剣に選ばれた日
ダンジョンは、城を出て南へ十キロほど離れた、真理の森にある。
大門を出たアルズは、初めて見る街並みに見とれていた。
「うわぁ、思っていたよりも楽しそう」
アルズは、賑やかな声のする方へ足を向けた。
「ようっ! 兄ちゃん、いい武器が揃ってるぜ。ドワーフ領から仕入れた物もあるからさ、見ていきな」
どうやら鍛冶屋のようだ。
「うちはオーダーメイドも承ってるぜ! 素材を持ってくれば、作業料だけで済むぞ」
「じゃあ、少し見せてもらおうかな」
アルズは店内に入った。
中には、さまざまな種類の武器が所狭しと並んでいる。二階には防具が置かれていたが、品揃えはそれほど良くない。
魔族が攻撃面を重視している影響だろう。
剣、斧、弓、杖、槍 -見たこともない武器が数多く並んでいる。
珍しそうに眺めていると、一本の剣に目が留まった。
決して美しいわけでも、輝いているわけでもない。
むしろ売れ残りそうな、どこにでもありそうな見た目の剣だった。
アルズはその剣を手に取った。
剣が語りかけてくるような感覚がしたが、声までは聞こえない。
その様子を見て、鍛冶屋の親父が声をかけた。
「その剣かぁ。いつかの冒険者から買い取ったもんだ。エルフだったかな。『私は弓が専門なので』って置いていったんだ。鑑定したが素材は不明だ。兄ちゃん、その剣が欲しいのかい?」
「欲しいというか……妙に、この剣が気になってしまって」
「そいつは銀貨三枚でいいぜ」
通貨は『銅貨』『銀貨』『金貨』の三種。
この剣の見た目で銀貨三枚は、明らかに高い。せいぜい銅貨九枚といったところだろう。
「いえ、持ち合わせがないので、今回は結構です」
「そりゃ残念だ」
「ダンジョンから戻ってきたら、また来ます」
「ダンジョン? 真理の森のか? 兄ちゃん、もしかして儀式なのか?」
「はい。さっき魔王様に使命を与えてもらったところです」
「そうだったのか……よっしゃ! 兄ちゃん、その剣を持っていきな。代金は戻ってきてからでいい」
「そんな、申し訳ないですよ」
「いや、持っていくんだ。兄ちゃんの試練に役立ててくれ。その代わり、絶対に戻ってくるんだぞ。そして今後とも御贔屓にな。俺はスミスって言う」
「僕はアルズです。スミスさん、ありがとうございます! 必ず戻ってお支払いします!」
「おう! 気を付けてな、アルズ」
アルズは剣をマジックボックスに仕舞い、鍛冶屋を後にした。
「(マジックボックス……?
誰でも持てる代物じゃねぇ。
あのエルフが言ってたことが、本当なら……)」
スミスは、かつて剣を持ち込んだエルフの言葉を思い出していた。
『オーナー様、お願いがあるのです。買い取りではなく、この剣を預かってもらえないでしょうか?
この剣は、持ち主を自分で選びます。
この先、必ず持ち主となる青年が現れるでしょう。その青年に、この剣をお与えください。
世界の行く末に関わる存在となるでしょう……どうか、お願い致します』
スミスは不思議に思っていた。
あのエルフの言葉に、嘘や誇張は一切感じられなかった。だからこそ、素直に信じることができたのだ。
「死ぬんじゃねぇぞ……アルズ……」
アルズは賑やかな街並みを楽しみながら歩いた。
宿屋、アクセサリー屋、レストランやバー 、行ってみたい店がいくつもある。
必ず戻って来る。そう心に誓った。
街を抜けると、草原が広がっていた。
遠くでは野生動物たちが走り回っている。臆病なため、街には近づいてこない。
アルズはランサから受け取った地図を広げ、ダンジョンの位置を確認する。
「よし、あっちだな」
地図を仕舞い、歩き出した。
やがて森が見えてくる。
「あれが、真理の森……」
森の手前で休憩を取ることにした。
石に腰を下ろし、マジックボックスから水と干し肉を取り出す。
干し肉を食べながら、鍛冶屋で受け取った剣のことを考えていた。
「なんで、あの剣が気になったんだろう……」
剣を取り出し、じっと眺める。
「お前が俺を求めていたのか? ……せっかくだから名前を付けよう。
そうだな……『ウィンクルム』。
よし、『ウィンクルムソード』だ! ウィンって呼ぶ。よろしくな」
満足そうに頷いた瞬間、剣が一瞬だけ淡く輝いた。
「……まあ、正確にはまだ俺のじゃないけどな。あはは……。いっけねぇ、ダンジョンに行かなきゃ」
荷物を仕舞い、アルズは真理の森へ足を踏み入れた。
森に入った途端、意識に直接語りかけてくる声がする。
「……出て行け……森から……」
だがアルズは歩みを止めない。
ランサからの助言があった。
(森に入ると声が聞こえてくるらしい。その声に耳を貸すな。どんなことがあっても前に進め)
「……出て行け……
殺す……
全てを、滅ぼす……」
足が止まりそうになるが、ランサを信じて進んだ。
やがて前方に、ダンジョンらしきものが見える。
アルズは全力で走った。
「はぁ、はぁ……」
気付けば、ダンジョンの入口に立っていた。
光が差し込み、幻想的に輝いている。とてもダンジョンとは思えない。
「これが……ダンジョン?」
小さな虫が入口に近づいた瞬間、弾き飛ばされて消えた。
どうやら強力な結界が張られているようだ。
アルズは一瞬、躊躇する。
「……どうしよう」
だが、ゆっくりと右手を差し出した。
結界を通り抜ける。痛みはない。
「入れる……!」
使命を与えられた者だけが、中へ入れるのだ。
「よし……ここから始まる。
達成か、死か……二択だ。
覚悟を決めろ。俺は、やれる……!」
アルズは自らを奮い立たせ、ダンジョンへ足を踏み入れた。




