111 賊の目的
偽者の護衛とエミリア嬢、そして私と姿を現したミニ一体。
周りを囲むようにいる十人ほどの賊。助けを求めてきた男だけが堂々と出てきたところ。
「助けてくれ」
「……」
当然、偽護衛と偽エミリア嬢は応えない。だから偽護衛の背後から私が応える。
「助けろとはいったい、何をどう助けるのです? 貴方は元気に歩いているじゃありませんか」
「……! いや、俺は先程、山道を転がり落ちてしまって、足を痛めてしまったんです。ここまで必死に、どうにか来たので精一杯で」
「そうでしたか。では、私たちは今すぐ山を下りて助けを呼んできますよ」
「は? いや、そうではなく……」
「何か?」
「……どうか、俺を背負っていってくれませんかね」
「男性一人を背負って山道を? それは難しい。それよりも貴方は、私たちが助けを呼んでくるまで山道で大人しく待っていてください。きっとすぐに助けが来ますよ」
「いやいや! 山では獣が出るとか。こんなところに置いていかないでください!」
「獣ですか。なんの獣が出るのです?」
「それは……」
「それは?」
「大型の、熊だの、狼だのが」
「そんな危険な山に、貴方は何をしに入ったのです? 見たところ、この領に暮らす人ではないようですが」
「そんなことはどうだっていいじゃないか!」
のらりくらりと問答していると男は苛立った様子を見せる。
その間、周囲の気配はジリジリと近付いてきているようだった。
さて。下手にぶん殴って、それこそ山道を滑り落ちて死なせてしまう事態は避けたい。
ここは単純なやり口でいこうと思う。
「では、助けを求めるのは他の人にするといいでしょう」
「は? 他の人なんていないだろう」
「おや? お気付きになられない? ずっと私たちを取り囲むように人が集まってきていますよ。十人近くはいるでしょうか」
「……!?」
「彼らに助けを求めてはどうですか? ああ、それとも彼らは元から貴方の仲間かしら?」
「……! おい! バレてやがるぞ! 出てこい!」
少し突いたら、すぐに正体をバラしてしまう男。
もうちょっと粘るとかしないのかしら。
眼前の男の声掛けに反応して、踊り出してくる賊。
身なりは整っているようには見えない。
平和そうな男爵領なのに、どうしてこんな輩がいるのか。
「貴方たちの狙いはエミリアお嬢様?」
「……だったらどうした」
「なぜ、彼女を狙うの?」
「そんなことを知ってもどうにもならねぇだろ?」
「あら、どうして?」
「お嬢様以外は用なしだからな! 大人しくしていたら楽に死なせてやる!」
殺す前提かぁ。
ここは堂々と立ったまま凶刃を受けたらどうなるか。
金剛不壊の肉体に阻まれ、ガキィンと鳴って驚かせられそうだ。
姿を現してから、賊たちはワッと襲いかかってくる。
「ウキーッ!」
「うわ! なんだ!?」
そこで飛び出したミニ・マインに注意を逸らす賊が複数。
気にせずに飛び掛かってくる賊もまた複数。
一番に警戒しているだろう偽護衛に切りかかってくる。
ザシュッ! と偽護衛は抵抗もなく、切り捨てられる。
エミリア嬢の護衛、私はとくに知らない人だけど、実は彼らの仲間でした路線はなさそうねぇ。
今、目の前で彼らに切られてしまったもの。南無三。
「はは、あ?」
切られた偽護衛は元の枝に戻り、その場に落ちる。
「あ? 消え……?」
「定身法」
私は右手の人差し指と中指で印を結んで指し示したあと、法術を行使する。
孫悟空が鳥鶏国で偽者の王を前に配下たちを足止めしたが如く。
前方から襲いかかってきた男たちは複数人が一気に動きを止めた。
金縛りにかかったのだ。
一口に金縛りといっても定身法は相手の時を止めるようなもの。
ピクリとも反応できなくなって、その場に止まる。
「ウキーッ!」
「うわぁああ!」
「なんだ、こいつ!」
後方から迫ってきていた賊たちはミニ・マインに翻弄されている。
ミニ一体でも、程度の低い賊相手ならば余裕らしい。
「ウキ、ウキ、ウキーッ!」
小さな筋斗雲を乗り回し、彼らの間を縫うように飛び回り、翻弄する。
「ぎゃっ!」
「うごっ!」
「ウキキッ!」
時に同士討ちを誘い、それを嘲笑う様は、まさに孫悟空。
ミニ・マインにどれだけ孫悟空の意思があるのかしら?
本人だったら私の命令を聞くはずないだろうし。
あれは、あくまで私の分身なのよね。
「くそっ! なんだこいつら! お前ら、何をしていやがる!?」
定身法で動かなくなった仲間たちを怒鳴りつけながら賊の一人が偽エミリア嬢に襲いかかる。
「収!」
私は偽エミリア嬢の変化を解き、枝に戻した。
「!? また消えっ……!?」
「如意棒」
私は如意棒を出し、エミリア嬢に襲いかかった男が、消失に驚いている隙に打ち据える。
「ぎゃッ!」
孫悟空の剛力により振るわれる如意棒。
右肩を強く打ち据えたら悶絶して、その場に蹲る。
ぶっ飛ばさないように調整済みの一棒よ。
「ウキー!」
私とミニはとくに危なげもなく十人ほどの賊を撃破し、捕らえることに成功した。
これぐらいなら警戒なんてしなくてもよかったわね。
まぁ、油断して西遊記系ギフト持ちを相手に引いたら、とんでもないことになるから警戒は仕方ないわ。
「それで? あんたたちの目的はエミリア嬢だったみたいだけど。どうしてそんなことを?」
ミニに手伝わせて賊たちを縛りあげる。
山道に転がして死なせることもなく全員拘束だ。
「くそ……。お前はいったいなんなんだ」
「あら、質問しているのは私よ」
如意棒を男に突きつけ、酷薄に見下ろしてやる。
するとそれだけで震えあがる男たち。
悪役令嬢顔で冷たくされると怖いってやつね。
「貴方たちがこの山を襲撃場所に選んだように。目撃者がいないから私も気にせずに貴方たちを処分できるわ」
「ひっ……」
「ウキーッキッキ!」
私がすごむのと一緒になって拘束した男の肩に乗り、男の頬をペチペチと叩くミニ。
完全に親分に従う子分の図だ。ノリがいい。
「こいつはなんなんだよぉ……」
賊が情けない声を上げるが、もちろん答えない。
質問をしているのは私なのだ。
「俺らは、ただ頼まれただけで……」
「頼まれた? 誰に」
「それは……」
黒幕につながる情報源かしら?
今もヴィルヘルムがゴロッソ会長を締め上げていると思うけど。
「知らねぇ」
「…………」
お師匠様、こいつ、殺しちゃってもよくないですか?
いえ、冗談ですとも。ああ、緊箍呪を唱えるのはおやめください!
「し、知らないんだよ、本当に! ただ」
「ただ? 心して答えなさいよ」
「う……。その、前から……」
そのあと、男たちを追い詰め、尋問するに明らかになったこと。
こいつらは救いようのない悪党だった。
以前から誘拐をしていたというのだ。
ただし、狙いは貴族令嬢ではなく市井の民、平民だったという。
貴族じゃないから許されると思っているんだったら聞かれた相手が悪いわね。
あらゆる意味で度し難い。
「それがなんだって今回はエミリア嬢、貴族に狙いをつけたのよ」
「そ、そこまでは……ただ、あのお嬢ちゃんは……聖女の友人だから、とか……」
「聖女の?」
フィナさんの交友関係を私はすべて把握しているわけじゃない。
時々、私に関わってくるけれど。
目立って彼女と仲良くしている友人がいることを、そういえば見たことがない。
でも、エミリア嬢は、学園で誘拐された時、私が助けたあとの介抱をフィナさんに投げたことがある。
そこから縁があって二人に交友関係がすでに構築されていたとか?
さっきまでの段階でそこまで踏み込んだ話は聞かなかった。
勝手に『友人枠』を想像していたけど、既に似たような関係だったのか。
「つまりエミリア嬢本人が狙いなんじゃなく、聖女の友人として誘拐して、人質に取るつもりだった何者かがいると言いたいのね?」
「あ、ああ……」
「その依頼主は誰?」
「し、知らねぇ!」
「つながりのありそうなあらゆる情報を吐きなさい? さもないと、この場で殺すわ」
「ひぃっ……!」
そのあとも賊たちを締め上げたあと、眠り虫で全員を眠らせ、ミニをさらに出して縛ったまま運んだ。
山道の途中まで運べばあとは回収させましょう。
とんでもない悪党だった。ただ黒幕に使われている下っ端みたいな存在らしい。
以前、ラグナ卿と遭遇した時や、ヴォルテール領で未遂事件があったように。
今、この国ではどうやら誘拐事件が裏で何件も起きているらしい。
こういう漠然とした事件の調査は苦手だ。
怪しい奴や敵のアジトに潜入しろ、って言われたらできるんだけどね。
ラグナ卿は今、ナナシのギフテッドたちを調べているらしいけど。
根本はこの誘拐事件の解決を目的にしている。
「これは、さっさとラグナ卿に会いに行って情報交換と協力を取り付けないとね」
ただ、この地に来たことは無駄ではなかった。
エミリア嬢は聖女つながりで狙われている。それを見然に防げたのだから。
「ん……?」
賊共を拘束して眠らせてから山を下り、エミリア嬢と合流しようとしたところ。
前方から話し声が聞こえた。
「ウキ……?」
ただ、その様子がどこかおかしい。
誰かと話している様子だが、どうにもノイズが掛かった音声のような。
一体残したミニ・マインも首を傾げている。
私は少し急いでエミリア嬢の元へ向かった。すると、そこには。
「あ、スウェン様……」
「え」
エミリア嬢は無事だった。
だが、護衛の男性は泡を吹いて気絶している。
そして、エミリア嬢の前には。
「……幽霊?」
そう、幽霊。
エミリア嬢は、半透明に体が透けた、メイドらしき姿の女性と対峙していたのだ。
……この世界、幽霊とかアリなの?
もう何が来ても驚かなくなってきたわよ!




