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魔族育ちのアルズ―終焉を背負う者―  作者: kinaco


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信頼の代償

「黙り込んでどうした?」


「そ、そりゃ驚きますよ! この剣を英雄ミナトが作ったって言われたら」


「そうですよ!」


フィリアは吹き出したお茶を拭き取りながら応える。


ヴェルクは腕を組んだ。


「英雄ミナトが作った剣は、ごく一部の者しか知らない……」


「ちょっと待ってください。そんな剣がなぜ俺の手元にあるんですか?」


「俺も親父から聞いた話だから何とも言えないが、なんでもミナトは自分の子供に渡す為に剣を作ったとか……しかも剣が持ち主を選ぶらしい」


フィリアは立ち上がる。


「それじゃまるで、アルズが英雄ミナトの子供みたいじゃない!」


「そう興奮するなよ」


アルズがなだめる。


「だって……」


「まだ決まったわけじゃないだろ? それも含めて確かめるんだ。そもそも魔族領の武器屋にそんな剣があるとは思えないよ」


「いいコンビだな」


ヴェルクは二人の掛け合いを見てニコニコしている。


「な、なにを!?」


ヴェルクの一言にフィリアが焦る。


「ハッハッハッ、いいじゃねぇか。信頼し合ってるんだなと思っただけだ」


「それでヴェルクさん。俺を呼んだのは剣を見たいからでしたよね?」


「あぁそうだ。俺の親父から聞いた話が本当か確かめたくてな。それに……」


ヴェルクはアルズを見た。


「そんな剣を持ってる人物を知りたいと思ったからだ」


ヴェルクはアルズを指差して続ける。


「悪い奴だったら懲らしめてやろうってな。ハッハッハッ!」


「アハハ……実際見てどうでした?」


アルズは愛想笑いをした。


「おぅ、いい奴そうで安心したぞ」


パチンッ!


ヴェルクは何か思い付いたように手を叩く。


「そうだ! もう宿はとったのか?」


「いえ、まだですけど……」


「じゃあ、うちに泊まればいい。長居しても構わないぞ」


「そこまでして頂くのは悪いですよ」


フィリアは遠慮した。


「遠慮するなって! とりあえず飯でも行こうか」


ヴェルクは二人の手を取り、街に向かった。


外は日が暮れていた。


日が暮れても作業をしている工房があってか、たくさんの明かりと蒸気が幻想的な世界を作っていた。


「わぁ、キレイ……」


フィリアはウットリしていた。


「それじゃ、俺の行きつけの店でいいか?」


返事を聞く前にヴェルクは先を行く。


「ここだ」


中に入る。


「三人だ。空いてるか?」


「いらっしゃいませ。三名様ですね。こちらへどうぞ」


女店員が丁寧に案内する。


「エルフ……?」


「おっ、アルズ。よくわかったな。ここはエルフがやってる店だ。旨いんだよ」


「普段食べない私でもエルフの料理は美味しいと感じたわ」


三人は席に座り注文をした。


「では、この出会いに乾杯しようか」


「フィリアはこれだね」


アルズは小瓶を取り出した。


(ん!? あれは……マジックボックス……まさか本当に……)


ヴェルクは驚きを隠した。


「なんだそれ?」


「アルズ、ありがとう」


フィリアは小瓶を受け取る。


「これはアルズの血よ。私はヴァンパイアだからね」


「ほぅ、フィリアはヴァンパイアだったか」


ヴェルクはグラスを掲げた。


「では、改めて……乾杯!」


『乾杯!』


「かぁ〜旨い! ところで二人はなんで旅をしてるんだ?」


「それは……」


アルズとフィリアは魔族領とエルフ領での出来事を丁寧に話した。


「そうだったのか……親だと思っていた人物が違った……辛いな」


「今は前を向いて歩いているよ。本当の親でなくても、俺にとっては育ててくれた親だ。何も変わらないよ」


アルズは微笑みながら言った。


「それにフィリアもいるから」


フィリアの頬が赤く染まる。


「ハッハッハッ。本当に仲が良いんだな。気に入ったぜ!」


ヴェルクは酒を飲み干し続ける。


「それから、俺はお前たちと同じくらいの歳だ。敬語はいらねぇ。ドワーフは見た目の成長が早いから仕方がねぇな」


『そうなの!?』


アルズとフィリアは本気で驚いた。


「そうだぞ。意外と若いんだ」


ヴェルクは高笑いした。


「改めてしばらくの間、アルズの剣を見させて欲しい……どうだ? もちろん宿付きだ」


「あぁ、よろしく頼むよ」


アルズは即答した。


ヴェルクは頷いた。


「ありがとな!」


「ドワーフ領って何の加護なんだ?」


「ここは土だ!」


「土の神殿とかあるのか?」


「あるにはあるが……」


一瞬、ヴェルクの表情が曇った。


アルズはこれ以上、聞かないようにした。


その夜、三人は工房に戻っても遅くまで語り合った。



――魔王城 謁見の間


「ヴィオーラ」


「ハッ!」


「状況はどうだ?」


「アルズはドワーフ領のミーデという街にいます。おそらく土の加護を受けるつもりでしょう」


「土か……すまぬが『ジンガ』を呼んでくれないか」


「仰せのままに」


ヴィオーラは素早く行動した。


ズワルトは顎に手を当て考え込む。


しばらくしてヴィオーラが戻ってきた。


その後ろにジンガがいた。


ジンガはズワルトの前で片膝をつく。


「魔王様、お呼びでしょうか? このジンガ・ラントになんなりとお申し付けください」


ジンガ・ラントは土の加護を受けたゴーレムだ。

普段は無口で周りから何を考えているのか分からないと避けられていた。


「よく来てくれた。お前に頼みたいことがある」


「何なりと……」


「アルズはドワーフ領のミーデという街にいる。お前はミーデについて詳しいだろう」


「はい。土の加護を受ける際に滞在しておりました」


「うむ。アルズが土の加護を受けた後、実力を試して欲しいのだ」


「戦えという認識でよろしいでしょうか?」


「そうだ。ただし、殺してはならぬ」


ズワルトはジンガを見据えた。


「よいな……」


ジンガは背筋が凍った。


「ハッ! 仰せのままに」



――ドワーフ領 ミーデ


翌朝。


カンッ、カンッ、プシュー


「ん〜、朝か……」


アルズは金属音と蒸気の音で目が覚めた。


周りを見渡すとフィリアの姿はない。


「ヴェルクが作業をしているのか……」


アルズは一階の作業場に向かった。


「おはよう」


ヴェルクは汗だくで作業をしていた。


「おぉ、起こしてしまったか。すまねぇな」


「いや、いいんだ。俺の剣を叩いているのか?」


「あぁ……そうだ。少し聞いていいか?」


「どうした?」


「この剣……見た目はこのままか?」


「いや、極限まで共鳴したときに黄金に光って見た目も変わる。それと……」


ヴェルクは目を輝かせて聞いている。


「俺に語りかけて来るんだ。名前を呼んで……」


ヴェルクは固まる。


そして、


「なんだってぇぇぇ!」


「キャーッ」


ドタッ、ドタッ


「何!? 何があったの?」


ヴェルクの大声に驚いたフィリアが慌てて降りてきた。


「すまねぇ、ビックリしてしまって……アハハ……」


ヴェルクは頭を掻いた。


「もぅ、ビックリしたのはこっちの方よ」


フィリアは腕を組み、頬を膨らます。


ヴェルクは剣を見た。


(間違いねぇ……親父が言っていた通りだ。これは英雄ミナトの剣だ! しかも、まだ未完成じゃないか……)


「腕がなるぜ!」


ヴェルクは思わず声に出てしまった。


「え!? 何?」


「い、いや。何でもねぇよ……」


ヴェルクは慌てて誤魔化した。


その時、


バタンッ


「おい、ヴェルク! 今日という今日は払ってもらうからな!」


男が三人駆け込んできた。


「何なの!?」


「アルズとフィリアは席を外してくれ」


「……あぁ」


アルズとフィリアは隣の部屋に移動した。


「ヴェルク! 借金は金貨で三万だ! 忘れたとは言わせねぇぞ!」


「大声だすな。払いたくても無いんだ。もう少し待ってくれないか……」


「待てるわけねぇだろ! こっちも明日の飯がいるからな! さぁ、今すぐ出せ!」


「悪いな……本当にねぇよ」


「チッ」


男は周りを見渡す。


「おいっ!」


他の男に指示を出した。


「とりあえず、ここにある商品を貰っていく」


店内に並べられた剣や防具を片っ端から取っていった。


ヴェルクは反抗しなかった。


「クソッ! 今月の利息にも足りねぇ。次までに用意しておけよ! 行くぞ!」


三人の男は工房を出て行った。


「はぁ……」


ヴェルクは溜め息をついた。


隣の部屋からアルズとフィリアが出てくる。


「大丈夫か?」


「情けねぇところを見せちまった……」


「何よ! アイツら!」


「借金取りだ……」


ヴェルクは俯いた。


『え!?』


「この街は信頼関係で成り立ってると言ったろ……」


ヴェルクは顔を上げた。


「裏切られちまった……」


「ヴェルク……」


ヴェルクは無理に笑顔を作っていた。


「よく覚えておくといい。信頼関係を築くのは時間がかかる……逆に崩壊する時は一瞬だ……」


アルズが前に出る。


「いくらだ……借金」


「……金貨で三万だ」


「!?」


「そんな大金を!」


フィリアは驚きを超えていた。


それだけあれば不自由なく二年は暮らせる。


アルズは拳を握った。


「返すぞ……」


「えっ?」


「諦めるな! 返すんだ! 俺達もいる」


ヴェルクは信じられなかった。


「し、しかし、俺はアルズとフィリアに会って間も無いし……それにどうやって……」


「それを皆で考えるのよ!」


フィリアもアルズと同じ気持ちだった。


「お前ら……正気か……?」


「確かに俺達はヴェルクと会って間も無い。でも、昨夜あんなに語り合ったじゃないか。もう仲間だよ」


「そうよ! 作戦会議をするわよ」


アルズとフィリアは笑って手を差し伸べた。


ヴェルクの目から涙が溢れる。


「す……すまねぇ……」


ヴェルクは腕で涙を拭った。


初めて気付いた。


失った信頼ばかりを見ていた自分にも、まだ信じてくれる者がいることに。


アルズとフィリアの笑顔は希望に満ち、ヴェルクの背中を優しく押していた。


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