131 状況確認
私のギフトで発現する火眼金睛の千里眼。
すでに認識している個人にフォーカスして遠くからでもその様子を視られるのだけど。
いかんせん、周囲の状況まで把握できない。
ずっとその対象個人だけを接写していて、周りがどうなのかいまいち視えないのだ。
だから、フィナさんが捕まっていることはわかるけど、どこで、近くに誰がいるのか。
そういうことがわからない。
「正確な位置がわからないって難儀ね……」
「ウキィ」
こういう時は身外身法で分身を大量に出し、捜させるのがセオリーだ。
ただ問題は、この地域に彼女がいるかさえ、私にははっきりしないということ。
フィナさんのことだから今、眼下で展開されている領地戦に介入するだろうと思ったけど。
「いえ、ここは乙女ゲー推論よ」
「ウキキ」
私は日本からの転生者だけど、別にこの世界がなんなのかは知らない。
ただ、勝手に乙女ゲーム系異世界ではないか、という疑いをもっている。
というのも『聖女』ギフテッドのフィナさんのそばに、これみよがしの四人がいるからだ。
『太陽の覇道』ヴィンセント・フォン・グラムザルト殿下。
『不落の守護者』ジークヴァルト・アイゼンハルト侯爵令息。
『真理の探究』ジュリアン・ヴァレンシュタイン侯爵令息。
『深淵の福音』ベネディクト・サンプリエール氏。
ギフテッド4こと、通称G4。
前世の私と同世代なら、その名称だけで思わず吹き出してしまうイケメン四人組。
……もはや、私の中で彼らのギフトの方が浮いている気がする。
そう思うくらい、西遊記ギフテッドたちと遭遇してきたわね。
とにかく、フィナさんと愉快な仲間たちの状況から、私は今まで乙女ゲー推論を立ててきた。
それは今後の展開予測を立て、それに合わせて先読みしての行動よ。
おかげでヴィルヘルムを助けることができたと思う。
そしてアイゼンハルト領の民も助けられた。
ラグナ卿と出会った一件は若干、余計な手出しだった気がするけど……。
ベラゴート伯爵家へラグナ卿を連れていったのは正解だったと思うわ。
ブラック猪八戒と相対した事件から逆算して、玉龍はラグナルート。
沙悟浄はジュリアンルート、三蔵法師はベネディクトルートで登場すると予想している。
もう一件でもその予想が当たれば、流石にもう確定扱いでいいと思う。
少なくとも私はその方針に従って今後、動くわ。
で、乙女ゲー推論だ。
ヒロインちゃんならば、確実にこの領地戦に介入している。
今、その過程として彼女は捕まっているのだと思われる。
囚われのヒロインを助けるのはヒーローの役割だ。
「G4は今、どうしているかしら」
「ウキッ」
火眼金睛はフィナさん限定での発動ではなく、私が認識した個人にもフォーカスできる。
ただ、正確に調べてはいないのだけど。
流石に射程範囲はあるっぽいのよね。
以前、逃がしてしまった『虎先鋒』の男に使ってみたのだけど、視ることができなかった。
他の要因かもしれないけど。
単純にギフト効果の射程範囲から逃れていたから効かなかった可能性がある。
「まずはヴィンセント殿下」
「ウキー!」
囚われた状態で動きのないフィナさんから、ヴィンセント殿下に視界を移す。
射程範囲にいたようで、ヴィンセント殿下の姿を視ることができた。
第一王子、ヴィンセント殿下。なんと私〝が〟婚約者候補の御仁。
立太子はされていない。金髪碧眼の美形。私やフィナさんと同世代。
性格は所感だけど、冷酷で合理的な印象。腹黒じゃないかなと思っている。
正直に言うとあまり知らない。婚約者候補なのに。
まぁ、私がギフテッドなのと公爵家の家格があるから候補に上がっただけの話だもの。
そんなヴィンセント殿下は何やら誰かと話している様子だ。
表情は険しい。慌てているわけではなく、内心を押し殺している感じ。
火眼金睛では音声を拾えず、視界に移る情報だけとなっている。
それなりの距離であれば孫悟空の聴覚で声も聴けるのだけど。
「問題は殿下もどこにいるのかわからないことよね。いえ、でもあれは?」
「ウキー」
チラリと視界に移ったのは、ヴィンセント殿下が話している誰かの姿。
その誰かが眼下の騎士たちと同じ意匠のマントをしていた?
「やっぱりここにいる!」
「ウキ!」
千里眼をオフにし、今さっきチラリと視えた意匠を持つ陣営側に筋斗雲で近寄る。
地上を見下ろしながら捜していたら、見つけた。ヴィンセント殿下だわ。
「これくらいの距離なら聞き分けができるわね」
「ウキキ!」
私はギフトをオンにして耳を澄ませる。そしてヴィンセント殿下の声に意識を傾けた。
『レーヴァデルト伯爵はなんと?』
『聖女のことなど預かり知らぬと』
『……私の名を出しても答えは変わらないか』
『ええ、ただ』
『なんだ?』
『伯爵は聖女のためにも必ず勝利し、ライアムルト家の悪事を暴いてみせると仰せです』
『……証拠などないのだろうに』
『ですが、殿下がおっしゃったのでは? 聖女が誘拐されたと』
『確かにそう言った。だが、それは……』
『ご安心ください。我々も聖女殿にかけていただいた言葉は忘れておりません。だからこそ、奴らを許すわけにはいきません。その聖女殿の好意を無下にし、それどころか攫うなど』
『くっ……』
……なんてやり取りが聴こえてくる。
「ふむふむ?」
「ウキウキ?」
私は腕を組んで事態を確かめる。
ミニ・マインが私の肩で真似して腕を組んでいるわ。
尻尾つきになると余計にマスコット感を増すわね。
どうやらヴィンセント殿下はフィナさんを捜して一方の陣営と交渉している様子。
断片から察するに、やはり彼女は領地戦を止めようとしていたのだ。
だが、両陣営の伯爵と交渉している途中で、おそらく彼女は誘拐された。
そのこともあり、よりいっそう事態が悪化。
『相手の伯爵家は聖女を誘拐した悪の家門なり!』ということで大義名分を得てしまった。
今や領地戦を止めることもできず、聖女の行方もわからないまま。
殿下は悔しそうにしている、と。
そんなところかしら。
「ゲーム的に考えると……開戦前にフィナさんが見つかって、ギリギリのところで聖女が姿を見せ、両陣営の争いを止めるとか?」
「ウキ?」
それか、領地戦自体はもう始まってしまって、ある程度、両陣営に被害が出たところで、ようやくヒロインが登場するか。
その場合のヒーローたちの役割は当然『ヒロインの救出』だ。
あと『できるかぎり戦いの始まりを遅らせる』『両陣営の被害を最小限に留める』ね。
ヴィンセント殿下は伯爵と交渉。となれば残りは何をしているか。
「あ、見つけたわ」
「ウキー」
ヴィンセント殿下がいる陣営とは反対の陣営。
そこにはジークヴァルトがいた。
ヴィルヘルムの弟、ジークヴァルト・アイゼンハルト。侯爵家次男、騎士。
殿下の側近候補で、将来の近衛騎士を期待されている男。
短い銀髪で、体格がよく、背が高い。性格は脳筋。
私の中で『あの強ぇ奴ともう一度戦いてぇ』と考えるタイプの人物。
私とは仲がよろしくない。以前、孫悟空の力でボコしたことがあったので。
「ジークヴァルトは戦いに参加して、物理的に被害を最小限に抑える役目ね」
「ウキ!」
彼らの能力からして、フィナさんの捜索担当はジュリアンさんとベネディクト氏だろう。
このまま放っておけば彼らだけでフィナさんを助けられるはず。
「であれば……イベント奪取のチャンス!」
「ウキキ!」
忘れてはならない。
私の頭には今、金の環、緊箍児が嵌められていることを。
孫悟空の緊箍児。当然、ギフトによる発現だが、これだけは私に戒めを与えている。
私は緊箍児を外すため、可能なかぎり徳を積む必要があると考えているの。
そのためには、この状況からして『ヒロインを助ける』か。
または、この世界に来ているだろう三蔵法師のギフトに込められた、その欠片を救出するか。
猪八戒がいた以上、三蔵法師の存在を無視することはできない。
それは孫悟空の力を借りている以上、果たすべき義理のようなものだ。
……それに災厄化させられている疑惑がある。
どうしても三蔵法師や沙悟浄、玉龍は救出しておきたい。
フィナさんを無視することもできない。私の中で本筋はそっちの気がしている。
というわけで。
ヒロインを救出するイベントはヒーローたちとの奪い合いなのだ。
徳をよこせ、私に善行をさせろ!
「じゃあ……『いっちょ、やってみっか!』」
「ウキキーッ!」
私はG4より先にフィナさんを救出するべく、筋斗雲を急降下させた。




