138 後処理いろいろ
金角大王、銀角大王を倒し、ギフトの正体を霧散させた。
浄化も挟んだおかげか、それともラグナ卿と私のタッグが強すぎるのか、あっさりと勝利。
そもそも五つの宝を持たない金角・銀角だ。そこまで強くはない。
ついでにベラゴート伯爵にとりついていた『青毛獅子怪』も処理。
これらは残念ながらミニ・マインの強化にはつながらなかった。
やっぱり、元々が孫悟空の仲間でないとダメなのかしら?
ベラゴート伯爵、クラリオ、ロクサーヌ、アンリエッタさんはヴォルテール家の施設へ移されて、療養することになった。
全体的に治安悪化していたベラゴート伯爵領全体にも手をつけることになる。
伯爵家の使用人たちも念のため、事情聴取の対象だ。
ラグナ卿には今回の件の後処理をほぼお任せすることになる。
流石にマロット家からの人員を回すには遠いのだ。
ちなみに還魂丹は、やはりもう使えなくなっていた。一粒きりみたいね。
「お前は忙しい奴だな、カーマイン。あちらこちらに飛び回って」
「望んでそうなっているわけじゃないのだけどね」
三蔵一行も行く先々で災難に見舞われる。その都度、孫悟空は筋斗雲で飛び回って事件を解決する術を探すものだ。
苦労はするけれど、いつかこの行為が緊箍児を外す役割になってくれると嬉しい。
わりと切実に。
「カーマイン様、私も一度、家に戻ろうと思います」
エミリア嬢とフィナさんは友人だ。一緒にやって来てエミリア嬢が切り出す。
「お父様と相談し、ラウゼン家でも可能な限り、今回の件に協力させていただきます」
「そうね、ヴォルテールとラウゼンが協力してくれた方が、ベラゴート領にとっていいことだと思うわ」
ベラゴート領の治安は悪化していた。その影響は両隣にある領地にも影響を及ぼすだろう。
「隣の領地で進行していた、これほどの事態に気づくのが遅れた責任もある。ヴォルテールも力を尽くすつもりだ。ラウゼン嬢、男爵にはよく言っておいてくれ」
「はい、ヴォルテール卿」
「ラグナでいい」
「え?」
「この苦難を共に越えた仲だ。名を呼ぶことを許そう」
「は、はい……ラグナ様」
お? おお? 頬を染めた? 染めたわね?
これはフラグ! フラグでいいかしら!?
私は公爵令嬢スマイルで表情を取り繕いつつ、内心でワクワクする。うふふ。
「マイン様? どうされたのですか」
「いいえぇ、フィナさん、ただの趣味よ」
「趣味」
エミリア嬢とはフラグが立ちそうだけど、フィナさんとのフラグが立っている気がしない。
それでいいのか、ラグナ卿。まぁ、私が口を出すことじゃないけれど。
それより、彼らが一緒にいる場合、この『金角・銀角イベント』を消化したとしよう。
フィナさんがいなくてもエミリア嬢と一緒にラグナ卿が今回の件を片付けるはずだった。
それはまだルートの途中だ。
「フィナさん、ラグナ卿。今度、西の国に出たという龍に会いに行きましょう」
「龍、ですか」
「おお! 興味が出たか、カーマイン」
また目をキラキラさせちゃって。
この感じ、さてはラグナルートでは仲良くなったあと、興味本位で龍に会いに行くのでは?
もしそうだとすると、ひとまずこのイベントは後回しでOK?
藪を突いた時にようやく龍が出る系かもしれない。
でも、手がかりが出ている以上は優先事項かしら。
ラグナ卿の手が早々に空いてくれればあとで楽ができそう。
……いえ、ラグナルートの難易度の方が高そうな気がするわね。
全部、私の勝手な推論なのだけど!
こういうのは弱そうな場所から落していくのがセオリーよ。
紅孩児の力を持つヒーローが活躍するルートは難易度が高いか、低いか。
うん。絶対に難易度が高い方。これはもう絶対。だめだめ、後回し。
ジュリアンルートから攻めよう、そうしましょう。
「また今度ね。夏季休暇もそこまで長くないんだから」
「そうか、お前たちはまだ学生か」
「そうよ、こう見えてデビュタントもまだなの」
デビュタントなのだけど。
この国では、ただの社交界デビューのことを差すわ。
前世の情報だと、みんなが白いドレスを着て国王の前に出て言葉をもらうとか、そういうイベントだったと思う。参加年齢ももっと幼いイメージね。
この国の場合は、単に満年齢が十七歳を超えた貴族のデビューイベントよ。
私の場合はこの夏をすぎたらもう十七歳だ。
社交界に参加する権利を得て、ドレスを着て大人たちのパーティーに出る。
どうしてそうなるのかは教会の洗礼式が関係している。
十三歳になれば、この国のほとんどの誰もが教会で洗礼を受ける。
ギフトを授かる印象が強いけど、多くの人々にとっては、ただの十三歳のお祝い行事なのよね。
洗礼式が大人の世界の仲間入り行事として成立しているため、デビュタントの方は満年齢でそれぞれ、個別にデビューということになったのだ。
この世界、この国ならではの文化ってところね。
「それよりラグナ卿、ベラゴート家の夫人を捜してほしいの」
「夫人? 前妻か」
「ええ、伯爵も療養中だもの。この領地の判断ができる人が必要だわ」
「そうだな……無事だといいが」
「それも気になるから安否確認も兼ねて」
「わかった、急がせよう。……奴らはどうする?」
「狐理精の女と、混世魔王の男ね……」
二人共、ギフトの正体を破壊されているため、もう戦う力はない。
あとは尋問して、彼らが所属しているだろう組織のこと、或いは従っている黒幕のことを吐かせたいと思う。
「今、同一のグループとつながりがあるだろうって連中は各地で捕らえているのよね」
アイゼンハルト領では『黒風大王』ルドロフ、レギデーシュ会長ゴロッソ。
ベラゴート領では狐理精の女、『混世魔王』の男。
黒水河を巡る戦いでは、扇動した騎士たちが数人。
あいにくと『虎先鋒』の男は逃がしてしまったのだけど。彼はそのピンクの髪色からコーデル伯爵家とのつながりがあるんじゃないかと睨んでいる。
いい加減、彼らから情報を絞りとって、敵の輪郭をはっきりとさせるべきよ。
「わかった。こちらはこちらで連中を絞りあげて調べておく。あとはまた合流して情報交換だな」
「ええ、それがいいと思う。私の方、というよりアイゼンハルト家の情報になるけど」
「だが、カーマインが一番、多くの事態を把握しているだろう?」
「……まぁ、そうだと思う」
本当、この夏季休暇だけでいろいろと飛び回ってきたからねぇ……。
「ならば、各領の情報交換の場でもお前がいた方がいいだろうな」
「それを言うならフィナさんもね」
「え、私もですか?」
「うん。だって、貴方もきっとこの夏季休暇でいろいろあったんじゃない?」
まさか黒水河の難だけってことはないわよね?
そんな、まさか。私があれだけ難に遭遇しているのに。
「そうですね……。各地で様々な問題が起きているようです。ですが、その黒幕と同じかどうかは」
「まぁ、私の方もはっきりしているわけじゃないんだけど」
私は西遊記つながりと、乙女ゲーム読みがあるからつながっているように見えるだけ。
実際のところはわからない。
「でも『黒水晶』が鍵なのは間違いないわ」
「それは……そうかもしれません」
「フィナさんの方でも?」
「はい。私たちのギフトを狙う者たちが、あの黒水晶を所有していたのです」
あ、やっぱり事件が起きていたのね、他にも。
「何度も皆さんに助けていただきました。マイン様にもですね。ありがとうございます」
「いえいえ」
やっぱり元気に誘拐されていたのかしら! 三蔵枠ねぇ。
お師匠様、実はフィナさんに宿っているとかいうオチじゃない?
ありそうー……。
「では、俺もカーマインに倣って連中のことは『黒水晶一派』と呼ぶか」
「いいですね! 私も使います!」
敵の組織の名前が決まってしまったわ。
「ウキー」
そこにミニ・マイン四健将がフワフワ近付いてくる。
「あ、この子」
「ウキ?」
首を傾げて尻尾を振る四健将。
「マイン様に似ていて、とても可愛らしいです」
「ウキッ!」
フィナさんがミニ・マインを抱き寄せる。マリンと気が合いそうねぇ。
「ここでのことは俺に任せておけ、カーマイン」
「……お願いするわね、ラグナ卿」
「おう! では、また会おう!」
豪快に微笑み、ラグナ卿は颯爽と去っていった。
名残惜しさとか、そういういのは一切感じさせないわねぇ。
「フィナさん、疲れたでしょう」
「……少し」
「一晩、休ませてもらう?」
ヴォルテール家が支援してくれているので、野営の天幕などが出されている。
「マイン様はどうなさるのでしょう?」
「私は……そうね。私も休んだ方がいいかもしれないわね」
縮地の術がガス欠で使えないとか、そういうのがあると怖い。
戦い続きだったし、テンション的にはいけそうだけど、休みは入れておくべきよね。
「一緒に?」
「うん? そうね」
「嬉しいです!」
あらぁ。これはアレかしら。ずっと男の子たちに囲まれて過ごして疲れていたとか。
満更でもないのとは別に、それはそれとして疲れるみたいな。
健全な交際には適度な距離感が大事よね。
乙女ゲームのヒロインなんて、ヒーローとの関わり度数が高いし。
「じゃあ、格好良く去っていったラグナ卿を捕まえて、いい部屋を用意してもらいましょう」
「ふふ、それはいいですね!」
とても図々しいことを話し合う私たちだった。
その夜、用意された場所で一緒に休むことになり、少し彼女と話をしていたけれど。
やっぱり疲れが溜まっていたみたいでお互いに早々に眠りにつく。
そして、翌朝。
フィナさんには少し待機してもらって、私は一人、縮地で先行。
先にアスティエール領に筋斗雲で向かい、その地での縮地ポイントを探索する。
場所をはっきりさせてから縮地で戻り、フィナさんを連れてくる。
「こんな形で領地に戻ってくるなんて思いませんでした」
「そうでしょうねぇ」
「マイン様が先に来てしまいましたね」
「確かに」
歓迎するのも微妙なスケジュールになってしまったわね。
「でも言わせてください。ようこそ、アスティエール領へ! マイン様!」
「ふふ、ありがとう、フィナさん」
夏季休暇の目標、約束の一つ。
アスティエール領への訪問がこうして叶えることができたのだった。




