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魔族育ちのアルズ―終焉を背負う者―  作者: kinaco


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託された手紙

魔王城 前衛部隊詰所


アルズを見送ってから、数日が経っていた。


「おい、ランサ! アルズがいなくなって、寂しいんじゃないか? ヒャッ、ヒャッ」

「すでにダンジョンで息絶えてるかもな」

「間違いねぇ!」


嘲るような笑い声が、詰所に響いた。


「何言ってんだ! アルズは必ず帰ってくるさ! 約束したんだ……寂しくなんか、ねぇよ」


ランサは強がってみせた。

不安がないわけではない。

だが――アルズは約束を守る。それだけで十分だった。


「ランサ、大丈夫か?」


ブレイブが、心配そうに近付いてきた。


「ブレイブか。あぁ、大したことはない。あいつらには、親の気持ちは分からないことだからな」


「しかし、ヒューマン嫌いのお前が、よくあそこまで育てたものだ」


「ヒューマンは、放っておいても育つものさ。

なぁ、ブレイブ。俺はヒューマンは嫌いだが、アルズは嫌いになれないんだ。

親になるって、案外いいものだぞ。

そもそも、俺たちはモンスターだ。親子関係があるのは、ごく一部。

こんな経験は、そうできることではない」


「俺はごめんだね。

まぁ、アルズのことは俺も好きだ。少しだけど、お前の気持ちも分からなくもない。

不器用なお前が、よく引き受けたなと思ってな。

そういえば……」


ブレイブは、何かを思い出したように言葉を切った。


「なんだよ……」


「いや、儀式に行く前に試験を行ったんだ。

そこでアルズのやつ、剣に光の残像が現れてな。

アルズは、魔法が使えるのか?」


「ヒューマンのアルズに、魔法は使えない。

……いや、待て。ヒューマンで一人だけ、光の加護を受けていた者がいる……」


ランサは考え込んだ。


「それは、誰なんだ?」


「世界を救った『英雄ミナト』だ。

前魔王様は突然、狂ったように他種族の領地に攻撃を仕掛け、世界征服を企んだ。

その時、ミナトが光の加護によって前魔王を倒した。

他種族との争いがなくなったのも、奴のおかげだ……」


「おい……それって……」


「あぁ、可能性はゼロではない。

当時、秘書だったズワルト様が魔王になってからは落ち着いているが、何かを企んでいるという噂が絶えない……

やはり、このままではダメだな」


ランサは、ブレイブに視線を向けた。


「ブレイブよ。頼みがある」


「なんだよ、いきなり」


「俺は、アルズが帰ってきたら全てを話すつもりだ。

真実を伝え、魔族領を出て旅をしてもらいたいと思っている。

近いうちに魔王様に謁見を申し込んで、アルズを自由にしてもらうようお願いするんだ」


ブレイブは、驚いて言葉を失った。


「正気か……?

お、お前はどうなってもいいのかよ。何のメリットがある……」


「あぁ、構わない。

親というのは不思議なものだ……たとえ自分がどんな目にあっても、子の笑顔だけは守りたいと思える。

本当の父親でなくても、アルズと過ごしてきた日々が、そうさせるんだ。

笑顔を守ることができたら、それで幸せだ。

これは、お前にしか頼めない……頼む、ブレイブ」


「……本気なのか……」


ランサは、真剣な眼差しで頷いた。


ブレイブは、悔しさで胸が苦しくなった。

魔王様に話したところで、聞き入れてもらえるはずがない。

むしろ、怒りを買うだろう。

ランサは、それを承知で動くつもりなのだ。


ランサとアルズが幸せになる方法はないのか。

必死に探したが、答えは出ない。


――ランサは本気だ。

自分よりも、アルズの幸せを願っている。

親とは、そういうものなのか……。


「……後悔しないな」


「あぁ。アルズは俺を憎むかもしれないな」


ブレイブは、拳を強く握り締めた。


「憎むわけないだろ!

お前の子供だ!

お前が一番、分かっているはずだ。

アルズは、全てを受け止めてくれるさ」


ブレイブは、ランサの覚悟に恥をかかせたくなかった。


「わかった……お前の頼みだ! 俺に任せろ!

ただし、お前自身も死なないように抗え。それが条件だ」


ランサは、笑みを浮かべた。


「当たり前だろ。そう簡単に死んでたまるか!」


ランサは、空を見上げた。


「……ブレイブ。……ありがとう。

本音を言うと、ずっとこのままアルズの父親として過ごしていたかった。

だが、アルズは真実を知るべきだ。

後悔のないように生きてもらいたい。

それが、俺の願いだ」


「全く……お前が言い出したら聞かないからな。

やるからには、思いっきりやれ!

後のことは心配するな。

お前の覚悟、このブレイブがしっかり受け取った!」


ブレイブは、右手を胸に当て、敬意を示した。


「どうだ、今から俺と一戦やるか?」


「おぉ、いいねぇ。ぜひ、手合わせを願うよ。

大怪我する前に、降参することだな!」


「戯け! 俺は前衛部隊長だぞ。なめるなよ」


「今夜、その隊長の座を奪ってしまうかもしれないな」


ランサとブレイブは、日が暮れかけた訓練場へと向かった。


この友情が、永遠に続くことを願いながら……。


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