107 降妖伏魔
異世界転生あるあるー! ドンドン! パラパラ!
馬車が襲われている! 助けたところ、そこには王族が乗っていた!
あるある!
他にはぁ……マヨネーズを作ろうとして食中毒を引き起こす!
あるある!
現代科学・衛生事情のもとでしか作れない代物。
というか、専門知識が必要で、簡単にはチート行為ができないという具合である。
私も空から国を見て『鉄道がないなぁ』と思ったけど、とても作れる気がしない。
ほら、鉄道って線路のレールや、あの敷かれた細かい石ですら、きちんと理由があって、ああいう状態だっていう話でしょう?
単純に鉄のレールを敷けばいいというわけではないのだ。
蒸気機関の理屈もわからない。
それによる公害やらだって当時は発生したかもしれないが、そういう問題対処のノウハウもない。
異世界転生チート、無理である。
それからぁ……そう! 異世界チートといえばサスペンション付き馬車でしょう!
異論は認める!
でも当然、理屈がわからない!
かろうじて職人にお金を出して研究してもらうくらいだろうか。
それ、すごいのは転生者じゃなくて形にする技術者の方である。
アイデア出しだけなら誰にでもできるのだ。
しかも別にそのアイデアも借り物という。
蒸気機関がわからないようにサスペンションの構造だって私はわからない。
やはり転生チートは無理なのか。
……ちょっと待って?
私って以前、七十二変化で釈迦如来像に変身したわよね?
当然、釈迦如来像の正確な造形まで、私が把握していたわけではない。
しかし、再現はできた。と、いうことは!
七十二変化の術で『サスペンション付きの馬車』に変化させれば〝形〟がわかるのでは?
形さえわかれば、その形を技術者に投げて研究してもらえば、作れるのでは?
科学的根拠が必要な他の知識チートに比べて〝形〟からの研究で成果が出せそうな分野であれば、七十二変化でサンプルを作り出せる!
おお、可能性の塊!
猿でもできる異世界知識チートの幕開けよ!
…………。
誰が猿か!
「とまぁ、現実逃避は横に置いておいて」
「ウキィ?」
隠身法を解いたミニが、私の肩で首を傾げる。
ええ、気にしないで。現実逃避していただけだから。
七十二変化を利用したサスペンション付き馬車の製造計画は、わりといいアイデアかもなので覚えておくとして。
問題は現実である。
「エミリア嬢狙いの賊ねぇ……」
「ウキッ」
声の主を捜し出して、如意棒をたちまち十棒ほど食らわせてやればいい。
そう思うのだけれど。
うーん、これって強制力? それともイベント案件?
エミリア嬢がまた誘拐された先で、なんやかんやあるとか。
そういう系じゃない?
でも、私の乙女ゲー推論では、ラグナ卿はメインヒーローとは違う想定。
序盤のお助けキャラとか、隠しヒーローとか。
そういう、とにかく特殊なポジションじゃあないかと思っている。
なにせ西遊記系ワールドで三蔵一行が悪者のうえ、紅孩児なので。
とすると、ここでイベントはない? というか。
ヒロインが遭遇する前提じゃないと? そういうのは起きなそうというか。
いなくても発生するのかしら。
王都でフィナさんと同行した時はイベント発生としかいえない事態になったけど。
隠しルート系とすると、夏季休暇でG4と一緒に過ごすところをラグナ卿に会うイベントとか?
でも、ここはラウゼン領。
エミリア嬢がいたとしても、ラグナ卿がいるとは思えない。
「……もしかして〝友人枠〟?」
「ウキ?」
そう。たとえばフィナさんとエミリア嬢が休暇前の一件で友人になっているはずだった、とか。
その縁もあって夏は領地に遊びに行く約束をしていた、とか。
「いやいや」
だから、すべてが乙女ゲーに収束するわけではない。
事件は常日頃から、そこら中で起きているのだ。
ただ、私が遭遇するにはあまりにタイミングがよすぎてねぇ……。
西遊記では三蔵一行の行く先々で事件が起こる。
妖怪たちが、そもそも三蔵法師を食らおうとしてくるので当たり前といえばそうだが。
しかし、進む道中、別に妖怪がいる場所を狙っているわけではなく、近くに妖怪たちが住んでいるのだ。
三蔵を追いかけてきているのではなく、『近くに来ているらしいから食らおう』というノリだ。
降妖伏魔。
妖怪たちをくだし、降伏させること。魔物や悪霊を抑え、封印すること。
三蔵一行の旅とは、そういうものだった。
「ここにはお師匠様も、聖女もいないっていうのにねぇ」
「ウキー」
耳がいいから遠くの音まで拾えて、それで見つけてしまっただけの〝難〟。
ただそれだけで、これが私の運命とか、私のせいとかではないことを祈りたい。
「何はともあれ、聞いた以上は動きましょうか」
「ウキッ!」
とはいえ。
まだ事態が動いていない内から襲いかかって如意棒を叩き込む真似はしない。
まず、声の主を探すより、現在のエミリア嬢の状態を探るとしましょう。
あの子が狙われるのは私が知るかぎり二度目。
どうにも、そのことが不安に感じて、その正体を見極めなくては気が済まない。
もちろん、事前に知ってしまったのにむざむざ賊に襲わせるようなこともしたくない。
ただ、ここは賊の撃退よりも、事態の見極めを優先させていただこう。
そう考えた私は、エミリア嬢の周辺を探ることにしたのだった。
身外身法を放って、夜の内は警備を任せる。
一応、私のエネルギーを使うらしいから数は少なめで。
私は宿でしっかり寝て、きちんと体力を回復させておく。
翌日になってから本格的に動き始めた。
町娘スウェンとして、ラウゼン領民たちに聞き込み調査。
この地で不穏な噂が流れていないかなどを探っていく。
幸い、昨夜に聞いた声の主はまだ動いていない様子。
エミリア嬢が帰郷しているのは本当らしい。
ただ、領地に帰ってきただけでは屋敷に篭って過ごす場合もあるだろう。
男爵領とはいえ領地屋敷はある。
家にいる彼女が襲いやすい対象とは思えないが……?
そう疑問に思っていると、またエミリア嬢について新たな情報を聞いた。
「エミリアお嬢様は、領地の山の散策をするのがご趣味なんですよ」
「へぇ、そうなんですねー」
思わず『それだ!』と言いかけた。
エミリア嬢、山に遊びに行くのがライフワークだったらしい。
なんだかフィナさんと気が合いそうだ。
ドレスを着ていた彼女の姿からは想像もできないが、気質はそっちらしい。
意外とアウトドア派!
つまり、男爵令嬢がいつものように山へお出かけしたところを狙おうと賊は考えていた、ということね!
縮地ポイントは確かに人気の少ない山方面に取ろうとしていた。
きっと、そっち側で襲撃場所を確認なりしていたのだろう。
それであんなに耳に入りやすかったのだ。
「ここは……そうね。ふふふ」
「ウキキ!」
このまま町娘スウェンとしてエミリア嬢と偶然を装って出会って山に同行しましょうか。
今回、起きそうになっている事件。
これが運命的なものなのか見極めてやるとしましょう。




