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【五章完結】私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~【書籍化企画進行中】  作者: 川崎悠
第5章 社交界は赤手空拳

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134/162

134 再会

「「「「おおおおおおおおおッ!」」」」


 二つの伯爵家の領地戦が始まってしまった。

 空から見れば、ジークヴァルトが川付近で無双している。

 まぁ! ちゃんと強いぞ、弟くん。以前の授業の時は流石に油断しすぎだったようね。


「急がないと……!」


 ヴィンセント殿下のことも飛び抜けざまに確認する。

 苦しそうな表情を浮かべているのが見えた。


「他人に命令を聞かせられるけど代償がその都度、発生するタイプ?」


 よくあるパターンだと『命令内容の重さ』『作用対象の数』とかでフィードバックが変化する能力。

 強敵に対して使用すると一瞬の足止めにしかならない上、逆に重大なダメージを負ってしまう。

 でも、その一瞬をどこで利用するのかが面白さのポイント、みたいな。

 強制命令・催眠系ではなく、代償つきの呪言(じゅごん)、呪術系。


「考察はあとね!」


 とにかく今はフィナさん救出!

 私は黒犬とミニ・マインたちが向かった方へ筋斗雲を飛ばす。

 わかりやすい場所であればいいのだけれど。

 火眼金睛の片目だけ、視界をフィナさんのもとへ飛ばす。

 前視た時から状況に変化はなさそうだ。


『ワンワンワン!』

「あら」


 黒犬が吠えている鳴き声を強化聴覚が拾う。

 聞き分けられるおかげで耳に入ったけれど、領地戦が始まり、騎士たちが上げる声も大きい。

 多くの人間が大地を踏み鳴らすことで空気がビリビリと震えている。


 とにかく黒犬が鳴く場所へ向かいたいけど、音だけではいまいち位置が掴めない。


「どこ、どこ?」


 こういう時、離れた場所にいるミニ・マインに伝達するの、どうやるのかしら!

 毛に戻すだけならどこでもできるけど、それじゃ意味がない。


「仕方ないわね!」


 私は再び展開していた隠身法を解き、姿を現す。


「ミニ・マインたち! どこにいるの!? 一人、空に上がって私を案内して!」


 大声を張り上げ、自分がいる場所を示す。

 すると、すぐさま森の一部からミニ筋斗雲に乗ったミニ・マイン一体が飛んでくる。


「ウキー!」

「そっちね! 案内して!」

「ウキ!」


 ミニ・マインについて飛び、地上へ降下していく。

 そこにあったのは抉れた崖の下にある建物。

 微妙にアジア風の建築に見えるのは私だから? この国の建築様式と異なるように感じる。


『ワンワンワン!』


 ミニ・マイン四健将を乗せた黒犬が建物の前で吠えている。

 突入しないのは、その指示がないからかしら。使い魔だものね。

 ジュリアンが近くまで来ているか。

 イベントの奪い合いといったけど、ここは念のため。


「その黒犬を解放していいわよ!」

「ウキッ!」


 私が近くに降り立って命令すると、ミニ・マイン四健将がミニ筋斗雲を呼び寄せて飛び移る。

 ようやく解放された黒犬に向かい、自由を宣告する。


「悪いわね。ジュリアンさんのところへ戻るなら行っていいわ」

『キュウン……』


 私が寄ると途端に大人しくなり、すぐに走り去っていく黒犬。

 近くにいるはずのジュリアンを連れてくるのだろう。


「じゃあ、今のうちに」

「ウキー」


 私は扉の前に立ち、開こうとしてみるも押しても引いても、横にずらそうとしても動かない。

 当然、鍵がかかっているのだろう。けっこうドアも頑丈そうだ。


解鎖法(かいさほう)!」

「ウキキ!」


 剣指を結び、指し示すことでカチリと音が鳴って鍵が開く。

 なんのための建物か知らないけど、ただの鍵で孫悟空は止められないのだ。


「アチャアア!」

「ウキァアア!」


 バン!


 鍵を開けた上で、如意棒で小突いて扉を乱暴に開く。

 ご丁寧な開閉で中に敵が待ち構えていたら怖いもの。

 ミニ・マインたちとともに建物に侵入。幸い、すぐさま敵の迎撃が始まることはなかった。


 ……順当に考えて、ここにヒロインを助けに来るとすればジュリアンだろう。

 黒犬の使い魔を使役して彼女の場所を導き出し、救出。

 なら、ベネディクトイベントではなくジュリアンイベントかしら。

 ただの探索ではなく、鑑定プラス使い魔の使役が活きるシーン?


「ミニ・マインたち! このアジト内からフィナさんを捜して! もしかしたら見つかりにくい場所に隠されているかも! 見つけたらすぐに私に報せに来て!」

「「「「ウキーッ!」」」」


 まだアジト内に入っていなかったミニ・マイたちも含めて一斉突撃する。

 先んじてミニ筋斗雲で四方八方に向かうミニたち。私も一緒に突撃する。

 片目で視ておきたいけれど、敵の不意打ちに備えて千里眼は控えておく。


「フィナさん! 助けに来たわよ! どこにいるの!?」


 建物内の造りはアジア感を醸しつつ、でも和風とは違う。

 もしかして中華風? ビジュアルに関しては弱いのよね、私。

 アジト内に敵がいる様子がない。

 聖女を誘拐しておいて放置とか、どういうつもりなのよ。


 意外と広くはないアジトをミニたちと一緒に探索するものの、どうにも見つからない。

 これはやっぱり隠し部屋か。火眼金睛の『真実を見抜く』効果でわからなくはないはず。

 あやしい場所を注視できていないのね。


 敵がいないと見て、改めてフィナさんのところへ視界を飛ばす。

 私の声が聴こえているようなリアクションがない。つまり音が届いていない?

 こういう時は地下に隠されているのが相場よね。


「ミニたち! 地下へ行けそうな場所を探して!」

「「「「ウキー!」」」」


 なおもミニ・マインたちと一緒の捜索を続ける。

 時間が経てば経つほど犠牲者が増えるだろう。急がなければ。


「「ウキー!」」


 ミニ・マインが二体ほど私のもとへ飛んでくる。


「見つけた!? 案内して!」

「「ウキッ!」」


 私はミニ・マインの案内に従い、進む。

 そこは一見すると何もない部屋なのだが、ここがあやしいらしい。


「火眼金睛!」


 部屋の中を注視して視る。すると部屋の隅にキラキラとしたものが視えた。


「そこね! 如意棒!」


 大人しく、おっかなびっくり地下を探索している余裕はない。


「アチャアアアッ!」

「「ウキャアアッ!」」


 バゴン! と地下への道を隠していた板を粉砕する。

 はたしてそこに現れたのは地下への階段!


「フィナさん!」


 もう以前までとは事情が違うため、私は正体を隠さずに行く。

 このまま地下へ突撃したところ、さらに鍵のかかった扉を見つける。


「解鎖法!」


 法術で鍵を開きつつ、如意棒で扉を壊す勢いで押し開く。

 本当に見張りの一人も置いておかないとか。

 これは舐めているというより、敵勢力の人員不足だったりする?

 私の敵遭遇率が高いのは、そこで事件が起きそうだと予測を立てて動いているからだ。

 とくにベラゴート家のイザコザなんてそれよね。


「フィナさん!」

「むぐっ……!?」


 ようやく見つけた! セラフィナ・アスティエール子爵令嬢。

 金色の髪に青い瞳をした『聖女』のギフテッド。

 私が脳内で勝手にヒロインちゃん扱いしている、友人だ。


「よかった、無事ね!」


 私は印を結んだ指を差し、指化法で彼女の拘束を解く。

 スルスルと拘束が解け、私の姿を見て目を見開いているフィナさんを支えた。


「大丈夫? つらかったわね」

「……マイン様?」

「ええ」

「なぜ……ここに」

「まぁ、いろいろとあってね。貴方に頼りたいことがあって来たの。そうしたら、こんな事態だったのよ」

「そう……なのですか?」


 ちょっと衰弱しているわね。当たり前か。

 縄でぐるぐる巻きにされて拘束されていたのだもの。


「ごめんね、貴方も大変だったのでしょうけど。でも、やってほしいことがいくつもある」

「やってほしいこと……?」

「今、二つの伯爵家が黒く染まった川を巡って領地戦を始めてしまったの」

「……! そんな、止められなかったのですか」


 この反応的にやっぱり二家門の争いについては知っているわね。


「さっきチラリと見たけど、ヴィンセント殿下とジークヴァルトがどうにか被害を抑えようとしていたわ。それからジュリアンさんは貴方を捜して近くまで来ている」


 弱々しくなっている彼女の目を私はまっすぐに見る。


「フィナさん、貴方のギフトで黒く染まった川を浄化してほしい。そうしたら争いを止められるかもしれない」

「川を……浄化?」

「試してみなかったの?」

「いえ、最初に試しています。でも……」


 あ、やっぱり初手で聖女ビーム発射しているのね。流石フィナさん。

 聖女ビームは問答無用なのよ。


「浄化……はできました。ですが、一時的に元に戻るだけで時間を置けば、すぐにまた黒く染まってしまうんです」

「そうだったの」

「はい。でも私、諦められなくて、もっと浄化を続ければどうにかなると思って。その時間の猶予をヴィンセント殿下たちに交渉してもらっていて……」

「浄化をがんばっているところを誘拐された?」

「……はい」

「犯人は見たの?」


 フィナさんはそこで首を横に振る。

 西遊記なら三蔵法師を誘拐する妖怪は、どいつもこいつも堂々と正体を晒しているものだけど。

 彼女の誘拐犯はそうではないらしい。


「だったら今なら効果があるかもしれないわ」

「それは、どういう……」

「フィナさん、この子のことなんだけど」


 私は包んできた鼉潔(だけつ)の骨を見せる。


「……骨? ですか? でも人間の骨じゃなくて動物の?」

「この子がいたのは黒く染まった川……黒水河を上流へ辿った先にある滝の裏、そこにあった祭壇のある空間よ。今は骨だけど、ついさっきまでワニの獣人姿だった」

「ワニ? ……獣人」


 ワニは流石に知らないか。


「たぶん、この子自体は利用されたにすぎない子よ。成仏……浄化してあげてほしいの。鎮魂のために」

「……わかりました」

「ありがとう、それとこれ」


 骨だけではなく、ヒビ割れた黒水晶を見せる。


「これって!」

「近頃、問題になっている物と同じよ。これにも浄化なり、破魔なりをかけてみてほしい」

「破魔……わかりました。やってみます」


 フィナさんは細かい説明を求めず、すぐさま祈る姿勢を取る。

 私は風呂敷を広げて、鼉潔(だけつ)の骨を彼女の前に。そばに黒水晶も添える。


「──浄化、そして破魔の力よ!」


 祈るフィナさんの体から光が溢れ始める。

 ……今さらだけど、ちゃんとしたファンタジー感があるわぁ。

 最近、西遊記系の敵とアレコレばかりだったから。

 西洋系の聖女エフェクトがなんだか新鮮ね。


 鼉潔(だけつ)の骨がサラサラと霧散していく。

 さらにここが一番重要。黒水晶の内側を渦巻いていた黒いモヤが消えていく!


「素晴らしいわ!」


 やっぱり聖女の力は一連の災いの天敵! これは重要すぎるわぁ。

 絶対に彼女を失うわけにはいかない。


「ふぅ……」


 ひとしきり光り輝いていたフィナさんから光が薄れ、一息をつく。


「ありがとう、それにすごいわ、フィナさん!」

「ありがとうございます……」


 これで黒水河を黒く染めていた原因は完全に片付けられたはず。

 でも、まだ川自体が黒く染まったままなら領地戦は止められない。


「フィナさん、悪いけどハードスケジュールでいかせてもらうわね」

「え……きゃっ」


 私はフィナさんをお姫様抱っこで抱える。

 パワー問題は孫悟空の力があるので余裕よ。

 以前も彼女を抱えて飛んでいったこともあるからね。


「領地戦を止めに行くわ!」

「「「ウキー!」」」


 私たちの様子を窺っていたミニ・マインたちが同意して声を上げる。


「あの、この小さなマイン様たちはいったい?」

「ん。この子たちは……」


 さて。一切の詳しい説明を省いてきたのだけど。

 これからもう彼女に私のギフトを隠している余裕はないと思う。

 とはいえ、説明するにはあまりに長いので、ここは。


「モンキーマジックよ」

「……?」


 抱きかかえたフィナさんが首を傾げる。うん、今はそれで。


「とにかく行くわよ!」

「「「「ウキー!」」」」


 怒涛の勢いでフィナさんを抱えて階段を駆け上がり、アジトを抜ける。

 途中でミニ・マイン四健将も合流し、なぜかフィナさんの胸元へ。


「きゃっ」

「ウキ!」


 別に女好きで胸に飛び込んだ様子ではなく、小さな子が甘える様子だ。


「……可愛い」

「ウキィ」

「小さなマイン様に尻尾が生えています」


 フィナさんのお眼鏡にもかなったらしい。マリンだけじゃないのね。


「筋斗雲!」


 さて、それはそれとして急がないと。

 筋斗雲は基本、『乗れる雲』ではなく『雲に乗る』術だ。

 だから私以外は筋斗雲には乗れない。

 他人を運ぶなら、落さないように気をつけて飛ばないといけないってことね。


「フィナさんが落ちないよう、落ちてもすぐに拾えるようにサポートして!」

「「「「ウキー!」」」」


 ミニ・マインたちを周辺に呼び寄せてから、フィナさんを抱っこしたままヒョイっと筋斗雲に飛び乗る。


「わっ、すごい、すごいです、マイン様! 雲に乗っています!」

「ええ、でも足がつくのは私だけだから。フィナさんはしっかり掴まっていなさい」

「はい!」


 いざ、領地戦が行われている場へ!

 そう思ったところで。


「セラフィナ嬢! な……!?」


 黒犬たちと一緒に駆けつけたジュリアンとばっちり目が合う。


 青い長髪、眼鏡に青い瞳をした頭脳派キャラ、ジュリアン・ヴァレンシュタイン。

 侯爵家の三男で、意中の女性はフィナさんではない人物。

 以前、少し交流があって、ギフトは『真理の探究』。使い魔の使役と鑑定能力だ。


「マロット公爵令嬢……!? なぜ、ここに!?」

「ごきげんよう、ジュリアンさん。でも急ぎなの。悪いけど、先に行くわね」


 私は筋斗雲に乗ったまま、ジュリアンにニコリと笑顔を浮かべる。


「飛ぶわよ!」

「「「「ウキー!」」」」

「は? 待っ……!」


 私たちはジュリアンと黒犬を地上に置き去りにし、空へと飛び上がった。


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― 新着の感想 ―
>「モンキーマジックよ」 かくし芸が得意で猿顔なミニがどこかに紛れてそうな雰囲気になった?
気持ちの良い疾走感!スピード感溢れる展開がたまりません。そしてモンキーマジックで笑いました。頭の中でBGMが流れてもう〜!ヽ(^o^)丿いつも楽しく読ませて頂いております!
 ジュリアン、哀れw  目の前で掻っ攫われるとはw  ワニ獣人氏は救われただろうか⋯⋯。   モンキーマジックはズルいです世代じゃなくてもくすりと出来ます。
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