必要とされた光
「……リア……ィリア……フィリア」
「ん〜、おはよう……アルズ」
フィリアは目を擦りながら起きた。
いつの間にか、アルズよりも深く眠っていたようだ。
「あれを、見てくれ……」
「!?」
アルズの指差す先には、大量のモンスターがいた。
「えぇ!? なんて数なの……。結界を張っていて正解だったわね」
「この結界は、フィリアが?」
「そうよ。念の為にね。でもよかったわ。結界を壊せないってことは、それほど強いモンスターでもないみたい」
「助かったよ……でも、このままじゃ進めない。倒してくる!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あの数のモンスターと戦うつもり?」
「何言ってんだよ。倒さなきゃ、進めないだろ」
アルズは剣を構えた。
「だから待ちなさいってば! あんなの相手にしてたら、命がいくつあっても足りないわよ」
「じゃあ、どうするんだ? このままじゃ進めない」
「あら、忘れたの? 私は魔法使いよ。こういう時は、私に任せなさい!」
フィリアは自信ありげに言った。
「攻撃魔法が使えるのか?」
「言ったでしょ。状態異常と回復魔法が得意なの。攻撃魔法が使えなくても、なんとかなるものよ」
アルズには意味が分からなかった。
フィリアの目が真剣な眼差しに変わる。
両足を踏ん張り、掌を前に突き出して交差させた。
「いくわよ!」
詠唱に入る。
「我、求めるは汝の血……」
足元に魔法陣が現れ、広がる。
「我、願うは強靭なる力……」
フィリアの体がオーラに包まれる。
「全ての罪なる者へ……安らかな眠りを……」
魔法陣が光り輝く。
「――シュフーラ!」
魔法陣から大量の光が放たれ、モンスターへと向かう。
光を受けたモンスターは、次々と倒れていった。
アルズは、初めて見る魔法に感動していた。
「ぎゃぅ……」
全てのモンスターが倒れると、魔法陣はゆっくりと消えていった。
「ふぅ……どう? 攻撃魔法がなくても、なんとかなるでしょ?」
「全部、倒したのか……?」
「正確には、眠らせただけよ。さ、今のうちに下の階層に行きましょ」
フィリアは結界を解除した。
「あぁ……行こう」
二人は眠るモンスターを横目に、階段へ向かった。
この階層は広くなく、すぐに階段を見つけることができた。
階段を下りながら、アルズは言った。
「魔法って凄いなぁ。俺も使ってみたい! どうすれば魔法を使えるようになるんだ?」
「アルズはヒュー……剣で直接戦えるじゃない」
フィリアは、(ヒューマンだから魔法は使えない)と言いかけ、なんとか誤魔化した。
「でも、複数同時に攻撃はできないからなぁ」
「鍛錬してスキルを習得すればいいじゃない。範囲攻撃の技とか」
「そっか! その手があったか。色々ありがとう、フィリア」
「なっ、べ、別に大したことはしてないわよ……」
フィリアは照れていた。
アルズとフィリアは、順調に最下層へ向かって進んでいた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
考え事をしながら進んでいると――
「アルズ、下がって!」
「うわっ!? なんだよ、急に」
「見てて」
フィリアは小石を拾い、前方へ投げた。
石が地面に落ちた瞬間、右側の壁から数本の矢が飛び出す。
カンッ、カンッ!
矢は向かいの壁に当たり、地面に落ちた。
「なんだ……?」
「罠よ」
「罠?」
「私はトラップサーチのスキルを持ってるの。直感で分かるのよ」
「なるほど……フィリアは凄いな。助けてもらってばかりだ。俺も頑張らないと」
アルズは、少しだけ劣等感を覚えた。
「何言ってるの。一緒に最下層へ行くって言ったでしょ。助け合わないとね」
フィリアは強がって見せたが、内心は嬉しかった。
二人は助け合いながら、最下層へ進む。
しばらく進んだところで、アルズが提案した。
「フィリア、少し休憩しないか?」
「そうね。結構進んだし、休憩しましょう」
二人が座った瞬間、奥から邪悪な気配を感じた。
「何かしら……嫌な空気がするわ……」
「俺も感じた。ちょっと見てくる」
「私も行く」
二人が進んだ先には、錆びついた巨大な鉄扉があった。
「この中からだ……」
「うん。間違いないわ。今までのモンスターとは比べ物にならない殺気……」
「もしかして……ケルベロス……」
「じゃあ、ここが最下層?」
「おそらく……中に入る前に回復しよう」
「賛成。殺気で他のモンスターも近づけないみたい。結界を張るわ」
「ありがとう……ついに、ここまで来た。必ず達成してみせる」
「うん、ひとまず回復ね。えっとぉ……アルズ……」
「血だろ? 少しだけだからな」
「さすが、アルズ!」
フィリアはアルズの血を飲む。
アルズはマジックボックスから食料を取り出し、空腹を満たした。
「さすがに、血を吸われてすぐはキツイな」
「体力が戻るまで休んでよ」
「そうさせてもらうよ」
ゆったりとした時間が流れる。
これからケルベロスと戦うというのが、嘘のようだった。
やがて、フィリアが口を開く。
「あのね……アルズには、ちゃんと話しておかないといけないと思うから。少しだけ、私の話を聞いてほしいの」
いつもと違うトーンだった。
アルズはフィリアを見て、静かに頷く。
「ありがとう。私は魔法支援部隊に所属していて、主に後方支援の訓練を受けてるの。アルズは武力前衛部隊だから、建物も真反対になるね」
一度、言葉を区切り、続けた。
「それでね……アルズは私の魔法を凄いって言ってくれるけど、実際は効力も低くて、詠唱時間も長い……部隊の中では最下位なの。つまり、落ちこぼれ……」
声が、少しずつ震える。
「周りは優しい言葉をかけてくれるけど、影では邪魔者扱い。なんとかしなきゃって、必死に努力したつもり……でも、何も変わらなかった……変えられなかった……本当は、全然凄くないんだよ……」
フィリアの目から、涙が零れ落ちた。
アルズは何も言わず、静かに聞いている。
「もし……私が邪魔だと感じたら、置いて行っていいからね。アルズは試練を突破して、無事に帰って……ほら、幹部になって親孝行するんでしょ?」
アルズは、黙ったままだ。
「ごめん……なんか辛気臭くなっちゃったね。ケルベロスを倒そう。できる限りの支援はするから」
少しの間を置いて、アルズが口を開いた。
「フィリア……その願いは、聞けない」
「え……?」
「その願いを聞いたら、自分が許せなくなる。仲間を見捨てるなんて、俺にはできない。そんなの、俺じゃない」
アルズは真っ直ぐにフィリアを見る。
「フィリア……本当は、どうしたいんだ?」
「私は……死にたくない……アルズと……アルズと一緒に、試練を乗り越えたい!」
不思議だった。
アルズには、本音をさらけ出せる。
「決まりだな! フィリア……よく聞いてくれ」
アルズは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「自分を、そんなに責めなくていいんだ。思い出してくれ。初めて会ったとき、俺は眠ってしまっただろ? あの時、いくらでも血を吸えたし、置いて行くことだってできた」
「でも、フィリアはモンスターに襲われないように結界を張ってくれた。大量のモンスターも、魔法で無力化してくれた。さっきだって、罠にかかる前に助けてくれただろ?」
「それは……」
アルズは、首を横に振る。
「世界中が否定しても、俺は言い続ける。フィリアは凄いよ」
一拍置いて、力強く続けた。
「それじゃ、駄目かな? 俺は少し世間知らずなところはあるけど……だからこそ、俺にはフィリアが必要なんだ。俺にとっては、最高の魔法使いなんだよ!」
「アルズ……」
フィリアの目から、再び涙が溢れ出す。
その言葉は、ずっと誰かに言ってほしかった言葉だった。
目の前に、自分を必要としてくれる人がいる。
それが、ただただ嬉しかった。
「俺と一緒に、試練を乗り越えて帰ろう! フィリアのことは、俺が絶対に守るから!」
そして、照れたように付け加える。
「それに……これからも、俺の血を飲みたいだろ?」
アルズは満面の笑みで言った。
フィリアには、アルズが光に見えた。
自分を必要だと言ってくれたけれど、気付いたのだ。
――自分にとっても、アルズが必要なのだと。
もう迷わない。振り返らない。
この希望の光を、守りたいと心から思った。
「……うん! アルズの血は、最高だからね!」
フィリアも、満面の笑みで答えた。




