105 縮地マップ
筋斗雲で空を飛び、〝西〟へと移動する。
今後の予定はとしては三つだ。
ラグナ卿を訪ねて、今後の協力をとりつけること。
アスティエール子爵領を訪ねて、聖女とG4の旅で何が起きたか探ること。
二週間後にお父様とアイゼンハルト侯爵を含めた話し合いに参加すること。
ひとまず自由行動の期間が二週間分。
ハードスケジュールというやつである。
聖女一行の旅程は把握していないため、今どこにいるのか不明。
火眼金睛で映像だけは確認できそう?
でも、そこで問題を発見しちゃった場合、首を出さずにいられなくなりそうだ。
湖の戦いでわかったことは〝戦力不足〟ということ。
ここはフィナさんのことはG4たちの処理能力に任せ、ラグナ卿と会うのを優先した方がいい。
どうやら過去のギフテッドたちについて調べてくれているようだし。
他にも仲間にできそうな人がいるかもしれない。
「孫悟空が筋斗雲で移動する時って、だいたい助っ人を連れてきたりするのよねぇ」
〝難〟が降りかかってきた時、筋斗雲で飛んでいって神仏に助けを求める。
有益な道具を借りてきたり、応援を連れてきたりだ。
三蔵法師としては『仏様に見守られている。助けられて感謝』という話。
だが、私の場合は筋斗雲で飛んでいっても誰も助けを呼べない。
圧倒的な人脈不足である。これでは難を乗り越えられない。
なので、ここはラグナ卿をはじめ、新たな人脈作りに励むべきだ。
この世界、ゴリッゴリに〝敵〟がいる系のアンタッチャブル・ワールドなので。
「私が知らなかっただけで、いろいろと国で起きているのね」
敵の全貌はわからない。なので今、できることをしていくのみだ。
その〝できること〟として私はあることをしようとしている。
「よいしょっと」
鞄に詰めてきた中から、私は〝地図〟を取り出した。
グラムザルト王国の地図である。
私は孫悟空が使える術の一つ、『縮地の術』を試してみた。
地脈を伝っての瞬間移動。筋斗雲と違い、他人も一緒に連れていける便利な術だ。
けれど地脈縛りがあるため、完全に好きな場所に移動できるわけではない。
いざ、活用しようとした時、どこからどこへ行けるのかを把握していないと、十全には使えない術なのだ。
私は、その縮地で行ける場所をマーキングしておこうと思っている。
ラグナ卿は、王国北西部の領地、ヴォルテール辺境伯領の令息だ。
その付近で縮地ポイントがあれば、いざという時に遠方からでもラグナ卿を連れてこられるというわけである。
ついでに事件が頻発しそうなアスティエール子爵領付近でも縮地ポイントが見つかるといいわね。
「うーん、ファスト・トラベル……」
オープンワールド系ゲームで、ポイント間を即時移動するシステムそのもの。
ひとまずアイゼンハルト領は、例の湖と領主屋敷の近くを縮地ポイントとしている。
旅先で縮地ポイントを見つければ、筋斗雲の移動よりも速く戻れるわ。
「でも、地脈って全部がつながっているわけじゃないかも?」
地脈のことは、よく知らないまま利用している。
こんなの誰に聞いてもわからないだろうから手探りだ。
繋がっていないなら、繋がっているエリアを把握しておくことも大事だ。
縮地マップ作成は、縮地で飛ぶ先の目撃者が少なそうなポイントを探すことも大切だ。
こんな能力、目撃されていいことはあまりない。
それから、私は別にこの能力を使って輸送業を営むとか、そういうことはしない。
金銭的に困っていないのだ。なにせ公爵令嬢なので。
公爵令嬢なので!
親にお小遣いをもらっているような年頃なのよ、君ぃ。
災害で物資運搬に困っているのであれば吝かではないが、それ以外はノーである。
「まずはどこから攻めましょうかねぇ」
一人、空を飛びながら地上を見下ろし、そんなことを呟く。
いやぁ、これ、優越感が半端ないでしょう。
飛行機やらがバンバン飛ぶ時代であれば怖くて余所見もできないけど。
今世、この時代、この国において制空権を完全支配しているのは、もう神かのような錯覚を引き起こす。
西遊記世界なら孫悟空以外も雲で空を飛ぶのがたくさんいるけど。
今世の世界観では滅多に見かけない。
まぁ、他にもいそうなのは確かだけれどね。
と、独り言が多くなってよくないわね。
孫悟空は気にしないかもしれないけど、私はちょっと気になるのだ。
というわけで。
「身外身法」
うなじの毛を一本。ボフンと変化させ、ミニ・カーマイン一体を出す。
「ウキッ」
旅のお供として一緒に行くことにしましょう。
ミニが小さな筋斗雲に乗り、私と並走する。
ミニ猪八戒と違い、この子に強い自我があるとは思い難いが……。
でも時々、私の予期せぬ行動を取ることもある。
かといって〝毛〟に戻ることは、とくに嫌がっていない様子なので、自我といっても、きっと分身は分身でしかないのだろう。
ギフトの孫悟空の影響を受けているのだろうとは思っている。
でも、孫悟空そのままに行動できるなら、とっくに離反者が出ているだろうし。
本家・孫悟空が私の言いなりになる理由はない。
しばらくミニ一体と一緒に空を飛びながら、最適な縮地ポイントを探す。
細かく刻みたいところだけれど、それをやっていたら、いつまでも作業が終わらない。
最初のポイントは、王都とアスティエール領の中間くらいの位置を取りましょう。
空から街道や街の位置を把握し、目撃者がいなそうな場所を探る。
そこに地脈が流れているかは不明なので、こればかりは地上に降りてみないとわからない。
まぁ、この時点でこの作業、けっこう面倒なことに気づく。
条件がマッチしたポイントって数が絞られそうよねぇ。
とある伯爵領に降り立ち、地脈を探り、その位置を割り出す。
また筋斗雲で上空に上がり、目撃者がいなさそうな場所と地脈が交わっていそうな場所に当たりをつける。
この繰り返し。
地脈ポイントの近くに秘密の拠点とか作っておくのも楽しそうねぇ。
管理が大変だから備蓄はあまりできなさそうだけど。
そうして繰り返したあと、最適のポイントを割り出すことに成功。
そうしたら、あとは確認だ。
「縮地!」
私は、新たなポイントからアイゼンハルト領の湖へ転移してみる。
「……成功!」
周辺封鎖中の場所に跳ぶことに成功した。どうやら地脈はここに繋がっているらしい。
ただし、この場所は目撃者がいないわけではない。
「うわっ!?」
「あら、失礼。縮地!」
アイゼンハルトの騎士が見回りというか、周辺にいたみたいだけど。
まぁ、ここでの私の目撃例はもう気にしても仕方ない。
私は目撃されてもなんのそので、再び伯爵領の縮地ポイントに帰還した。
地脈がヴォルテール領や、アスティエール領につながっていたら、二週間まるまる使っても余裕があるわね!




