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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~  作者: 川崎悠
第4章 破滅フラグは降妖伏魔

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101 マリンとお話し

「えっとぉ……」


 さて。いよいよ追い詰められた私は、侍女のマリンになんと説明すればいいのだろうか。


「話せば長くなるのよね」

「お付き合い致しましょう」


 クールビューティーな私の侍女は、冷たく微笑みを浮かべて、ベッド脇に椅子を運んで座る。

 如何にも、長話を聞く姿勢である。

 つまりもう、私を逃がす気はない意思表示だ。ぎゃてぇ。


「……マリンの認識をまず教えてもらえる?」

「お嬢様が消えました」

「私はここにいるわよ?」

「…………」


 睨まれた。おどけている場合ではないらしい。


「今回も消えたのかしら?」

「……把握されていないのですか?」

「いえ、……そうね。ある意味で?」

「それは、お嬢様の偽者が公爵家に入り込んでいたということでよろしいですか」

「いえ、違うわ。そういう意味じゃない。その偽者を用意したのは間違いなく私で、私が把握していることよ」


 私は首を横に振ってそう続ける。


「……そうですか」

「ええ」

「では、何をお聞きになりたいのですか?」

「そうね。今回は消える可能性があると思っていたけれど、確信はなかったから」


 緊箍児(きんこじ)が発動した時に身外身法(しんがいしんほう)が消えてしまうのは、まだ理解できる。

 おそらく、あの瞬間はギフトのすべてが無効化されているのだろう。


 でも今回の場合は?

 法天象地(ほうてんしょうち)は、かなりの大技らしい。

 私自身が内包するエネルギーを使い切り、地脈から補填したほど。

 しかも使った私は、そのあと二日ほど寝たままだった。

 力を使い果たしたのだ。


 その影響を受けて、マロット家に残してきた分身が消えてしまった。

 つまり、分身たちは、本体の私がエネルギー切れになると消えてしまう、と。

 一度出せば出したきりではなく、つながっているのだ。

 私が分身を出している時、維持コストを消費しているらしい。


「永久に出しっぱなしはダメということね」

「……?」


 便利な法術なのだが、その際に私はきちんと消耗しているのだ。

 エネルギー切れなる概念があるとしたら、無駄遣いをしていて、いざという時に枯渇しているなんて事態もあり得る。

 本家・孫悟空だって別に分身を出しっぱなしにはしないものねぇ。


「とにかく。家におられたカーマインお嬢様は消えました。二回目です」

「……うん」

「あれは、お嬢様のギフトによるもの、ということですか?」

「ギフトによるものだってわかるんだ」

「お嬢様が犯人であるならば、あのような現象を説明するものが他にありません」

「まぁ、そうよねぇ」


 私は、気まずくなって首筋をポリポリとかき、目を逸らす。


「お嬢様は無断外出を繰り返していたと」

「無断外出っていうか」

「無断外出でございます」

「……はい」


 公爵令嬢なのに護衛も侍女もつけずに。

 マリンの目がそう言っている気がする。


「それだけではありませんよね?」

「ええと」

「なぜ、お嬢様はアイゼンハルト家の別邸で、そのようにお休みになられているのでしょうか」

「……」

「いったい何が起きたのか、その説明を聞かせていただきたいです」

「……はい」


 どこから話せばいいのか。

 説明するためにはギフトでできることを明かす必要がある。

 実際、今回はもう口封じができないレベルで目撃者も出してしまった。


 ……それに。

 どうやらこの国は危険な連中が暗躍しているらしい。

 私はそいつらを潰すためにギフトを使わざるをえないだろう。


 だって『玄奘三蔵法師』のギフテッドか、その欠片が封じられた黒水晶が、間違いなくこの世界には存在する。

 孫悟空のギフテッドな私にとって、それはとても看過できることではない。

 それに孫悟空の力を借りている手前、救出が必要そうなお師匠様を無視はできない。

 なんというか、三蔵法師を無視するのは〝義理に欠ける〟。

 前世日本人としては、そういうのはどうかと思うわけで。


 しかし、三蔵法師がいるとなると、以前に立てた『聖女』セラフィナ・アスティエールに降りかかる難を退ければ、この頭に嵌められた金の輪が外れるという推論はハズレだったということか。

 じゃあ、もう聖女のことは気にしなくていいかしら……?


 ……それもどうかと思うのよねぇ。

 他に転生者がいれば、はっきりするかもしれないけれど。

 やっぱり西遊記要素は、あくまで世界のパーツの一部分というか。

 基本のストーリー軸が、フィナさん中心って感じがどうも拭えない。


「お嬢様?」

「ああ、ごめんなさい、マリン。少し考え事をしていたわ」

「……そうですか。お体は平気なのですよね?」

「ん」


 私は腕を回してみたり、首を振ってみたりする。

 そろそろ体調は戻ってきたようだ。体もまぁ、軽い。


もう(・・)大丈夫みたい」

「……少し前までは大丈夫ではなかった、と」

「言葉の裏を探るわねぇ」


 とはいえ、だ。

 まだあれから二日。勝手に大丈夫と決めつけてギフト無双というわけにはいくまい。

 安静にしておくべき時期である。

 なので、この場でギフトを使うことはしない。

 そうしなくても今は説明できる存在が生まれたからだ。


「マリン、ちょっと出ましょうか」

「……はい?」

「私のギフトについて説明するために。着替えるのに手を貸してくれる?」

「……かしこまりました、お嬢様」


 というわけで如何にも『公爵令嬢と侍女』な関係で着替えを手伝ってもらう。

 別に他人の手が必要な服装でもないのだが。


「ところで」

「なぁに、マリン」

金の冠(・・・)を被られているのは、お嬢様の新手(あらて)の趣味でしょうか」


 ピシリ、と。私は笑顔のまま固まる。


 ……緊箍児は、常にあるものだ。

 それを普段はギフトによって、存在しないように隠して誤魔化している。

 つまり、力を使い果たし、全ギフト効果がキャンセルされた場合。

 緊箍児は頭に残ったまま、誤魔化していた術が解けて他人に見える状態になる。


 緊箍児を見て、この世界の人間が思うことは『素敵な髪飾りですね』ではない。

 また『やや! その金の輪は弼馬温(ひつばおん)!』でもない。

 『え? なんで金の冠とか被っているの? (こわ)っ、自己主張(つよ)っ。え、自分こそがお姫様ですとか、聖女ですとか、そういうアピール? うわぁ』

 である。

 ヴィルヘルムが金の冠は聖女の証? みたいな言い方をしたのは、かなり優しい方だ。


「そこには今は触れないで。体調が治ってから。あと、帽子とか持っていない?」

「持っておりません」

「夏なのに、日焼け防止の備品とか持ってきていないの」

「お嬢様の姿が消えたあと、慌ただしい中でのアイゼンハルト家からの連絡でしたので」

「……はい」


 しばらくマリンに頭が上がらなそうだわ。



 私はマリンを連れて、アイゼンハルト家別邸の庭に出る。

 ある存在を捜しにきたのだ。

 それは、わりとすぐに見つかった。


「ウキィーイ!」

「ハッ!」

「ウキッ!」


 カン! カン! カン! と小気味のいい音が鳴り響く。

 それは木剣を打ち合わせる音だった。

 庭では、とても不思議な光景が広がっている。


「……あれは、いったいなんでしょうか、お嬢様」

「あれはねぇ」

「……小さい(・・・)カーマインお嬢様?」


 マリンがそれを初めて見た感想は、それだった。


 そう、庭ではヴィルヘルムと小さな存在が試合をしている。

 互いに木剣を持ち、打ち合っているのだ。


 それは小さな雲に乗り、法衣を着崩し、胸にさらしをまき、行李(こうり)を背負っている。

 湖の戦いで『天蓬元帥猪八戒てんぽうげんすいちょはっかい』のギフトを継承し、私から独立して活動可能になった、分身の一体。


「ウキーッ!」


 即ち、〝ミニ猪八戒〟だ。


「ウキッ、ウキッ……ブヒ?」

「『ブヒ』はやめなさい!」


 今、私の姿を見てから言ったわよね!

 やっぱりちょっとコントロールが外れている感が強い。

 孫悟空と猪八戒と私のハイブリッド存在。それがミニ猪八戒である。

 ……もしかして問題児しかブレンドされていないのでは?


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― 新着の感想 ―
無断外出ですよ、お嬢 いくら強いとはいえヴィル様とラグナしか味方いないの不安だったから味方増えそうで安心
ぎゃてぇ。って、何ってくぐったら、空の哲学を説く、般若心経の最後に出てくるマントラ(真言)なんですね。 小技がちょいちょい入っているのも楽しいです
公的立場上の説明責任と情報漏洩回避の狭間ですね。 普通の侍女は公爵家の代々家臣一族出身とか身元調査で信頼を得ている感じですが、さてこの娘は如何?
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