてもらおうかしら」
「「「「ウキー!」」」」
「フィナさん、しばらく心配なさそうだから、あとは殿下たちを待っていてね」
「マイン様、もう行ってしまうのですか?」
「せっかく遊びに来させてもらって悪いのだけどね。殿下たちに加えて私まで長居しちゃったら、ご両親に負担をかけてしまうもの」
公爵令嬢にすら恐縮しているフィナさんのご両親だ。
これから殿下たちがやってくるだろう心労を考えると私が迷惑をかけるのは忍びない。
あと、シンプルに今、殿下たちと遭遇したくない。面倒くさいので。
「しばらくは心配ないと思うけど……一人で行動しないようにね。護衛と連絡役は同行させて。最悪、フィナさん自身が誘拐されても、連絡役が事態を伝えられたら殿下たちが助けてくれるわ」
「……マイン様は来てくれますか」
「私は……」
もちろん、積極的にイベントは奪う気でいる。
徳を積むためにだ。下心満載である。とはいえ、状況によるだろう。
今は敵陣営の全貌を明かす段取りを組むのが先決だと思う。
「殿下たちがどうにもならなかった時は、私が貴方を助けるわ。必ずね」
「マイン様……!」
「でも、それ以前に貴方、簡単に誘拐されないように行動しなくちゃだめよ」
「う……はい……」
自覚ありか。すでにやらかして誘拐された事案があると見た。
「フィナさん。困っている人たちを助けるのはいいことよ。貴方にはその力があるのでしょう。だけど過信は禁物よ。まずは自分の身を守ってから。人助けなんて余裕がある人がすることなんだから」
「……マイン様」
「まぁ、ノブレス・オブリージュとして民を助けたいと言うんなら、見栄を張るべき時もあるかもしれないけど。個人的な人助けなら、それはまず自分の安全を確保してからの話だわ。救助者が、次の要・救助者になるのはだめ。そうしたら他に助けられたはずの人を助けられなくなるかもしれない」
「……はい」
「まぁ、そんな貴方に救われる人もいるでしょうから……これ以上、厳しくは言わないけどね」
ヒロインの行動力があってこそ救われる人はきっといるのだろう。
フィナさんは心配だが、かといって彼女の行動を制限して救われない人を出すのもどうか。
難しい問題よねぇ。
私みたいに自分の手で解決できそうな範囲で動くだけの人間とは違うのだ。
「それじゃあ、行くわね」
「はい、マイン様。ありがとうございます! 私を助けてくれたことも、心配してくれたことも!」
私は笑って手を振り、筋斗雲で空に上がる。
最後に周辺を一回りしてみて、あやしい影がないかを探ってから帰りましょう。
周辺探索を続けているうち、地上にG4の……というよりジュリアンと幾人かの騎士の姿を見つけた。
どうやら黒水河の難の後処理を殿下たちに任せ、ジュリアンだけ先行して来たみたい。
ああ見えて、きちんとフィナさんのもとへ辿り着いていた実績がある。
G4の一人でも来たのなら、あとから難が降りかかってもどうにかなるでしょう。
「彼の周りに沙悟浄、どうやって出てくるのかしらねぇ?」
ジュリアンルートにおけるイベントっぽいものの予想はつく。
それは彼の恋愛感情が現在、フィナさんに向いていないことが関係している。
彼の実家、ヴァレンシュタイン侯爵領で何かあるかしら?
「確かヴァレンシュタイン領は、っと」
「「「「ウキッキ」」」」
筋斗雲の上で地図を広げ、領地を確認する。
ヴァレンシュタイン領は南方、海に面していて大きな港がある領地だ。
即ち、そこには船がある。太河とはいかないが、水にちなんだ領地というわけ。
「あやしー……」
「「「「ウキキー……」」」」
絶対この港に沙悟浄の災厄が降りかかるでしょう。
いえ、決めつけるのはよくないわね。何が起こるかなんてわからない。
ヴィルヘルム周りで猪八戒が出てくるなんて思ってもいなかったもの。
地図を畳み、縮地ポイントに降り立つ。
「四健将、私に掴まっていなさい」
「「「「ウキィ!」」」」
四体がそれぞれ、しっかり掴まったのを確認してから。
「縮地!」
視界がぐるぐると急回転し、一瞬のうちに景色が変化する。
なんだか久しぶりのアイゼンハルト領へと戻った。
いい加減、お父様たちを迎える準備をしなくちゃね!
「うわぁ! また出た!」
「あら?」
「「「「ウキ?」」」」
顔を横に向けると、またもや湖の監視に当たっていたであろう騎士がいた。
がっつり縮地を見られている。
「ごきげんよう! ご苦労様! そのままがんばってね!」
「「「「ウキ!」」」」
私は驚く騎士へにこやかに笑顔を向けたあと、筋斗雲を呼び出し、乗る。
瞬く間に空へ駆け上がって、そのままヴィルヘルムがいるだろう屋敷へ。
遠目に見えた屋敷の中庭。そこに人影があった。
人影は小さな姿の者を相手取っている。
すると、私の接近に気づいたのだろう。
「ウキ?」
ミニ筋斗雲に乗り、九歯のまぐわを背負い、木剣を持って戦っていたのはミニ猪八戒。
もちろん相手は……ヴィルヘルムだ。
ヴィルヘルム・アイゼンハルト。
小侯爵で、銀色の髪に緑色の瞳。ジークヴァルトのお兄さん。
少し年上の二十一歳。
弟より凛々しい印象で、細身だけれどしっかり筋肉がついていると知っている。
いわゆる細マッチョというやつでしょう。
王家にすら人格・実力を認められていて、騎士の中の騎士と評価されている。
立場が違えば殿下の護衛役になるのは彼だっただろう。
私と同じで婚約者候補がいるものの、状況が複雑でどうなるか不明。
それについても話し合うのよね。
一緒に猪八戒の難を解決してくれた人。
ギフトは持たないけれど、それでもギフテッドを相手に勝った実力者。
もっと彼について説明するとすれば、私たちは……口にしないけど、互いに、それなりに。
「マイン! 戻ってきたのかい」
「ヴィル様」
中庭に降下し、彼らの目の前へ。
「ウキキ!?」
「「「「ウキー!」」」」
ミニ猪八戒、ミニ四健将たちと初遭遇する!
「「「「「ウキィ!」」」」」
そして、合流して謎のコミュニケーションを取り始めるミニ・マインたち。
彼ら独自の言語とかあるのかしら。
「小さなマインたち、また増えたのかい?」
「……いろいろとありまして」
今後も増えていく予定があります。
「マイン」
「はい、ヴィル様」
「おかえり」
そう言ってヴィル様は嬉しそうに笑ってくれた。
本当に久しぶりな気がする。なんだか眩しい笑顔だった。




