希望の先に
三人は真剣な表情で丸いテーブルを囲む。
集中するために工房を休みにした。
「それじゃ、始めようか。作戦会議」
アルズが切り出す。
「えぇ、いつでもいいわ」
フィリアはやる気に満ちている。
「し、しかし、金貨三万枚という大金をどう捻出するんだ?」
ヴェルクは不安と申し訳なさで弱気になっている。
「ヴェルク……」
アルズはヴェルクを見つめる。
「……なんだ……」
「まず聞きたいのは、どうして金貨三万枚も借金ができたか話せるか?」
ヴェルクは俯く。
「あぁ……」
「ヴェルク、無理しないで。話したくなかったら話さなくていいわよ。どちらにしても私たちの気持ちは変わらないわ」
フィリアはヴェルクの気持ちを汲んだ。
「いや、聞いてくれ。二人は俺を信頼してくれてんだ。話さないといけない……」
「ありがとう」
アルズの言葉は優しかった。
ヴェルクは顔を上げる。
「ここミーデは職人の街だ。中でも剣や防具を加工する職人に需要があった」
「客が偏らないように職人の間で工房を紹介し合おうって決めたんだ。元々、ドワーフ同士は信頼関係が強い種族だからな」
「途中までは順調だった……」
――半年前
「すみません」
旅人がヴェルクの工房を訪ねる。
「いらっしゃい! 誰かの紹介かい?」
「はい、そこの角にあるアクセサリー工房から教えてもらって」
旅人は紹介状を渡した。
「そうかい。で、要件は?」
「剣が刃こぼれしてしまって……直せますか?」
「大丈夫だ。隣の部屋で少し待っててくれるかい」
「お願いします!」
旅人は隣の部屋に移動して、作業が終わるのを待った。
しばらくして作業が終わった。
「待たせたな! バッチリ直ったぜ」
旅人は生まれ変わった剣を受け取った。
「おぉー、これは凄い! ありがとうございました!」
「ありがとな! また寄ってくれよ」
旅人は代金を渡して店を出ていった。
その旅人の評判は瞬く間に広がった。
気が付けば、ヴェルクの工房には多くの旅人が訪れるようになっていた。
ヴェルクは自分だけが儲からないように、訪れる旅人に他の工房を紹介していたが、旅人はそれを拒んだ。
元々、父親の腕がよく、評判が良かったのもあり名は知れていた。
――そして、
「最近、ヴェルクが客を独り占めにしてないか?」
「あぁ、確かに剣は需要があるがあからさまだな」
「このままじゃ、俺たちの工房が潰れてしまうぞ」
「契約違反だろ!」
ドワーフの職人たちはヴェルク抜きで話し合っていた。
「ヴェルクの工房に行くぞ」
職人たちはヴェルクの工房に向かった。
ドンッ! ドンッ!
「ヴェルク、いるかぁ」
「なんだ?」
ヴェルクは扉を開けると、たくさんの職人がいた。
その中には最も信頼していた職人もいた。
「お前、客を独り占めにしてないか?」
「そんなことするわけないだろ!」
「嘘つけ! お前の所ばっかり紹介状を書いてるぞ! お前は書いてるのか?」
「ちゃんと書いてるって。でも、客が拒むんだ」
「客が拒むだと……俺たちをバカにしているのか!」
職人たちは自分たちの腕が悪いと勘違いした。
「いや、違うんだ。話を聞いてくれ」
ヴェルクは必死で弁明する。
「黙れ! お前は職人協会で締結した契約を破った!」
「えっ!?」
「いいか! 協会に罰金の金貨三万枚を払えよ!」
「ちょ、ちょっと待って……」
「わかったな!!」
ドンッ!
職人たちは扉を強く締めて立ち去った。
それから、ヴェルクの工房に訪れる客は減っていった。
職人たちはヴェルクの工房を紹介しないように手を組んでいた。
ヴェルクも、口コミで訪れる旅人に対して紹介状がなければ全て断っていった。
「そして、毎月取り立てが来るようになったという訳さ……」
「何よそれ……ただの僻みじゃない! ヴェルクは何も悪くないわよ」
フィリアは怒っている。
「ヴェルク、話してくれてありがとう」
アルズは心から感謝した。
「俺の話を信じてくれるのか……?」
「当たり前だろ。仲間なんだから」
アルズとフィリアは笑顔だ。
「ありがとよぉ」
ヴェルクの目から涙が溢れた。
「辛かったな。でも今はひとりじゃない、俺たちがいる。これからを考えよう」
「うん」
「おぅ」
三人は前を向いた。
「協会に抗議をするってのはどうかしら?」
「それは難しいだろうな。向こうは集団だし、貰える金貨も貰えなくなる」
「バレないように客を集める?」
「危険だ。情報はすぐに広まる」
この後も三人はアイデアを出し合ったが、どれも上手くいきそうにない。
「あっ、そういえば……」
「アルズ、どうしたの?」
「この街にはギルドはあるのか?」
「あるぜ。ここから近いぞ」
「ギルドで高報酬の依頼を受けよう」
「一番現実的ね。行きましょ」
「案内するぜ」
三人はすぐにギルドへ向かった。
――ギルド「フォルパンク」
三人は掲示板をチェックする。
「ん~、高報酬のクエストになると危険なモンスターばかりだね」
「命は大事にしなくちゃならねぇ」
「コツコツやるしかないか。ランクも低いしな」
受付にも相談したがFランクが受注できるクエストは報酬が低かった。
「これじゃあ、時間がかかり過ぎるわよ」
「どうしようか……」
その時、冒険者の話し声が聞こえてきた。
「この前、鉱山でミスリルを見つけた奴がいたみたいでさ」
「ミスリルだと!?」
「あぁ、なんでも最近は希少になってるらしくて高額で買い取ってくれるらしいぞ」
「武器に加工してもらうのもいいが、やっぱ金だよな」
「クエストを受注しなくていいし、見つかればラッキーだな」
アルズとフィリア、ヴェルクは互いの顔を見合わせた。
『これだ!』
「ヴェルク、鉱山の場所はわかるか?」
「あぁ、なんとなくな」
「どうする? 行ってみるの?」
「しかし、見つかるかはわからないぞ! 俺もミスリルなんて最近は見ないしな」
「今は出来ることをやらないか?」
「そうだね、とにかく動かないとね」
「わ、わかった。行こうぜ」
三人はギルドを後にして鉱山に向かった。
鉱山までは距離があった。
「ヴェルク、その鉱山は今も発掘作業をしているのか?」
「いや、今はやってないと思うぞ。昔は自分で取った原石を工房に持ってくる奴はいたが、最近は加工技術も進んでな」
「そうなんだ。ミスリルで作る武器は凄いの?」
「そりゃ、全然違うな。切れ味も重さも段違いだ」
「あっ、でもアルズの剣の方がもっと凄いけどな」
「へぇ、私は武器を使わないから分からないわ」
フィリアは少しだけ話題に入れず寂しそうだった。
ヴェルクはフィリアの表情に気付いていた。
「おっと、ここだ」
三人は鉱山の洞窟に着いた。
「中は暗そうだね。明かりの魔法はないよ」
「大丈夫だよ、フィリア。松明があるから」
アルズはマジックボックスから松明を取り出した。
「しかし、便利だなそのボックスは」
「父さんがくれたんだ。育ての方ね」
「かなりのレア物だよな。どうやって手に入れたんだろな」
「さぁ、行くぞ」
三人は鉱山の中に入った。
「なんだろう……この独特な雰囲気」
フィリアは落ち着かなかった。
「長いこと誰も入ってないからな。道も崩れてるかもしれねぇ。気を付けてくれ」
「わかった」
先頭を歩くアルズは慎重になった。
「このあたりには無いな。やっぱり奥の方に行かないとダメか……」
ヴェルクは諦めかけていた。
「とりあえず奥まで行ってみよう」
三人は、さらに奥へ進む。
やがて行き止まりになった。
「行き止まりだよ」
フィリアは早く帰りたかった。
「こりゃダメだな。戻ろうか」
ヴェルクは戻ろうとした。
「待ってくれ……」
アルズは何かを感じた。
「どうした?」
「この奥に何かある……」
アルズは剣を構えた。
「何かって……?」
「アルズ……まさか……」
アルズは剣と共鳴する。
ある程度、共鳴したところで剣を突き出す。
「たぁぁぁっ!」
ドォンッ!
行き止まりだった先に広い空間が広がっていた。
「こ、こんなところに……」
「あっ、あれ! 青く光る鉱石があるよ」
フィリアの指差す方向に鉱石があった。
「あれだ! ミスリルだ!」
ヴェルクの目つきが変わった。
「やったね! これで借金は返せるよ」
「ありがとな! アルズ! フィリア!」
「……ごめん……余計なことをした……」
アルズは固まっていた。
『え!?』
暗闇から赤く光る眼がこちらを見ている。
グゥゥゥ……
「あ、あれは……」
ヴェルクは震えている。
「……キメラだ……」
誰一人逃さないとキメラの目は三人を捕らえていた。




