140 偽聖女一行
隠身法と筋斗雲を併用して、姿を隠しながら空を飛ぶ。
「さて、何があったのかしら」
「ウキー」
また大きな事件じゃなければいいのだけれど。
アスティエール領からこの方向に事件の匂いがするということはG4案件かしら。
実家に帰るだけでしょうに波乱万丈ね……。
「ウキ!」
私のもとへ来たミニ・マインが合図をしてくる。
見ると他にも何体かのミニ・マインがフワフワ浮いていた。
どうやら四健将たちも揃っているみたい。赤毛の尻尾と銀の輪が見える。
「あそこね」
「ウキ」
地上を見下ろせば、そこには賊らしき男たちがまばらにいる。
見た目はあやしいけど、それだけで判断していいのか微妙ね。
「ここは一つ、聖女一行のフリをして近づきますか」
「ウキ!」
私はミニ・マインたちを集め、賊がいる地点から少し離れた場所に降り立つ。
「七十二変化、変われ!」
「「「「ウキキ!」」」」
私はフィナさんの姿に、ミニ・マイン四健将たちはG4の姿に。
こうして揃うと、やっぱり彼らこそがこの世界の三蔵一行感が出るわねぇ。
勝手に西遊記モチーフの乙女ゲー判定をしているけど。
そうだとしたら、彼らは国内を〝旅〟して難を乗り越えていくのがデフォなのかしら。
「そうすると沙悟浄も学園に出るわけじゃなさそうねぇ」
「ウキー?」
聖女として国内問題を解決していくフィナさん。
民の支持が高まり、第一王子の婚約者として相応しいと言われるようになる?
身分差の問題は国民人気で解決ね。
それで沙悟浄はどこにいるのか。
川か海など水辺の近く? それでいてジュリアンが関係している土地?
「まぁ、ひとまず目の前の問題を解決しましょうか」
「「「「ウキ!」」」」
G4の姿、つまり等身大の姿なのに返事が『ウキ!』なのね。
私の等身大の姿になった時だけ喋れる仕様なのかしら?
その姿でその鳴き声を出されると笑っちゃうからやめてほしいわ!
ちなみに偽G4たちの元は四健将なせいか、赤毛の尻尾が見えている。
孫悟空あるある、尻尾で変化の正体がバレるやつ!
聖女一行プラス馬車のスタイルで徒歩移動。馬車も馬も正体はミニ・マインの変化よ。
賊が集まっていた地点まで着くと、道を塞ぐように彼らのうちの一人が姿を現す。
もっと大勢いたはずだけど、他は姿を見せず、隠れているようね。
「聖女様! どうかお助けください!」
開口一番はこの切り出しだ。うーん、西遊記の雑魚妖怪ポジション。
『高名なお坊様とお見受けします、どうか私をお助けください』
だいたい、そういって近寄ってくるのは妖怪だ。
いや、普通に助けを求めている場合もあるけど。
「どうされたのですか」
「仲間が重い病に倒れて! 医者に診せても原因がわからないというのです! どうか、聖女様のお力で仲間をお救いください!」
「まぁ、ご病気に? その方はどちらに?」
「こっちです!」
そう言いながらフィナさん……の姿をしている私、の手を掴もうとする。
私はスッと後ろに引いてその手を躱す。
「聖女様?」
「はい、どうしました?」
「いえ、ぜひ、仲間のところへ案内したく……」
「はい、どうぞ、そちらへ案内してください。ですが、私の手を取る必要はありません」
ニコニコと笑顔を返す私。
思い通りにいかないことに苛立ちを覚えたのか、顔をひきつらせる賊の男。
「え、ええ。では、こちらへ」
「はい。では、皆さん、行きましょうか」
「「「「…………」」」」
流石に空気を読んだのか『ウキ』とは返事せず、無言で頷く偽G4。
「その……」
「なんでしょう?」
「仲間がいる場所は狭い場所で、大人数は連れていけないのです。ですから、どうか聖女様お一人でお越しいただければ、と」
「そうですか。それでしたら、貴方の仲間は諦めていただくことになります」
「は……?」
ニコニコ。フィナさんの顔で。
「私は彼らと別行動する気はありませんよ。また、それを決めるのは私たちですから、貴方の意見を聞く気もありません。まさか、出会ったばかりの貴方の要望が、すべて通るなどと思っていませんよね? 聖女とは無条件で人に尽くす存在ではありませんよ」
「……しかし仲間は今にも死にそうで」
「ええ、その方は助けてさしあげましょう。ですが、その助け方を決めるのは私です」
ニコニコ対応継続中。おお、頬をひくつかせているわねぇ。
「そんなの勝手ではないですか……?」
「あら、不満? では、貴方の態度のせいで仲間の命は諦めることになるわ。きっとその仲間は貴方を恨むでしょうね」
「まさか、助けないと?」
「助けを乞う立場でありながら、勝手な条件をつけようとする貴方が悪いのです。悔い改め、御仏に許しを乞いなさい」
「ミホトケ……?」
「コホン」
いけない、いけない。無駄な宗教論争を招くところよ。
西遊記は昔の物語だからか、仏教だけじゃなく道教、儒教なども混ざっているのよね。
その上、今世の価値観までぶつけては収拾がつかなくなるわ。
「しかし、わかりました。出過ぎたことを言ったことを謝ります」
「ええ、わかればよろしくてよ」
「…………」
普通に偉そうムーブになってきた気がするわね!
別に私の中のフィナさんはこんなイメージではない。
むしろ、危険な人がいると聞いたなら即座にダッシュで突撃するイメージよ。
そんなことをしていたら、どれだけ誘拐されてもキリがない。
ここは一つ、聖女の別側面の噂を立てるとしましょう。
「で、では……皆さん、こちらへ」
「ああ、気が変わりましたので。その病人は私のもとへ運んできてください」
「は……?」
「私たちはこの先で休憩しておりますわ。さぁ、皆さん、行きましょう」
「ちょ、ちょっと待ってください! 重病人なんですよ!?」
「ええ、そう。でも、貴方たちのように大人数なら一人を運ぶくらい、簡単なことでしょう?」
「……何を。私は一人で」
「木々の影に隠れているのは貴方のお仲間さんたちではないのかしら」
「……!」
ピリリ! っと肌で感じる殺気が増した気がするわ。
「……なんのことだか」
「しらを切るのもけっこうだけれど。仲間がいるのですから、病人を運ばせる手伝いをさせなさい。それではお大事に」
そう冷酷に告げて私は立ち去る素振りを見せる。
「くっ! 噂で聞いていたのと全然違うじゃねぇか、このクソ女が!」
「まぁ、口汚いわ。噂の聖女ならなんでもしてもらえると勘違いしていたの? 浅はかなこと」
「黙りやがれ! もういい! バレているんなら仕方ねぇ、野郎ども、出てこい!」
そんなお約束の合図でザザザッと木々の影から出てくる賊たち。
「やれやれですわ。ジークさん、ジュリアンさん、こらしめてやりなさい!」
それは西遊記じゃない? 知らなーい。
「「ウキー!」」
あ、かけ声でウキーが出ちゃったわ。まぁ、いいか。
G4の評判につながるだけだもの。
そして始まるミニ・マインG4と賊たちの大立ち回り。
誰もあえて変化を解かず、その姿のままで対処を続ける。
等身大ミニ・マイン四健将たちで十分に賊の対応はできそうね。
私はまだ変化をせず、透明のまま待機している二体のミニ・マインに命令する。
「黒犬の使い魔に化けて、偽ジュリアンの援護をしてあげて」
「「ウキ!」」
変化した黒犬ミニ・マインたちが使い魔のフリをして賊に襲いかかる。
ギフト『なんちゃって真理の探究』!
これで聖女一行の正体を疑う者はいなくなるわ! ふふ。
「くそっ、こいつら、やっぱり強ぇぞ!」
「舐めるな! 聖女を直接!」
「ヴィンセントさん、前へ、口パクして」
「ウキ!」
ミニ・マイン殿下を前に立たせ、口パクさせる。
「定身法」
そして私はその影から定身法をかけ、金縛りで賊を止める。
これでギフト『なんちゃって太陽の覇道』の完成よ!
「ベネディクトさん、〝影〟に変化!」
「ウキ!」
ミニ・マイン氏の体が影に変化し、ギフト『なんちゃって深淵の福音』!
G4の姿をした四健将たちが賊をうちのめしていく。
うんうん、けっこう強いんじゃないかしら、四健将たち。
そんな中、偽G4を突破して聖女に迫る賊が現れる。
「お前さえ捕まえれば!」
近づく男に私は動じることもなく、ニコリ。
「笑っていられるのも今のうち、」
「アチャアッ!」
「おぶぉっ!?」
如意棒ではなく孫悟空の剛力によるアッパーカット!
武闘派聖女、ここに爆誕よ!
「なっ……」
「あはは! 何を勘違いしているのかしら! この一行の中で最も強いのは、この聖女セラフィナ・アスティエールよ! 彼ら四人に勝てもせず、最強のこの私に立ち向かおうなんて五百年早いわ! 岩山に押し潰されて五百年経ってから出直してきなさい!」
「なん、だと……!?」
驚愕する賊たち。勝ち誇る偽聖女と得意気な顔をする偽G4。
「それから私の趣味を教えてあげる。あんたたちみたいなクソ野郎を返り討ちにしてねぇ……アソコをちょん切ることよ?」
「ひっ……!?」
ジャスチャーでハサミの仕草をすると、賊たちは腰が引けたのか一歩あとずさる。
「大丈夫、痛みだけは私が癒してあげるから死にはしないわ。ふふ、治癒の力ってね。どんなに、どんなに痛めつけても、治してしまえば証拠も残らないの。だから貴方たちをどれだけでも虐められるわ。ふふ、ふふふ……」
私が邪悪に微笑む姿を見て、いよいよ顔色を青くする賊たち。
「う、うわぁああ!」
「おい、待て、逃げるな!」
「この女、頭がどうかしていやがる!」
「あはは! 逃げ遅れた子からチョン切ってさしあげますわぁ!」
「ひぃ!」
そうして。
偽聖女への恐怖と偽G4たちの武力によって賊たちは見事、追い払われた。
これで噂が広まったら、聖女一行を舐めて襲ってくる奴らも減るでしょう。
「ふぅ、いいことしたわ!」
「「「「ウキー!」」」」
私は偽聖女の姿のまま、偽G4たちとともに勝利を祝ったの。




